60.違和感
遅くなってすみませんm(_ _)m
祝60話
ガサガサガサガサ。
息を殺し、和也一人で、森を掻き分け進んでいく。
ゴブリンの集落まで、約100メートル。
斥候の役目は盗賊である和也の仕事だ。
他の皆は後方で待機してもらっている。
冒険者の中でもB級と、かなり上位に位置する和也だが、いつになっても、暗い森を一人で進むのは少し心細い。
いつ、何処から敵の攻撃が来るか分からない。
こちらの接近はもう相手にバレているかもしれない。
待ち伏せされているかもしれない。
罠があるかもしれない。
そういった不安が和也の心にのしかかってくる。
だが、それも慣れたもので、周りの音を『聞き耳』スキルで拾いながら、ずんずん進んでいく。
この作業も、この2年で大分成長した。
初めは接近中にバレたり、逆にモンスターに尾けられていたり……色んな事があった。
冒険に関する基礎は殆ど彼女に教えて貰った。
絹のように艶やかな銀髪の彼女。
新雪のように白い肌。
冴え渡った海の様に蒼い瞳。
一人で没頭する作業だからか、余った脳のキャパが自然と彼女との思い出を再生する。
この思い出は何年経っても、色褪せることが無い。
恋慕も、憧憬も、幸福も、後悔も、無念も────そして、絶望も。
忘れたいものだけ忘れて、幸せな記憶だけになったらいいのに……
そんなことを、この2年、何度思っただろうか。
だが、忘れられない。
探したが、そんな都合のいい魔道具もなかった。
だから、この想いはいつか晴らさないといけない。
でないと前に進めない。
いつまでも雨宿りをしていても、こればっかりは意味が無い。
止まないなら、自分の手で止めるしかないのだ。
そんなことを考えていると、いつの間にかゴブリン集落が目の前までに近付いていた。
思考を切り替え、偵察に励む。
木を組んだものに布を被せただけの簡素な家(ゲルみたいな見た目だ)が六つ、円を描く様に、ぐるりと連立している。
その中央には周りの家より一回り大きな、家が建っていた。
あれが恐らく集落の長の家だろう。
和也はじーっと、目を皿のようにして、茂みの中から集落を観察する。
……何だ?
昼間だと言うのに、ゴブリンが一匹も出歩いて居ない。
それどころか、半分崩れている家も幾つかある。
……襲われたのか?
誰だ?
冒険者か?
それとも他のモンスター……ん!?
ガサガサガサ。
思考を続ける和也の後ろから鳴る、草を掻き分ける音と足音。
それが近づくと同時に、和也は腰から漆黒の短剣を抜き、一番近い者の首筋にあてがった。
「うおっ!?」
首筋に当てられた相手が、奇妙な声を叫び、尻餅をつく。
そこに居たのは、ゴブリンではなく───
「い、いきなり何するんだ!」
腰を抜かしたロックだった。
後ろには目を丸くしたパーティメンバーも居た。
足音が人間のものだから、寸止めにしといて良かった。
もし刎ねていたら、クエスト失敗どころの話ではない。
僕の首が刎ねられていたところだった。
「ああ、すみませんでした。敵かと……というか、どうして来たんですか?待機しているはずじゃあ?」
和也の問いに、立ち上がりながら「ふんっ」っと鼻を鳴らすと───
「ゴブリン程度に斥候なんて要らんだろ。待つのは暇だから来たのだ。」
と言った。
……えぇ。
心中でドン引きしながらも、顔には出さない様に努力する。
こんなに可愛くない「来ちゃった」は是非遠慮願いたい。
「それで、ゴブリンの集落は見つかったのか?」
「まあ、一応見つかったんですが……」
「一応?」
和也は横目でチラリと集落を見る。
「パッと見た感じ、ゴブリンが見当たらないんですよね。」
「……ふむ。」
ロックが、神妙な顔で集落を眺める。
「ところどころ、壊れてもいるみたいだな。」
「そうですね、襲われたんでしょうか?」
「じゃあ、行くか。」
「え?」
「ゴブリンは居ないのだろう?なら、いいではないか。」
「いきなり皆で行くのは、危険じゃないですか?先ずは僕一人で行った方が……」
外から集落を眺めただけだ。
まだ安心とは言えない。
廃墟と見せかけて、僕達が来るのを隠れて待っているのかもしれないからだ。
「ゴブリン程度、訳ないだろう。」
「いや、でも。」
心配し過ぎか?
いや、何があるか分からないし、判断としては間違っていないはずだ。
でも、ゴブリンが本当に居ない可能性も高い。
というか、引き止めても、止まらないかもしれない。
不興を買うのもよろしくないし……
「全員、行くぞ。」
どうするか考えていると、ロックが、パーティメンバーを引き連れ、進み出した。
すれ違う瞬間、治療師の女の子が申し訳なさげに、頭を下げていた。
こうなっては仕方が無い、和也もパーティを早足で追いかける。
「罠が仕掛けてあるかもしれないんで、せめて、僕が先頭を歩きますね。」
「ああ。」
足元と周りを警戒しながら、集落を進んでいく。
「本当に、何も居ない?」
血痕や、壊れた住居に、乱れた荷物。
ここで何かあったのは間違いない。
「全員で分かれて探索するぞ。」
ロックが声を掛け、メンバーがバラバラに散り始める。
和也は、何時でも駆けつけれるよう、ロックから近くも遠くもない場所に陣取る。
「…妙だな。」
そして、ゴブリンの集落を物色し始めたのだが、おかしい。
派手な戦闘跡にも関わらず、ゴブリンの死骸が見当たらない。
…この集落の大きさなら40匹近くいそうなものなのに。
逃げた?
それとも……
「きゃあぁぁーーー!!」
空気を切り裂く様な甲高い悲鳴に、思考を遮られる。
あの声は、治療師の……!?
和也ははねるような勢いで立ち上がり、声のした方へと駆け出した。
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