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純文学&ヒューマンドラマの棚

初めまして、さっきぶりですね。

作者: 徳田タクト






 7:00 a.m.




 目が、覚める。










 ぼんやりとした視界に残る、知らない誰かの残像。



 手のひらに微かに残る、その知らない誰かと繋いでいた感覚。



 鼓膜に残る、知らない誰かの…彼女の微笑む声。


 

 その彼女の感覚すべてが、覚醒とともに薄れそして…消えてゆく。



 

 知らない女性。


 けれど、どこか懐かしくて愛しくて。


 幼き頃からよく見る、夢。




 その夢を見ると、すごく幸せな気持ちになりそして、ほどなくして切ないものへとなる…



 半身を起こし、彼女と繋いでいた方の手をじっ、と見る。



 無意味な時間…


 


 急いで支度をし、家を出る。


 流れてゆく人波に紛れる、朝。


 会社に向かい歩を進めながら。


 頭は、ぼんやりとした夢の破片キオクを。




 溢さないように。


 繋ぎ止めるように。




 見つめる…





 ドンっ!





 ふいに。


 誰かの肩と僕の肩が当たる。


 はっと意識が現実リアルに戻された。


 夢の破片が砂時計の砂の最後の粒のように、さらっ…と零れてなくなった。


 寂しいような悲しいような感覚に襲われながら、顔を上げて謝─────


 ろうとして、言葉が、途切れる。




 零れきったはずの夢の破片が、ジグソーパズルのように形を戻す。



 カチッ



 最後の破片が、音を立てて夢を完成させる。




 目の前に佇む、女性。



 よく夢に出てくる、彼女。



 その彼女が僕の目の前で、驚いたような表情かおをして立っていた。





 流れゆく人波。




 雑踏。




 沢山の音や香りが傍で行き来しているはずなのに、彼方の方のものに感じる。



 僕と彼女だけ時が止まったように、流れゆく雑踏のなかに佇み、お互い見つめ合う。




 刹那。




 僕の唇が勝手に発音した。



「初めまして、さっきぶりですね」






 目の前の彼女は、微笑みながら涙を溢していた…











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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に美しく神秘的な作品ですね。
[良い点] 拝読させていただきました。 淡々とした文章に情感が滲み出てきます。 お見事な締め。 心地良い余韻が残ります。
[良い点] 再会出来て良かった!! 語られてない本人たちにも見えない記憶の中で、互いがかけがえのない存在なんだって伝わって来ました♪ 染み入るようなお作品でした♡
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