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モブ勇者の成り上がり  作者: barium
五章 冒険者
62/70

62.歓喜

遅れました。

ちょっと忙しくて、今後もこのペースでの更新となる可能性があります。

すみません。


「……はぁっ、はぁっ、はぁっ!」


荒い呼吸を繰り返しながら、道無き道を走り続ける。


どれくらい走っただろうか?

脚はガタガタで、酷使された肺はズキズキと痛んでいる。

草木に引っかかり、小さな切り傷が身体中の至る所に出来た。

喉はカラカラで、意識は朦朧としている。

視界など、とうに濁っている。

まさに満身創痍。


しかし、足を止めることは出来ない。

もし止めたのなら、私は『死』に追いつかれるだろう。


「グガァァッ!!」


私を探す『死』の声。

振り向いてはいけない。

研ぎ澄まされた聴覚が、足音を拾い、どこにいるか教えてくれる。

だから、振り向いてはいけない。

振り向いてしまったが最後、私は萎縮して動けなくなってしまうだろう。

だから走れ。

全力で走れ。

恐怖心をかなぐり捨てて、一心不乱に前へ進め。


「ガアッ!!」

「んーー!」


一層近くなった足音に悲鳴を押し殺す。


こんな所で捕まってはいけない。

もうすぐ、もうすぐなのだから。

もうすぐ──────


「きゃぁぁぁ!!」


森を抜けると、そこは崖になっていた。

私は情けない悲鳴をあげながら斜面をゴロゴロと転げ落ちる。

少し跳ねるようにして、下まで転げ落ちる。

幸か不幸か、崖の下が湖になっていたお陰で一命を取り留めることが出来た。

しかし、全身を駆け巡る痛みのことを思えば、死んでいた方がマシだったかもしれない。


なんて、痛みのせいで弱気になりながら、陸に上がり、回復薬を飲み干す。

じわじわと、体の奥から痛みが和らいでいく。


「グルゥ……」


その声が私を現実に引き戻す。

パッと崖の上を見る。

そこには、モンスターが足踏み状態で立っていた。

私は『死』から逃れたのだ。


「……やったぁ。」


歓喜に打ち震えながら、声を絞り出す。

全身びしょ濡れに傷に泥。

惨めな格好での歓声だったが、何よりも優しく谷間にこだまする。


「…えーっと」


暫く棒立ちで喜びを噛み締めていたのだが、思考がら正気にもどっていく。

どうやって帰ればいいのだろう。

ここに居続けたらいずれ餓死する。

ぬか喜びだったというのか。

探していたものは見つからないのか。


空がだんだん薄暗くなっていく。

それに急かされ、せかせかと湖の周りをキョロキョロと見渡しながら歩く。


そして遂に────────


「…もしかして、これって?」


探し求めた遺跡を見つけたのだ。



────────────────────────



「あ、カズヤさーん!」


私は黒髪の冒険者がギルドに入ってくるなり、声を上げ、手を振る。

それに気付いた彼は嫌そうに顔を歪ませる。

きっと彼はめんどくさいと思っているのだろう。


でも、そんな顔をしても彼はこちらに来てくれるのだ。

めんどくさい依頼は当分受けないと言ったのにもかかわらずだ。

そして、仕方ないなと苦笑しながらクエストを受けてくれるのだ。

それに、その彼の優しさに私は甘えている。

付け込んでいるのだ。

悪いと思っている。

しかし、私は臆病だから。

ギルドのこのカウンター越しじゃないと上手に話せない。

だから、面倒なクエストをわざと紹介して、話を長引かせているのだ。

実のことを言うと、クエストを受けるのは彼じゃなくてもいい。


でも。

彼のことが好きだから。

初めて会ったその日から、彼のことが気になっている。


声が好きだ。

優しいところが好きだ。

仕方ないなと苦笑するあの顔が見たい。

もっと話したい。

クエストなんかに行かないで欲しい。


だから、私は彼の優しさに付け込むのだ。


しかし、今日は違う。

彼の依頼。

彼が、私に頼んだ唯一の依頼。

依頼というより、「偶然見付けたら教えて」というような軽いものだけど。

その事について話すのだ。


一歩、一歩と彼が近付いてくる。

大丈夫。

服装も、髪型も全部整えた。

深呼吸して。

彼の目を見て。


今日も笑顔で話すんだ。



────────────────────────



…ユニスがいつもよりも笑顔だ。

何があったのだろう?

悪い予感しかしない。

また、面倒なクエストだろうか?

だったらめんどくさいな。


カウンターへ向かう一歩が段々重くなってくる。


本当は討伐系がいいのだ。

目的の為にもレベルを上げたい。

いくらあっても足りない。

現在のレベルは87。

まだまだだ。

ここらに来て、ほとんど上がらなくなった。

100がカンストなのかどうかは分からないが、上げれるだけ上げたい。

向こうにはあの洞窟があるから、きっとレベルを上げ放題だろう。

今のところこちらにはそんなもの無いから、僕の方が不利なのだ。

王国を出る時に洞窟を崩したが、あんなものただの時間稼ぎだ。

腹いせだ。

もうとっくに撤去されているだろう。

もし、カンストが無いのなら僕に勝機は無くなる。

元々、職業の差があるのだ。

不利どころの話じゃない。


だから、カンストがある事を願いながらレベルを上げないといけないのだ。


まあ、彼女の頼みを断って討伐に専念したらいいのだけれど。

僕しか居ないと言われると断りずらくて、ずるずるとなし崩しにクエストを受けてしまっている。


「…はぁ。」


ため息をこぼし、カウンターに近づく。

今度こそは断るのだ。


「カズヤさん!カズヤさんが────」

「当分、討伐系だけがいいんだけど。」


食い気味に、意志を伝える。

先手を取るのが大事だ。

いつもそれで負けてるから、今日こそはと思い、やったのだが。


「え?」


当のユニスはポカーンとした表情で固まっていた。



────────────────────────



……来た。

……よし!


「カズヤさん!カズヤさんが────」

「当分、討伐系だけがいいんだけど。」

「え?」


言葉を遮られ、固まってしまう。


もしかすると、彼は勘違いしているのだろう。

いつも私が頼んでばかりだから、自分が頼んだ事が返ってくるなんて、思いもよらないのだろう。


それもそうだ。

あまりにも、彼の依頼は非現実的だった。

彼も内心、叶うなんて思いもしてないのだろう。


「あのー、カズヤさん?今日はいつもの感じじゃないですよ?」


そう言うと、したり顔だった彼は拍子抜けた様子で、


「え、そうなの?」


と言った。


「そうですよー。」


私は、笑いながら彼の言葉を肯定する。


……こういうところも好きだ。

純粋なところ。


この話をしたら、どんな反応するのかが楽しみで、つい口角が上がってしまう。

楽しみだ。


「あのですね────」



────────────────────────



「あのですね、カズヤさんが探していた、死者を生き返らせる方法が見つかりました。」


ユニスが思ってもいなかったことを口にする。

彼女は今、なんて言ったのだろう。

あまりの衝撃に、まだ夢から覚めていないのかと錯覚する。

しかし、銀髪の彼女が出て来ていないことが、その説を否定する。


「……え?」


震えた声を絞り出し、やっとの事で聞き返す。

するとユニスは、想定外だといったような顔をして、再び口を開いた。


「死んだ人を生き返らせる方法が見つかりました。」


死んだ人を生き返らせる。


その言葉が鼓膜に響き、脳に染み渡る。


生き返る。


蘇生。


本当に?

そんな事が可能なのか?

いや、僕が昔に教えてくれと頼んだことなのだけれど。

正直、期待していなかった。

元の世界の常識が通用しないこの世界なら、もしかして。

散々ゲームで見たあんなことが出来るかもしれない。

そんな、藁にも縋る思いだったのだ。


もしも彼女が蘇るなら。

それはどんなことよりも素敵なことだろう。

彼女は許してくれるだろうか?

もしかしたら、僕は彼女に殺されるかもしれない。

夢で、散々恨み言を聞いた。

そんなことがあるから、そう思ってしまう。

彼女が蘇るなら。

……僕は殺されたっていい。


彼女が僕に剣を刺す前に。


彼女の声を聞き。

髪に触れ。

体温に触れ。

目を合わせる事がもう一度叶うのなら。


「…詳しく、教えて。」

「あ、はい。えっと、ここから東に進んだ山脈の奥に、湖がありまして。そこで、遺跡が見つかったみたいです。その遺跡に彫られた文を要約すると、『ここは、死の床に伏した者をも蘇らせる奇跡の神殿』と書かれていたそうです。」

「じゃあ、ほんとなんだよね?」


涙を瞳に含ませ。

震えた声で、僕は問う。


それにユニスは──────


「確証は無いですが。」


慈母の様な笑顔で──────


「本当ですよ。」


と、言った。

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