59.編成
ちょっと短め
ダンッ!と大きな音を立て、ギルドの扉が貼り開けられる。
中に居た冒険者の視線が一斉に集まる。
その視線の先には、傷一つないピカピカの白銀の鎧に身を包んだ、13歳ぐらいの少年が居た。
サファイアの様に蒼い瞳を輝かせながら、金髪の髪を靡かせ、不敵に笑っている。
「ランプール家、次期当主のロック・ランプールだ。誰か、俺のパーティに参加したい者は居るか。褒美は出すぞ。」
その言葉に、実力のある冒険者は興味を失った様に視線を戻し、金に困窮しているものは、我先にと手を挙げ始めた。
迫る金目当ての冒険者を、「まあ、待て」と、手で制しながら、言葉を続ける。
「俺は戦闘は得意だが、冒険者としては初心者だ。なので、パーティに参加するものはDランクまでの者、4名とする。出来れば同年代がいい。」
対象外の冒険者が、肩を落として去っていくのを横目で見ながら、和也はいつ少年の元へと向かうか見計らっていた。
「おお、お前は治療師か。中々いいじゃないか。よし、採用だ。」
黒髪の少女がパーティに参加したところで、和也は少年の元へと近づいた。
「戦士?いらん、俺で十分だ。」
「…あの。」
「ん?」
前に並んでいた少年が項垂れて、帰り始めたタイミングで、和也は偽物のカードを見せながら声を掛ける。
「僕の職業は、盗賊です。D級の。えっと、パーティに入れてもらっても良いですか?」
ロックが和也にじろじろと、不躾ない視線を寄越し、見定める。
そして、カードを受け取り、それを眺めたあと、「ふんっ」と鼻で笑った。
「見たところ弱そうだが、本当にDランクなのか?……まあいい、斥候は必要だからな。歓迎しよう。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
そんなに弱そうに見えるだろうか?
装備のレベルを下げてきたからかもしれないけど、少し心外だ。
ここまでそう言われると、少し考える必要もあるかもしれないなぁ。
まあ、なんの思惑があるのか、そんなに目立たなそうな人ばかり採用しているから、今回は良かったけれど。
「三枝和也です。よろしくお願いします。」
「ああ。」
ぺこりとお辞儀をして、先に選ばれた治療師にも挨拶をする。
「よろしくお願いします。」
「はい、よろしくです。」
そして、近くの席に座り、パーティのメンバーが選ばれるのをぼーっとした表情で見続けた。
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「今から行くクエストはゴブリンの討伐だ。行く場所は東の森のゴブリンの集落で、そこのゴブリンを殲滅することが今回の目標だ。」
最終的に出来たパーティは戦士1人、重戦士1人、盗賊1人、魔道士1人、治療師1人という構成になった。
パーティのバランスとしては最高だが、不安でもある。
というのも、本来、ゴブリン集落の殲滅はDランクのクエストであり、和也がパーティに参加することで受けられるようになったクエストだ。
そして、和也以外のメンバーはEランクということで、戦力に不安がある。
というか、不安しかない。
ロックは貴族なので、英才教育を受けているはずだからまだいいとして、問題はあとの3人だ。
装備は質素だし、使える魔法も少ない。
そしてなにより、クエストの経験回数が多くない。
まんま初心者といった風体の彼らは、正直、このクエストにおいては殆ど戦力に数えられないだろう。
しかも、ゴブリン○体の討伐〜ならまだしも、今回は集落の殲滅だ。
報告では小さめの集落らしいが、このクエストは、Dランクでも上位のものにあたる。
集落を形成するくらいだから、そこら辺を歩いている野良ゴブリンよりも知能が高いし、装備も整っている。
そして何よりも数が多い。
小さめの集落でも30はいる。
和也は本当はB級の冒険者なのだが、それでも、護衛対象が死なない様に気を払いながら、さらにB級とバレないようにするのはかなり骨が折れる。
しかも、他のパーティメンバーを見捨てる訳にもいかない。
ある目的の為にもクエストを成功させて、恩を売っておきたいが、クエストの成功よりも、3人の命の方が重いのは当然のことだ。
…さて、どうするか。
偵察の時に、出来るだけ間引くか?
和也が一人で自由に行動することが出来るのは、斥候としての役割を果たしている時だけだ。
しかし、その時間も決して長くは無いし、その後、ロック達が突入した時に、集落に死体が溢れていたら、怪しすぎる。
ゴブリン同士が、喧嘩してこうなったと言っても、知能が高いゴブリンは殺し合いまでに発展する喧嘩はしないし、死体はまだ温かい。
十中八九信じてもらえないだろう。
残りの一、二に賭けるのは得策とは言えない。
やはり、守りながら戦うのが一番か?
でもそれだと、状況によっては手が回らない可能性もあるし、身バレの危険もある。
うーん……どうしよう?
「…じゃあ出発するぞ。表に馬車を用意してある。」
考えの纏まらないまま、和也達一行はクエストに向かった。
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