第一章・第十六話:天人って鬱陶しい!
迷いの竹林。それは御伽の国一番の難所。そこに迷い込んだものは数知れず、魔ですらここは避けるという。
そんな迷いの竹林で、今鬼と人間のコンビと天人の対決が始まろうとしていた。
「キンタ、前衛を頼みますよ!」
「援護頼むぜ!鬼丸」
鬼丸は後方でデザートイーグルを構え、金太郎は紫電を持ち三人の天人に突っ込んでいく。
相手の天人は三人。天人とは浄土の人、つまりもう死んでいて幽霊とほぼ変わらない存在。その天人が直接攻撃してくるわけがない。使うとしたら・・・・・魔法だ。
「我に宿りし力は炎・・・・・・」
「我に宿りし力は氷・・・・・・」
天人二人が詠唱を開始する。属性はそれぞれ炎と氷。二つとももっともポピュラーな属性のうちに入るが、威力は申し分ない。当たれば退魔師とは言えどただでは済まない。
しかし金太郎はかまわず突撃する。
「焼き尽くせ!熱波!」
「砕け散れ!氷砕!」
「退魔師なめてんじゃねえぞおおおおお!」
二つの攻撃、炎の熱風と氷の礫が飛んでくると、金太郎は自分の魔力を解放する。するとその魔力は雷に変わり、熱風から金太郎を守り、礫を全てはじき落とした。
天人二人の表情が驚きの色に変わる。どうやら退魔師の能力を全ては知らないようだ。
退魔師の利点はここにある。退魔師の基本は接近戦。自分の魔力によって強化した体と武器によって魔と戦う。しかしそれだけではない。金太郎のように自分の魔力を放出、操ることによって単一の魔力属性しか扱うことしか出来ないが、魔法を扱うことが出来る。しかも詠唱なしでだ。
この力のお陰で金太郎は魔術師にもかまわず突撃できるのだ。
「喰らいやがれ!」
「甘いわ!」
金太郎は上段横一線に紫電を振るう、しかし、それは天人には当たらず空を斬る。
天人は好期が来たことでにやけるが、金太郎も敵に反撃のチャンスをみすみすあげるほど、そんなバカではない。
金太郎は紫電を地面に突き刺し、それを踏み台にして、飛び上がる。
「頼むぜ!鬼丸!」
「何!?」
「了解です」
金太郎の真後ろにいたのはデザートイーグルを構えた鬼丸。天人に標準を合わせ、金色の弾丸を放つ。
――――ズガンッ!―――――――――――――――
着弾すると同時に、すさまじい音を立て、土ぼこりがあがる。
「お、おい。いつもよりちょっと強くないか?」
「おかしいですね・・・・・いつもと同じはずなのに。どうも今日は力が入ってしまいます」
「へ~・・・・・・」
「それより金太郎、敵はまだまだ元気なようですよ」
土ぼこりがはれ、金太郎が空を見上げると人影が宙に浮いている。
「そういえば天人は空を飛べるんでしたね」
「おお!すげえな!俺も空を飛んでみてえ!」
「貴様ら・・・・・・・おい、アレをやるぞ!」
金太郎が戦いの最中とは思えない感嘆の声を上げていると、天人が仲間に合図を送る。
すると、辺りの魔力が二人の天人の回りに集まっていく。二人がやろうとしているのは、合体魔術。二人以上の魔術師が互いの魔力をあわせ、一人の時より強大な魔術を放つ。極めて強力だが、二人の息が合わなければ放つことはおろか、自分たちの魔力が暴走して使用者が危険にさらされる。だから現在、これを扱える者たちは少ない。
だから金太郎は当然、鬼丸さえもこれは初めて見るものだった。
「へえ~・・・・これが合体魔術ですか。興味深いですね・・・・」
「――――って、結構やばいんじゃないか!?あんな馬鹿でかい魔術喰らったらただじゃすまねえぞ!」
『我々に宿りし力は雷・・・・・・・その力は全てを消し去る・・・・・』
もうすでに詠唱は始まっているというのに鬼丸は常にマイペース、というより自分のことしか考えていない。金太郎はあせり始めるが、鬼丸は笑って答えた。
「大丈夫です、キンタ。アレは雷の魔術。どんな強大な魔術でも雷だったら貴方がいれば何とかなります」
「・・・・・・・えっ!?」
『その雷光は神の怒りの如く、また王の再臨を祝う光なり・・・・・・』
鬼丸の言葉を聞いて金太郎の顔が固まる。しかし詠唱はとまらない。
金太郎は鬼丸に問いかける。
「それって・・・・・・俺があの魔術を受けきれっていうことか?」
「それ以外に何か?」
「何でじゃあああああああああ!!!???」
『響け!轟け!雷帝、降臨!!』
「へっ・・・・・・・・」
天人たちの上空に集まった黒色の雷の雲、それはまるでこの地上を支配する王の威厳を示すかのよう。
雷の色が黒いのは、ありとあらゆる魔力を吸収しているため。その強大な力が金太郎に直撃したのだ。叫び声も上げる間のなく、金太郎は光に包まれた。
「ふっ・・・・・・・」
「これで終わりだろう・・・・・・」
天人たちは共に勝利を確信した顔をしている。
と、その瞬間・・・・・
――――――ズドン!――――――――
「!」
「!」
「・・・・・・きましたね」
ものすごい爆音が鳴り響く。今度は鬼丸が勝利を確信した表情になる。
天人たちは煙の中から現れる人物を見て驚愕する。
「ふ~・・・・・マジでどうなるかと思ったぜ。死ぬかと思った・・・・・」
「な、何故貴様は生きているのだ!?」
「あの雷撃の中で・・・・・何故!?」
「金太郎は雷の属性・・・・・もしかしたら雷の攻撃を喰らえば、充電できるかな~、と思ったんですが・・・・・・・本当に出来ましたね。凄いですね、キンタ」
「――――ってお前確信がなかったのかよ!?もし死んだらどうするつもりだったんだよ!?」
「まあ・・・・その時はその時かな~、って・・・・・」
「って、おい!」
「それよりもキンタ、何か体に異常はありませんか?」
「ん?・・・・・そういえば、体中がビリビリするぜ・・・・・」
金太郎がそう言った瞬間、体中から青白い稲妻が走る。鬼丸は感心するような目で金太郎を見た。
「充電だけでなく変換も出来るとは・・・・・本当に退魔師の体というのは本当に便利ですね」
「? 何のことだよ?」
「何を訳の分からないことを!」
「死ねええええええ!」
痺れを切らした天人たちが剣を手に、襲い掛かってくる。なんと恐ろしい形相だろうか、浄土の人間とは思えない顔であった。
「いったいこれどうすんの、鬼丸?」
「キンタ、その充電した魔力、放電できませんか?奴らの魔力は今や貴方の魔力に変換されています。一気に放出すれば、もしかして攻撃できるかも・・・・・」
「へえ~。なるほどな・・・・・じゃあ、行くぞ!放、電!」
金太郎が両足を広げ、力をこめると青白い電流が辺りに走る。
「ぐぎゃあああああ!!」
「あががががががが!!」
「おお!」
電流が天人たちに当たり、感電する。放電した当の本人、金太郎も驚いている。だが一番驚いているのは喰らった天人たちであろう。近づく間もなく、自分の魔力を利用されて攻撃されるなど理不尽にもほどがある。
とにかく天人の人数は残り一人。先ほどまで何もしなかった大将っぽい人間だ。
「後一人・・・・・」
「ロリコン野郎か・・・・・」
「貴様ら・・・・言わせておけば・・・・・」
ロリコン呼ばわりの天人のこめかみには青筋が浮かび上がっている。その形相は先ほどの二人組みとは比べ物にならない。
「いまさらそんな怖い表情されてもね・・・・・」
「貴様らは天人というものを甘く見すぎている・・・・・我に宿りし力は増・・・・自然の摂理を壊す力・・・・増えよ、複製!」
「・・・・・!」
「な、何だこりゃ・・・・・」
天人の魔術、それは上級の魔術師しか使えないといわれている複製(copy)。その名の通り、対象のものを増やす魔術である。魔術師には多量の魔力はもちろん、対象のものの構造を理解する知識も必要となるこの魔術をこの天人はやってのけてしまった。
先ほどのとは格が違うことが分かり、金太郎はもちろん、流石の鬼丸の表情も曇る。
詠唱が終わると天人の持っていた直剣が増えて、増えて、増えて・・・・・・無性生殖を行うアメーバのように増え続け、その数は数え切れないほど、金太郎と鬼丸の視界を埋め尽くすには十分な量であった。
直剣が鬼丸と金太郎の周りを囲み、そして・・・・・
「・・・・・・・放て」
天人がそう言い放つと剣が金太郎たちに襲い掛かる。
「やばっ!」
「・・・・・・・・」
――――――――ズドドドドドドドッ!―――――
すさまじい数の剣が襲い掛かり辺りに砂埃が立ち込める。天人は盛大に笑い始めた。
「ふ・・・・ふはっ!ふはっはっはっはっは!どうだ!見たか、地上の卑しき鬼どもよ!これが貴様らと私の差なのだ!まさに雲泥の差!私を侮辱したことを後悔するがいい!誰がロリコンだ!?誰がペドだ!?大人が小さい子を好きになって何が悪い!?ふっはっはっはっは!」
・・・・・・鬼丸もそこまで言ってはいないのだが、どうやら事実だったらし
い。
しかし今彼を笑う者はいなかった。
「ふふふ・・・・・所詮は下等な卑しき鬼と人間の子供・・・・・私には勝てんのだよ」
―――――――ズガガガガガガガガッ!――――――
「・・・・・へっ!?」
砂埃から突如として大量の弾幕が現れる。幸い(?)天人には当たらなかったが何が起こったのか分からず、開いた口がふさがらない。
「な、なにが!?」
「・・・・・・誰が卑しき鬼だと・・・・・・」
「何、だと・・・・・」
「誰が卑しき鬼か聞いているんですよ!このロリコンの変態の野郎が!」
「ひっ・・・・・」
砂埃から出てきた人物、それはまさに鬼のような表情をした鬼丸。デザートイーグルを片手に迫る姿はまさに死神の如く、今の鬼丸を見れば地獄の閻魔でさえもはだしで逃げ出すだろう。
天人はただ恐怖するしかなかった。
「誰が卑しき鬼と?誰が下等生物と?ふざけるなよ、この天人風情が!貴様らこそつまらないプライドに縋りつく愚かな者だ!消えてなくなれ、このロリコン!」
鬼丸は左手をデザートイーグルに添え、標準をあわせる。
「我が変成する力は増、放てええええええ!」
――――――ズガガガガガガガガガガガッ!―――――――
「くっ・・・・・うおっ!・・・・ぎゃああああああ!」
鬼丸が放った弾は、増の魔術によって増殖し弾幕となって天人に襲い掛かる。宙を舞い、身を翻して必死にかわそうとはするが、それも無駄な努力。一発が足に命中すると、翼を失った鳥のように地面に落ちていく。
「ぐはっ・・・・・」
地面に叩きつけられ、もはや勝つ術はない天人に鬼丸は近づいていく。
「感謝しなさい。ついこないだまでだったら私は貴方を殺していましたが、金太郎との約束がありますからね。半殺しで済ませといてあげますよ」
「くそっ・・・・・・そのお方を返せ・・・・・」
「あの少女が何者かは知らない・・・・・ですが、貴方に渡すよりはよく扱いますのでご安心を。それでは、さようなら」
鬼丸は手を振り、そこから立ち去る。後に残ったのはボロボロな天人3人と剣やら銃やらで抉り取られた地面や木々のみ。森はまた静けさを取り戻した。
――――――――――――――――――――――
「やあ、金太郎。お疲れ様です」
「うい~す」
鬼丸が向かった先にいたのは気を背に横になっている金太郎。鬼丸の挨拶に手を上げて答えた。
鬼丸が隣に腰を下ろすと金太郎がこう呟いた。
「またオメエの一人勝ちか・・・・・・」
「はい?」
「いや・・・・・狼男の時も、盗賊の時でもそうだったが、いっつも助けられている気がしてさ・・・・・・・今回こそは一緒に戦うから、俺も活躍したかったが、この様じゃあな・・・・・・」
金太郎はしゃべりながら苦笑する。
金太郎の服装は勝負に負けた天人にも劣らないほどボロボロであった。金太郎が魔術を喰らったこともあるが、基本的に攻撃をかわすことに関しては鬼丸の方がうまい。金太郎はより多く攻撃を喰らってしまうため、戦闘後はいつも服がボロボロになってしまうのだ。
情けない、金太郎がそう思っていると、鬼丸が笑ってしゃべり始めた
「金太郎、今回は私と貴方の勝利ですよ。決して私一人の勝利ではありませんよ」
「・・・・・・でも、ボスっぽいロリコン野郎を倒したのはオメエだし、雷術を防ぐ方法を考えてくれたのもオメエじゃん。俺は何もやってねえよ・・・・・」
「キンタ、貴方は凄いことをやってくれました。まさか貴方に結界が作れるとは驚きましたよ」
「・・・・・・・・」
ロリコン天人が作った剣の弾幕、鬼丸さえ一発喰らうことを覚悟していたあの弾幕を無傷で防げたのは、金太郎が咄嗟の勢いで作った結界のお陰であった。幼いころの訓練、雉との戦闘で学んだ記憶を頼りに作った簡易結界のお陰で、鬼丸はすぐに反撃に転じることが出来たのである。
鬼丸は続ける。
「あの結界があったからこそ私は無傷なのです。それに貴方がいたお陰で無駄な血を流さずに勝てました。無血の勝利ですよ、キンタ」
「・・・・・・・無血の、勝利?」
「そう。それは私一人では出来なかったこと・・・・・・キンタ、自分を反省する前に互いの健闘を称えましょうよ、ほら」
鬼丸は金太郎に手を向ける。それはハイタッチの合図であった。
「鬼丸・・・・・・そうだな、くよくよしても何もないもんな!ありがとな、鬼丸!」
「どういたしまして!」
パンッ!
小気味良い音を辺りに響かせて、鬼丸と金太郎はハイタッチをする。
互いの顔を見ると、互いに笑いあった。
「へへっ!さっきのは俺らしくなかったな・・・・・」
「ふふっ・・・・そうですよ、金太郎の女々しい顔なんて見たくないんですから。ああ、励ますの面倒くさかった」
「オイ、テメエ!」
「さあ、キンタ、行きましょうか」
「無視かい!?・・・・・ってどこに?」
「あんまり女子を待たせるものではありませんよ」
「・・・・・・・あっ!すっかり忘れてた」
鬼丸と金太郎は少女の元へ向かったのであった。