第五話
「う、うそだっ!」
僕は目の前で頭を下げている男に言った。
この男は僕の配下になりたいとか言っていたけど、そんな訳がない。
僕の配下になりたい人なんかいるわけがない、こんな無能な僕に。
大体ここはダンジョンの奥深くだぞ。
こんなところにいるやつを信用できるわけがないし、そもそも羽がはえてるから魔物なんじゃないのか?
僕は、剣を持つ手に力を入れて、とどめをさしてしまおうかと考える。
男は、無防備に頭を下げたままだ。
「き、君は魔物だろ!なんで僕なんかに仕えようとするんだ!」
「はい、魔物は本能的に強い者に惹かれるものだからです。貴方様はそれほどにお強い。そして魅力もお持ちでいらっしゃる、私は貴方様の全てに惹かれてしまいました。…もっとも、私は魔族の中でも悪魔でございますが。」
っ、悪魔!
古の時代の生き物じゃないか。
悪魔は別の世界にいて、召喚や次元の歪みからこちらの世界にくるものらしい。
僕の知っている限りだと、今まで生きてるものが確認されたことがない、伝説の生き物だ。
「どうか心配なさらないで下さいませ。魔族とはこういうものなのです。」
絶対嘘だ。
僕はこういう駆け引きとかが本当にわからないんだ。
なんで貴族として捨てられてまでこんなことしなくちゃならないんだ。
「信用できないっ!い、いきなり後ろからさっきの魔法とか撃ってくるつもりだろ!」
「ふむ、近くで見て改めてわかりました。貴方様程の混合気であれば、私程度の魔法などそもそもその身に傷一つ付きはしないでしょうが、、、、魔法は使われませんか?」
こんごうき?
何を言ってるんだ?
「魔法なんて使えないに決まってるだろ。」
「そうですか、ならば、、」
男は、物凄い速さで手を振り、自らの胸を貫いた。
そして胸から引き抜いた掌には銀色に煌く塊が収まっている。
「え、なっ、なにしてるんだ!」
「これは私のコアでございます。これが消されれば、私はこちらの世界に存在することが出来なくってしまいます。これを貴方様に差し上げます。私程度の汚いコアでございますが、これで信じて頂けますか?」
あ、もう面倒になってきた。
もう死んでもいいか。
誰かを信じて死ねるなら別にいいさ。
悪魔だなんて関係ない、目の前の男は嘘を言っている顔にはどうしても見えない。
僕が信じたいんだ、その通りにする。
僕の人生なんだから。
「わかった、信じるよ。」
僕はそう言って、剣を下ろす。
「、、、ありがとうございます。本来ならば、感激で床一面を涙で濡らすところなのですが、、、」
そう言って悪魔は下を向いてしまった。
そして続けて話し出す。
「貴方様のお名前をお伺いできますでしょうか。」
「リンネ・ア、、、リンネだよ。」
家名はもう関係ない。
「そうですか、リンネ様とお呼びしても?」
「構わないよ。」
「リンネ様。大変申し上げにくいのですが、悪魔に名を名乗るのは今後はやめておいた方が良いかと。悪魔は名前で他の生き物を縛るのです。」
な、なんだって。
「リンネ様は道理を超えたお考えをお持ちであらせられるのですが、時にはそれが不利益となる場合もありましょう。差し出がましいようですが、私が今後リンネ様が外交の際、助言をさせて頂くことを許して下さいませんでしょうか?」
それは、、
ね、願ったり叶ったりだ。
「わかった、頼むよ。それと、そんなに畏まらなくていいんだよ。」
「ありがたき幸せでございます。申し訳ございません、リンネ様を畏れ入る気持ちが溢れてしまいまして。」
「そ、そう。まぁよろしくね。」
今のところ、僕を殺す気はないようだ。
ダンジョンは悪魔が作ったらしく、脱出の転移魔法陣は奥にあった。
悪魔がダンジョンをでても、ダンジョンはそのままらしいので、ひとまず放置しておくことにした。
そんな訳で、僕らは一緒にダンジョンを出たのだった。