5. 夢を叶えるその日まで。
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「ありがとうございました」
私がご主人にお礼を言うと、
「これからどうするの?」
と、ご主人が真顔で聞いてきた。
私は真摯に答えた。
「生きていたときの夢を叶えます。そうしたらきっと成仏できると思うんです」
「夢って?」
「三島由紀夫、太宰治、川端康成、芥川龍之介全読破です。図書館と本屋に行ったんですが、本棚に入ってると自分じゃ取り出せないので、純文学オタクとかに取り憑いてみようと思います」
「・・、うちに来るかい?喫茶店だけど三島も太宰も川端康成も芥川龍之介も全部あるから。読み終えるまでいるといいよ。うちは満席になること無いしね。テーブルに本を置いとけば読める?」
「・・・は、はい!読めます!理想的です!」
「すぐそこだから・・ああ、雨もあがったね。ついておいで」
「はい!ありがとうございます!」
あんなに激しかった雨はすっかりあがり、灰色の雲の切れ間から青い空がのぞいている。
ふらふらするしかなかった私にも居場所が見つかった。
死んでから、こんなに嬉しいことはない。
人の優しさが身に沁みる。
冷たかった心があたたかになる。
両親でさえ私が死んだらさっさとアメリカに行ってしまったのに。せめて位牌だけでも持って行ってくれてたら━━━━
両親が位牌を残して早々に渡米したと知り、私は寂しくて落ち込んでしまった。地中に。
でも、ありがとう、神様。
そんな寂しい今日、優しい人に出会えました。
夢を叶えたらもう一度神様のいる場所に私を導いてください。
今度こそ迷わずに逝きますから!
こうして私は珈琲の美味しい喫茶店のご主人に拾われ、夢を叶える協力をしてもらうことになったのだった。
心の日記には、“今日は寂しい日”と綴ったが、“今日は優しいご主人に出会えて嬉しい日”と、私は綴り直した。
綴った言葉は忘れていくかもしれないけど、今日の日だけは忘れまい。この世にいる間は。
いや、いつか神様のもとに召されても。
そのあとも、ずっと、ずっと━━━━━
GOD BLESS YOU. ~Fin~