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モブ勇者の成り上がり  作者: barium
転章 誓い
53/70

53.勇者vsモブ

すみません、遅れました。

あと、前回のタイトルを脱出から救出に変えました。


げっそりと痩せこけた剣崎が、ゆっくりと近付いてくる。


「…どうして、ここに?」


まさか、手伝いに来てくれたのか。


──しかし、剣崎の一言でそんな淡い期待も直ぐに打ち砕かれることになる。


「和也、そいつを渡してくれ。」

「……は?」

「和也は騙されているんだ。」


剣崎の言っていることが分からない。

冗談かとも思ったが、剣崎の剣呑な目がそれを否定していた。


「そいつは魔族に情報を売ったんだ。…つまり彩が死んだのはそいつのせいなんだ。」

「違う、それは嘘だ!エリナは嵌められただけだ!」

「……和也はそいつに『魅了』されてるから分からないのも無理ないけど、ほんとのことなんだ。信じてくれ。」


…魅了?


「…もしかして、その話をしたのはアリシアさん?」

「ああ、そうだよ。」


つまり、剣崎君をここに寄こしたのはアリシアさんか。


「逆だよ、剣崎君は騙されてる。アリシアさんが僕達を『魅了』してるんだ。アリシアさんの机の中に証拠はある!」

「………はぁ。」


剣崎が心底面倒くさそうにため息を吐く。


「今の和也には何を言っても無駄か。」


剣崎が一歩、和也達の方へ踏み出す。


「もう一度言う。和也、そいつを渡してくれ。…もし渡してくれないなら、力ずくでも奪い取る。」


剣崎の強い口調から本気でそんなことを考えていることが分かった。

和也は逃げ道を探すが、剣崎相手に逃げ切れるとは思えない。


「俺だって、和也相手に剣を振りたくない。だから───」


再び剣崎が一歩踏み出し、和也はエリナを自分の後ろへ隠した。


「俺に渡せ、和也。」


…この現状を打開するにはどうすればいい。

もちろんエリナを引き渡すなんて有り得ない。

剣崎の引渡した瞬間、エリナは殺されてしまうだろう。

それだけの圧力を剣崎は纏っていた。

しかし、逃げようとしても、あの剣崎だ。

簡単に逃がしてくれるとは思えない。


「…カズ、もういいよ。」

「僕が何とかするから。」


エリナが諦めたように和也の腕を引っ張るが、和也は否定する。


和也が時間稼ぎしたとしても、周囲には騎士が沢山居るだろう。

普段ならまだしも今のエリナは弱っている。

一人で逃げ切るのは難しいだろう。

となると───


「……剣崎を倒して、僕がエリナを連れ出す。」


出来ないかもしれない。

でも、やるしかない。


「剣崎!」


和也がいきなり大声を上げたのに驚いたのだろう、剣崎が少し目を丸める。

それに構うこと無く和也はエリナを後ろに下がらせ、剣を抜く。


「悪いけど、それは出来ない。」

「……そっか。」


剣崎が、和也の返事に落胆したように肩を落とす。


「…残念だ。」


その呟きとともに、剣崎が駆け出した。


速っ!?


思わない程のスピードに腰が引けそうになるが、ぐっと体を支え、振り下ろされる剣を弾く。

強烈な一撃にじんっと手が痺れるが、いちいちそんなのに構う暇はない。

右から、左からと高速の斬撃が和也を襲ってくるからだ。

気を逸らすことさえ許されない高速の応酬。

それは和也の集中力をジリジリ削っていく。


…ここだっ!


体力が落ちたせいか、いつもよりワンテンポズレた右からの斬撃を今まで以上に強く押し返す。

一瞬剣崎のバランスが崩れるのを見計らい、和也は懐に手を入れてナイフを投げる。

剣崎の体は甲冑で覆われているため、狙いは目だ。


「くっ!」


しかし、それは首を傾げることで容易く躱される。

そのお陰で一瞬だが、和也に余裕が生まれた。


後ろに跳び、懐からあるものを投げつける。

それが剣崎の足元に着弾した後、大爆発を引き起こした。


「……はあ、はあ。」


まだ油断は出来ない。

じっと目を凝らし、土煙の奥を見る。

ゆっくりと煙が晴れていき────ほとんど無傷の剣崎が現れた。

できた傷はほんの小さな擦り傷だけだ。


「化け物かよ…」


和也の小さな呟きは剣崎の力強い足音に掻き消される。


一体、あの洞窟でどれほどレベルを上げたのだろうか。

佐藤が殺されたあの洞窟で。

モンスターを殺した分だけ無力感に心がすり減って、憎しみに溺れ、狂っていったのだろう。


「ひどいな、人に爆発ポーションを使うなんて。俺はみんなのことを思ってやってるだけなのに。」


不気味だ。


恐怖心に駆られ、勢いで再びポーションを投げる。

『投擲』スキルのお陰で、放物線を描くことなく真っ直ぐ剣崎に飛んでいく。


「もう効かないよ。」


剣がポーションのガラス瓶を割ることなく、後方へ逸らす。

当てなく飛んで行ったポーションは、監獄の門付近の壁を吹き飛ばした。


ガラガラという音を立てながら、壁の一部が崩れる。


「あぁぁぁぁ!!」


和也は全力で剣崎に突進する。

繰り出すのは、和也史上最高の一撃。

短剣に反射した月明かりが尾を引き、綺麗な曲線を描く。

そして、切っ先が剣崎の左肩を穿とうとし────


「ぐあっ!」

「カズっ!」


短剣が肩に触れる直前に、剣崎の凪払いが和也を吹き飛ばした。

受け身に失敗し、石畳に背中を強かに打ちつける。

堰を切ったかのように傷口からどくどくと血が溢れ出た。

熱い熱い熱い熱い。

まるでバーナーで炙られたかのような熱が傷口を這い回る。


「に、逃げろ!」


震える手で治癒ポーションを探しながら、駆けつけようとしたエリナに声を掛ける。


剣崎に捕まるより騎士に捕まった方がまだマシだ。


治癒ポーションを傷口に掛けながらエリナを見る。

ちゃんと声が届いていたようで、フラフラと走り去って行く姿が見えた。


「逃げるなっ!!」


剣崎が血相を変えて叫ぶ。

和也は少しでも時間を稼ごうと剣崎の足にしがみついたが、すぐに蹴り飛ばされる。


剣崎が瞬くようなスピードでエリナの前に躍り出る。

そして、エリナに斬りかかった。


「くっ、『ウォーターウォール』!」


エリナが精霊を召喚し、水の壁で斬撃を防ぐ。

しかし、いつもならモンスターの攻撃を受け止めてくれる頼もしい魔法も、剣崎の前ではただの紙切れ同然のように斬り裂かれた。


「ぐ、があっ。」


和也はまだ傷が治ってもいないのに、無理矢理這いずる。


このままじゃエリナが危ない。

僕が、僕が何とかしないと。


治癒ポーションを飲み込みながら前に進む。

目線の先では、剣崎がエリナを守ろうとした精霊を真っ二つに切り裂いた所だった。


「剣崎っ!」


剣崎に蹴り飛ばされエリナが倒れ込む。


「あぁぁぁ!」


腹を踏みつけられ、エリナが悲鳴を上げる。

そして、剣崎が剣を振りかぶった。


「……止めてくれ、それだけは。」


和也が悲痛に顔を歪め、懇願する。

エリナ達までは後10メートルほど。

しかし、和也にはそれが絶望的に遠かった。


「お願いだ、剣崎。僕なら何でもする!だから、それだけは……」


エリナが助かるのなら、僕はどうなっても構わない。


「…初めて出来た彼女なんだ。大好きなんだ。もっとずっと一緒に居たいんだ。だから、……止めてくれ。」


思考回路はめちゃくちゃで、自分でも何を言っているのか分からない。

それぐらい、今は必死だった。


「…そんなの、知らないよ。」


剣崎が剣を振り下ろした。


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