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モブ勇者の成り上がり  作者: barium
五章 冒険者
69/70

69.黄金を纏う古の毒龍 上

長くなってしまったので、上下に分けてみました。


その龍を一目見た瞬間、和也は一つの神話を想起した。

――――――ファフニール。

黄金を守るために毒を吐く龍となったドワーフ。

竜とか蛇とかという説もあるが、和也の目の前に君臨するのは竜というより龍だった。

折りたたまれた巨大な金色(こんじき)の翼。木の幹ほどもありそうな逞しい腕に、大地を切り裂く巨大な爪。体中を纏う黄金の鱗は、光を跳ね返し、どこか神々しさを感じさせた。


黄金の龍が首をもたげ、和也達を睥睨する。

爬虫類特有の縦に裂かれたかのような瞳と目が合った瞬間、身の毛のよだつほどの悪寒に襲われた。まるで蛇に睨まれた蛙のように。


こんなの勝てるわけがない。だって神話級の龍に対してこっちはちっぽけな人間だ。しかもたったの2人。伝説の武器もなければ伝説の装備もない。刃こぼれした、安物の短剣だ。文字通り、格が違う。

早く、早く逃げないと殺される!

でも逃げ切れるのか?

もしも、僕の足が扉にたどり着くよりも、()の爪が先に届いてしまったら。

もしも、逃げ切る前に猛毒の息吹に触れてしまったら。

僕は死ぬかもしれない。

じゃあどうすればいい?


圧倒的な()のイメージに思考が混乱する。

ぐるぐるぐるぐる。

脳が必死に逃げ道を探し、回転する。ああでもない、こうでもないと、見えた道がどんどん潰えていく。

そして――――――――



――――――――すべての道が潰えた。


…ダメだ、打つ手がない。

じゃあもう、なにもかも、諦めよう。


龍がこちらに向かって腕を伸ばし、押しつぶそうとしてくるのをぼうっと眺める。死ぬ間際には走馬灯を見るというが、和也の頭の中にはなにも蘇ってこなかった。無気力に、無力に、なにもかもを諦めたからかもしれない。何もなしえず、空虚に生きてきたからかもしれない。

嗚呼、つまらない人生だった。

―――と、そんな自分を嘲るように鼻で笑い飛ばしながら、構えた短剣をゆっくりと下ろそうとしたその時、和也の鼓膜が震えた。


「───カズヤッ!!」


不意な呼び掛けに思わず振り返る。

呼び声の主は、剣を中段に構え、臨戦態勢をとっていた。

彼女は龍に怯えていない訳では無い。むしろ、剣を握る手は震え、和也を呼んだ声も上擦っていた。おまけに顔も真っ青で、しかし、目だけはキッと龍を睨んでいて、一目で彼女も僕と同じように道を探していることが伝わってきた。

しかし、僕とは違い、前へ進む道を探していた。


「なに、諦めようとしてるの!!なんの為にここまで来たか忘れたの!?」


彼女の怒号で、ハッと我に返った。


そうだ、僕は彼女を助けるためにここまで来たんだ。

王国を去り、帝国に逃れ、ここまで来た理由はなんだ!

一心不乱に力を求め、モンスターを狩り続けたこの日々は何のためにある!

ここで逃げてどうする!前を向け!震えるな!


自身を鼓舞し、前を向く。

短剣をぐっと握りしめた手に、潰れたまめから出た血が滲む。


無力なら、これから力をつければいい。空虚でも、つまらなくもない!僕を認めてくれた彼女(エリナ)の為に、彼女(エリナ)がいない世界を否定する為に、ここまで来たんだ!


ぐっと足に力を込め、伸びてきた龍の腕をすんでのところで躱す。

ドンッという衝撃が伝い、バキバキと地面が放射状にひび割れていく。

風圧と地面の振動に転びそうになるのをこらえ、タンッタンッとバックステップでアリアの所まで後退する。


「ごめん…」


しょぼくれた和也にふんっ、とアリアは鼻を鳴らす。


「…別にいいわよ。そんなことより、あいつを倒す方法を考えないと」


和也は再び、黄金の龍を見やる。

龍は先の攻撃で和也を殺せなかったからか、警戒した様子でこちらを睨んでいる。


どうする…天井を崩して圧死させるか?いや、それは危険すぎる。僕たちも生き埋めになるかもしれない。…じゃあ、足の腱を切って、後ろの扉に駆け込むのは?…そもそも、この剣で切れるのか?

試してみるしかないか…


ひとまず考えをまとめ、アリアを横目で見る。


「とりあえず、ダメージを与えれるのか試してみたい。狙いは足で、機動力を奪おう。まずは目くらましに投擲するから、その直後、攻めよう。僕があいつの左腕を攻撃するから、アリアは左に回って!」

「わかったわ!」


返事の後、すぐに和也は投擲用のピックを数本、龍の顔めがけて投擲する。

銀色に光るそれは、まるで弾丸のように真っ直ぐ飛んでいく。

龍が図体に見合わない素早さでピックを避けるのを尻目に、和也は矢のように駆けだす。狙いは一番鱗に覆われていないところ。そこをめがけて全力で走る。

「――――シッ!!」っと、短く息を吐きながら、すれ違いざまに全力で斬りつけた。無理やり繊維に逆らうような、確かに残る手ごたえ。間違いなく、和也の剣は竜の左腕を捉えていた。


「!?」


しかし、全力を込めた一撃だったにもかかわらず、和也の攻撃は、龍の皮を裂き、少量の血を流れさせただけだった。

和也は動揺するのを堪え、切りつけた箇所へ爆破ポーションを投げる。瓶が割れ、ポーションがその効力を発揮する前に、股下をくぐり、龍の射程範囲外まで駆け抜けた。

直後、「―――――ドンッ!!!」という爆発音とともにガラスの破片が散り、土煙が上がる。「グオオッ――――!」という、龍のうめき声。どうやら少しはダメージを与えられたらしい。

龍の注意を引いてくれていたアリアが、和也のもとまで駆けてくる。


「どうだった?」

「たぶん、少しは効いたと思う」


土煙が晴れる。龍の左腕は赤く血が滲んでおり、ガラスの破片が所々に刺さっていた。

「よし!!」和也は内心ガッツポーズをする。ダメージは微々たるものだが、確かに与えられた。敵わない相手ではない。そのことが和也を元気づけた。

勢いを増し、和也は特攻する―――――――――――――



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