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モブ勇者の成り上がり  作者: barium
五章 冒険者
60/70

60.違和感

遅くなってすみませんm(_ _)m

祝60話


ガサガサガサガサ。


息を殺し、和也一人で、森を掻き分け進んでいく。

ゴブリンの集落まで、約100メートル。

斥候の役目は盗賊である和也の仕事だ。

他の皆は後方で待機してもらっている。


冒険者の中でもB級と、かなり上位に位置する和也だが、いつになっても、暗い森を一人で進むのは少し心細い。


いつ、何処から敵の攻撃が来るか分からない。

こちらの接近はもう相手にバレているかもしれない。

待ち伏せされているかもしれない。

罠があるかもしれない。


そういった不安が和也の心にのしかかってくる。

だが、それも慣れたもので、周りの音を『聞き耳』スキルで拾いながら、ずんずん進んでいく。


この作業も、この2年で大分成長した。

初めは接近中にバレたり、逆にモンスターに尾けられていたり……色んな事があった。

冒険に関する基礎は殆ど彼女に教えて貰った。

絹のように艶やかな銀髪の彼女。

新雪のように白い肌。

冴え渡った海の様に蒼い瞳。


一人で没頭する作業だからか、余った脳のキャパが自然と彼女との思い出を再生する。

この思い出は何年経っても、色褪せることが無い。


恋慕も、憧憬も、幸福も、後悔も、無念も────そして、絶望も。


忘れたいものだけ忘れて、幸せな記憶だけになったらいいのに……

そんなことを、この2年、何度思っただろうか。

だが、忘れられない。

探したが、そんな都合のいい魔道具もなかった。

だから、この想いはいつか晴らさないといけない。

でないと前に進めない。

いつまでも雨宿りをしていても、こればっかりは意味が無い。

止まないなら、自分の手で止めるしかないのだ。


そんなことを考えていると、いつの間にかゴブリン集落が目の前までに近付いていた。

思考を切り替え、偵察に励む。


木を組んだものに布を被せただけの簡素な家(ゲルみたいな見た目だ)が六つ、円を描く様に、ぐるりと連立している。

その中央には周りの家より一回り大きな、家が建っていた。

あれが恐らく集落の長の家だろう。


和也はじーっと、目を皿のようにして、茂みの中から集落を観察する。


……何だ?


昼間だと言うのに、ゴブリンが一匹も出歩いて居ない。

それどころか、半分崩れている家も幾つかある。


……襲われたのか?

誰だ?

冒険者か?

それとも他のモンスター……ん!?


ガサガサガサ。

思考を続ける和也の後ろから鳴る、草を掻き分ける音と足音。

それが近づくと同時に、和也は腰から漆黒の短剣を抜き、一番近い者の首筋にあてがった。


「うおっ!?」


首筋に当てられた相手が、奇妙な声を叫び、尻餅をつく。

そこに居たのは、ゴブリンではなく───


「い、いきなり何するんだ!」


腰を抜かしたロックだった。

後ろには目を丸くしたパーティメンバーも居た。


足音が人間のものだから、寸止めにしといて良かった。

もし刎ねていたら、クエスト失敗どころの話ではない。

僕の首が刎ねられていたところだった。


「ああ、すみませんでした。敵かと……というか、どうして来たんですか?待機しているはずじゃあ?」


和也の問いに、立ち上がりながら「ふんっ」っと鼻を鳴らすと───


「ゴブリン程度に斥候なんて要らんだろ。待つのは暇だから来たのだ。」


と言った。


……えぇ。


心中でドン引きしながらも、顔には出さない様に努力する。

こんなに可愛くない「来ちゃった」は是非遠慮願いたい。


「それで、ゴブリンの集落は見つかったのか?」

「まあ、一応見つかったんですが……」

「一応?」


和也は横目でチラリと集落を見る。


「パッと見た感じ、ゴブリンが見当たらないんですよね。」

「……ふむ。」


ロックが、神妙な顔で集落を眺める。


「ところどころ、壊れてもいるみたいだな。」

「そうですね、襲われたんでしょうか?」

「じゃあ、行くか。」

「え?」

「ゴブリンは居ないのだろう?なら、いいではないか。」

「いきなり皆で行くのは、危険じゃないですか?先ずは僕一人で行った方が……」


外から集落を眺めただけだ。

まだ安心とは言えない。

廃墟と見せかけて、僕達が来るのを隠れて待っているのかもしれないからだ。


「ゴブリン程度、訳ないだろう。」

「いや、でも。」


心配し過ぎか?

いや、何があるか分からないし、判断としては間違っていないはずだ。

でも、ゴブリンが本当に居ない可能性も高い。

というか、引き止めても、止まらないかもしれない。

不興を買うのもよろしくないし……


「全員、行くぞ。」


どうするか考えていると、ロックが、パーティメンバーを引き連れ、進み出した。

すれ違う瞬間、治療師の女の子が申し訳なさげに、頭を下げていた。


こうなっては仕方が無い、和也もパーティを早足で追いかける。


「罠が仕掛けてあるかもしれないんで、せめて、僕が先頭を歩きますね。」

「ああ。」


足元と周りを警戒しながら、集落を進んでいく。


「本当に、何も居ない?」


血痕や、壊れた住居に、乱れた荷物。

ここで何かあったのは間違いない。


「全員で分かれて探索するぞ。」


ロックが声を掛け、メンバーがバラバラに散り始める。

和也は、何時でも駆けつけれるよう、ロックから近くも遠くもない場所に陣取る。


「…妙だな。」


そして、ゴブリンの集落を物色し始めたのだが、おかしい。

派手な戦闘跡にも関わらず、ゴブリンの死骸が見当たらない。


…この集落の大きさなら40匹近くいそうなものなのに。

逃げた?

それとも……


「きゃあぁぁーーー!!」


空気を切り裂く様な甲高い悲鳴に、思考を遮られる。


あの声は、治療師の……!?


和也ははねるような勢いで立ち上がり、声のした方へと駆け出した。

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