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三、広げた腕の中での出来事

 三、広げた腕の中での出来事


 昼間なのに薄暗い世界、人の街だけがきらびやかに躍動していた。この前と同じ夢だ。その夢の中に、今日は登場人物がいた。

 大きな不恰好な木が薄暗闇の中に立っている。『曲がりくねった樹木』だ。断片ばかりの夢の中に私は立っていた。

「やあ、よく来たね。」

 樹木はそう言って、私のそばに伸びている枝をそよがせた。風が吹いていないのになぜだろう、私がそう思うと樹木が答えを教えてくれる。

「もうこの世界には長いこと風が吹いていない。太陽が隠されてしまったから、風がいなくなったんだ。だから、空気がよどんでいる。」

 すると頭上から大きな音がして、不自然な風が運ばれてきた。『羽ばたきの大きな鳥』だ。うねって捩れた枝に鳥は舞い降りて、やっぱり私に話しかけてくる。

「いつも二人で話してばかりだったら嬉しいよ。ずいぶんと遠くから来たんだね。」

 そうだ、私はここまで歩いてきたんだ。

「この世界には、もう生き物は私たちしかいないんだ。いや、お互い見つけれらたのが一人だけだったのさ。」

 そう言って鳥はまた羽ばたきをしながら笑った。私はなんと答えていいか分からず曖昧に笑う。

「この世界のこと、よく分かってないんです。」

「いいからさ、君が思っていることを話してみなよ。」

「ええ、そうしてみます。」

 私は慌てて頭の中を整理する。そういえば、昔から漠然とした悩みがあった。

「簡単じゃないことばかりで困っているんです。もっと単純ならシミュレーションできるし、理解したらいろんなことが怖くなくなるって。」

「理由が分からない複雑って、怖いもんな。」

「そうかもしれません。でも、何かを解決するためには必要だったんです。」

「あんた達の世界のことはよく知らないけど。そういうことかい?」

「はい。見た目は正しさを保っているのに、結局は基準が不気味に進化しただけ。基準に合わないものを容赦なく切り捨てる、それで成り立つ世界なのかもしれません。」

「そんなの珍しいことじゃない。枝や根をどうのばせば大きくなれるか、それだけさ。曲がってもコブになっても関係ない。」

 『曲がりくねった樹木』が言うと、『羽ばたきの大きな鳥』もすぐに反応する。

「そう不恰好に大きな翼になって、閉じられないから一日中ばたばたやったりな。」

 鳥と樹木がそう言って笑う。たぶん私の悩みを分かってくれていないのだ。私は言葉を続けた。

「複雑なことをパターンに分けて、効率良くやってきました。なんだって効率化は求められますから。あなた達の身体もそうなんでしょうか?」

 そこで鳥と樹木はまた笑った。

「面白いことを言うやつだな。」

「ああ、僕たちは何かを選ぶしか出来ないんだぜ。」

「でも、全部が高度化に向かっているような気がします。そのために何かを捨てて、そして安定する。安定が最善だとは限らないのに。」

「そうだな。そうでもないと、あんな人の街は出来ない。」

「はい、それに自制し合うことは必要です。高度化しないと自制できないですから。」

 そこで急に鳥が空を見た。

「ああ、そろそろ時間だ。これからまた遠くまで苔を探しにいかなきゃいけない。ここまでの往復があるから、食事の時間だっていつも限られる。」

「じゃあ、帰ってこなきゃいいだろう。」

「うるさいな。他に休める場所がないんだからしょうがないだろう。それに、あんただって僕が戻ってこないと土の栄養がすぐに尽きる。」

 この二人は依存し合っているんだな、人の街以外の生き物は本当に彼らだけなんだろうか。私の意思は別の方に動いて、そのまま世界に溶けていった。


 朝、目が覚めても夢を鮮明に覚えていた。最初に思ったのはあの鳥と木の正体だ。見覚えがある。プロジェクトが始まった時にウィルダイスが見せたものだ。その意味を私は知らなかった。

「おはよう。今朝も人生は素晴らしい。」

 『執事モード』で待機しているボッチに私は声をかけた。

「おはようございます。今日も定刻です。素晴らしい。」

 ボッチはいつも通り礼儀正しかった。

「曇っている?」

「はい、一面の曇り空です。今日はこのままで夕方に弱い雨が降る予想です。」

「そうか。曇りも気分が落ち着いていい。」

「そうですか。前もそう言ってましたね。私も同じような気分になってきました。」

 ボッチの共感機能はいい。私は起き上がって部屋を明るくした。壁掛けブラウザは白っぽい。ということは、今週は雲が多い天気なんだろう。その日から私は出社せず自宅にこもってシミュレーションの作業を続けた。それから次のプロジェクトの週例会まであっという間だった。


 一週間ぶりに出社した朝は、雨上がりで少し風が強かった。わずかに緑の匂いがして、気持ち良い天気だ。このこともボッチに伝えておこう。その日、私はサンプルのシミュレーション動画をなんとか仕上げていた。

「やあ、君はミヤマって名前だっけ? 久しぶり過ぎて名前と顔が一致しない。」

 プロジェクトの部屋に入ると、すぐにキーリスに陽気に出迎えられた。窓が見渡せる特等席が気に入ったのか、今日は遅刻してない。ナナミも微笑んで迎えてくれた。私のすぐ後にマヤも静かに登場し、全員が久しぶりに顔を合わせた。タイミングを見計らっていたナナミは、スクリーンの用意を終えてから話し始める。

「じゃあ始めましょう。一人づつ時間無制限で思う存分語ってもらうわ。」

「いいんじゃないか。だが、俺は二、三分で終わってしまう。」

「それでも別にいいと思うわ。」

「じゃあ、誰からにする?」

 キーリスがメンバーを見回した。

「まずは私から。」

 そう言って立ち上がったのはナナミだった。

「え? あんたも用意したの。」

「私もプロジェクトメンバーよ。サポート役ながらね。ウィルダイスさんの考えを聞き出して目的をすこし明確にしたの。私だっていきなりだったから予備知識はほとんどなかったのよ。まあ、前座よ。」

 彼女はプロジェクターを操作する。

「じゃあ、始めていい?」

 ナナミはいつものスタイルで、誰の返事も待たずに話し続ける。

「プロジェクトのきっかけは今の環境ビジネスをどうするかの議論があったの。環境保全の技術ってもう特定事業化の必要ってないでしょ。」

「ああ。」

「新しいテーマはないかって。そこで出てきたのがシミュレーションなの。求められているのがシミュレーションなのには、二つの意味がある。観賞物としても成り立つこと、それに納得感。」

「納得感?」

「シミュレーションの結果に合わせた商品企画をする、つまり予測に合わせた商品だっていう納得感よ。それが購買意欲を高めることに繋がる。」

「狙っていることは分かるけれど、それは事業規模と合わないんじゃない?」

 腕組みをしていたマヤが言う。

「そこで出てきたのはウィルダイスさんよ。環境ビジネスについての今後は、部門長のアイデアだったんだけど、全球スクリーンが出てきた時にね、ウィルダイスさんはマーケット部門が長いから、ぴんときたらしいの。」

 販売計画で勘が働くっているのはどういう状態なんだろう。私にはまるで想像できなかった。少なくとも私の場合の閃きは、散々考えてやっと巡り会うもので、会議の時に見つかるものではない。

「昔の全球スクリーンのビジネス失敗をウィルダイスさんはよく知っていた。環境部門の新しいプランと組み合わせれば売れるって確信したみたい。このプロジェクトを立ち上げるためにね、別の無給電スクリーンプロジェクトを中止にしたの。じつは私もそっちのプロジェクト要員として最初は異動になったんだけどね。」

「そんなプロジェクトがあったんだ。知らなかった。」

「プロジェクト正式発足の前だったから。設定の時しか電気を使わない。あとは映像を給電なしで年レベルで固定化させるもの。研究費はかなりいるけど、出来たら大きいわ。でもウィルダイスさんは何か情報を持ってたみたい。どこかですでに実用化間近だとか、技術的に不可能っていう裏付けとかだったのかも。」

「全然興味ない話だな。」

 キーリスはそう言って笑った。

「まあ実際は分からないけど、それが歴史。次に環境問題の流れね。」

 年表を出してナナミは丁寧に説明していく。環境に関わるトピックス、技術の進展、規制の歴史、それはまるで講義だった。時おり私やマヤの質問が入って結局一時間ほどかかった。

「じゃあ、最後にシミュレーションの基本的な考え方や作り方、これはミヤマさんは必要ないと思うけど、簡単に。」

 そのあともナナミの基礎講習は三十分ほど続いた。

「いいかげん、ちょっと休憩にしよう。もう眠くてしかたない。」

 のびをしながらキーリスが言い、短い休憩が挟まれた。


「じゃあ、もういいわね。ここからが本番、次はどなた?」

 進行役に戻ったナナミが会議テーブルを囲んだメンバーを見回した。

「じゃあ、いいですか。」

 私は声を上げた。ナナミから代わってみんなの前に立った私は、すぐにキーリスが眠りかけているのに気づく。なるべく難しい話は控えなくてはならない。

「とりあえずシミュレーションを回してみました。先日のタナダさんのものに人の動きを加えたものです。」

 それだけ言うと用意していた動画を出す。地球の気温と風、雨が動きながら、千個のドットたちが大地をうろつく。

「それって、人が一つの点ってこと?」

「はい。」

 キーリスと対照的に、マヤはずっと興味深げに耳を傾けていた。

「前に言っていたじゃない。どの単位で計算させるかが大事だって。この一つは家族? それとも種族なの?」

「今回は最小単位。つまりは一個人としました。ただ、その行動パターンはとても単純だから家族とか種族だって考えてもさしつかえない。この点たちは気候的に住みやすければとどまるし、そうでなければ移動を始める。それに増えたり減ったりもまだしないんです。」

「気候をベースにする必要はないとは思うけど、ミヤマさんの技術がこういう風に応用がすぐ出来ることは分かったわ。キーリスさんはどう? 興味出てきた?」

 ナナミはキーリスに向かって問いかけた。それはキーリスへの眠気覚ましだ。

「ゲームかなんかにしか見えないけどな。」

 キーリスは興味なさそうに返事をした。

「ミヤマさんはこの前までのシステム納品より、シミュレーションの仕事をしてたキャリアの方が長いんでしょう?」

 ナナミがそう言ったのは、たぶん他のメンバーに伝えるためだ。

「そうです。」

 質疑はそれで終わった。シミュレーションに興味があるメンバーがいれば、まるで違っていただろう。元の気候や地形のデータはどう持ってきたとか、そんな盛り上がりがないのが残念ではあった。

「では、次はどうしましょう?」

「今の点たちの挙動について、基本的な動きを私は作ってみたわ。」

 そう言うとマヤは自分の用意したファイルを使って説明を始めた。

「家族、民族、国家、シミュレーションを仮に十年くらいなら、どれも不変的な考え方とすることが出来る。でもたぶん違う。ベースの気候シミュレーションは人の寿命より長くできるけど、必要なシミュレーションは気候だけじゃない。ナナミさんどう?」

「ええ、人の営みがテーマですから。ウィルダイスさんのお考えは数十年でなくって、たぶん桁が違うわ。」

「うん、正しい指摘だと思う。」

 私は素直にそう言った。時間軸をどうとるか、それはシミュレーションを回す上では確かに重要だ。

「今までの歴史を振り返るとね。人が増える数、生産される食料の数、この関係が崩れると大きな戦争が起こってバランスをとろうとする。それが近年は食料でなくてエネルギーの奪い合いになるから分かりにくい。政治的なシミュレーションに思えてきたわ。」

 初めて聞く話だ。どこかで体系づけられた研究成果だろうか。歴史の話になって黙っていられなくなったのだろう。キーリスが口を開いた。

「マヤの言っていることは歴史が物語っているよ。食料にしても狩猟採集か、農耕か、遊牧かってのもあるし。食料とエネルギーの間には、鉄器や青銅器の奪い合いって時代もあるさ。」

「キーリスさんは歴史に造詣が深いわね。食料も金属器もエネルギーも全部は同じ指数で現せると私は思うわ。」

「ああ、人類を動かす根本的なルールが存在する。太古から変わらないものがさ。」

「それにね。何かしらの技術革新のシミュレーションも必要よ。人の長距離移動が可能になる技術。食料の加工技術、新エネルギーだって技術と結びついている。」

 マヤは冷静に新たな指摘を加える。それにナナミも頷いた。

「そう言われると世の中ってそういうものなのね。でも新しい技術って扱うの難しそうだわ。それに現代では見えない戦争なんていっぱいあるんじゃない。私たち民間企業の競争だってそうよ。」

 この人もいちいち鋭いなと私は思った。

「そう、単純に人口やエネルギー消費なら数値化しやすい、たぶんミヤマさんは扱えると思う。だけど技術革新や新たな統治機構の登場、エポックメーキングなものは非連続でしょう?」

 問いかけがあったので私は正直に答える。

「過去のものはモデル化できるかもしれない。だけど未来は、確かに難しいでしょうね。最初の設計は絶対に超えられない。」

「私もそう思うわ。でもね。テーマは『人の営み』なんでしょ。であればミヤマさんのシミュレーションも人口や食料生産率的な分布の絞り込みかた次第ってことになるわ。」

「・・そうかもしれない。」

「だから数世紀分までって制限を加えてみたいの。とにかくそれで考えた時にシミュレーションすべき単位は個人か家族、それとも国家なのか。ミヤマさんがこの前言っていた中で一番モデル化しやすいもの、それは家族だって。戸籍データは数世紀分は一応あるでしょ。」

「戸籍?」

 私にはシミュレーションと戸籍がどうも結びつかない。

「戸籍上で家族の人数単位が分かる。それに戸籍の記録がなくても生活の記録から昔の家族構成もある程度は想像がつくわ。」

「さっきまでの話より細かくなってきたな。」

 頬杖をつきながらキーリスが呟く。歴史の話が終わってしまったから、眠気がきたのかもしれない。再び目つきがぼんやりしていた。

「式を作ってみたの。労働や財産による実行力、あとは社会の危険性。この二つの要素だって。時代ごとの突然死の確率を式にするのもモデル化でしょ?」

「はい、もちろん。でも、どうやって?」

「財力、お金があれば家族構成が変わる。家族は養える力の単位として適切よ。家族の形は社会の危険性、それは戦争とか犯罪の状況によっても変わる。あとは労働力としての単位ね。ざっとこの国の過去のデータで計算してみたの。」

 途端に表がどんどん出る。

「ご希望あれば説明するけど、たぶんいいわね。ともかくも二つの属性があって、環境パラメーターがあればいいわ。」

「環境パラメーターが良い方にも悪い方にも影響するんですね。」

 それにしてもマヤからはすごい情報量が出てくる。最初の人口と食料の仮説だけでも私の頭の中のシミュレーションはいっぱいだったのに、後から後から話が続く。私はマヤの情報を扱う能力に恐ろしささえ覚えた。

「そうよ、私の計算でもそこは仮だけど式にしてある。」

「素晴らしい。これを組み合わせれば、何か出来そうな気がする。」

 私は思わず声を上げた。マヤの話はどれも魅力があるし、なによりしっかりした根拠を持っているのを感じたからだ。

「私にはうまく行く予感がまるで分からないけど、ミヤマさんとマヤさんが気が合いそうで良かったわ。ウィルダイスさんの人選の妙かな。」

 ナナミの場合は、私とは別の観点で感心しているようだった。

「人の相性の話でなくて、技術や目線がちょうど補完しあえる、という感じなんですけどね。」

 私がそう言うとマヤは否定も肯定もしなかったが、たぶん同じようには思っているはずだ。

「プロジェクトの進展が見えて良かったね。ねえ、キーリスさん。最後はあなたの番よ。」

「あ、ああ、これを見てくれ。」

 キーリスは眠気を追い払うようにゆっくりと立ち上がった。そして出したのは樹木に止まる鳥のイラストだった。

「プロジェクトのシンボルマークだ。すこしリニューアルしてみた。」

 リニューアルというが素人目には、今のと完全に同じに見える。

「微妙な調整をしたのかな。見比べてからウィルダイスさんにもお見せしておくわ。」

「じゃあ今日は、ここまでで終わりにしよう。」

「あら、キーリスさん、あなたのレポートがまだよ。」

 席に座ろうとしたキーリスに、ナナミは冷静に指摘した。

「失敗したか。では手短に。」

 キーリスはみなの前にゆっくり歩いていく。私にはキーリスが、歩きながら考えているようにも見えた。

「数学や物理学で未来は分からない、その前提でね。」

 そこでキーリスは立ち止まった。

「歴史に学ぶべきだよ。象徴的なシーンがある。森に礼儀を持って接するのをやめた時。偶然、強力な武器を発見してしまった時とかね。つまりそういうタイミングを見つければいいのさ。その瞬間を繋ぎ合わせればシミュレーションは完成する。起こった場所から何かが広がっていくのさ。それを絵にすればボスがおのぞみのシミュレーションが完成ってわけだ。我々は次の特異点を見つけるだろう。」

「・・・」

 私には彼の言うことがよく分からなかった。マヤが最初に言っていたエポックメーキングの話を焼き回しただけに聞こえる。そう思ったのでマヤの方を見たが、その表情には何も現れてはいなかった。

「そう、歴史の分岐点さ。」

「さっきも話題になったけど、次の分岐点をどう見つけるかって問題がありますよね。過去はともかく未来はどう見つけるんですか?」

 キーリスからは、裏付けとなる資料がなにも出てこない。私は懐疑的だった。

「分岐点が今、この時代のどこかにあるかもしれないだろ。それを探しにいかないか?」

「それはみんなで冒険の旅に出るってこと?」

 ナナミは困惑しながらも質問した。

「そうだ。とりあえずは次の週例会は場所を変えないか。空気のいい野外かなんかで。」

「まあ、気分転換にはいいかもしれないけど。」

 私が曖昧に頷くと、間髪を入れずにキーリスは言葉を続ける。

「じつは場所の目処はついているんだ。次の分岐点はね、ナナミさん、地図出る?」

 それからキーリスは地図上の一点を指し示した。

「ここに流龍団が流れついたと言われている。ここに何かあるんだ。」

 よく分からないが、プロジェクトのことを考えた発言とは思えなかった。

「ついでにみんなでバーベキューでもやらないか。こういうのは経費から出るんだろうか。」

「ちょっと待って。流龍団ってなんのこと?」

「知らないのか。はるか昔、海から流れ着いた集団さ。このあたり一帯の民間信仰はみんなここに繋がっている。」

「それが歴史上の分岐点の一つってこと?」

「そう、その可能性が高いだろうね。」

「ミヤマさん、マヤさんはどう思います?」

 ナナミに問いかけられて、私は慌てて頭の中で考えをまとめる。

「自分とは全然アプローチが違うから面白いとは思いますが、仮に歴史上の分岐点をモデル化するなら、最初は多くの事象を集めて傾向を理解した方がいいように思います。その前にシミュレーションに取り込めるものかどうかの判断も必要ですし。」

「真面目なミヤマさんらしいお答えね。マヤさんは?」

「フィールドワークなら、私は調査報告さえ読めればそれで十分だわ。」

「なるほどね。まあ、今日のミーティングはここまでにしましょうか。今日の打ち合わせの内容はウィルダイスさんに報告するから。バーベキューもシミュレーションづくりも、それが終わってからにして。明日の午前中には連絡できると思うから。それからミヤマさんとマヤさんは使った資料の置き場を私に教えて下さいね。」

 ナナミのその言葉で会議は終了となる。その日、私は不思議な手応えを感じていた。キーリスの掴みどころのない話は別にしても、マヤの分析力には驚かされたし、状況把握がナナミは全体をうまくまとめている。これは魅力的なチームだな、私は素直にそう思った。


 次の日、ナナミからの連絡はきっかり午前十時に入った。ボスからの新しい指示がそこにはあった。

『ボスはみなさんのレポートを面白いと評価しています。次は互いのレポートの内容を検証しあってほしいというのが、ボスからのリクエストです。』

 続いて書かれていた検証の組み合わせを見て、絶望的な気持ちになる。私が検証するのはキーリスのレポート、歴史の分岐点についてだ。それから最後に、次の週例会はキーリスが指定した町で実施すると書いてあった。

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