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第一章・第九話:事件解決!~鬼丸の場合~

「おい、狼男が出たって本当か?」

「ああ、村長から聞いた。今から急遽、討伐隊を組んで山に行くそうだ」

「何人集まった?」

「分からん。が、ほとんどの男どもは行くことになるだろうな。おい、俺らも行くぞ」


その瞬間、男たちの後ろで爆音が響き、雷が落ちる。金太郎が紫電を地面にぶつけた音であろう、しかしまだそんなことは誰一人として知らないので、一層男たちの焦りを積もらせることとなった。


「や、やべえじゃねえか?」

「俺たちも急ぐぞ!」

「ああ……」


この会話の二時間後、村の男、合計50人による討伐隊が組まれ山に駆り出すこととなる。しかし事件はその前に終結を迎えていたなど誰も予想できなかった。唯一人を除いて……



        ▽        ▽       ▽



「くっくっく……まさかここまで事がうまく運ぶとはな」

「これも全てあなたのお陰ですぞ、村長……」

「くっ……」


村長の家、通常は奇麗に片付いているはずなのだがこの二人、いや、二匹の狼男が来てからは一変した。

掃除する間など与えられず、家の中はさながら廃墟のようである。

この二匹の狼男、もちろん金太郎が倒した狼男とは別物であり、しかも容姿、言動から判断しても格は上のように思われる。


「しかし奴らも考えたものだ。まさか餓鬼一人を利用して、人間の心を利用するとは……もう少し報酬をやってもいいかもしれん」

「討伐に行った男たちの肉で充分だろ。まっ、生きていればの話だがな」

「……」


村長は何もできず、ただ笑う狼男を見るだけだった。


「おいおい、そんな目で見るな、村長さん。あんただけは朝になったら助けてやるよ。もっとも、アンタの魔力はまずそうだから喰う気にならんからな」


再び、狼男はゲラゲラ笑い出す。

魔が喰らうのは正確にいえば人間の“肉”ではない。人間に備わっている“魔力”である。魔は自然の魔力によってできた存在。魔にとっての腹がすく、とは自分の魔力が減ってきた、ということを指すのである。

また人間には魔力の差というのが存在する。魔術師、退魔師は例外として一般的には男より女、大人より子供の方が上質である、と魔の中では考えられている。

これからこの二匹は“不味い”男の肉の処理をあの三匹に任せ、自分たちは何も抵抗できない“美味い”女子供の肉を喰うはずであった。


――――――コンコン

「っ!?」


不意にドアのノック音に驚く。しかし何一つ恐れるものはない。あの妙な金髪の餓鬼はいないし、男たちはいない。女子供が来ればそのまま喰おう、そう考えた。


「こんな時間に何用だ?」

「ど~も。宅配便で~す」

「……入ってこい」


狼男たちは目で合図し、入ってきた瞬間に襲う準備をした。男の声だったがまだ成熟しきってない子供の声。オードブルには最適と考えた。


―――――ガチャリ

「死ねエエエエエエ―――――――――」


次の瞬間に狼男の目に入ってきたのは、自分よりかなり小さな子供のような姿。そして旅人が身につけるような帽子。さらにそれに収まりきらない、男にしては長い髪。

最後はどう考えてもその体には似合わない黒い砲身。


「棺桶二つお届けに参りました~、ってね」

―――――バンッ!


乾いた音が部屋に響く。

するとドサリ、と一匹の狼男の体が床に転がる。それは口から脳髄に一つの穴が見事に開いていた。

何も分からないまま死んだのであろう、その顔は獲物を喰らうことで期待に満ちた顔であった。

しかし結果はこの様。狼男の脳髄やら血肉が辺りに飛び散り、見るも無残なものであった。

もう一匹の狼男が叫びだす。


「き、貴様あああああ!! 何しやがったああああああ!?」

「何って……唯害虫を一匹駆除しただけですが」

「俺の兄弟を害虫だとおおおお!?ふざけるなよ、餓鬼―――――!!」

「うるさい」

―――――バンッ!

乾いた銃声が再び、部屋に響く。

見れば、今度は狼男の胸に風穴があいている。それは覗き込めば向こう側が見えるくらいに見事に開いているものだった。


「が……は……」

「あなたの兄弟がどうなろうと私は知りません。この世界は弱肉強食。弱い者は奪われるのみ。それは、魔である貴方が一番よく知っているでしょう」

「そんな……後、一歩……だったの……に」

「そうですね。貴方の夢はもう少しでした。しかし果たせない夢は塵同然。今まで“お疲れ様”でした」

「グフォ……」


もう一匹の狼男も後ろに倒れこんでいく。血を吐きながら。苦渋に満ちた顔を浮かべながら。村を騒がした二匹の狼男はこんなにあっけなく終わったのであった。

鬼丸はその様子を少し見やると、すぐに村長の方に向かった。


「大丈夫でしたか、村長。お怪我は?」

「ああ……大丈夫だ。ところで君は?」

「私の名前は鬼丸童子。旅人です」

「旅人が何故このような所へ?」

「……今回の事件、私の知人が大きく関わっておりまして、その手助けにと参上した次第でございます」

「その知人とは?」

「1人はこの村のヨウタという少年。もう一人は坂田金太郎という青年です」

「ああ、なるほど……」


その二人には見覚えがあった。どちらとも村長自身が傷つけた人物である。


「そこでお願いがあります。一つは嘘つきと言われたヨウタの保護。もう一つはキンタ……いえ、金太郎の旅の補助をお願いしたい」


鬼丸の要求は要するに“自分がヨウタを傷つけた責任は自分で取れ。後、報酬を払え”というものだった。

普段なら無理な相談だが、相手は仮にも村を救った人。無下にするわけもいかなかった。


「……善処しよう」

「ありがとうございます。さあ、このような場所をいったん出ましょう。直に夜も明ける。そうすれば、近くの退魔師でも来てくれるでしょう」

「ああ」


鬼丸は村長に背を向け、外に出ようとする。鬼丸が一歩を踏み出したその瞬間……


「シネ……」


黒い影が鬼丸に襲いかかった。



         ▽    ▽        ▽



「ほう……あの一撃をかわしたか。やはり相当できるようだな」

「貴方、一体何者?」


鬼丸に襲いかかった黒い影。後少し反応が遅れていたらその鋭利な爪で体を引き裂かれていただろう。間一髪で身をひねり、その攻撃をかわすことができた。

しかし鬼丸さえも予想できなかった。まさか村長が襲いかかってくるなんて。


「フフフ……おらあああああ!!」

「っ!?」


村長が叫びながら腕をふるう。すると鬼丸の小さい体はいとも簡単に吹っ飛ぶ。家の壁を突き破り、尚その勢いはとどまること知らず、家から数十メートル離れたところでようやくとまった。


「いたた……なんという怪力」

「フフフ……」


家にあいた大きな穴から村長が出てくる。その身のこなしは老人とは思えなかった。

鬼丸は立ち上がり、村長のほうを見る。


「……人間、ではありませんね。貴方、いったい何者ですか?」

「何者、か。いいだろう。冥途の土産に教えてやろう。……ふん、グラアアアアアアアア!!」


村長が、人間が出すとは思えない声で叫ぶと、老人の貧弱な体は筋肉で盛り上がり、鬼丸と同じくらいの身長は二メートルを越さんばかりと伸びる。

頭部には犬のような耳ができ、鼻も犬のようになる。すでに死滅していた頭皮には髪、というより毛が伸び村長の体を覆う。

その姿はまさしく狼男。しかし今まで金太郎や鬼丸が見てきた狼男とは決定的に違うところがあった。


「銀色……ああ、そういえば狼男にはもう一種類存在したんでしたね。“銀狼”という種族が」


今までの灰狼と違いその毛の色は銀色。その毛色は灰狼よりも月によく映える。

鬼丸が忘れるのも無理はない。この種族は圧倒的に個体数が少ないもの、灰狼が長い年月を経て、進化した“銀狼”という種族であるから。

当然、長い時間生きている分魔力、身体能力ともに灰狼とは桁が違う。灰狼にはできなかった人間への擬態というのも、ようやく納得できた。


「なるほど……この事件の真犯人は貴方だったんですか」

「その通り。わしがあいつらを騙してこの事件を起こさせたのじゃよ。あいつら、まんまと騙されよって。本当に、簡単じゃったよ!」

「すべて計画通り、ということですか……」

「ああ、まあ、お主らが現れなければもっとうまくいったんじゃが……この際そんなことは関係ない。全て喰らってやるわ!! フハッハッハッハ!!」

「出来ると思っているんですか?」

「ああん?」


村長が高笑いしていたところに鬼丸の横槍が入る。気分よく笑っていたところを邪魔されただけに、思わず眉に皺がよるが、同時にひとつの疑問が頭の中をよぎる。


「お主、いったい何者じゃ? 先ほどの魔に関する知識、退魔の武器……普通の人間ではないな。お主、退魔師か?」

「私が退魔師? ……私は退魔師などではありませんよ。むしろそれに反するものです」

「?」


鬼丸が意味ありげに笑う。はったりか、真実か、それ以前に退魔師に反対する存在?村長の頭の上にクエスッションマークが浮かぶ。


「貴方は魔にも階級があることはご存知ですか?」

「もちろん。そんなこと常識じゃ」


長い間生きてきた村長が知らないわけがなかった。それより、何故そんな質問を、という疑問がさらに浮かんだ。

魔に階級をつけ始めたのは、人間だった。魔の純粋な力、危険度、知力、全てを考慮してランク付けを始めた。それが長い間様々な人間によって考えられ、今ではトランプにたとえられている。

最弱が2、最強がK。種族別に分けられたそれは、一つランクが違うだけで力も跳ね上がる。つまり8の灰狼と9のゴーレムが戦ったら、ほとんどの確率でゴーレムが勝つのだ。

それ故、人間には危険度の目安として捉えられている。


「灰狼は8。ゴブリンは2。銀狼は……Jくらいでしょうか?と、まあ、銀狼はなかなか強い地位にいます。退魔師でも数人がかりでやっと討伐できるくらいでしょう」

「何が言いたい? いい加減はっきりしろ!!」


痺れを切らした村長は大声で怒鳴る。鬼丸は少しにやけ、再び口を開いた。


「そんなJの銀狼でも、QでもKでも敵わない存在いるのですよ。“エース”という存在がね」


鬼丸は金太郎から借りた帽子を脱ぎ捨てる。途端、村長の顔が青く染まり、信じられないような顔になる。


「な……何故、何故こんなところに……“鬼”がいるんだ!?」


鬼丸の頭部にあるもの。魔でも人間でも、誰しもが知っている金色の角。この国の恐怖の象徴。魔の階級の中でKを超えたエースとして存在する最強の種族の一角。

確かに鬼は村長の目の前に存在した。


「何故、そんなに驚くのですか? 銀狼がここにいるなら、鬼もここにいてかまわないでしょう」

「お、鬼は桃太郎とか言う人間に、討伐されたはず……」

「その桃太郎を退治する途中なのですよ。まあ、今はこの旅で知り合った人間の手伝いをしていますけどね」

「う、嘘だろ?」

「と、いうわけで運が悪かったと思って諦めて殺されてください。銀狼さん」


鬼が自分を殺そうとしている。それは同時に死を意味すること。先ほどもいったとおりランクがひとつ上がるだけで、力も跳ね上がる。Jとエースが戦えば結果は一目瞭然だった。

この場合、狙われた者がとるべき手段は二つ。一つは少ない可能性に賭けて、全力で逃げるか、あるいは……


「畜生がああああああ!!」


この狼男のように決死の思いで襲い掛かるかのどちらかである。


「フフフ……」


鬼丸は笑いながら、懐のデザートイーグルを取り出す。その様子を見て銀狼は少しの希望を見出した。


(やった! あの退魔の武器程度ならわしの皮膚は貫けん。それどころかかわすことも可能だ。一気に近づいて奴の体を引き裂いてやる。いくら鬼でも無傷ではなかろう……)

「言っておきますが、私の武器をあまり舐めないほうがいいですよ」

「!!」


考えを読んだようなタイミングで鬼丸はそう言い放つ。銀狼は驚くがもう自分の体は止まらない。

鬼丸が銃口を向ける。


「このデザートイーグルは私の魔力の器……つまりこれは私の魔力を銃弾として撃つ、媒介に過ぎないのです。魔力の銃弾なら貴方の皮膚でも貫くことは可能です」

「っ!!」

「さらに私は自分の魔力を自由に変成させることが出来ます。銀色には銀色を……退魔の力を持つ銀ならば貴方でも簡単に殺すことが出来ます」

「馬鹿な……そんな魔術師のような真似、出来るわけが……」

「出来るものは仕方ないのです。楽に逝かせてあげますよ」


デザートイーグルが次第に銀色の光を帯びるようになる。鬼丸の話は本当だった。銀狼の僅かな希望も、今消えた。


「我が変成する力は退魔の銀……穿て」

――――――バンッ!


本日三度目の銃声は確かに銀狼の心臓を貫き、一瞬で死を与えた。声も出す間もなく、それは地面に倒れこんだ。

鬼丸は東の空を見た。うっすらと光が見え始めていた。


「朝か……」


もうすぐ魔に支配される夜も終わる。鬼丸はそう呟くと遠くから聞きなれた声が聞こえてきた。





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