初めまして、さっきぶりですね。
7:00 a.m.
目が、覚める。
ぼんやりとした視界に残る、知らない誰かの残像。
手のひらに微かに残る、その知らない誰かと繋いでいた感覚。
鼓膜に残る、知らない誰かの…彼女の微笑む声。
その彼女の感覚すべてが、覚醒とともに薄れそして…消えてゆく。
知らない女性。
けれど、どこか懐かしくて愛しくて。
幼き頃からよく見る、夢。
その夢を見ると、すごく幸せな気持ちになりそして、ほどなくして切ないものへとなる…
半身を起こし、彼女と繋いでいた方の手をじっ、と見る。
無意味な時間…
急いで支度をし、家を出る。
流れてゆく人波に紛れる、朝。
会社に向かい歩を進めながら。
頭は、ぼんやりとした夢の破片を。
溢さないように。
繋ぎ止めるように。
見つめる…
ドンっ!
ふいに。
誰かの肩と僕の肩が当たる。
はっと意識が現実に戻された。
夢の破片が砂時計の砂の最後の粒のように、さらっ…と零れてなくなった。
寂しいような悲しいような感覚に襲われながら、顔を上げて謝─────
ろうとして、言葉が、途切れる。
零れきったはずの夢の破片が、ジグソーパズルのように形を戻す。
カチッ
最後の破片が、音を立てて夢を完成させる。
目の前に佇む、女性。
よく夢に出てくる、彼女。
その彼女が僕の目の前で、驚いたような表情をして立っていた。
流れゆく人波。
雑踏。
沢山の音や香りが傍で行き来しているはずなのに、彼方の方のものに感じる。
僕と彼女だけ時が止まったように、流れゆく雑踏のなかに佇み、お互い見つめ合う。
刹那。
僕の唇が勝手に発音した。
「初めまして、さっきぶりですね」
目の前の彼女は、微笑みながら涙を溢していた…