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第一章・第一話:退魔師、坂田金太郎

「はあ……はあ……」



1人の金髪の少年が森の中を走っている。彼の名前は坂田金太郎さかたきんたろう。魔を退治する退魔師の家系に生まれた彼は本日めでたく18歳の誕生日を迎え、異例の若さで免許皆伝、つまり一人前と認められたのである。

そして一人前の退魔師と認められると一人で世界を旅をする、という坂田家の古い習慣にのっとって金太郎も旅をすることになった。しかし……


「ほ~ら、少年、楽に殺してあげるから待ちなさい!」

「誰が待つかあああ!」


金太郎は何故か追いかけられていた。刃物を持った物騒な女に。彼は一旦物陰に身をひそめ、状況を理解しようとする。


(くそっ! なんで俺が追われなくちゃならないんだ? 俺は何にもやっちゃいないぞ。ていうか、あいつらは誰だよ? なんかいきなり、死んで、とか言われるとか意味わかんねえよ! 俺が追われる理由……確か朝は町で……何したっけ?)



       ▽       ▽       ▽



金太郎は町の朝市に来て、食料を確保していた。一通り買い終えたところで、声をかけられた。


「あの……ちょっといいですか?」

「はい。何でしょう?」


金太郎は振り返り、声のした方を見る。20歳ぐらいの女性が立っていた。


「あの……あなた坂田金太郎さんですよね?」

「はい。そうですけど……」


なぜ自分の名前を知っているだろうか?金太郎は疑問に思うが、そのまま女性の話に耳を傾ける。


「よかった。間違っていたらどうしようかな、と思っていたんですよ」

「それで俺に何か用ですか?」

「ええ……あなたにしか頼めなくて……」


女性の顔がほのかに紅潮している。金太郎はその顔を見て、思春期特有ともいえる妄想を抱くが、次にはそんなこと忘れていた。


「死んでください」

「えっ!?」


金太郎は何かを感じ、とっさにその場から離れる。その瞬間金太郎のもといた場所に刃物が振り下ろされた。


「逃げないで下さいよ。楽に死なせてあげますから。」

「に、逃げろおおおおおお!」


金太郎は女性に背を向け全速力で逃げる。


「まって~」


女性は追いかけてくる。片手にナイフを持ちながら。このまま金太郎はいつの間にか森の中に入り、そして現在にいたる……。


         ▽      ▽       ▽


(……何回考えても意味わかんね~!)

「み~つけた!」

「――――っ!?」


金太郎が考え込んでいると、敵に見つかってしまった。金太郎は上を向いた時にはもう敵の武器は振り上げられており、必死に避けようとする。


「ちっ」

「あら~、よけられちゃった。面倒くさいんだから避けないでよ、まったく……」

「ちょっと待て! 何で俺を殺そうとするんだよ? 俺が何かやったか?」


彼女は首を横に振る。


「じゃあなんで……」

「だって坂田家の直系が旅をするんだよ。こんなにいい賞金首はなかなかないよ。というかこの仕事を逃したら、賞金稼ぎの名前がすたるね!」


考えられない話ではなかった。退魔師は魔を退治するだけでなく、要人の護衛、一般人の救助、時には政府から暗殺の依頼が来ることもある。特に暗殺などは恨みを買うことが多く、それだけ退魔師に賞金をかけられる時がある。それが直系ならなおさら。金太郎自身は依頼を受けたわけではないが、父や兄への復讐、というのも考えられる。

金太郎は首筋に汗を垂らしながら、賞金稼ぎに問う。


「じゃああんたの名前を教えてくれよ!」

「私の名前? 私の名前は……」


賞金稼ぎはにたりと笑い、彼女の武器であろう片手剣を構える。


「今から死ぬ人間に教える必要あるの?」


殺し屋は一気に踏み込み、低い体勢で剣を構え、突っ込んでくる。金太郎は一瞬反応が遅れたが、紙一重でそれをかわす。退魔師として訓練してなければ死んでいただろう。

金太郎は顔をしかめ、殺し屋は笑う。


「だから、避けないでよ。そんなに苦しんで死にたいの?」

「死にたかねえよ! くそっ、逃げれると思ったけど無理そうだな……戦うしかないか。」


そう言って金太郎が取り出したのは、2メートルはありそうな槍の柄の両端に斧の刃がついた、いわゆる槍斧ハルバードと呼ばれるものだった。その大きさに殺し屋もさすがに驚きは隠せない。


「ほお~、すごく大きいね。で、それを君は使えるのかな?」

「退魔師なめんじゃねえよ! 行くぞ、紫電」


金太郎は自分の武器、紫電に魔力を込め始める。

今日、旅の餞別として貰ったこの紫電。彼専用に作られたそれは、初めて使うのにも関わらず彼の手にしっかりとあっていた。

加えて父親が書いたであろうこの魔導文字のおかげで、重力半減、威力倍増、攻撃範囲増大、etc……彼には坂田家の加護があるのも同然だった。

金太郎が魔力をため終えると、一気に賞金稼ぎに向かって駆け出す。

彼の初手は、大きく振りかぶった縦の一閃。賞金稼ぎは、まだまだ甘い、とにやりと笑った。

斧という武器は攻撃範囲、威力は剣とは比べモノにならない。しかしその分隙ができるため、斧使いは中距離から攻撃を仕掛けるのが定石。それなのにこの小僧は愚かにも接近戦を、なおかつ大振りときたものだ。これでは攻撃をかわしてカウンターしてください、と言ってるようなもの。

殺し屋は横へと軽くかわし、カウンターを仕掛けようとした。が……


「うおおおおおおおおお!」

「……!?」


何回攻撃したところで隙など生まれない。むしろこちらの攻撃が読まれ、だんだんと追い詰められている。賞金稼ぎの頭では対処しきれなかった。

実際、金太郎は特別なことをしているわけではない。彼の有り余る魔力と筋力が、斧での接近戦を可能にし、剣並みに素早く振っているだけなのだ。

流石、といったところだろか、退魔師直系の血は伊達ではない。


――――ガキンッ!!!


遂に金太郎は敵の片手剣を弾いた。今度こそ全力で紫電を振りかぶる。


「これで最後だっ!」

「くっ……」


金太郎は自分の魔力を開放する。金太郎の魔力の属性は雷。魔術師以外の人間は魔力回路を一色しか持たないために、一色しか魔術を使えない。しかし今の金太郎にとってそれで十分。この18年間をかけて大成した雷の魔術は、魔術師にも匹敵する。

紫電の刃の部分が金色に染まっていく。


「喰らえ! 雷鳴怒涛らいめいどとう!!」


金太郎が大きく振りかぶり一気に振り下ろす。これで勝負がついた……はずだった。


「何……!?」


突如、金太郎の前に魔法陣が現れる。それが光りだしたかと思うと、炎が現れ金太郎に襲いかかる。


「――――あちいいいいいい!」


魔術による炎は通常の炎の温度のおよそ数倍。金太郎は紫電で身をかばうが、その熱がさらに金太郎に襲い掛かる。紫電がなければ死んでいただろう。

それでも無傷と言うわけにはいかない。紫電を持っていた右手は焼かれ、その余波は右足にも及ぶ。動かそうとすれば、激痛が金太郎を駆け巡った。


「魔法陣……仲間がいやがったのかよ!」

「ふう、助かったわ。ゼン」

「ふっ……お前にしてはひどくやられたじゃないか、コウ」


金太郎の目の前に、先ほどゼンと呼ばれたもう一人の仲間の魔術師であろう男が現れる。

魔法。自然から得られる<魔力>を人間が手にし、人間の想像力と知識によって完成された攻撃方法である。

まず自分の魔力を開放、そのあと術式を想像してから、魔力によって現実に創造する魔法は一見簡単に見えるが、実は天賦の才と厳しい訓練によって得られるものであり、それゆえ魔術師は退魔師に比べて数は少ないが圧倒的な魔法攻撃が特徴である。

その魔法をモロに喰らってしまった金太郎はとてもではないが動くことはできなかった。

コウと呼ばれた片手剣を持っている賞金稼ぎが金太郎の首筋に剣をあてる。


「やっと死ぬことができるね」

「ゲームオーバーだな」

「くそっ……」


金太郎はどうにかして動こうとするが、炎の魔道をモロに食らってしまったので動く力はもう残されていなかった。


「じゃあ……バイバイ。」


剣が下されるまさにその時に、殺し屋の腕が何かに打ち抜かれる。


「な、何?いったいどこから?」

「ここからですよ。殺し屋さん」


金太郎と殺し屋の間に割って入ってきたのは、一人の少年。少年にしては長い髪を一本にまとめている。そして金太郎と比べてかなり……小さい。


「人間というのはこんなに醜いものか?己の欲望のために同族を殺す……くくっ、何とも恐ろしいことですね」


彼の持っている二つの紫色の強い意志をもった眼は金太郎に強く印象付けた。しかしそれ以上にもっと印象的なものがあった。


「金色の角……だと」

「何故鬼がこんなところに……」

「何故? それはおかしな質問です。もともと山というのは魔の住処。それを犯したのはあなた達人間でしょう」


彼の頭部には鬼の象徴である2本の金色の角が輝いていた。それは何故か金太郎の目に焼き付いて離れない。


「本来、私はこういうことはしないのですが……特別にあなたを助けて差し上げましょう、金髪」

「き、金髪!?」

「鬼の末裔、鬼丸童子。ここに参上しました」


これが金太郎と鬼丸が出会った瞬間であった。



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