僕と神とスキル
「いつまで寝てんだ起きろ!!」
誰かの声がする。僕はどうなったんだっけ?
いつもどうりの生活。朝起きて、会社に行き、理不尽に怒られ、帰宅、就寝。
正直、嫌気がさしていた。
あぁ、思い出した。僕は・・・
「おい、起きろ! 君が起きてくれないと話ができん。」
まただ、黙ってくれないかな。そうだ、僕は自殺したんだ。あのくそ忌々しい人生をやめたくて・・・。
神様か仏様か知んないけど、ほっといてくれ!
「なんだ、聞こえてるんじゃないか。だったらいい。話を進めるぞ。」
「だから、黙ってくれと言って・・・r」
驚いた。死んだはずなのに体があるし、声も出る。あぁ魂の世界ってヤツか。
しかも目の前には、チビ、もとい幼女の姿をしたやつ。
「君は失礼なヤツだね。心の中で思っていることぐらい分かるんだぞ?」
「へー、それは悪かったよ」
「分かれば良いんだ。」
そういうとその幼女は貴族の挨拶のように、片方の手を後ろに、もう片方は前に持ってきて深々とお辞儀をして
「はじめまして。私の名前はスミレ。神だ。君の名前は聞かなくて良いかな?どうせ名前変わっちゃうし。」
「どういうことだよ?」
スミレは、なにもないところから紙とペンを取り出し、なにやら絵を描き始めた。僕はそれをじっと見ていると、スミレは僕の方を見て、ニヤッと笑った。
幼女というより、むしろ時代劇の悪代官がやるような顔だ。
心の声を聞いたのだろうか、少し不機嫌そうな顔をしていたが、特になにも言わず、スミレは話し始めた。
「いいかい?君にはこれから特殊なスキルを与えるよ?」
「待ってくれ、いきなりそんな話をされても困る。俺はこれからどうなるのかだけでも教えてくれ。」
本当は内心分かっている。正直わくわくしているともいえる。これは俗に言う異世界転生だ。つまりこれから貰うスキルはきっと強力なヤツで僕はこれから世界を救って英雄になってそれから・・・。
「君には5回転生できるスキルをあげるよ」
「・・・・・・はい?」
「ん?だから5回転生できるスキル」
「いや、聞こえなくて聞き返したわけじゃないんだけど・・・」
「いいかい?これからこのスキルの特徴を教えてあげるから、よ~く聞くんだよ~?」
僕の言葉を遮ってスミレは話を進める。こちらの言い分を聞きそうもなかったので黙って聞くことにした。
スキルについて簡単にまとめると次のようになる。
一.このスキルは使用者本人の合意があれば好きなタイミングで使用可能
一.転生しても転生前の世界で得た知識、記憶等は引き継がれる(転生先に左右される)
一.転生するときに1人だけ次の転生先へ連れて行ける
他にもなんか色々言ってた気がするが、大まかにまとめるとこうなる。
「なぁ、質問いい?」
「おうとも、何でも聞いてくれ!!」
スミレは、ない胸を張ってふんぞり返っていた。あれで胸があったらまだ良かったのに・・・。
「転生が5回できるのは分かった。それも自分の好きなタイミングで。でも次の転生先で人間になれない可能性はないのか?」
これは、聞いておかなければならないことだ、人間に転生できなくてモンスターとかになったら、せっかく前世で得たスキルも無駄になるかもしれない。
「それは心配ないよ。このスキルでの転生では使用者は必ず人間に転生する。だから安心してくれて良いよ。」
「そっか。分かった、ありがとう」
となると、少なくとも人間になれるのなら心配ない。でも、2つ目の重要そうな項目、転生先に左右されるのは厳しいな。
前の世界で魔法があっても、次の世界になければ魔法が使えないんだよな。
「なぁ、転生前の世界で魔法があったとして、次の世界が魔法がない世界だとどうなるの?」
スミレがすご~く嫌そうな顔をしている。あれだ、学生時代とかにちょっと余計なこと言ったときのクラスメートの目だ。
「・・・君ってさ、彼女いなかったでしょ?」
「・・・いたよ、高校の時」
「・・・・・・え・・・うっっっそでしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
いきなり叫ばれて驚いた。鼓膜が破れるかと思った。
「・・・なんだよ」
「あ~、いや、ごめん。君みたいなのに彼女がいたのが意外すぎたというか、なんというか、アハハハハハ」
心外だ、まさか神にまで、彼女がいないと思われていたなんて・・・それもおそらく見た目だけの判断で。
「それよりもどうなんだよ?さっきの質問の答えは?」
「ん?あ~、それはね~、もーちーろーんっ~使えな・い・よっ!!」
うわぁ~、腹立つ言い方してくんな~。なんだよ無駄に動きやがってあれか、ちょっと前のぶりっ子かよ。
しかもちょっと動きダサいし。
それにしても、使えないとなると厳しいな。転生した世界が全く違ったらなかなかのハードモードだぞ。
「あ、でも使えなくなるけど、それと同等くらいの何かが手に入るよ。」
「なるほど、なら少しは安心できる」
そこからも少し、スミレと話した後、いよいよ僕の異世界転生が始まろうとしていた。
準備が終わった僕を見て、スミレが近づいてきた。
「それじゃ、僕からの餞別をあげるね」
そう言って渡されたのは、小瓶だった。
「これは?」
「それは、強力な薬だよ。どんな女の子でも、一発で、落とせちゃうね」
「・・・・・・・」
「なんだよ~嬉しくないのかよ~、どんな子でもメロメロにさせれるんだぞ!!」
こいつ本当に神なのだろうか、こんなモノよりも、もっとなんかあるだろ、ちょっと強めの剣とか、杖とか・・・初心者ガイドブック的なのとか。
「分かったよ、使うかは分かんないけど、貰っておくありがとう」
「よしっ!!あとはこれね~はいっ、リュック。中に無限にモノが入るから、だけど重さは変わんないよ」
「近未来のポケットかよ・・・」
「じゃあ、僕の仕事はここまで、一応君の今後については別に担当がいるから困ったことがあればその子に聞いてね~」
僕はスミレの描いた魔方陣の上に立った。陣が光り体が宙に浮き出した。
だんだん意識が遠くなっていたときスミレが下で叫んでいた。
「あ、そうそう君にあげたスキルの名前、言ってなかったねー、君のスキル名は~」
薄れていく意識の中で聞こえた僕が貰ったスキル、その名前は・・・
------5度の人生<ファイブマイル・リービン>------