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異世界転移は突然に

 

 私の目は、それはもう見事なまでの糸目だ。スタイルは良く手足も細くて長いし、艶々の黒髪も癖のないロングで、後ろから見ると結構いけてると思う。

 実際に男性に幾度か声をかけられたこともある。

 だけど、振り向くと絶句されるのだ。

 ……勘違いしないでほしいのは、私は決して自分の顔が嫌いじゃない。糸目で笑うとふにゃっと可愛いねとは言われるし、私もそこが自分のチャームポイントだと思っている。

 だけど世の中にはやはり、ぱっちり二重の方が好きな人が多いのもまた事実だ……恋愛においてちょっと苦労した思い出を持つ私は、気づけば彼氏もいないまま、二十代後半に差し掛かろうとしていた。








 突然の眩しい光に目を覚ます。


「聖女様、お目覚めください」


 なにか声をかけられた気がして、慌てて体を起こした。

 いつの間にか、見覚えのない場所で横たわっていた。天井から色とりどりの天蓋が垂れ下がっていて薄暗く、周りの状況がよくわからない。


「ああ、麗しき女神の御子よ、この世界に御降臨賜り、なんとありがたきことか。さぁ、その(かんばせ)をお見せ頂けますか」


 するすると天蓋が開き、光が入ってくる。眩しさに慣れない目を瞬かせた。


「まぁ!」

「これは……」

「なんということだ」

「まさに女神そのものではないか」


 口々に囁かれ、絶句した。

 目の前には見慣れない衣服を纏った人々が、こっちを覗き込んでいたからだ。


「聖女様、この世界へようこそおいでくださいました」

「女神テルメンディルの御子よ。女神の愛したこの世界をどうかお救いください」


 長いローブを着たRPGゲームの登場人物のような男性が、恭しく跪く。

 それにつられるように周りの人達も一斉にひれ伏しだした。

 なにがなんだかわからない。私は、確か――。

 直前までしていたことを思い出そうとして、なにも思い出せないことに気づく。

 あれ、私って誰だっけ? 私、今までなにしてたっけ?


「麗しき女神の御子よ、聖女様よ、貴女様はこの世界を救うためにお生まれになったのです」


 先頭で跪いていたローブの男性が、顔を上げた。ニコリと人の良い笑顔を浮かべて近寄ってくる。


「聖女様、まずはこちらにおいでください」


 ゆったりしたローブの中から、白く骨ばった手が差し出される。

 知らない人々に囲まれて、見覚えのない場所で、その手を取るような真似をしてしまったのはなぜなのか、あとで考えてもよくわからなかった。








 男性に連れられて、どこかの部屋へと案内される。こじんまりとしていたが、寝室と居間のついたその部屋は一目で上質な部屋だとわかるほどに贅が凝らされていた。


「ここが今日から聖女様のお部屋となります」


 そう言って微笑んできた彼は、ティリオロと名乗った。彼は女神テルメンディルを奉るテルメディア教の大司教で、ここはテルメディア教本部のタティルブラディア大聖堂。

 横文字が多く全く頭に入ってこなかったが、未だに状況についていけていない私にティリオロ大司教は優しく微笑んでくれた。


「なんか全然話についていけてなくてすみません。私ってこんなにバカだったかな?」

「聖女様が気にされることはありません。貴女様はただ、この世界の平穏を祈っていただければいいのですから」


 真っ白な頭の、でも顔には皺一つないティリオロ大司教。この人は一体何歳なのだろうなどと、どうでもいいことを思案していたら、控えめに扉をノックする音がした。


「失礼します」

「失礼します」


 見事にハモった声を響かせながら入って来たのは、二人の女性。


「聖女様の身の回りのお世話をさせていただきます、サネリです」

「モネリです」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 二人はピッタリとした動きで同時に頭を下げた。そして全くブレのない動きで同時に顔を上げる。

 その顔を見て目を見開いてしまった。

 二人はクローンかと疑ってしまうくらい、そっくりな顔をしていたからだ。二人とも榛色の長い髪を背の真ん中ほどで束ねている。瞳の色も同じ青で、どっちがどっちなのかてんで見分けがつきそうになかった。


「この二人が聖女降臨の宣託を受けたのです」


 ティリオロ大司教は嬉しそうに破顔している。


「聖女様の世話役も、自ら志願してくれました。幼きころから大聖堂に身をおいてますが、一通りのことはできます」


 マジマジと、二人の顔を見つめる。

 ティリオロ大司教とは違い、ニコリともしない双子だった。








 世話役のサネリとモネリは愛想はないが、害もない人たちだった。無駄口を叩きはしないが、至って真面目に世話を焼いてくれる。

 私の怒涛の質問攻撃にも、尋ねればその都度律儀に答えてくれた。


「この世界を救うって、なにかしなきゃいけないの?」

「いいえ、聖女様」

「聖女様はただミンタティルの神殿へ向かえばいいのです」


 たおやかな声が二重奏のように、重なりながら言葉を紡ぐ。


「ミンタティルの神殿で、女神様がお待ちです」

「お生まれになった聖女様のため、この世界へ祝福を授けて下さるでしょう」


 同じ色彩、同じ顔が私に向けられる。


「聖女様」

「聖女様」

「どうぞこの世界のため」

「女神テルメンディルの御加護をお祈り下さい」


 深々と頭を下げられる。

 どこか痺れた頭の中で、まぁ祈るだけならいっかと、そう簡単に安請け合いして頷いた。









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