第四話 ライバル登場
遅れた申し訳ありません。内容がうまくまとまりませんでした。
「――浮気は許さないと言ったでしょう? 約束を守らないクズ男は罰を受けないとねぇ……さぁ、己の罪を精算しましょうか」
保奈美は幸彦の首を掴むと一気に上空に持ち上げる。それはこの一週間の中で恐れていた最悪のパターンだった。
彼は必死に保奈美の腕を掴むが、彼女の腕は鋼鉄のように硬く微動だにしない。
「ぐぬぬ、俺は浮気はしてねぇ。ペット共と戯れてただけだ」
幸彦は浮気なぞ、一切していない。ペットとして雪音を可愛がっていただけだ。しかし、彼女は幸彦の意見を一蹴する。
「問答無用。言い訳は治療した後に聞きましょう」
「ちょっとこの人おかしいです! 警察の人に電話――」
保奈美の狂った行動に、真白は取り出したスマホで警察に連絡をかけようとする。
しかし、それは彼女が目を離した瞬間、なぜか保奈美の手の中にあった。
「ごめんなさい。警察に連絡されるのはちょっと……それと私は人じゃなくて妖怪よ。人とは違うわ。ふふ、ただの人なんかとは……」
保奈美は真白を鼻で笑う。それを見た真白はズカズカと保奈美に近づき、文句を言うのだった。
「ただの人ですが、それが何か!」
「あっ待て⁉︎ 今の保奈美に近づくな!! ぐぅ!」
その言葉に真白はピタリと足を止めた後、死んだ目で幸彦を見つめる。
「保奈美? 天田先輩なんでこんなおばさんを、下の名前で読んでるんですか?」
「いや、待て待て待て、えーっと……柊さん? 俺は君のことを思って……」
真白を止めようと幸彦が声をかけると今度は保奈美が、幸彦の首を離し、死んだ目で追求してくるのだった。
「あらぁ? なんでこのメスガキに対してそんな気を使うのかしら? おかしいわねぇ。幸彦君。私は貴方の恋人よ。それなら優先すべきは私じゃないかしらぁ」
四つのハイライトを消した瞳は俺のことを、じっくり捉えて離さなかった。前門の狼、校門の虎とはこのことを言うのだろうか。
幸彦は助かるために部外者の、女性二人に助けを求める。
「祐樹さん! 梓さん! この状況おかしくないか⁉︎ 俺のことを援護してくれ! 頼む!!」
幸彦は、変態扱いされてから出来た素晴らしい友人たちに助けを求めるが、彼女たちは目線を逸らしながら、すまなそうに告げるのだった。
「あ〜……ユッキー、女の子に言い寄られるのって男の子の憧れのシュチュエーションだから。がんばろ? ねっ?」
「そう、ですわね……その、二人とも愛を持って幸彦様に、接しているのだからちゃんと向き合いましょう? 友達として応援してあげますから」
二人は応援という体の知らんぷりをするのだった。
「うっそぉ⁉︎ ここで見放すの⁉︎ 二人だけが頼りなのに!」
呆気なく幸彦は縄梯子を取り外される。
「さぁ、幸彦君? 少し話しましょうか?」
「奇遇ですね……私も天田先輩に聞きたいことがあります……」
彼女らはジリジリとにじり寄る。それは幸彦にとって崖っぷちの状況であった。
「私に説明してくれるかしら?」
「真白に説明してくれませんか」
二人は奇しくも同じ質問をする。
「このおばさんは」
「このメスガキは」
そこで保奈美と真白は、一拍置いてお互いを指差した。
「誰?」
「ふっ……話すまで手を出さないと約束するか? 保奈美と柊さんよ」
「約束しましょう」
「約束します」
こうして二人の了承を得た、幸彦はことのあらましを話していくのだった。
「なるほど、なるほど。つまり、幸彦君は、夏美のポケットマネーをこの子にあげたったわけ。やっさし〜。彼女としては羨ましい限りだわ」
保奈美はネチネチとこちらの嫌な所を突いてくる。
「いや、その、悪かったよ。あの時はカッとなったんだ」
「ううん。許して上げるわ。だって財布無くした子にポンと十万円渡してあげたんでしょう?
しかも、痴漢と勘違いするようなバァカな子に……」
「いや、バカって……お前それは言い過ぎじゃあ」
「言い過ぎじゃないわ。バカをバカと言って何が悪いの? これを否定したら貴方もバカの仲間入りをするのよ。バカは嫌でしょう?」
「はい……おっしゃるとおりです」
幸彦は、保奈美の理路整然とした結論に論破されるのだった。
「いいですよ、天田先輩。フォローしてくれなくて。真白が財布無くしたのは事実ですし……」
「すまないな……そのなんだ、保奈美も悪い奴じゃないんだが、その……」
中々いい所が出てこないが、一個ぐらいは保奈美にもあるはず。そうして保奈美の長所をあげようとするも、彼女は首を横に振って幸彦の手を握った。
「いいんですよ。可哀想な天田先輩……こんな暴力女のいい所なんてあげなくて」
彼女は、幸彦に笑いかけると、彼を哀れむ。そして保奈美を挑発した。
「手を離しなさい。殺すわよ」
「まぁ、怖い。これだからおばさんは嫌いですね」
真白は、握った手を素直に離した後、保奈美に顔を向けるのだった。
幸彦は混乱する。なぜ彼女たちはお互いに仲良くなれないのだろうと……
「だってそうでしょう? 先輩の話を聞く限り付き合って一週間しか、経ってないのに生傷が多過ぎます。先輩はDVされてるんですよ。DV。さっきも首しめられてましたし……」
「ふふふ、柊さん? 純愛と言ってもらえるかしら。これは私たちの神聖な愛の形よ」
それに保奈美は異を唱える。彼女はDV呼ばわりされるのは不服だったらしい。
幸彦も同じ意見だった。あれをDVと呼ぶことは出来ない。あれをDVに括るなら、他のDVが軽すぎるからだ。
真白はさらに意見を付け足す。
「他にもありますよ? 公衆の面前で恥をかかされたり、不法侵入されたり、盗聴器仕掛けられたり先輩にプライベートってないじゃありませんか。これって絶対おかしいですよ。先輩は虐待されてます」
その言葉に幸彦は激しい動揺を見せる。
「虐待? ……俺は虐待されているのか? うっ……頭が!」
暗黙の了解で保奈美の暴力を感受していた幸彦であったが、よくよく考えてみるとおかしい。いくら恋人でもしていいことと悪いことがあるのではないだろうか。
それを考え出した途端、彼の頭は割れるように痛くなった。
「幸彦君、騙されないで! 妖怪は頑丈だから愛情表現も幅広いのよ!!」
「先輩、これは虐待です! 虐待なんです! さぁ、早くこんなDVおばさんと別れて私と付き合いましょう!」
真白が私欲塗れの言葉を吐くと、それに反応し保奈美は激昂するのであった。
「何言ってるの! 幸彦君が貴方みたいなチンチクリン相手にするはずないじゃない!」
「ふふん! スタイリッシュと言って下さい。真白は貴方みたいに無駄に脂肪を溜め込んでいないのです」
少女たちは一歩も引かず、お互いの悪口を言い合う。
「ふふふふふふ」
「あははははは」
(こっ怖すぎる……俺が悪いのか⁉︎ 俺が⁉︎)
幸彦が二人の気迫に飲まれていると、突如彼女たちは渦中の男に振り向くのだった。
「ふふふ……二人で話してても拉致が開かないわね。ここは幸彦君本人に決めてもらいましょう?」
「そうですね。真白の意見が絶対正しいですが、問題は先輩の意見です。先輩がシロと言ったらシロ、クロと言ったらクロですしね」
そうして二人の少女は幸彦に詰め寄った。
「さぁ、先輩、真白の元へ避難してください。貴方は救われるべき男性なんです!」
「考えるまでもないでしょう? 恋人が言うことを信用しておけばいいのよ。私は貴方の味方なのだから」
「うぐぐ……」
「さぁ!」
「さぁ!」
(どっ、どっちの言うことが本当なんだ⁉︎ 真白の言い分と保奈美の言い分は⁉︎)
彼女たちの言い分は両方正しい。そして両方間違っているのだった。
「いや、俺は……俺は……」
幸彦は言葉に詰まる。彼女たちはどちらを選んでも絶対納得しないだろう。そうなれば流血沙汰になるのは目に見えているのだった。
どうすればと悩んでいると、雪音がトコトコと二人を押し除けて、雪日の袖をグイグイ掴む。
そして起死回生の言葉を放つのだった。
「ご主人、私に接客のイロハ教えてくれるんじゃなかったんですかぁ? ジェラート売りに行くんでしょぉ?」
しばしの沈黙の後、幸彦は雪音を力の限り抱きしめる。
「わわわわ⁉︎ ご主人! なんですか⁉︎ 雪音何も悪いこと言ってないですよ!!」
「それだぁ! 雪音 よくやったぁ。お前はお利口さんだな! よーしよしよし」
「えへへ、嬉しいです! もっと撫でて下さい!」
雪音は尻尾をぶんぶん振って喜ぶのだった。
「……」
「……」
少女たちは虚無の表情で幸彦を見つめる。
そうして幸彦は舌の根も乾かない内に、また犬耳少女と熱烈なハグをし、保奈美に強烈なアッパーカットで意識を刈り取られるのだった。
「つまり、こういうことね? この売れ残りのジェラートをより多く売った方が勝ちと……」
「ふむふむ、この時期に冷たいもの買い込むなんて、先輩はしょうがない駄目妖怪ですねぇ」
二人の少女はとりあえず納得してくれるのであった。
(いや〜良かった良かった。これで万事解決だ。それにしてもなぜ、俺は捕らえられているのだろうか)
幸彦は気絶している間に、蝶々のように保奈美が糸で生み出した巣の上で貼り付けにされているのだった。
「今から俺は……何をされるんだ?」
薄々感づいてはいるが、幸彦は恐怖から保奈美に質問をする。すると彼女は、いつもの様に目を細めてこちらに笑いかけるのだった。
「真白さんと罰を一緒に考えたんだけど、その結果これがまぁ妥当かなって。怪我もしないし、恥もかかないし」
そう言って彼女は、目をつぶりながら指を鳴らす。すると音もなく彼女の忠実な猫又メイド、剛田夏美が現れるのであった。
「お呼びでしょうか? お嬢様」
「そうね。夏美、少し耳を貸しなさい」
「はい?」
夏美さんは、彼女に近づくとゴニョゴニョと何かを、耳打ちされる。
「かしこまりました。お嬢様。ところで、つまみぐいってありですか?」
「つまみぐいって貴方ねぇ……この間にできた年下の彼女はどうしたの? もう別れたの?」
そうすると彼女はガックリと肩を落とす。
「イケメンの男にNTRました。なのでしばらくご無沙汰なんです。後生ですから、幸彦君少し味見させてくれません?」
えへへと夏美さんは、屈託なく笑う。いつぞやの買うという発言は本気だったのか。
彼女はこちらをいやらしく、舐め回すかのように見つめてくるのだった。
「幸彦君が望めば、手を繋ぐらいは許してあげましょう。それ以外はまだ駄目よ。こんなゴーレム作るぐらい貴方の種族をリスペクトしているんだから。本気で惚れられたら貴方殺すしかないじゃない」
夏美さんは口笛を嬉しそうに吹く。
「それは怖いですね。それじゃあ、味見は程々にしておきます」
「そうしなさい。それじゃ頼むわね」
そう言って彼女はふさふさした羽箒を渡す。
「さぁて、私たちはジェラートを売りに行くから、幸彦君は夏美に可愛いがってもらいなさい。その……彼女も私と同じ趣味だから」
そうして彼女は渋々、夏美との浮気を許す。
なぜか許すのだった。趣味が一緒だからだろうか。それを聞いた幸彦は嬉しさよりも、絶望に襲われる。
「そういうことです。さぁ、ゆっ君。私が死ぬほど笑わしてあげますね」
サワサワと肌に触れる羽毛の感触はなんともこそばゆい。
「ふふ、ふふふふ、ふはははは、ふはははは!!」
早速幸彦は腹筋を酷使するのだった。
ライバルの二人がようやく直接的に対面します。
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