表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ勇者の成り上がり  作者: barium
五章 冒険者
61/70

61.賞金首

遅くなって、すみません。

手こずりました


「グガアアアアアァァッ!!」


通常のものよりも一回りも二回り大きな体のオーガが、耳を劈くような雄叫びをあげながら棍棒を振り下ろす。


「下がれ!」


ロックの指示で、重戦士が後方に跳び、致死の一撃を避ける。


ズガガッ!!


という、まるで雷が落ちるかのような音と共に、獲物を失ったそれは、地面に直径50cm程の大穴を穿った。


獲物を仕留めれなかったことに苛立ち、こめかみをひくつかせたオーガがロックを睨む。

それにビクッと一瞬、怯えた様に縮こまりかけたロックだったが、パンっと頬を叩いて気を持ち直し、声を高く上げた。


「敵の動きは遅い!動き回って、撹乱しながら倒すぞっ!!」



────────────────────────



おっと……


悲鳴が聞こえた場所に駆けつけた和也は、近くの茂みに隠れ、気配を遮断する。

というのも、先に和也以外のメンバーが戦闘を始めていたからだ。


とりあえず様子を見て、誰かが危険になったら助けに行こう。

バレるのを避ける為にも、出来る限り戦闘は避けるべきだ。


適当に今後の算段をつけ、観察を再開する。

敵は左眼を負傷した、通常のものよりもかなり巨大なオーガだ。

筋肉隆々で、血管が浮き出た肌は沢山の傷痕で覆われ、どれだけの修羅場をくぐってきたかが一目見るだけで分かる。

そして手には、硬い丸太を軽く削っただけの棍棒。

もしもあんなものが直撃したら、死は免れないだろう。


「もしかして、あのオーガって……」


頭の中の情報に、目の前のオーガの特徴が重なる。

幾人もの冒険者を殺したとかで、そこそこの賞金を掛けられていたはずだ。

ついたあだ名は、『血塗りの悪鬼』、『冒険者殺し』、『隻眼のオーガ』など。

D級の冒険者が、何人も返り討ちにされる程、凶悪なモンスターだ。

噂によれば、C級の冒険者も数人、やられたらしい。


「大丈夫かな……」


心配する和也の目線の先は、激しい戦闘が行われていた。



────────────────────────



重戦士が盾を少し斜めに傾け、棍棒を大盾で滑らせて避ける。

直撃は不味いと考えた、ロックの作戦だ。

ランタン用の油を塗ったことが功を奏したのだろう、簡単に滑らせることが出来た。


思いもよらない方へ棍棒が行ったせいで、オーガが前につんのめる。


「ハアアアアァッ!!」


そして、その隙を逃すことなく、ロックがうなじへ向けて上段から振り下ろす。

自信があるだけあって、洗練された美しい一撃だったが、


「なにっ!?」


軽く首の皮一枚を裂いただけで終わった。


「グガアッ!」


オーガが左手でロックを吹き飛ばし、右足で、重戦士を蹴り飛ばす。

咄嗟に盾を構えることで、直撃を避けれたのはいいものの、衝撃を殺すことが出来ずに、地面をゴロゴロと転がる。


「ぐっ……」


吹き飛ばされた先で、倒れたまま唸るロック。

ただ吹き飛ばされただけなのに、胸部のプレートがべこりと大きく凹んでいる。

受身をうまく取れていないせいで、衝撃が大きく、中々立ち上がれない様だ。


「…っ!ヒール!ヒール!」


それに、治癒術師が慌てて回復の呪文を唱える。

淡い緑の光が、ロックと重戦士の体を優しく包んだ。

だが、二人ともまだ動かない。

回復量が足りていないのだ。


「ふぁ、ファイヤーボール!!」


魔導士の呪文がオーガの顔面に着弾する。

もくもくと黒い煙が晴れるとそこには───


「……ど、どう?やった?」


表面が軽く炭がついただけのオーガが居た。


「グオオオオオオオオオオォォォッ!!!」

「「ひいいぃっ!!」」


攻撃され、怒り狂った雄叫びを上げるオーガに、治癒術師と魔導士の少女が悲鳴を上げ、揃って地面にへたり込む。


それに、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべたオーガが地響きを立てながらゆっくり近付く。

そして、振り上げられた棍棒は─────


「……あーもう、クエスト失敗だ。」


───二度と振り下ろされることは無かった。



────────────────────────



「グガァ?」


急に軽くなった肩に疑問を覚え、右肩を見る。

そこには手に馴染んだいつもの棍棒どころか、腕すら無かった。

二の腕の所で、綺麗に切り落とされていたのだ。


「グガアアアアアアアアアァァァァァッ!!!」


それを認識した途端に襲ってくる、炎で炙られているかのような激痛に身を悶えさせる。


誰だ、俺の腕を落とした奴は!


正面に居るニンゲンの女では無い。

どちらも子鹿の様にブルブルと震え、肩を寄せ合っている。


この貧弱な者に俺の腕が切れるわけがない。

俺の皮は岩のように硬いのだから。


ドサッ


何かが落ちる音が聞こえた瞬間、その方に顔を向ける。

そこには、地面に血溜まりを作った緑色の腕と、黒い服のニンゲンが居た。


コイツ……か?


目が合った瞬間、そのニンゲンが疾風の如き速さで駆けてくる。

首を狙う斬撃を紙一重で躱し、そのニンゲンを睨みつける。


コイツだっ!

よくも俺の腕を!!

殺す!殺してやる!!


「ガアアアァァァッ!」


めいっぱいの咆哮で自分を鼓舞し、そのニンゲンに掴みかかった。

何度手を伸ばしても、ひらり、ひらりと躱される。

指が外套の端に触れるのが限界だ。


……このままでは埒が明かない。


生きたまま捕まえ、そのまま頭蓋骨を噛み砕いてやる為に手加減をしていたのだが、いつまでも捕まらないことに苛立ち、まず先に殺すことに変更する。


「ガアッ!」


そして、渾身の力を込めた左拳を、ニンゲンに向かって殴り掛かる。

地面に出来たクレーターと立ち上った土煙が、その威力を証明しているのだが、残念ながら拳にはニンゲンを捉えた感触が無かった。


クソッ!


ニンゲンからの攻撃に対応するために、体勢を立て直す。

土煙に視界が遮られないよう、下がって、周りを確認する。


……何処だ?

………何処にいる?


キョロキョロと辺りを見渡しても、土煙が晴れても見当たらない。


もしかして、俺の拳は───


当たってたのかも。

そんな希望が頭をよぎり始めたその瞬間。

無慈悲な声がそれを否定した。


「何処見てんだよ。」


視界が落ちていく────



────────────────────────



「クエスト、失敗しちゃいましたねー。」


ギルドの受付で、ユニスが楽しそうに微笑む。


「カズヤさんが失敗するの、初めて見ました。」

「何喜んでんの?ギルド的にも失敗されたら困るでしょ。」


和也が不機嫌そうにユニスを睨む。


「しかも、あんなのが出るなんて聞いてないし。」

「倒してくれて、ありがとうございます。あ、これ賞金です。」


ユニスが大きく膨らんだ袋を手渡す。


「ギルドも困ってたんですよねー。あのオーガ知能が高くて、強そうな冒険者を見ると戦闘を避けるんですよね。」


すると、和也は一層落ち込む様に、肩を落とす。


「……そんなに弱そうに見える?」

「カズヤさんは優しいですから。」


微笑むユニスに目を逸らし、遠くの方を見る。


「どうしたんですか?」


今の彼女の表情は見なくても分かる。

ニヤニヤと楽しげに笑っているのだろう。


和也は何か彼女に一杯食わせてやろうと模索していると───


「ああ、居た!」


息を切らしたロックが駆けてくる。


「お前、俺に戦い方を教えろ!」

「嫌です。」

「なにっ!?俺は貴族だぞ!!褒美は高くつける!」

「そういうのは、今のところ間に合ってるので、大丈夫です。」

「くそぉ……」


考え込むロックを放って、和也はユニスの方に向き直る。


「面倒なクエストは当分遠慮するから。」

「分かりました。」

「あ、ちょ、待てっ!」


逃げるカズヤとそれを追いかけるロックを微笑ましく眺める。


ああ言ってても、頼ったら、どうせ引き受けてくれるんだろうな。


そして、新しく届いた資料に目を通し始めた。


「……ん?これは……」


その資料は、帝都から遠く、東に進んだ山脈で、新たな遺跡を発見したと言う旨の内容だった。




その名は、蘇生の神殿。




───死んだ者も蘇らせる、幻の神殿だった。

初めてモンスター目線で書きました。

どうでしょうか?


ブクマ、感想、レビュー、評価など、よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ