65.落下
ちょっと予告から遅れました!
ごめんなさい!
「きゃぁぁぁぁっ!!」
「うわぁぁぁぁっ!!」
落ちる落ちる落ちる。
さっきまで地面に足をつけていたのに。
内蔵が宙に浮いて、気持ち悪い。
きりもみ状態で、バランスが取れない。
ぐるん、ぐるんと目が回る。
レンガの目が高速で過ぎ去っていき、僕達を落とした穴から漏れる光はどんどん儚く、弱くなっていく。
「……く、そっ!」
こんな所で死んでたまるか!
無我夢中で近くの壁を蹴り、アリアに手を伸ばす。
あと……ちょっと!
蹴る時に上手く力を入れられなかったせいで遅々として進まない。
それなのに、穴の底はどんどん近付いてくる。
「……カズ…ヤッ!」
意図に気づいたアリアが、和也に向けて手を伸ばす。
……掴んだっ!
「……ちょっ!?」
そしてアリアを抱える様にし、黒い短剣を壁に突き刺す。
鍛冶神の加護持ちが作った剣の切れ味は現在で、殆ど抵抗なく入った。
「……と、ま、れぇっ!」
壁を切り裂きながら、落ちる。
剣が真っ赤になって、熱くなる。
まるで灼熱の炎のようだ。
その熱に手のひらが焼けただれ、痛みに短剣を離しそうになるがぐっと堪える。
しかし、剣の切れ味が今度は一転して害をなす。
「……えっ!?」
全然止まらないのだ。
もちろん、減速はしたものの、落下速度は未だ健在で、このままだと即死は免れない。
…どうすればいいっ!
……っ!
オーバーフローしそうなほどフル回転させた脳に一筋の光明が射し込む。
この状況を打破するにはこれしかない。
だけど、これをしたらもしかすると……
もう、時間が無い。
底まであと、約20メートル。
…くそっ!
「ああっ!!」
声を荒らげ、短剣を引き抜き、剣の腹が下になるよう、思いっきり差し込む。
ガチンッという音が鳴り、無事、落下が止まったのだが、
「ぐあ、あっ……」
強烈に掛かる負荷に耐えきれず、右腕が悲鳴をあげる。
ボキッという鈍い音がしたから、骨も折れているだろう。
和也は、それでも決して離すまいと、短剣を持つ手に力を込める。
地面まで約10メートル。
少し落ち着いたら降りよう。
先ずはアリアを降ろして────
そう考えていた矢先、バキッという音がし、酷使され続けた短剣が折れる。
「「あっ……」」
そして再び宙に出された2人は、ドスンという音と共に底に落ちた。
「きゃっ!」
「ぐっ……」
背中を強打し、息が詰まる。
全身がダルい。
もう、ボロボロだ。
けど、
「…生きてる。」
喜びを噛み締めるように、声を絞り出す。
死んだわけじゃない。
まだ、戦える。
まだ、希望は残っている。
まだ、エリナを救える。
左手で支え、起き上がった和也はハイポーションを取り出し、一気に飲み干す。
そこらに生えてる雑草をすり潰したような苦味とえぐみが口腔内を刺激する。
後は手のひらにも掛けて治療は終了だ。
「……痛っ。」
極細の針山に刺したかのような鋭い痛みが、ポーションを掛けた手に発生する。
そろそろ新薬とか出ないだろうか?
良いのが出来たら、多少高くても買い溜めるのに。
そんなことを考えながら、じわじわと再生し始めた掌を見やる。
右手の火傷はすぐ治るだろうが、問題は腕の骨折だ。
1日経ったら治るだろうが、それまでは行動出来ない。
「…ふぅ。」
一息ついて、壁にもたれかかる。
そして、柄の所で綺麗に折れた相棒を眺めた。
鍛冶神の加護持ちが創った黒い短剣。
神の加護は伊達じゃなく、和也の冒険をいつも支えてくれた。
和也のお誂え向きに創られたこの短剣は、驚く程に手に馴染み、まるで体の一部のように感じられた。
それが壊れた今、本当に体を欠損したかのような喪失感がやってきた。
剣の予備はあるから、戦えなくなった訳じゃないけど。
それでも、悲しいものは悲しいのだ。
「カズヤ……」
意気消沈したアリアが近付いてくる。
そして、
「…ごめんなさい。剣も、腕も……」
普段の勝気な態度はどこへ行ったのか、すっかりしおらしくなった彼女に怒る気も失せてくる。
「それと、…ありがとう。助けてくれて。」
「うん。…まあ、次からは絶対に気を付けること。……分かった?」
「……うん。」
そもそも、あのときアリアは何故あんな行動に出たんだ?
彼女も、僕に任せた方が成功しやすいことなんて分かっていたはずだ。
なにせ、僕は専門職なんだから。
……まあ、そんなことよりもとりあえず休もう。
今日はもう疲れた。
和也は取り出した非常食を食べる。
長期保存のため、塩が効きすぎたそれを、昔は食べるのが嫌だったが、もう慣れた。
まあ、慣れたからといって、美味しくは無いのだけれど。
「今日はとりあえず休んで、明日、攻略を再開しよう。」
食べ終わった和也がアリアに声を掛ける。
穴の隅でもさもさと非常食を食べていた彼女は、和也の言葉にこくりと頷いた。
……ああ、安心したら眠くなってきた。
和也はアイテムボックスから寝袋の用意をしていると、食べ終わったアリアも寝袋を並べ始めた。
……和也の寝袋の隣に。
「………」
別に、穴が狭い訳では無い。
4、5人位は寝れるほどの広さだ。
「…詰めすぎじゃない?」
「……別に、いいじゃない。」
「……」
和也は、無言でスススと寝袋を離す。
しかし、
「…どうして逃げるのよ。」
せっかく話したのに、すぐ詰められる。
これから彼女を生き返らせようとしている身としては、あまり不誠実なことはしたくないのだけれど。
もう一度、寝袋を離そうとするが、ガシッと掴まれ離せない。
「…私の近くで寝るのがそんなに嫌?」
「別に、嫌じゃないけど……」
…どうしても逃がしてくれそうにないな。
ああもう、リズムを崩される。
いつもの調子はどうした。
「…はぁ。」
小さなため息をついたあと、諦めて、寝袋に入る。
和也が観念したことを確認したアリアは、のそのそと隣に横になる。
そもそも、どうやってここから出よう?
流石にこの壁を登るのは厳しいだろう。
この罠を作った奴の出口でもあったらいいんだけど。
「……ねぇ。」
「ん?」
などと考えていると、アリアが声を掛けてくる。
「……カズヤは、どうしてこの遺跡に来たの?」
────────────────────────
「……」
不用意な質問をしてしまっただろうか?
黙りこくった彼を見て、後悔する。
「…ごめんなさい。聞かれたくないこともあるわね。……今回の遺跡の内容がアレだから特に。」
なんて私は気が使えないのだろう。
いつもそうだ。
無神経に人を傷つける。
だから一人ぼっち。
よく分からない人達が着いてきてくれてるけど、彼らは私の表面しか見てない。
外見と虚勢で構築された薄っぺらい表面。
そんなの、私は求めちゃいない。
「…や、大丈夫。別に、謝らなくても。」
そう言って、彼は私を慰める。
優しいな。
彼にはいっぱい酷いことしたのに。
同い年だからって、勝手にライバル視して。
いい所見せようとしたらこのザマだ。
空回りばかり。
「…生き返らせたい人が居るから、僕はここに来た。」
真剣な声色で、カズヤが発する。
ああ、それなら、余計邪魔するべきじゃなかったな。
悪いことした。
本当に。
「…そう、なの。…ごめん、邪魔ばっかで。」
「いや、そんなこと……実際、アリアが居て楽な場面もあったし。」
「私が居なかったら、もっと順調に進んでいたでしょ。腕も剣も壊れずに済んだはずだし。今だって、抜け出せるか分からないし。」
「別に、剣は変えあるし、腕も治るから。……落ちたのは、まあ、そうだけど。でも、多分出口あるでしょ。…分からないけど。この穴を掘った人が抜けた所とかさ。」
「……」
何が『私ならいける』だ。
バカなのか。
あのとき、出しゃばらなかったら。
「……アリアも、生き返らせたい人が居るから、ここに来たの?」
押し黙る私に、カズヤが問いかける。
まあ、彼なら話しても良いか。
「私ね────」
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