64.パーティ
僕がここで小説を書き始めて、早いものでもう1年です。
いつもありがとうございます。
活動報告にてお礼を書きましたので、宜しければ見てやって下さい。
ギルド員に案内され、和也達は遺跡に到着する。
崖と半分融合している入口は、パルテノン神殿の様に白い、半ば程で膨らんだ柱が規律正しく並んでいる。
荘厳で、畏敬を覚えさせるような外観は、今まで潜ってきたダンジョンとの格の違いを嫌でも分からせてくる。
新ダンジョンということで浮かれていた冒険者も、今ではすっかり大人しくなり、緊張した顔つきをしていた。
…絶対にエリナを生き返らせる。
もう、何度そう誓ったか分からない。
いままで、何度も願った。
国中を探し回った。
『異世界とゲームは違う』
手を伸ばす度、そんな現実を何度も叩きつけられた。
異世界転移なんて、まるでフィクションみたいだけれど、それは紛れも無い現実で、ご都合主義も主人公補正も無い。
……正直に言うと、諦めかけていた。
最初の頃は生き返らせる事で思考が埋まっていたのに、いつの間にか仇討ちの事しか頭に残っていなかった。
しかし、やっと、やっと手の届く距離に来た。
絶対に、絶対に掴み取ってやる。
そう、和也は気合いを入れる。
開場の時間となり、和也は遺跡へ向かおうとするが、アリアが静かに止まっていることが不思議でちらりと見る。
いつも通り、勝気な笑みを浮かべていると予想していたのだが、何か思うことがあるのか、口を真一文字に噤んでいた。
「…何見てんのよ。」
「い、いや別に。」
視線に気づいた彼女が、不機嫌そうにこちらを見る。
「…そう。」
これは小言を貰うと予想していたのだが、彼女は珍しく何も言わずに引き下がった。
…これは、宝が欲しいから、新ダンジョンに興味があるから、とかの理由で来ているのかと思っていたのだけど、違うな。
きっと、彼女も僕と同じ目的だ。
誰か、生き返らせたい人が居るのだろう。
開場になっても気が付かない程、その人に思い入れがあるのだ。
「っ!もう開場してるじゃない。早く行くわよ!」
「あ、うん。」
気を取り直したアリアが、小走りで遺跡に向かう。
それに遅れないように和也も駆ける。
もう、他の冒険者は目に見える所にいない。
…完全に出遅れた。
急がないと。
もし、他の冒険者に先を越されてエリナを生き返らせなくなったら。
そんな不安が和也を焦らせる。
そして、遺跡へ足を踏み入れたその瞬間─────
「なっ!?」
「っ!?」
いつぞやの教室で見たのと色違いの魔法陣が、2人の足元に現れる。
……これは!
「きゃっ!」
バラバラになっては堪らないと、透かさずアリアの腕を取り、引き寄せる。
そして、魔法陣がより一層輝き──────和也達は光に包まれた。
────────────────────────
光が収まり、和也が目を開けると、そこは明らかに遺跡の入口では無かった。
遺跡に使用されている建材は同じなのだが、明らかに違う所がある。
来た道が壁に閉ざされているのだ。
そして前方には等間隔で松明の並んだ通路。
外から見た光景と、全然違う。
「ごめん、他の冒険者がもう入ってたから油断した。」
『罠感知』も『危機感知』も反応が無かったから、多分、避けられるものではないのだろうが、油断していたのは事実だ。
何も調べずに突入するなど、本来ありえないことだ。
「別にいいわよ、あんなとこにあるなんて、どうせ強制でしょ?」
「多分……ね。周りに冒険者も居ないから、遺跡の中にランダムで転移されたんだと思う。」
「ふーん。ま、そんなことより早く進むわよ。盗賊なんだから先導しなさい。」
アリアの言葉に頷いてから、和也はパンッと自分の頬を叩く。
思いっきり叩いたから、乾いた音が通路に大きく響いた。
しっかりしろ。
逸るな。
焦るな。
いつも通り、冷静に。
ここまで来たのに、逃してたまるもんか。
気合を入れ直し、和也達は遺跡を進む。
しばらく歩いていると、ガシャ、ガシャっと、不気味な音を立て、前方から何かが近付いてくる。
「…やっと来たわね。」
アリアが剣を抜き、待ちくたびれた様に肩を回す。
遺跡を進み始めてから約5分。
初めての敵だ。
和也も剣を抜き、いつでも戦えるように構える。
「ちょっと先に行って、様子見してくる。」
「えっ?」
不満そうな顔のアリアは置いておいて、臨戦態勢で近づいて行くと、その音はだんだん大きく、より鮮明に聞こえてくる。
和也は「ふぅー。」と息を吐き出し、集中する。
足音を殺し、息を殺し、存在感を殺す。
自分はここに居ない、存在しない。
ただの影だ。
空気だ。
そう思い込む。
するとだんだん、だんだん、気配が薄れていく。
周りと同化していく。
自分の存在が希薄になって、そのままこの世から消えて無くなると錯覚するほどだ。
今思えば、盗賊という職業は、僕にとってまさに天職と言えるほどピッタリだ。
クラスで常に気配を消して。
コソコソコソコソ行動して。
周りの顔色を伺って。
空気を呼んで。
周りの会話に聞き耳立てて、暇を潰して。
目立たず、邪魔にならないように生きてきた。
今発動している『隠密』も含め、全部盗賊のスキルに繋がってる。
だから、僕はもっと強くなれるはずだ。
そして、彼を超える。
『隠密』の準備が整い、さあ、音のする方へ行くぞと思い、行動しようとするその時。
「おっそいっ!!」
「なっ!?」
突然アリアが叫びながら、モンスターの方へ飛び出す。
「……えっ?……いやいや、…え?……とりあえず、追いかけないと。」
いきなりのことで、立ち尽くす和也だったが、急いで彼女を追いかける。
「やあっ!!」
前方から、モンスターとの戦闘音が聞こえる。
カンッ、カンッと剣を打ち鳴らす音に、ガラガラと骨が崩れる音。
「はあっ!!」
それに、気合いの入った掛け声。
…え、僕、確認してくるって言ったよね。
えぇ…
やっとの思いで追いつくと、大量のスケルトンの群れを相手取るアリアが居た。
スケルトンの種類も多種多様で、スケルトンウォーリアーにスケルトンナイト、あと、スケルトンアーチャーにスケルトンメイジもいた。
それが合わせて20体弱。
多勢に無勢。
流石に厳しかったようで、剥き出しの肌に傷が少しづつと増えていく。
まだ余裕があるようだが、アンデッドと違い、人は体力が削られていく。
正直ジリ貧だ。
このままではいずれ押し切られるだろう。
……あのバカっ!
急いで駆け寄り、スケルトンウォーリアーの大盾を思い切り蹴り飛ばす。
そして、アリアの襟ぐりを掴み、引き戻す。
そして、スケルトンの群れに爆発ポーションを投げ込んだ。
骨の焼ける臭いが鼻腔をツンと刺激する。
アンデッドは火に弱い。
苦しんでいるようだが、これぐらいじゃ死なないだろう。
一度距離を取ろうと、アリアを連れて後退する。
「一人で飛び出すなんてバカか!僕が先に行くって言っただろ。」
和を乱す行動に腹を立て、つい罵声を浴びせる。
それに対してアリアは、全く反省してない様子で、
「バカとは何よっ!たかがスケルトンだと思って油断しただけよ!次からは上手くいくわ!」
「…はぁ。」
頭が痛くなってきた。
いやもう、ほんとに。
「…まあ、一応助けてもらったんだし?それに関しては感謝するわ。」
「わかったから。はやく戦闘の準備して。」
「次は任せなさい!」
アリアとのパーティは、ずっとこんな感じだった。
別にアリアが弱い訳では無い。
ちゃんと、ソロでB級まで上がってきただけの戦闘力はある。
宣言通り、スケルトンとの戦い以降は殆ど怪我すること無く進んで行けた。
ただ、驚く程、息が合わないのだ。
戦闘中、背中がぶつかったり…
「何ぶつかってんのよ!ちゃんと周りをみなさい!」
「いや、アリアが下がりすぎなんだろ!」
上手く連携出来なかったり…
「アリア、ちょっと爆発ポーション投げるから準備の間相手してて!」
「はあ?あんたが相手しなさいよ!」
今思えば、エリナとのパーティがどれだけ快適だったか分かる。
弱かった僕の為に、彼女がいろいろやってくれていたのだ。
しかし今は違う。
僕もソロ、彼女もソロ。
お互い、パーティ経験も少ないし、彼女はどちらかと言うとパーティに不向きなタイプの性格だ。
和を乱すというか。
まあでも、なんやかんや途中までは上手くいっていた。
互いに声を荒らげながらも、一応は何事もなく進んでいたのだ。
──今までは。
「…ねえ、暇なんだけど。」
「……ちょっと待って、今集中してるから。」
通路に仕掛けられたトラップを解除していると、後ろから声をかけられる。
「はぁ?そんなのチャチャチャッと終わらせなさいよ。」
「…中々難しいんだよ。」
「……はぁ。」
僕がそう言うと、彼女は大きくため息をついた。
「貸しなさい、これでも私はソロの冒険者よ、ソ、ロ!罠なんて何度も解除してきたわ!」
「…いや、そこらのダンジョンよりだいぶ難しいから。」
「余裕よ!」
「うわっ!」
彼女が僕を押しのけ、トラップの前に出る。
「後ろから見てたけど、ここを切ったらいいだけじゃない。」
「ちょ、それは……」
言い終わる前に彼女がトラップの部品を切り落とす。
すると─────
「「えっ?」」
あ、息合った。
「きゃぁぁぁっ!!」
「うわぁぁぁっ!!」
床が開き、和也達は奈落へと落ちていった。
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