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平穏な毎日


 それから私の一日は、朝のお祈りが毎日の日課となった。……というより、現状朝のお祈りくらいしかやることがなかった。

 朝の早い時間にサネリとモネリに叩き起こされて支度され、ティリオロ大司教とその日の担当の護衛騎士と共に大聖堂へと向かう。そこでちょろっとお祈りすれば、あとは自由時間だ。

 といってもこの世界のことをなに一つ知らない私ができることなどあるはずもなく、あとは自分の部屋に籠もって、サネリとモネリにこの世界のことを教えてもらったり、その日の護衛騎士たちと交流を図ったりしている。


「聖女様、あぁ聖女様の糸目に私は今日も釘付けです」

「この世にこんなに美しい糸目があろうとは……」

「どうかその麗しい糸目をもっと私にお見せくださいませんか」


 まぁ、交流と言ってもこの人たち、糸目糸目ってそればっかり言ってるだけなんだけれども。あまりにしつこく連呼されるもんだから、逆にけなされてるんじゃないのかと疑わしくなってくる。

 君たちも糸目だけど、私と君たちとで美しいとか麗しいとか、そんな差なんてあるの?

 だけど毎日そうやって持ち上げられ続けると、本当に自分の糸目が高貴なもののような気がしてくるから人の意識って不思議なものだ。

 私の糸目は類を見ないくらい美しい曲線を描いているのか。この造形美はまさに女神級なのか。他の誰も追随を許さない至高のものなのか。

 なんだかそんな風に驕り高ぶってしまいそうになる。それくらい彼らは過剰に持ち上げてくれる。

 そんなとき、そんな思い上がった思考を紙一重で現実に戻してくれるのが無愛想だけど美形な騎士、リングロッドさんの存在だ。

 彼は高確率で部屋付の護衛として居る。どのようなシフトが編成されているのか知らないが、結構頻繁に見かける。

 いや、いてくれるのは目の保養になるから嬉しいんだけど、いつも彼はその不思議な色合いの瞳に冷めた色を浮かべて唇を固く結び、お世辞を言うこともなくひっそりと佇んでいる。他の騎士たちのように褒めてくるでもなく、むしろ会話を避けられてさえいそうなほどだ。

 大体護衛の騎士たちは部屋内に二名、廊下側に二名配置されている。なのでリングロッドが部屋付の場合は、もう一人の騎士は称賛に相槌を入れてくれる相手がいないので、一人でひたすら言葉を並べ立てる羽目になる。

 そんな必死そうな騎士たちの姿を、私のご機嫌とりも大変そうだなぁなんてどこか他人事のような目で見ていた。








 教会にいる騎士たちはテルメディア聖騎士団というところに所属しているらしく、その中でも聖女付の聖騎士は全部で十二人。ティリオロ大司教は信徒であり腕も確かな騎士たちだと言っていた。

 だがサネリとモネリによれば、いずれの護衛騎士もこの大聖堂のあるエフェルミア王国や周辺諸国の高名な貴族の血筋を引いているらしく、果たして公平な審査で選ばれたのかは怪しいところ。

 ……例によって、あのリングロッドさん。彼は主席枢機卿であるアルフィディル枢機卿の子息であるらしく、その時点で漂う親のコネとねじ込み感。本人にやる気が感じられないのも納得の事実だった。


「聖女様」

「聖女様」


 サネリがお茶を、モネリが茶菓子を用意しながら、きれいにハモった声が話しかけてくる。


「この世界に興味を持っていただけることは大変喜ばしいことなのですが」

「その御心は女神の御許へあることを、ぜひともお忘れ無きように」

「聖女様は祈り捧げなければならぬのです」

「そのことを、お忘れ無きように」


 一糸乱れず下がった頭に心の中で感嘆しながら、独特の風味のするハーブティーに口をつける。

 私はこのお茶が大好きだ。

 はじめはなんとも言い難い独特の風味に抵抗感があったが、慣れてしまえばどうってことない。それにこのハーブティーには鎮静作用があるらしく、飲むと心が穏やかになって細かいことがどうでもよくなってくる。

 毎日女神に祈っておけばオールオッケー。難しいことはわからないけど、皆がそれでいいって言っているんだから、きっと大丈夫。









 そんなある日、一週間か二週間ほど経ったころだろうか。

 相変わらず糸目のことばかり褒め称える聖騎士たちに囲まれていると、珍しくティリオロ大司教の来訪があった。


「聖女様、こちらの生活にも慣れていただけましたか」


 人の良い笑みにニコリと微笑みを返す。


「ええ、皆さんにはそれはもうよくしてもらっています」


 欲を言えば、いい加減に話題を糸目称賛から切り替えてほしいんだけどね。


「それはよう御座いました。それでは聖女様、エフェルミア国王より会見の申入れがありましたので、そろそろ話を進めさせていただきます」


 大司教はニコリと笑ませていた目を見開いて、私の顔を覗き込んできた。ギラギラと照りつける太陽を連想させるような強烈な黄金色に射抜かれて、ビクリと体が震える。


「なに、心配するようなことは御座いません。なにをなさらずともよろしいのです。ただ祝福を乞われるかとは思いますので、祈りを捧げていただければ」


 なにを考えるでもなく頷く。祈れ、祈れとそればかり言われるのに少しモヤモヤするが、それくらいお安い御用だ。


「それでは聖女様、日程が決まり次第またお伝えに伺いますので」


 ティリオロ大司教は最後にまた満面の笑顔を見せるとそそくさと退室していった。









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