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第一章・第十二話:情報屋にして刺客、その名は雉

夜、今宵の月は三日月。月から得られる魔力は少なく、さらには雲までかかっている。あまり魔術師が戦うのには適していない夜であろう。


そんな夜に二人……正確には人間と鬼が盗賊“ブラックガード”に殴りこみに行こうとしているのであった。


「……」

「鬼丸、そんなにへそを曲げないでくれよ……」


鬼丸と金太郎が泊まった村から歩いて数十分のところ、ブラックガード達がいるらしい山に向かっている。

鬼丸が先に歩いているので金太郎には鬼丸の表情は分からない。しかし、先ほどから反応がないのを見ると鬼丸は怒っているのであろうか。


だとしたら、面倒くさい……いや、気難しい奴だな、と金太郎は思った。

金太郎が話しかけるのをあきらめ歩き出すと、今まで黙っていた鬼丸が話し出した。


「……別に怒っているわけではありません……」

「えっ? 何て言った?」

「怒っているわけではありませんと言いました。今は作戦を立てていただけです。私が黙っているから怒っているとは考えないでください」

「ホントか?」

「ただ貴方は私の旅の目的を忘れすぎている。貴方の旅の目標は“修行”ですが私の旅の目標はあくまで“桃太郎を倒す”なんですよ」

「あっ……」


金太郎はすっかり忘れていた。自分のことに気を取られ、鬼丸のことは気にしていなかった。

自分のことしか考えられないなんて最悪ではないか……。

金太郎は急に申し訳ない気持ちになった。


「ごめん……」

「……分かってもらえれば結構です。今回のことは、最初ですから大目に見ましょう」


鬼丸がそう言うと金太郎の顔がぱっと明るくなった。


「ホントか、鬼丸? ありがとな!」

「とにかく、今回はこの馬鹿な連中を片付けることが先です。人に迷惑をかける愚かな連中……キンタ、こないだみたいに遠慮はいりませんよ」

「あ、ああ……」


こないだのこととは狼男のことを指しているのだろう。結局、金太郎は狼男を一匹も殺さなかった。

―――――いや、殺せなかった。


人はもちろん魔でさえも金太郎には殺す勇気はないのだ。今まで金太郎が殺した人間は一人。遠い、遠い過去のこと……


「――――――ンタ、キンタ!どうしたんですか!?」

「……えっ!? ど、どうした、鬼丸?」

「どうしたってそれは私のセリフです。急にボーっとしてどうしました?」

「ああ……昔のことを思い出していて……」

「……何があったかは聞きません。面倒くさいから自分のことは自分で解決してください。今は目の前のことに集中してください。作戦を言いますよ」

「ああ、分かった……」


金太郎は力なくも頷く。


「敵は山の頂上にこもっている。地の利は完全に向こうにあります。多くの人間がいれば山を囲んで、兵糧攻めでも出来るんですけどね」

「惨いこと考えるものだな……」

「おまけに敵のこともよく分からない。ここで私が提案する一つの策は……」

「……なんだ?」


鬼丸は一指し指を立て、金太郎の注目を集める。


「一点集中、つまり強行突破です!」

「……はあ!?」


金太郎はあまりの単純さに驚きの声を上げる。


「それだけ?」

「それだけです」

「それで大丈夫なのか?」

「十分です。敵は大勢とは言えども烏合の衆。人の輪はこちらにあります。それに無闇二手に分かれても効果は薄い。二手で攻めても、後二つの方向で逃げられてしまう……ならば、いっそのこと二人で攻めて敵が逃げる前に――――――」


鬼丸は右手を前に突き出し、そして―――――


「―――――叩き潰す!」


握りつぶすポーズをとる。金太郎は納得したように頷いた。


「なるほどな……それなら俺でも分かるぜ!」

「どうも金太郎はおつむが弱そうですもんね」

「んだと、ゴラア!」


金太郎は鬼丸の言葉に一気に喧嘩腰になる。鬼丸はというと、腕を組み薄ら笑いを浮かべている。


「そういうオメエは頭でっかちじゃねえか!」

「考えることを放棄した人間はサル同然ですよ、キンタ」

「サルだ、と……? テメエ……」

「おっ! あんなところに餓鬼が二人いるな!」

「身包み剥ぎ取って、どっかに売っちまうか!? ギャッハッハッハ!」


金太郎と鬼丸が言い争っているところに、見張りらしき二人の盗賊が現れた。しかし当の本人たちはまったくそのことに気づかない。


「大体、貴方は修行と言いながらも全然修行になっていません。私と会わなかったら、いったいどうするつもりだったんですか?」

「うっ……その時は、その時だ!」

「ほれ、見たことか!」

「うるせえ! オメエだって……」

「おいおい、餓鬼共! こんなところにいたら危ねえぞ!」

「さっさと帰ってママのお乳でも飲んでなってな! ギャッハッハッハッハ!」


完全になめきった盗賊の二人。しかし鬼丸と金太郎がこちらを睨むと、それもとまる。何故なら二人とも凄い形相で睨んできたのだから。


「貴方たちは……」

「テメエらは……」

『黙ってやがれえええええ!!』

『黙っていてくださいいい!!』

――――――ゴスッ!―――――


金太郎と鬼丸、二人のアッパーが盗賊の顎を見事にとらえる。すさまじい音を立て吹っ飛んでいく盗賊。

鬼丸と金太郎はその様を見届けると、何事もなかったかのように先に進む。


「今日のところはこれぐらいで勘弁しといてやらぁ!」

「勘弁しといてやるのは、こちらのセリフです!」

「何だと!? まだやるのか!?」

「私は構いませんよ。ただ、貴方の方が後悔するだけです!」

「後悔なんてするかあああ!!!」


二人は山を突き進む。何事もないかのように。

しかし会話に夢中すぎて二人は気が付かなかった。二人の後を追うものがいることなど……



       ▽       ▽        ▽



「……あれっ!? ここ、どこだ?」


金太郎は気が付くと奇妙な空間にいた。確か自分は鬼丸と共に盗賊の山を歩いていたはずだ。それが今はどうだろう。真っ白な空間、山的な要素はまったくない。


金太郎が辺りを見渡すと、人影がこちらに向かっているのが見えた。


「ん?」

「あっはっはっはっはっは!!」


こちらに向かってくる人影は何がそんなに面白いのか、とても愉快そうに笑っている。年は金太郎よりも上、だいたい22歳ぐらい。黒い髪、黒い目、ここまでは典型的なこの国の人間である。しかし、ある一点を見るとこの人間がただの人間ではないことが分かる。


誰だって背中に黒い翼がある人間がいたら、ただの人間ではないことが分かるだろう。


「あっはっはっはっは! 君にとっては初めましてになるかな? 坂田金太郎君」

「何で俺の名前を? ってか、あんた、誰だ? 天狗?」


金太郎は紫電を手に取る。ふと金太郎に以前、襲ってきた殺し屋の姿が浮かんだ。あの時は何の抵抗もなく襲われた、しかし今回は違う。どこから襲われても向かい討てるように、身構えた。


「あっはは! そんなに身構えなくても、ナイフで襲ったりしないよ~」

「っ! 何で、そのことを?」


金太郎の表情が一気に険しくなる。この男は間違いなく自分が殺し屋に襲われたことを知っている。しかも凶器まで。

この愉快そうに笑っているこの男はいったいどこまで知っているか、金太郎には検討もつかなかった。


「あっは! 自己紹介をしようか。僕は見たとおり天狗、名前は“雉”といっておこうかな?」

「“記事”? 新聞の人?」

「……豪快なボケをどうもありがとう、金太郎君。でも残念ながらそのボケは今いらないんだよ、あっは!」

「生地、木地……雉? で、あんたなんで俺のことを?」

「ふふ……の事をずっと見てきたからね」

「えっ、何そのストーカー?」

「ストーカーじゃないよ! ……坂田金太郎、現在18歳。退魔師の名門、坂田直系の次男坊。魔術の属性は雷。生まれ持ったその雷の魔術と父親からもらった槍斧、紫電で戦う。家族構成は父、兄、姉と自分を含めて4人。母親こそいないが姉に甘やかされて育った、か……典型的な次男像だね」

「んなっ!」

「ちなみに最後におねしょをしたのは12歳だって。ぷっ!」

「わー! わー! そ、そのことを言うんじゃねえよ!」


金太郎は必死に声でごまかそうとする。が、この場には金太郎とこのことを明らかに知っている雉と名乗っている男のみ。

残念ながらごまかすことなど何もなかったのである。


「な、何でそんなことまで知っているんだよ?やっぱりストーカー……」

「あっはっは! だからストーカーじゃないって! 僕は情報屋。友達から頼まれたから君の事を調べてたの。分かった!?」

「天狗の情報屋……」


天狗という種族は本来、好奇心の強い種族である。だからこの男のように情報屋になるというのも珍しくない。

しかし、情報屋が敵の目の前に現れていいものなのか? 金太郎はそう疑問に思った。


「ったく……これは想像以上だったね。記録に想像以上の“バカ”って追加しておかなきゃ」

「バカって言うな! で、情報屋が俺に何のようだ!?」


金太郎は馬鹿にされたこともあってか少し怒りながら一番聞きたかったことを問う。

しかし、その答えを聞いた瞬間、金太郎の表情は一変することになる。


「決まってんじゃん。君を殺しにきたの」

「……はっ?」

「だから君を殺しにきたの。分かった?」

「……な、何で?」


金太郎は何がなんだか分からないような表情をする。当然であろう、いきなり目の前の人間から殺害宣言をされたのだから。

しかし殺害宣言をした当の本人は至極当たり前のことを言ったような表情をしている。


「ん~、僕の友達に頼まれたかな? 僕の友達の興味は君じゃなくて君の友達……え~っと、そう、鬼丸君だ! 鬼丸君とどうしても戦いたいらしくてね。それを邪魔する奴は全員殺せって言われてるんだよ。ここまでOK!?」

「お、お前は友達から頼まれたから、人を殺すのか!?」

「うん」


金太郎は雉の言葉に絶句する。

雉はというと何かをあきらめたように一回、ため息を吐いた。


「はあ~……だったら君は退魔の依頼をされても殺さないというのかい?」

「……俺は、殺しは、しない……

「ああ、そうか。君はこれまで一人しか殺してないもんね。確か名前は――――――」

「―――――やめろ!」


金太郎はこれまで叫んだことのない、懇願する様な、悲痛の叫びをあげる。


「やめてくれ……頼むからその名前はだけは、やめろ……」

「……どちらにせよ、君はここで殺される運命なんだよ。殺される運命を背負ったもののするべき行動は二つに一つ。一つはそのまま殺されること。もう一つは―――――」


雉は自分の懐から一枚の符を取り出す。風の魔力を纏った符。その力は全てを切り刻むもの。風の魔力は天狗の得意魔法だ。


「――――生きるために戦うこと」

「……やってやる! テメエを倒して早く鬼丸の所に行くんだ!」

「あ~……その鬼丸君も死んじゃうかも知れないね」

「えっ!?」



      ▽      ▽      ▽



「キンタ~、キンタ~! ……ったく、一体どこに行ってしまったんでしょうね?」


金太郎が奇妙な空間に迷いこんでいるとき、鬼丸はその金太郎を探していた。

前見たときは確かに自分の後ろにいたはずなのに、途端に消えてしまった。

その時一瞬微妙な魔力を感じたが、無視してしまったことは間違いだっただろうか、と鬼丸は少し後悔した。だが……


「でもキンタならどうにかなるでしょ!」


……鬼丸はそう割り切ってここまできてしまった。


「しかし、困りましたね。キンタがいないと私の負担が増えるじゃないですか……お~い、キンタ~!」


その時、物陰がガサっと音を立てる。

鬼丸は金太郎かと期待したが、違う。金太郎の魔力はこんな下種なものではない。


鬼丸の予想通り、物陰から現れたのは金太郎ではなく、下種な格好をした3人の盗賊であった。

鬼丸の口からため息が漏れる。


「はあ~、盗賊を倒すためにキンタを探していたのに、その盗賊に見つかってしまっては意味ないでしょう……全部キンタのせいですよ、まったく!」

「へへ……あんたはこの状況をどうするつもりなんだい?」

「三対一じゃ、鬼のあんたも分が悪いだろ」

「おや? 何でそのことを!?」


鬼丸の表情に驚きの色が見て取れる。鬼であることは金太郎以外誰にも言ってないはずだ。

何故知っているかと問いたかったが、盗賊に聞くだけ無駄だろうと諦めた。


鬼丸は角を隠すための帽子を脱ぎ捨てると、当然のように言い放った。


「じゃあ、貴方たちを倒しますか」

「ほう~、敵が三人でも余裕と?」

「ええ、もちろん。だって……」


鬼丸が姿勢を低く、三人の左端にいる盗賊に突っ込んでいく。

急いで武器をとろうとするが、もう遅い。鬼丸がボディにヒザを入れると、蛙がひしゃげた様な声を発して吹っ飛ぶ。


「ぐえっ!」

「こうやって……」


鬼丸は跳躍し、空中に舞う。

吹っ飛んでいる盗賊の上に来ると、盗賊の頭をつかみ、そのままの姿勢で地面に叩きつけた。


叩きつけた時に血が辺りに飛び散るが、鬼丸はそれを無視して立ち上がる。


「一人ずつ潰していけばいいんですから」

「なるほど、流石鬼って所か……」

「ふふ、ですから早く諦めてください」

「へへ……盗賊は諦めが悪いところが長所なんだぜ! おい、野郎共! 出てきやがれ!」

「……」


鬼丸は辺りの気配が変わったことに気が付いた。

5人、6人……そんな程度の話ではない。数十単位の人間がこの場に集まっている。


その数計43人。盗賊のボスらしき人間は余裕の表情を浮かべている。


「へへ……これだけの人間がいれば、鬼でも倒せるよな!?」

「……いいでしょう。相手して差し上げます」


鬼丸は懐からいつものデザートイーグルを取り出すと、銃口を盗賊たちに向ける。


「鬼と戦ったことを後悔させてあげます。さあ、来なさい」

「野郎共! やっちまえ!」

『おおおおおおおおお!!』


盗賊の怒声を合図に鬼丸の戦いも始まった。



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