第一章・第十九話:First Drive set up!
――――――右、赤い閃光が顔を掠める。
今の攻撃は見えなかった。当たらなかったのは僥倖、金太郎は当たらなかったことに感謝しながらも、冷や汗が頬を伝った。
――――――後ろ、鬼丸の死角からの魔弾の触手。
本来なら見えることのない攻撃を鬼丸はかろうじてかわす。単なる直感、鬼丸は偶然かわせたことを良しとは思えなかった。
「くっ・・・・・・」
「・・・・・・・」
桃太郎、第二の刺客、猿の攻撃が始まってしばらくたっているが、鬼丸と金太郎はいまだに有効策を掴めていなかった。
猿の攻撃はまだ続いていた。むしろ激しさを増している。猿の武器、如意棒は伸縮自在の棒、猿は如意棒とこの竹林の地形を利用して、金太郎と鬼丸の視覚外から攻撃を仕掛けていた。
四方八方飛んでくるそれは一発一発がまさに必殺の一撃。木々は壊れ、地面はえぐりとられている。もちろん反撃する機会など与えられず、ただ避けるしか選択肢がなかった。
鬼丸とキンタは背を互いに預けながら、必死に如意棒を防いでいた。
「鬼丸!?そっちは大丈夫か!?」
「ええ、何とか。こっちは・・・・キンタ、前!」
金太郎が振り向く、すると目の前には如意棒の魔の手が迫っていた。
「えっ・・・・・・」
「くそっ・・・・」
鬼丸が金太郎を突き飛ばし、如意棒から金太郎をかばう。お陰で金太郎は事なきを得た。が、その代償は大きく鬼丸の左腕には大きな風穴が・・・・・
「ぐっ・・・・・」
「鬼丸!」
状況は思わしくない。左腕からは血があふれ出し、地面に滴り落ちる。鬼丸は精神的だけでなく肉体的にも追い込まれることとなった。
左腕とは鬼丸の利き腕、このまま時間がたてばデザートイーグルさえ扱えなくなる。あまり時間はかけてはいられない。しかし、猿の姿は見据えることは出来ない。
鬼丸は大きく息を吐き出し、金太郎に言った。
「キンタ、私は負けるのは嫌いです・・・・・」
「はっ!?」
この場にそぐわない内容に金太郎は思わず聞き返した。
「私は負けるのは嫌い・・・・・しかし、こいつはどんなにがんばっても私一人では勝てないでしょう。でも今や私は一人ではない。だからキンタ・・・・・・私に力を貸してくれませんか?」
「そんなの・・・・・・当たり前だろ!」
金太郎と鬼丸は立ち上がる。確固たる意志を持って。鬼丸と金太郎の表情にもはや苦しみはなかった。
「キンタ、左腕がやられている以上、時間はありません。一発でケリをつけますよ!」
「分かった!俺が奴の攻撃から守るから、頼むぜ。鬼丸!」
「ええ!分かりました。それにしても私たち・・・・・」
「ん?」
「さっきはくさかったですね~・・・・背筋がゾワってしましたよ」
「それは言わない約束だぜ!」
金太郎と鬼丸はいつものやり取りをしてから各自、自分の役割を果たす。
金太郎は両手を合わせ、詠唱を始める。
「我に宿りし力は雷・・・・・・」
金太郎の足元に金色の魔方陣が描かれる。それは結界の魔法。全方位を囲む結界ならば、猿の攻撃も防ぐことは出来る。
しかし天人のときは偶発的に出来たもの、いささか金太郎は結界の修練が足りなかった。
「その力は我らを守る盾となる結界・・・・・・」
それでもやらなければならない。やらなければ自分たちが負けるのだ。金太郎は全神経を使い、集中する。
魔方陣がより強く光出し、金太郎は詠唱を叫んだ。
「電磁結界、First Drive set up・・・・Create!」
「な、何やと!?」
「おお・・・・・・」
金太郎と鬼丸の周りに雷の結界が張られる。それは如意棒をはじき、鬼丸に時間を与えるのに十分なものであった。
鬼丸は感嘆しながら、自分のなすべきことを遂行する。
「これなら十分・・・・後は任せてください、キンタ!」
「おう!頼むぜ、鬼丸!」
「・・・・我が変成する力は滅・・・全てを壊し、殺し、滅ぼし、犯し、消し、呪い、万物から忌み嫌われる力・・・・・」
鬼丸も変成の詠唱を開始する。鬼丸の意識が深い、深い闇へと堕ちていき、鬼丸はその闇の中で一人、ポツンと立っているような感覚に襲われる。
その空間の中の気配は二つ。一つは自分の側に立っていて守ってくれる者、もう一つは自分の周りを高速で飛び回っている。
その気配がするのは・・・・・・左だ!
「滅せ、滅せ、全てを滅せ!貫け、シルバーバレット!」
――――――ズドン!―――――――
デザートイーグルが通常時では考えられない音を轟かせると、これまたいつもと違う銀色の弾が発射される。銀色の弾丸は鬼丸の狙い通りにまっすぐ進み、そして・・・・・・
「っ!・・・・・のわっ!」
如意棒を持って攻撃態勢に入っていた猿に当たった。突然の不意討ちに猿は如意棒で防ごうとする。
――――――ガキンッ!――――――
弾丸に当たった瞬間、如意棒がはじけた。如意棒が宙を舞い、鬼丸の後ろに落ちる。
鬼丸は猿にデザートイーグルを向けた。
「さあ、武器がないあなたの負けです。猿!」
猿が竹林の闇から両手を挙げて出てくる。
「おうおう、まさかあの攻撃が防がれるとはな・・・・・・それに驚いたで、坊主。あんさん結界もはれるんやな~・・・・・感心するわ~・・・」
「まあな・・・・・・」
金太郎は結界を解き、ようやく一息つく。と、同時に力が抜け地面にひざを突く。
「キンタ!?」
「・・・・・・大丈夫。ちょっとふらついて・・・・・緊張がなくなったからかな?」
「・・・・・もう大丈夫です。私たちの勝ち、ですから」
「まさかあんさんら、もう勝負がついた、と思っとらへんやろうな。」
「何?」
猿はケラケラ笑い出す。
「何言ってやがる?!もう勝負はついただろ?」
「これだからあんさんらは子供なんや!ほら、こういう言葉あるやろ。「試合に勝って勝負に負ける」ってな!」
「・・・・・それ微妙に意味取り違えてないか?」
鬼丸はあたりを見渡す。まだ奴の切り札が隠されている。鬼丸の目に地面に転がっている如意棒が留まった。
「・・・・まさか!?」
「もう遅い!伸びろ、如意棒!!」
刹那、如意棒が独りでに鬼丸の方に向き、鬼丸に向かって突きがはなたれる。
鬼丸は避けようとするが、もう遅い。
キンタが庇おうとするが、間に合わない。
鬼丸の周りの時間が遅く感じられ、死を覚悟したとき少女の声が響く。
「月光・望月!」
『!?』
如意棒は突如出現した光の壁に阻まれ、力を失ったのか、そのまま地面に落ちていく。
誰もが予想できない展開、特に猿はその光景に驚愕し開いた口がふさがらなかった。
先ほど銃を突きつけられていたときでも、余裕の表情を見せていた彼からは考えられない表情だった。
「これなんだ?光の壁、って言うよりは球体に包まれているって感じだぞ。」
「こんな魔法は見たことありませんね・・・」
「当たり前です。私の宝具は唯一つなんですから。」
『かぐや!?』
「ふふふ・・・・・」
鬼丸と金太郎が見上げると、月をバックにかぐやが宙に浮いていた。
そして月のお姫様は不敵な笑みを浮かべながら、舞い降りた。
ついに記念すべき20話到達!
今後とも誰も知らない御伽話をよろしくお願いします!