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モブ勇者の成り上がり  作者: barium
五章 冒険者
67/70

67.踏破


ぎちぎちと、ロープが唸る。

鍵付きロープを持ってきていて正解だった。何度も外したが20投目ぐらいでやっと引っかかった。

折れた右腕にできるだけ負荷を掛けないように、ゆっくり、ゆっくりと登っていく。


「…っ…結構、辛いな…これっ!」

「カズヤッ!…大丈夫ッ!?」


下で僕を見守るアリアの声がする。

僕が落ちても絶対受け止めてくれるらしい。

頼もしいな、彼女が絶対と言ったら絶対受け止めてくれるだろう。まあ、落ちないことに越したことはないんだけれど。


「…だ、だいじょう…っぶ!」


左腕に力を込めながら、体を引き上げる。

所々丸結びをした縄に足を引っかけては膝を伸ばす。

徐々に徐々に体を上へ運んでいく。

…アリアに頼めばよかったかな。

実はアリアから、僕を担いで登ろうかという申し出があったのだ。

それをちっぽけな意地で断ったことを後悔してきた。


「それに…」


昨日の一件もあり、変に意識してしまいそうになるのが怖かったのだ。


「…んっ……ふぅ。…僕は登り切ったから!アリアも登ってきて!!」

「了解!」


1時間ほどかけてようやく登り切った和也は下にいるアリアに声をかける。

そして20分ぐらいだろうか。軽快な様子のアリアが登ってきた。


「結構、深かったわね…」

「一応、死亡トラップだったんじゃない?」


鍛冶スキル持ちの勇者が作った剣がなければ確実に落下死していただろう。

その代償に、剣は根元からボキリと折れてしまったが。


「…改めてごめんなさい。剣も腕も…」

「いや別にそれはもういいよ。アリアも反省してるみたいだし」


過ぎたことを責めても意味がない。

確かにお気に入りの剣は折れたし、右腕も泣きそうなほど痛いけど、彼女を責めたところで直るわけでもないし、治るわけでもない。


「でも…」

「…じゃあ、街に帰った時にご飯でも奢ってくれたらいいよ」

「う、うん、わかったわ。……ありがとう」


アリアは未だに納得のいかなそうな顔をしていたが、和也の折衷案に頬を僅かに染めながら頷いた。

適当な案を出したつもりだったが、デートのお誘い的なあれになってしまっただろうか?

異性に対してこんなことを提案するのはまずかっただろうか。

お詫びと称して無理やりデートさせた上に奢らせるとか、セクハラとかパワハラとかそんな感じのにならないだろうか?

デート強要とか字面にすると結構やばいよな。鬼畜臭とか犯罪臭とかがプンプンする。

やばい、なんか変な汗が出てきた。


「か、カズヤ?ど、どうかした?」

「……嫌なら全然断ってもいいから」

「……?べ、別に大丈夫だけど…」


―――――――――――――――


二人はダンジョン内を駆けていく。

落とし穴の一件で大幅にロスした時間を取り戻すために急いでいるのだ。

この迷宮を攻略しようとしているのは和也たちだけではない。

財宝や名声を求め、多くの冒険者が我先にと争っている。

エリナを生き返らせるためにも他の冒険者たちに先を越されるわけにはいかない。

今まで以上に踏破速度を上げているが、和也の神経は今まで以上に研ぎ澄まされていた。

というのも、出てくる罠やモンスターの質が序盤と比べかなり上がっているのだ。

落とし穴のように生ぬるいものではない。

ミス=死の凶悪なものばかりだ。

壁から、床から、天井から、空気から。

ダンジョンのそこら中に濃厚な死の気配が潜んでいる。

ダンジョンは確実に僕たちを殺そうとしている。

そんな鋭い感覚を、肌や、五感でひしひしと感じていた。


「カズヤッ!無茶してない?そろそろ休憩をとったほうがいいんじゃ…」

「いや、まだ大丈夫。まだいけるっ!」

「感知スキルの使い過ぎは体に悪いわよ!…ほんとに大丈夫!?」

「ほんとに大丈夫だからっ!」


と言いつつ、本音はかなり辛かった。

感知スキルは、簡単に言えば五感を拡張していることと同じだ。

だから、脳への負担が多くなる。

しかも和也は持っている感知スキルをすべて同時に使っていた。絶え間なく。

当然、脳の回路が焼けているかのごとき痛みが常に和也を襲っていた。

視界は赤いし、耳鳴りもしている。

このまま使い続けたら体はどうなってしまうのだろうという恐怖があった。

しかし、感知スキルを切ることのほうが怖かった。

この殺意に満ちたダンジョンで感知スキルを切ることは、明かりを灯さず光一つない暗闇を進むようなものだ。

そんなの怖いに決まってる。

自ら手綱を手放すなんてできない。


そして、何よりも、折角掴んだエリナへの細い糸が途切れてしまうことが一番怖かった。


彼女を失った時の痛みに比べたら、こんな痛みなんてなんてことはない。

彼女に再び触れられるなら、再びあの声が聴けるのなら、なんだって怖くない。

なんだって立ち向かえる。

このダンジョンが和也にとっての最後の希望で、和也が死に得る最大の脅威なのだ。


前へ前へ前へ。

1秒でも早く君のもとへ。

そのために和也は、歩みを止めない。


―――――――――――――――


「…カズヤッ」


何かにとりつかれたかのような和也の鬼気迫る顔に、アリアが表情を曇らせる。

お願い…早くボスまでついてっ…


そのアリアの願いに答えるように、


「…っ!!」

「やったっ!」


罠をかき分け、モンスターを狩り、たどり着いたのは――――――――


荘厳で巨大な金属の扉だった。



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