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第六話 悪魔の誘惑

小細工に一番時間がかかりました。それと保奈美さんの爪に術は効きません。タイマンチートですね。彼女は。



「ふんふんふふ〜〜ん。これで完了っと……」


 結局あれから真白の列に並ぶ人妖はいなく70対30で保奈美の圧勝だった。


 保奈美は勝負が終わった後、駅の端っこに陳列された"ぶっ叩き君の"前に並んでいた。任務達成を学校側に知らせるため引換券券500枚を持って。

 彼女は順番が回ってくると、鼻歌交じりに引換券をドバッと機械に投入する。すると、詰まった機械は動作不良を起こし、エラーの二文字を表示するのだった。


「あら? またエラー? もぉ、いつもポンコツねぇ……この機械は。いつも通り叩けば直るかしら? ふぅぅぅ……そいやぁ!!」   


 保奈美は呼吸を整えた後、手に妖気を纏わせる。そして、気の抜ける掛け声で手刀をたたき込んだ。


「オ、yrgyPwgmpw@rwG♡♡たびるとろたはまらち

 ネラマラァはお⁉︎マラ千葉田原たまはださたらや

 エまらたさまあゃほやた'mGw@pw@wpgmpgWpn

 サらたらばはたおらほらおまほぁら、はまたるみ

 マラサほど、おはまらあたらまはまばらイィ♡」


 それは勢いよくめり込むと、大きなノイズ混じりの悲鳴に似た不気味な不協和音を鳴らした。


「あぁ、出たわね。良かった。良かった。ほんとポンコツなんだから。"ぶっ叩き君は"」


 大分凹んだそれは、少しショートしながら、モニターに"天田幸彦"課題合格の8文字を表示した。彼女はそれを確認した後、すぐさま列を外れる。

 すると隣の屈強な男子生徒も、"ぶっ叩きちゃん"を殴り変な声を出させているようでそれが響いてくるのだった。


「オンホオォォォォォ♡ ゃあrmg pmgwhmppm

 ニ和ygmpw@dpmpwgmg?94767.4946まはまは

 イラマ様はマラ未パレェドナ(ptwgr@pwgmgW

 サm_?wry.gpmpwpmrp?♡♡♡、、あららとと、

 マ、はどおはみ、たまぁはたまそちはスキィ♡」


 彼女が列を外れる頃にはその凹みはすっかり治っているのだが……次の生徒もまた乱雑に殴るので"ぶっ叩き君"と"ぶっ叩きちゃん"は永遠に変な音のクインテットを鳴らすのであった。


 このエンドレスに殴られる現象に則った結果、この機械は"ぶっ叩き君"またはちゃんと呼ばれているのだった。最近殴られ続けているせいか、付喪神になりかかっているらしい。噂らしいのだが……


「さて、幸彦君はどう褒めてくれるのかしら? 帰るのが楽しみね。ふふ」


 こうして保奈美は、幸彦に代わり課題をクリアさせるのだった。すぐさま彼女は愛しい恋人の元へと帰還しようとする。だが、そうは問屋が下さなかった。


「うぇぇぇぇぇぇーーーん!! 負けた、負けた、負けた、負けた、負けた、負けたぁぁぁぁぁ」


「チッ。ほんと、うざいこと、この上ないわ。いい加減あきらめなさい」


 なぜなら隣には泣いている真白がいるからだった。彼女は土下座して保奈美に延々と謝罪する。


「許じてぐださい、許じてぐだざい、許じてくだざい、許じてぐだざい、この気持ちを伝えざぜるこどをどうかお許しぐだざい」


「却下。約束は約束。今後一生幸彦君に近づくことは私が許しません。近づき次第、鈴木財閥の権力で貴方を物理的に排除します」


 彼女は、冷徹に言い放つ。約束は約束。公平の条件で勝負をしたのだ。それを簡単に認めるほど彼女は情に溢れた性格をしていなかった。


 彼女はキッパリ断っているというのに保奈美の足に縋るのをやめない。むしろ力を強くするのだった。


「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、いやだぁぁぁぁ! 伝える前に初恋が終わるのなんていやだぁぁぁぁ!!」


 真白は先程から負けたショックにより地面に倒れ嗚咽を漏らしていた。それは一週間前の比ではなく、道を行く人妖たちも一瞬立ち止まり通行の邪魔になっている。それに保奈美は苦言を呈する。


「うるさいわねぇ。なんで貴方ここまでついて来てるの? 公衆の迷惑よ。これだから年下の人間のガキは……泣けばなんでも許されると思っているのかしら? 考えが浅はか過ぎるわ。恥を知りなさい。貴方の恋はおしまい。ゲームセット。ふん!」


 保奈美は玲一をまりの様に蹴飛ばす。彼女は地面を何回か転げ回った後、身動きせずに泣き続けるのだった。


「それに、幸彦君が了承するわけないでしょう? 彼は私にゾッコンなのよ? ベッドでも中々離してくれなくて困ってるんですもの。貴方みたいな貧相なガキが入り込む余地あるわけないじゃない」


「うっうっうっうっうっ……うぅぅぅぅぅぅぅ。うぷっ⁉︎ ゲェェェェェェェ……!!」


 保奈美による容赦ない発言で、真白の精神は完璧にすり潰されたのか。

 彼女は、急に体をくの字に折り曲げると不快な水音と共に、摂取した栄養を胃から地面へと垂れ流すのであった。

 周りを訪れた人妖が、酸っぱい匂いと酷い光景にギョッと目を剥いたの対し彼女が取った行動は一つ。


「ぷっふはははははははは!! なにそれ? 面白すぎて腹が痛いわ。道化師でもここまで面白くないんじゃないんかしら? 滑稽ね」


 路上の人妖が駆け寄る中、保奈美は、保奈美だけは高らかに彼女を笑い倒すのであった。


「祐樹さん! 急いでくださいまし! 真白さん大分やられています! ハリー、ハリー!!」 


「分かってるって! ほなみんも大人になったと思ったけどやっぱりこうなっちゃったか〜〜」


 そこに二人の女子が勢いよく駆け寄っていく。彼女らは真白の背中をさすってやりながら水を飲ませて上げるのだった。


「ああぁ……やっぱり嫌な予感がしていましたの! あの娘のことだから絶対手加減しないって! 真白さん、大丈夫? 呼吸は出来る?」


「あちゃ〜〜。私が連れて来たの失敗だったかなぁ〜〜。ごめんよぉ〜。妹を泣かせるなんて姉失敗だぁ……」

 甲斐甲斐しく二人が世話をやく中、保奈美は笑い続ける。


「うふふふふ! ぷははぁ⁉︎ ひぃーひぃー……ゲロなんか吐いちゃってまぁ汚い……これが実力の差というものよ。ざぁーんねんでしたああぁ! 幸彦君は私のものですぅ。あはははははぁ!! はぁーあ。スッキリした」


「ちょっと保奈美この状況放っておきますの⁉︎ 貴方本当に性格ねじ曲がってますわよ!」


「ほなみん〜〜、さすがに空気読もうよぉ……これはかわいそうだよぉ〜〜」


 二人は保奈美を嗜める。しかし保奈美は彼女らに背を向けると、ひらひらと手を振るのだった。


「貴方たちの方がフォロー上手だと思うから、私は素直に退散するわ。所詮私を無条件に受け入れてくれるの幸彦君だけだからねぇ。じゃあねぇ〜〜。るんたった〜〜、るんたったぁ〜〜」


 そうして、保奈美は隣でギャン泣きする真白を放っておいて軽やかなスキップで幸彦が経営する店へと戻るのであった。




「イッたぁぁぁ……あの子ちょっと張り切り過ぎじゃない? 私ちょっと火傷したんだけど……主人を害するなんて随分生意気じゃない。従者風情が」


 保奈美は息を吐きながら、手を優しくさする。夏美は、わざわざ彼女が苦手とする炎の属性で結界を形成しているのだった。陰険である。実に陰険であった。


(無理やり突破できないこともないけど……結構なダメージ負うわね。はぁ、イライラさせないでよね。生理がズレてて良かったわ。多分コロコロしてたから)


 仕方なく彼女は、切り札を一枚切る。


「んしょ……あはぁ、外で下着になるのって興奮するわね。滾ってきちゃった。ふふ……」


 保奈美は、セーラー服を脱いでブラ一枚になる。そして背中に向けて脚に向かってありったけの力を込めた。


「さてと、んんぅん……あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ!!


 艶かしい声を上げた後、彼女の背中の辺りに骨の破砕音と、筋肉が断裂する嫌な音が鳴る。彼女は汗をかきながら、遠慮なく叫ぶのであった。


「あがぁぁぁぁぁぁ! ぎいいいいいぃぃいいやぁぁぁぁぁ!!」


 彼女の背中が一層盛り上がるとそれはブチュリと勢いよく体内から飛び出した。返り血がそこら中に撒き散らされ、彼女の背中が血塗れになる。


 しかし、傷口は肉が焼けるような音を立てながら高速で修復されるのだった。


「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ。うーん……これ便利だけど、服脱がないといけないのが面倒なのよね……やたら痛くて疲れるし。まぁいいわ。さっさと入りましょう……」


 彼女は背中から生えた四本の鉤爪で、結界に触れる。結界は侵入者を拒むように鉤爪を燃やそうとするがいつまで経ってもそれは燃えない。

 それどころか、結界は徐々に風穴が開き、一人分の通り穴を開けるのだった。これで結界は破られた。彼女は長く深呼吸をして、ウキウキとしながら、結界の中に入るのだった。


「はぁーい! おはようからお休みまで貴方を見つめる愛しい恋人兼、ママが迎えにきましたよおぉぉぉ? 一生懸命頑張ったママを褒め称えてくれる? 柄にもなく本気出したのだからって……あら?」


 保奈美は結界を解いて店の裏手に侵入すると、鳩が豆鉄砲を食ったようなとぼけた顔をするのだった。


「……"ア"ァ"ァ"ァヴブァァァァばぁまぁ?」


 幸彦は変わり果てた姿で、保奈美を受け入れる。大人しく物静かであった彼の印象はなりを潜め、そこには白目を向いて亡者のような呻き声を上げる哀れな妖怪がいた。


「……!」

 

 そんな無残な姿を見た保奈美は、顔を伏せるとを持った猫又の忠実なメイド、剛田夏美に詰め寄る。


「あなた……ここまで私は命じてないわよ! どうして、どうして……」


「いやぁ、幸彦様がいい反応をくれるもんですから。私も卿が乗ってしまいました。すみませんね。あっ味見はしてませんので安心して下さい。セーフワードもちゃんと決めてましたから!!」


 夏美は悪びれもせず親指を立て、主人の恋人をあっさり精神崩壊させたことを報告する。それに対し保奈美は彼女の襟元をぐっと掴んで耳打ちする。


「貴方は!! 貴方は!! どうしてくれるの! こんなの、こんなの……カッコ良過ぎるじゃない!!」


 彼女は顔まで真っ赤に照れながら、夏美に少女の文句を告げるのだった。




「うっうっうっうっうっ……辛いよぉ。悲しいよぉ。苦しいよぉ。死にたいよぉ。うっうっうっうっうっおぇ……げほっげほっ……ははは、もう血しか出ないですね……あぅぅ……死にたいです」


 真白は街灯もなく暗い道をトボトボと歩き続ける。喉からは度々吐き気がこみ上げ、中身も全て吐き出してしまった。吐くものがなくなった、彼女は血を代わりに吐く。

 喉を出血したのかヒリヒリ痛むが今はその痛みが心地よかった。精神を切られるより身が切られる方がよっぽど楽である。彼女はこの暗く冷たい感情からの解放を強く求めていた。


(頼みの綱は完璧に千切れてしまいました。もう、私の王子様には会えないのかぁ。ぐすん……うぅぅぅぅぅぅ!)


 真白は体調が落ち着いてから、祐樹と梓に頼み込むのだった。どうか彼女との約束を反故にして欲しいと。泣きながら頼む。

 しかし、彼女たちからは色良い返事が得られなかった。


「真白ちゃん。それは、私たちには少々難しい問題でございます。どのような理由があれ、故意に契約を違えることは重大な禁忌でございます。それこそ吐き気を催すほどの……まぁ、いささか古めかしい考え方ですが……」


「うーん……私はそうでもないけど……」


 そう言って祐樹は梓の殺気が混じった視線を受け流す。


「わかってるって。私は将来もこの業界で、やっていきたいからさ。他ならいざ知らぬ、ほなみんとあずっちに睨まれるのは、不味すぎる。最悪死んじゃうから。ごめんね? 真白ちゃん。そういうわけで手は貸せない」


 それを聞いた真白はやるせなくなり脇目も降らず走り出したのだが……


(道なんて知ってるわけありません。もう、このままスッポンポンになって凍傷で死んでやりましょうか。そうすれば、先輩は一生私を忘れない……エヘヘヘ、そうだ。死んじゃおう。もう未練なんてないんだ。パッート死んじゃおう。裸見られるのはちょっと恥ずかしいけど…… )


 そうして真白が制服の襟を掴んだ時、どこからか声が聞こえるのだった。


「いいんですかぁ? そんなホウホウではつまらないデェスよ。それではアナタは忘れられてしまう。ウゥーんそれは少し勿体ナくナイデェスか?」


「なっなんなんですか! アナタは!!」


 気配もさせなかった仮面の男の登場に彼女は警戒を強める。


「ふむ……シイテ言うならワタシは……世界の解放シャ。とでも名乗りましょうか。貴方……セカイ壊したくありません?」


「っっっっっ!!」


 そこで彼女はつい興味を惹かれてしまった。興味を惹かれてしまったのだ。


「ウヒヒヒヒヒィヒィ。ワタクシ共ならもっと華やかな死に方をテイキョウできますがどうでショウか? 柊マシロさん?」


 そうして、変な喋り方の男は絶望した真白の心を巧みに釣り上げるのだった。

面白かったら、感想、ブクマ、レビューを貰えると嬉しいです。


修正は二章の最初がちょっと残ってるからまだ暇な時に続けますね。

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