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第一章・第二十一話:どうやって鬼ヶ島に行くんだよ!?

長関。御伽の国屈指の貿易都市であるこの町は、人口約1200万人。世界的に見てもこの都市ほど高い生活水準を保っている都市はなく、世界の三大都市に数えられる。海に面しており、世界のあらゆる都市と貿易を行なっているため、先の看板にあったとおり“全ての物がそろう”といっても過言ではない。また最近では観光にも力を入れており・・・・・・


「この情報は、今は要らないですね・・・・」

「ん?パンフレット読んでたのか?」


鬼丸はさっき道で拾ったこの町のパンフレットの情報をまとめるのをやめた。この都市で一番重要なことは、鬼が島に一番近いことで、今重要なのはどうやって鬼が島に行くかだ。もしかしたら連絡船の一つでもないかと思ってパンフレットを見たが無駄足だったようだ。


「何か書いてあったか?」

「ええ・・・・鬼ヶ島に向かう手段がないということが」

「ふ~ん・・・・・ってそれってかなりやばくないか!?」


鬼丸の前を歩いていた金太郎が驚いた表情をして振り向く。


「いえ・・・・これは逆にチャンスでもあります」

「えっ?何で?」

「それは―――――」

「鬼ヶ島に向かう手段がない・・・・ということは、逆に言えば桃太郎たちもこちらに来る手段がないということ。そして援軍はない。だから敵は最大でも桃太郎、猿、犬、雉の4人だけ・・・・・ということですね、鬼丸さん!」

「ええ・・・・・流石かぐやです!」

「お前ら・・・・・・」


鬼丸の言葉を遮って説明したかぐや、そしてそれを良しとしてしまう鬼丸に思わずあきれた表情になってしまう。


彼女の名前は四方院かぐや、取物語で有名なあのかぐや姫であり、迷いの竹林で新たな仲間になった少女。月光”という変幻自在の武器を扱い、そして昨夜勝手に宿の最高クラスに予約し、一気に金太郎らの資産を破産させかけたわがままガールである。


そんな金太郎にとって悪魔の(金銭的な意味で)一夜を過ごし、今は朝。早速一行は鬼ヶ島に向かっている途中であった。

金太郎は鬼丸の隣にいるかぐやに問いかける。


「ていうかさ、こんなに簡単に来ること出来るんだったら、歩く必要なかったじゃん!」

「“月光”を使うのは結構疲れるんですよ。あの時は緊急でしたし、仕方なく、です。というか姫様とお呼びなさい!」

「・・・・・・・・・・」


・・・・・・・このざまである。思わずため息をついてしまう。

しかもそれを鬼丸は見逃しているのだから性質たちが悪い。恋は盲目、とは言うが、金太郎は辟易してしまう。


これ以上付き合っていては何かが壊れる気がする、金太郎はそう思い先に進む。

しかし二人の会話も気になってしまい、耳を傾ける。


「それにしてもかぐやの武器は凄いですね。どれほどの威力があるんですか?」

「そうですね~・・・・破壊力、というものは期待は出来ませんが、対多人数においては強力です。この町の人間くらいなら全滅させることぐらいならできるでしょう」

「それは凄い!この一件が片付いたら世界征服でも目指しますか?」

「それはいいですね!」

「はははははははは・・・・・・・・」

「うふふふふふふふ・・・・・・・・」

「いったいどんな会話しているんだよ?・・・・・」


このまま二人で会話をさせたら、さらに大変なものが壊れる気がする。

金太郎は二人の会話を遮るためにわざと大きな声で鬼丸に問いかける。


「鬼丸!これからどうするつもりなんだ!?」

「そうですね・・・・・公共の渡航手段がないと分かれば、自力で探すほかありません。幸いここは漁港もある。もしかしたら船乗りの一人や二人見つかるかも知れません」

「良し、さっさと行こう。今すぐ行こう。なっ!鬼丸!」

「・・・・・・なんだか今日のキンタはいつも違いますね。何か悪いものでも食べましたか?」

「拾い食いでもしたんじゃないですか?怪しげなたこ焼きとか、お好み焼きとか・・・・・」

「んなもん食うかっていうの・・・・」


そして意外と庶民的だな、月のお姫様は、と思いながら金太郎と二人は港に向かった。



   ▽   ▽   ▽



「ところでキンタ、長関の漁獲量が世界一位であるという話はご存知ですか?」

「?いや、全然知らんかった」


海岸に向かう途中鬼丸が不意にこんな話を切り出した。


鬼丸曰く・・・・・・

長関はもともとただの港町。暖流と寒流の潮目にあたるため、様々な種類の魚が取れるのだ。

その町が貿易港として認められたのはちょうど十年前。とある貿易企業がここに本社が出来たのが始まりである。今では御伽の国のみならず、世界で最も有名な都市のひとつとなっている、とのこと。


金太郎はどこでそんなことを調べたんだろうな~、と思いながら聞いていた。


「で、つまるところ何だ?」

「つまりは・・・・・・そんな大きな港町ならこの海を渡らせてくれる人はこの中に一人ぐらいいるでしょう、という話です」


鬼丸たちがついた漁港、そこには漁を終え、取れた漁獲類を水揚げしている漁師、それを早速調理している者、店を構え新鮮なものを商売している者、そしてそれを買い求めている人々・・・・・・


三人の眼前には溢れんばかりの人で埋め尽くされていた。


「すげえ・・・・・・・・」

「うわあ・・・・・・・」


金太郎は感嘆の声を漏らし、かぐやはどこか嫌そうな顔をする。

別段珍しい話ではない。普通の人ならば圧倒的な規模に驚き、人ごみを嫌う人ならば辟易する。それくらい港町は人で賑わい、規模の大きいものであった。

もちろん前者は金太郎、後者はかぐやである。


「この中ならば海を越えてくれる人は一人くらいいるでしょう」

「一人どころか万人でもいそうだけどな・・・・・」

「とにかく、この中で手当たり次第に聞きまわって、私たちの運んでくれる人を探しましょう」

「よし!」

「は~い!」

「では行きますよ!」


一行は人の波を漕いで進んでいった。



――――――30分後―――――――――――――


「む、無理だああああああ!」


金太郎は人に押し流され、いつの間にか路地裏にいた。


本当に一瞬の出来事であった。人ごみに入った瞬間、鬼丸とかぐやとはぐれ、何とかして情報を聞こうにも、客と間違えられ断るのに苦労し、どこかの店が安売りしているとその方向に押し流される。

そしてその中で揉みくちゃにされ、命からがら逃げてきてやっと現在に至る・・・・・


路地裏に座り込んだ金太郎は精魂果てた顔つきになっていた。


「おばちゃん怖えよ・・・・・」

「キンタ、そんなところで座り込んでどうしました?」


金太郎は声がした方向を見ると、そこには何事もなかったかのような表情の鬼丸が立っていた。


「・・・・・どうしてお前、大丈夫なの?」

「だって、路地裏で聞き込みしていましたから。表通りで聞ける情報なんて安売りぐらいなもんですよ」

「確かに聞こえてたわ、安売りの情報・・・・・」


鬼丸の言葉を聞いて金太郎の顔にますます疲労の二文字が浮かび上がる。


「キンタ、大丈夫ですか?」


珍しく鬼丸の口から心配の声がかかる。


「大丈夫じゃないかも知れない・・・・・」

「そんな言葉言えるなら大丈夫ですね。実はこの先に漁師の共同生活所があると聞きまして、そこならば一人は見つけられるでしょう。さっさと行きますよ、キンタ」

「・・・・・・やっぱお前、鬼だわ・・・・・」

「鬼ですけど何か?」


金太郎は重い腰を上げ、鬼丸の後についていった。



   ▽   ▽   ▽



「ここがそうか?鬼丸」

「おそらく・・・・・」


歩いて数十分、金太郎と鬼丸は漁師の共同生活所というところに来ていた。変哲もないただのアパート・・・・・・そこで自分の服を洗っている若い男に話しかけた。


「あの・・・・・ちょっといいですか?・・・・・」

「ん?何だ、お前ら?」


若い男は警戒のまなざしでこちらを見ている。なるべく丁寧な口調で金太郎はしゃべって、警戒を解こうとする。


「申し遅れました。旅をしている坂田と申す者です。一つ頼みごとがあってきたのですが・・・・・・」

「私たちを鬼ヶ島に連れていってください!」

「モロ直球!?」


金太郎の努力もお構いなしに放った鬼丸の言葉で水の泡。青年は不審者を見るような目つきになっている。


「親方~!何か、あの島に連れて行けって言う金髪と“チビ”が来てますよ~!」

「この野郎・・・・・私のことをチビと言いましたね。ぶっ殺し申し上げる!」

「落ち着いて、鬼丸!」


鬼丸を羽交い絞めにして押さえつけていると、部屋から金太郎よりも一回り大きい男が現れた。金太郎でさえちょっと見上げなければならない。

おそらく彼が親方なのだろう。


「お前ら、名前は?」

「あっ・・・・・自分の名は坂田金太郎。そしてこっちが―――――」

「――――――鬼丸童子。あなたは?」

たけしと呼んでくれ。で、あんたら鬼ヶ島に行きたいって言ってたな?」

「ええ」

「悪いことは言わねえ。あそこには行かないほうが身のためだぜ」

「何故?」


何故、そう問われると言葉に詰まってしまう。この餓鬼達は常識というものを知らないのだろうか?


「お前らな・・・・・あそこには桃太郎って奴がいることぐらい知らねえのか?桃太郎を倒そうと腕利きが何度もあそこに行こうとしたが、誰も帰ってきた奴はいねえんだぞ」


かつて桃太郎が鬼ヶ島を制圧したとき、桃太郎を倒そうと多くの退魔師や魔術師がこの海をわたった。


在る者は自分の腕を試すため。


在る者は鬼ヶ島に残された財宝を狙うため。


また在る者は桃太郎という人物を調べるため。


多くの人間が渡ったが、生還者はゼロ。

それ以後鬼ヶ島に渡るものはいなくなり、長関では無茶なことをすることを“鬼ヶ島に渡る”といわれるほど、この話は有名となった。


だから当然、鬼丸たちを止めようとした。だが・・・・・・・


「だから?」

「はっ!?」


鬼丸は当然のよう聞き返した。


「だからって、お前・・・・・・要するにあそこに行く奴は死ぬってことだぞ。お前は死にたいのか!?」

「全然」

「ならなんで!?」

「・・・・・・・別に私たちは死ぬ気はありませんし、殺される気もありません。ただ私たちはあそこに行って、桃太郎を倒さないといけないのですよ。一族のためにね」

「俺はただの付き添いだけどな」

「やる、やらないの話じゃない。やるしかないんですよ。それを邪魔するものは叩き潰すだけです」


鬼丸は健を見上げる。鬼丸の方がはるかに小さいのはずなのに、何故か大きく見える。威圧感、鬼丸には確かにそれがあった。

そして健はそれに屈するしか選択肢はなかった。


「・・・・・・・分かった」

「じゃあ、あなたが―――――」

「ただし問題がある」


鬼丸と金太郎が歓喜すると、健がそれを遮る。


「な、何が問題なんだ?」

「・・・・・・俺たち、鬼ヶ島に渡れねえんだ・・・・・」

『・・・・・なんだって―――――!?』


鬼ヶ島直前にきて鬼丸と金太郎は大きな壁、もとい波が立ちはだかった。




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