表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

見送る日々、過ぎ去らぬ日々

虫けらのいたスケートリンク

その娘の後姿、そして彼女の左手にバイオリンを見た。

常時、学年トップを勝ち取る右手には、弦。

正直敵わないなあ。敵わないなどと思うことも恐れ多い。

僕のような虚弱な運動音痴で全教科赤点の男が、

近くに存在したことが間違い。

それでも、彼女は声をかけてきた。

そして。


僕の秘めたただ一つの趣味、隠れて努力するスケートリンクに、

聞くはずのない声が聞こえた。

しかも、声をかけて来るのか。

そうだ、彼女は僕を見かけると声をかけてくれる。

そうだ、彼女は誰にでも声をかけてくれる。

それゆえ、こんな僕さえ

少しばかり生きることを許されたような気がした。

だから


僕は夢見た。

今日、少しは元気よく返答をしてみようと

少しは授業を理解できるよう努力しようと、

5メートルは走ってみようと、

4段ほどは駆け上ってみようと、

そして


彼女は彼女の親友とスケートに来たという

僕はたちまちバランスを崩す。

何もできなくなっている。

声すら出なくなっている。

しまいに、呼吸まで。

やはり僕はここにもいてはいけないんだ。

いや、どこにもいてはいけないんだ。

そうか


眼を向けると彼女は真っ直ぐに僕を見る

なぜ、僕を見るのか

友愛であることは知っている。

でも友人にはなれない。

なぜなら、友人とは理解し合う存在。

彼女が僕を理解するということは、

その途端に彼女が僕を離れることになる。

そして、僕は悟った。

近くに存在した僕がいけなかったんだ。

これは、そんな僕に与えられた拷問なんだ

初めから生まれてはいけなかったんだ。


愚かな、虚弱な、とりえのない男。

分かったのは、存在価値のないこと。


でも、ひとつだけいえる。

僕に存在価値が無くても、

ここに存在することを許されている。

憐みだけが僕を生かしてくれている。

それで虫けらの僕には十分だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ