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モブ勇者の成り上がり  作者: barium
二章 学園
14/70

14.ロンド・ルースの敗因

SSです。

皆さんも薄々気づいていると思いますが、主人公の成り上がりはまだまだ先の予定です。


「おう!」


治療が終わり、医務室から出てきた俺に、友であり、パーティメンバーでもあるドイル・ドングルが声をかけてくる。

ドイルも俺と同じく実技試験の依頼を受けていて、隣の2番会場だった。

俺はそれに対し軽く手を挙げ、ドイルが座っている長椅子に腰掛ける。


「怪我はもう治ったのか。」

「まあな。怪我自体は大したこと無かったからな。」

「それにしても…」


ドイルが己の顎を触りながら、言葉を紡ぐ。


「お前さんが倒されるなんて、あの坊主そんなに強かったのか?そうは見えなかったがなぁ。」

「そうだな。」


俺はついさっき闘った少年のことを思い出す。


サエグサ・カズヤ


軽く曲がった背中に、人混みに紛れたら探し出せなさそうな程、薄い存在感。

年上に好かれそうな整った顔つきだが、自信の無さそうな表情が常に貼り付いていた。

そして足運びは決して戦士のそれでなく、むしろ初心者といった風体だった。


だから、どこからどう見ても弱そうとしか思えなかった。


しかし、俺が開始の合図をした瞬間、目がガラリと変わった。

弱気なそれから、獲物を狙うものへと。

思ってもいなかった変わりように驚き、反応が遅れた。

そして彼の猛攻を受け、気付いたらベッドの上に寝ていた。


「俺も全然強く見えなかったんだよ。むしろ弱そうだった。」

「油断したのか?」

「まあ、そうだな。」


俺はコクリと頷く。


油断。

その通りだ。

全然強くは見えないあの少年に、俺は油断していた。

それが今回の敗因だろう。


「じゃあ、あの坊主自体は弱いのか?」

「そんな訳でもないんだけどな。」

「ほう。」


ドイルが興味深そうに返事をする。


あの少年は決して弱くはない。

だが、特別強い訳でも無い。

あの歳で投擲のスキルレベルを3まで上げていることには驚いたが、それだけだ。


投擲は便利なのだが、主武装ではない。

あの年頃の子供は基本、自分の主武装となるスキルばかり磨き、他のスキルを疎かにする。

現に、あの少年よりも前に試験をした中にも投擲スキルを持っている子いたが、投擲を使っていなかった。

だから、あの少年が投擲スキルを持っていることは調査書から知っていたが、正直、レベル1のままだろうと高を括っていた。そのせいで『銀鱗』への対応が遅れた。


「多分、あの子は自分の職業の利点も欠点を理解してるんだろう。」

「盗賊だったか?」

「ああ。」


俺は首肯する。


「きっといい盗賊になると思うよ。」

「お前に勝てるぐらいだしな。」


ドイルが豪快に笑う。

それにつられ、俺の顔にも自然と笑みが浮かぶ。


「まあ、いい灸になったな。」

「そうだな。」


冒険者になりたくて故郷の田舎を飛び出してから、早3年。

駆け出しだった俺もC級になった。


才能があったのだろう。

特に窮地に陥ることも無く、トントン拍子でランクが上がっていった。

周りから期待の新人ともてはやされ、俺は有頂天になっていた。


俺なら何でも出来る、俺は天才なのだと。


ただ、いくら才能があっても、周りに嫌われては意味が無いと、言動には気を使った。


己の才能を誇示せず、謙遜する。

自分よりもランクが低い先輩も必ず立てる。


そうしている内に、仲間が増えた、友が増えた。


だが、俺は有頂天のままだった。


今回の敗北はドイルの言う通り、いい灸になったのだろう。

彼の剣は俺の傲慢さを見事に打ち砕いてくれた。

油断をすることの危険性を改めて説いてくれた。


あの少年にそんなつもりは毛程も無かっただろうが。


「あの子には感謝だな。」

「そうだな。」


沈黙が流れる。


「ああ、そうだ。あの子、かなりスキルが多かったぞ。」


俺はそれを思い出し、ドイルに告げる。


「そうなのか?幾つだ?」

「確か10個ぐらいだったな。いや、以上だったか?」

「10個!?」


ドイルは椅子から立ち上がり、大声を出す。

彼の小さな目は大きく開かれていた。


ここが医務室の前だということを思い出したのか、ごほんと小さく咳払いをし、再び椅子に腰掛ける。


「10個かぁ、それは凄いな。」


ドイルが感嘆の溜息を吐く。


ちなみに調査書にはユニークスキルのことは書いてはいなかった。


「もしかしたらあの坊主が噂の勇者様なのかもな。」


ドイルが小さく呟く。


王国が勇者を召喚したと発表してから、もう1ヶ月近く経つ。

発表されたのは召喚したということだけで、性別、容姿、人数、職業などほとんどが分かっていなかった。

今ではその発表は嘘だという説明もある程だ。


「それは流石に無いだろう。」


勇者というのだからもっとそれらしい職業だろう。

例えば、聖騎士とか。

そして、俺が適わない程強いのだろう。


「そうか。」

「ああ。」

「本物の勇者様は一体、何処にいるのかねぇ?」


ドイルが呆れた様に呟く。

彼は勇者の発表は嘘だと思っているみたいだ。


「さあな。」


俺は小さく首を横に振った。





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