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第一章・第十話:事件解決!~ヨウタの場合~

「お~い、鬼丸。大丈夫か!?」

「おはようございます、キンタ。どうやら狼男を無事に倒せたんですね」

「おう!」


鬼丸が聞きなれた声とは金太郎とヨウタの声であった。ともに大きな怪我は見られない、ということは現れた狼男を撃退することができたのであろう。


「もうすぐ近くの退魔師がきてくれるはずだ。で、犯人は?」

「ええ、無事倒すことが出来ました。それと村長も」

「村長も狼男だったの?」


ヨウタが驚愕の声を上げる。金太郎はというと、開いた口がふさがらず、何かを言いたげな様子だった。


「あのやろう……散々俺に言っておきながら、自分が黒幕だったのかよ! 今度あったら一発殴ってやる!」

「……」


今度、という言葉はもちろん本気ではないのだが、本気だとしても会うことはない。なぜなら鬼丸が殺してしまったから。

しかし当の鬼丸は敢えて黙っていた。というか、この金太郎の様子を見ると、しゃべれなかった。

ふと、金太郎の表情が何かに気づいたような表情になり、身をかがめた。


「ヨウタ、これでようやくお前の疑いが晴れたな……」

「……うん、ありがとう。金太郎お兄ちゃん、鬼丸さん」


朝になり、金太郎が捕らえた狼男が発見され、さらに退魔師が銀狼の変わり果てた姿を見つければ、その時ようやく疑いが晴れるのである。

金太郎が安堵の表情を浮かべていると、鬼丸が口を挟む。


「……しかし、そう簡単にいくでしょうか?」

「何でだよ? 狼男がいるって分かればヨウタのことは信じてもらえるだろ!? 何もかも解決するじゃねえか!」 

「そう簡単に信じてもらえるでしょうか?今まで自分たちが嘘つき、と言っていた人間の事をすぐに信じるほど人間は器用なものでしょうか?おそらく、しばらくの間は、偏見と自分たちの罪悪観に満ちた目を向けられるでしょう」

「そんな……」


鬼丸は腕を組み、金太郎は唇をかみ締める。余程、理不尽な人間の性が悔しいのだろう。そんなことはない、と否定したかったが人間の性は人間である金太郎はよく知っており、納得するしかなかった。

金太郎は再びヨウタの方に向く。


「ヨウタ、俺たちと一緒に旅に出よう」

「えっ!?」

「……」


金太郎がそう言い放つと、ヨウタは驚き、鬼丸は黙り込んだ。


「こんなところにいてもヨウタが傷つくだけだ。それより、俺たちと一緒にここを出て旅に出よう!ここにいるよりももっとたくさんの物が見れるし、嫌なものも見なくてすむ。俺たちならきっとうまく出来るさ! なっ、ヨウタ!」

「……」


確かに金太郎の言うことも、もっともだった。ここにいても何もメリットはない。ならばここを出てしまおう。そういう誘いだった。

その誘いに対するヨウタの答えは

―――――ヨウタは首を横に振った。


「ヨウタ……」

「ありがとう、金太郎お兄ちゃん。僕、すごくうれしいよ。でもね、僕はここを離れるわけにはいかないの……」

「どうしてだ? ヨウタ」

「僕はお父さんとお母さんが残してくれたあの家を守っていかなきゃいけない。誰も入らなくなった森も管理もしなくちゃいけない」

「……」

「それにね、ここで旅に出ることは“逃げ”になると思うんだ」

「逃げ?」


金太郎は思わず聞き返す。ヨウタはそれに小さく笑って答えた。


「うん、せっかくみんなに信じてもらうきっかけをお兄ちゃんたちに作ってもらったんだ。ここでお兄ちゃんたちに付いていったら、僕はお兄ちゃんに頼りっぱなしだ。だから僕はここに残るよ。何年かかっても、何十年かかってもみんなに信じてもらうように僕、がんばるよ!」

「ヨウタ……うん、お前なら出来るよ! きっと!」

「お兄ちゃん、短い間だったけど楽しかったよ。お兄ちゃんのこと、絶対忘れない!」

「俺も忘れないよ! ヨウタ!」


金太郎とヨウタが抱き合う。日も完全に昇りきった。二人の人生でここまで綺麗な朝日はなかっただろう。自然と涙が二人の頬をつたった。


しばらく時間がたち、金太郎が立ち上がった。


「俺たち、そろそろ行くから……」

「うん……がんばってね」

「さよならは言わないぜ。またな!」

「またね! お兄ちゃん!」


金太郎は朝日の方に向かい歩き出し、鬼丸もそれについていく。ヨウタはそれを見えなくなるまで見ていた。



       ▽       ▽       ▽



「ふう~……臭かったですね~」

「なっ……う、うるせえよ! どこが臭かったって言うんだよ!?」

「全部ですよ。何が“さよならは言わないぜ”ですか? 思い出すだけで虫唾が走ります」

「そ、そこまで言うことないだろ! いいじゃないかよ、無事事件が解決して!」

「どこが無事ですか? 貴方、報酬をもらうの忘れてたでしょうが!」

「あっ……」


金太郎は思わず声を漏らす。察するに本当に忘れていたようだ。


「い、いいじゃないかよ! だったらお前は子供から金を巻き上げるつもりだったのかよ!?」

「もちろん! それが資本主義の原理ですから!」

「鬼か!?」

「鬼です」


いつもの馬鹿なくだりをやっていると、鬼丸がため息を漏らした。


「まあ、いいです。貴方はお人よしでどうしようもなく甘い人と分かっていましたから」

「すごい言われようだな……」

「こんなこともあろうかと、準備しておいてよかったです」


鬼丸が懐から何かを取り出す。それはなんと……札束だった。

ちゃんと数えなくてもかなりの大金であることは一目瞭然であった。

あまりの大金に金太郎は開いた口がふさがらなかった。


「お前、どこでそんな金を……まさか、盗みを?」

「人聞きの悪いことを……」

「じゃあ、詐欺?」

「貴方はいったい私を何だと思っているんですか?」

「じゃあ、恐喝――――」

「いい加減にしないと殴りますよ! これは村長からもらったものですよ」

「……へえ~」


いつの間に、と金太郎は思った。


「すごいな、いつの間に? ……」

「まあ、断れない状況で頼んだんですけどね」

「やっぱり脅しじゃねえか!?」

「うるさい! 方法についてとやかく言われる筋合いはないです。とにかくこれだけあれば旅には困らないでしょう。約束取り付けといてよかったです。さあ、金太郎、行きましょうか」


鬼丸は歩き出した。金太郎は止まり、その後ろ姿を見ていた。

確かにヨウタから報酬をもらうことは、はばかられる。しかし貰わなければ自分たちが困る。金太郎は何とかなるだろうと安易に思っていた。

しかし鬼丸は違う。これからのことをしっかりと考えている。少し厳しすぎるときもあるが。


――――全てのことで甘いお人よしな自分。

――――何もかもに厳しい現実主義の鬼丸。


「む? どうしたんですか? キンタ、早く行きますよ」


こう考えると、全く正反対の位置にいる自分たち。しかしこれはこれで……


「まあ、ちょうどいいのかね~」

「はあ?」

「いや、何にもだ……行こうぜ、鬼丸!」

「ええ」


彼らは再び歩き出す。金太郎と鬼丸の旅はまだまだ続くのでありました。





突然ですが作者のwalterです。

このお話は年内に終わらせたかったので二日連続で更新してしまいました。これが年内最後の更新になると思います。

なんとこの小説のPVが千人を超えました。驚きです。見てくださった皆さん、本当にありがとうございました。来年もこの調子でがんばりたい・・・・・と言いたいところですが、実は作者は来年受験生です。出来る限りの更新はしたいですが、もしかしたら途中で休載、と言う処置もとるかも知れません。すみません。

出来る限りの更新はいたしますので、来年もよろしくお願いします。


それでは皆さん、よいお年を・・・・・

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