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第一章・第十一話:鬼丸って……

あけましておめでとうございます。

「鬼丸、そろそろ飯にしようぜ!」

「そうですね、ここらで休みましょうか」


金太郎は空を見上げる。もう日は高く昇っており、腹の具合も考えると、昼飯を食べるのにちょうどいい時間だと分かる。

金太郎は場所を確保し、鬼丸は手際よく食事を準備していく。二人での旅もだいぶ慣れてきたようだった。


「それでは、いただきましょうか」

「いただきま~す!」


手を合わせ、元気よく金太郎が挨拶すると、旅人にしては豪華すぎる飯にがっつき始めた。白いご飯、パン、肉を固めた携帯食……全て店で買った物だが量が尋常じゃないほど多い。

何故こんなにも多いかというと、それもこれも鬼丸のおかげである。先日、依頼を受けた周の村で村長―――――実は狼男だったのだが―――――に(断れない状況で)お願いして資金を援助してもらったのだ。

それがなければ、今頃金太郎は一文無しであっただろう。


「う~ん……やっぱり鬼丸のお陰だな。ありがとな!」


金太郎は改めて感謝の意を表した。


「いきなりなんですか? おだてても銃弾しか出ませんよ」

「……」


鬼丸は冗談のつもりなのだろうが、冗談にしては怖すぎる。

金太郎は黙って食べ始めた。



       ▽        ▽        ▽



あらかた飯を食べ終えたところで、金太郎がこんなことを言い始めた。


「鬼丸の武器ってさ、デザートイーグルだよな?」

「そうですね。それが何か?」


これですか、と言って鬼丸は懐からデザートイーグルを取り出す。黒光りするそれはいつ見ても鬼丸に似つかわしくない。


「退魔用に開発された武器を何で魔のお前が持っているんだ? そんなんに頼らなくても鬼だったら純粋な力で戦えるだろうに……」

「まあ、色々ありましてね。私が六歳の時、ある人がくれたのですよ。“自分の身は自分で守れ”、ってね」

「六歳……」


六歳の子供にデザートイーグルを渡す大人……やはりこの鬼は常軌を逸しているな、と金太郎は思った。


「それからずっと使い続けて、今に至ります。今では合理的にあらゆる敵を殺せる、という点で使い続けています」

「ははは……」


金太郎の口から苦笑いが漏れる。


「というわけなんですが、聞きたいことは他にあるのでしょう。言ってください」

「あはっはっは! やっぱ、ばれたか。いや、俺の武器って、槍斧じゃん。どう考えても接近戦しか出来ないわけよ。それで飛び道具ってのはどんな感じなのかな~、って思ったわけよ」

「ふ~ん……」

「実は俺の兄貴も拳銃使っていてさ。兄貴が使えるんだったら、俺にも才能あるのかな~、って思って。ほら、遺伝ってあるじゃん。遺伝って。だから――――――」

「使ってみたいんですね?」


金太郎は至ってまじめに頷く。鬼丸は若干大げさにため息をついた。


「いいですよ。どうぞ」

「まじで!? ありがとな!」


金太郎は子供がおもちゃを貰うように、はしゃぎながら受け取った。

鬼丸はその様子を見て静かに笑う。


「へえ~……拳銃ってこうなってるんだな~。昔、兄貴の銃を勝手に触っていたら、殺されそうになって三日三晩、山の中を鬼ごっこしたのが懐かしいぜ!」

「貴方の家系も大概異常ですね……

「なあ、これ撃っていいか!?」

「いいですよ、ただあっちの山に向かって撃ってくださいね」


鬼丸は遥か彼方にある山を指さす。あそこならば、人に当たることはまずないだろう。


「任せろ!え~……っと、ここをまず引いて、銃口を向けて、そしてトリガ―を引く!」

―――――バンッ!

「のわっ!?」


金太郎が放った銃弾は狙い通り、山の方に向かって消えていく。しかしそれと同時にデザートイーグルの反動で金太郎は後ろに倒れこんでしまった。

鬼丸はその光景を見て大声で笑い始めた。


「あはっはっはっは! 相変わらず馬鹿ですね~!」

「うっせー! ……いたた、お前いつもこんな衝撃に耐えてんの?」

「このデザートイーグルは色々と改造してありましてね。たいていの魔を一発で葬り去るために、威力を限界まで高めてあるんですよ。その分反動が強いもんですから、慣れてない人はこうなるんですよ」


私は単に慣れているだけです、と鬼丸は付け加える。


「さて、もう気は済みましたか?」

「ああ、ありがとな……って、あれ?」

「どうしました?」

「デザートイーグルは……って、あっ!」


鬼丸は金太郎が向いている方を見る。そこには近くにあった小川に浸かっているデザートイーグルがあった。おそらく反動で転んだ時、金太郎の手から離れ飛んでいったのであろう。

鬼丸はデザートイーグルを発見するとすぐさま取りに行く。


「……」

(やっべ! 怒られる)


金太郎は、鬼丸は怒っていると思った。鬼丸の怒る様を想像して顔が青ざめていくのを感じた。

盗賊であったり、魔であったり、旅には危険はつきもの。そんな状況で自分の命を守ってくれる武器というものは非常に重要なものだ。それを無下に扱われたり、傷をつけられたりしたら、誰しも怒るに違いない。金太郎自身も紫電をそんな風に扱われたら烈火の如く怒るだろう。


今は金太郎に背を向けていて表情は分からない。だが振り向いた瞬間、罵声が飛んでくるのは確実だろう、と金太郎は思った。

そして運命の時、鬼丸がこちらに振り向いた。


(……来る!)

「今度からは気を付けてくださいね、キンタ」

「えっ!? 」


予想外の言葉に金太郎は間抜けな声を漏らしてしまった。


「何ですか、その表情は? にらめっこはやる気にはなりませんよ」

「いや、あの……怒らないの?」

「何で?」

「だってデザートイーグル水に落としちゃって……」

「故意ではないでしょう」


鬼丸は訳が分からない、と言わんばかりに首をかしげている。


「あっ、そう、ですか。取り敢えず、悪かったな……」

「構いませんよ。さあ、腹も膨れましたし、行きましょうか」

「ああ……」


鬼丸は荷物を片づけ始め、金太郎も遅れながらも手伝い始める。その後は何事もなく旅を続けていった。

それが昨日の昼過ぎの出来事であった。



        ▽      ▽       ▽



「――――っていう出来事があったんだけど」

「その出来事が何か問題でもありましたか?」


夕方、日は西に沈みかけており、西の空は赤く染まっている。最近日が沈むのが日に日に遅くなり、もう夏が近づいていることを教えてくれる。

現在、二人がいるのは名もなき村の宿。ちょうど泊る所を探すときに発見したので、今日はここで休もう、ということになった。

一服ついたそこで金太郎は先程のことを言い始めたのである。


「お前ってさ、怒ることはないの?」

「はあ?」


金太郎の質問に鬼丸は思わず聞き返した。


「どういうことですか?」

「だって、お前と一緒に旅してきて、結構な時間が経つけどお前の怒った顔は見たことないんだよ。昨日のことだって、普通の奴なら怒っても構わないぐらいの出来事だぞ! 何で怒らないの?」

「怒ってほしいんですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどね……ただ、もしかしたら遠慮されているのかな、って……」


ふーん、そう言って鬼丸は顎に手をあてる。

この旅を通じて金太郎について一つ分かったことがある。どこかに女々しい部分があるということだ。いつも人に気を遣い、周りのことを知りたがり心配し、たまには周りを気にせず自分のことを考えろ、と言いかけたこともある。

―――というより今言いたい。


ただそれがこの人間のいいところに一つ。少なくとも鬼丸はそう思った。


「別に遠慮なんかしてませんよ」

「ほんとうか!?」

「ええ、本当です。多分私が怒らないと思われるのは、怒る観点が人間と違うからじゃないでしょうか。私にも怒りたい時もありますよ」

「ああ、なるほど……だから小さいって言われると―――――」

――――バンッ!

「何が言いたいんですか?」

「イエ、ナンニモ……」


前には笑っているのだが口が笑ってない鬼丸、振り向けば金太郎の後ろの壁には穴があいている。

いつの間にとりだしたんだろう、ここ宿なのにいいのかな、と思うことは多々あれど、今後背については語ることをやめよう、というのは真っ先に思った。


鬼丸がデザートイーグルを再び懐に戻す。


「まあ、ようするに種族の違いです。人間は怒るが鬼は怒らない点もある。逆も然りです。だから金太郎が悩む必要なんてないんですよ」

「ふ~ん、じゃあさ――――」


まだ知りたがるか、鬼丸が呆れ半分でため息をつこうとした、その時


―――――辺りに怒声が鳴り響いた。


「な、何だ!? いったい!?」

「……盗賊かな。まだハッキリとは分かりませんが、こんな辺境の村で騒ぎが起こるとなると、祭りか異常事態。とにかく最悪のことを考え、敵に備えましょう」

「おう!」

「敵のことも今の状況も分からない……となれば、無闇に動くのは危険。金太郎、あまり外には出ないほうが―――――」

「今、助けに行くぜ!」

「――――って何でそこで外に出るんですか!? 少しは人の話を聞いてくださいよ!!」


金太郎は宿の窓を開け、飛び降りる。ここは二階である。魔力で強化されている足とは言っても無鉄砲にもほどがある。

鬼丸はため息をつきながら、階段を使って一階に下りていった。


「おい、どうしたんだよ、この有様は?」


金太郎は無事地上に降りると、あたりはすでに荒らされたあとであった。しかし、この時間の短さ、地面の残った馬の足跡、さほど荒らされてない店の様子などを見るに略奪、というよりは単に馬を使って踏み荒らした感じである。


金太郎はそこらへんに座り込んでいた村人に話を聞くことにした。


「何があった? 盗賊か?」

「は、はい……最近、この辺りを荒らしている“ブラックガード”という奴らが……」

「何その微妙にかっこいい名前!?」

「……そいつらがさっき突然現れまして、村を踏み荒らして行ったんです……」

「なるほど、でも何故突然に?」


盗賊の行動に理由を聞くのは無駄だとは思うが、金太郎は一応聞いてみる。


「はい……何やら奴らは相当頭にきてた様子で……“やられた分はやり返す!それが俺たちのモットーだ!”と叫んでいました」

「やられた分はやり返す? 何かやったのか、お前ら?」


村人は首を横にふる。


「う~ん……どこか話が合わんな……」

「どちらにしても、明日までに金と食料を差し出さなければ、この村を本当に略奪すると……ああ、旅人様、貴方様は見た限り若く御強そうだ。ここで会ったのも何かの縁と思い、どうかこの村を――――――」


ここで鬼丸が嫌な予感を感じ、ようやく降りてくる。鬼丸はこの光景を見た瞬間止めとうとする。


「――――お救いください。お願いします」

「ちょっと待った、キンタ!こんな願い、聞く必要は―――――」

「オッケー! 任せろ! 俺たちが絶対解決してやる!」


……止められなかった。鬼丸は自分の無力さと面倒くささに頭を抱える。

反対に村人たちは大いに喜び、老人は手を合わせ拝み、若者は手を取り合って踊っている。何故か金太郎もその輪の中に入っている。

その光景を見て鬼丸はさらに頭を抱えた。


「キンタ……怒るほどのことではありませんが、貴方のお陰で最近頭痛がひどくなったことを貴方は知っているでしょうか」


鬼丸の嘆きは金太郎の耳には届かなかった。





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