1.プロローグ(修正済み)
拙作は成り上がりモノですが、成り上がりパートまでそこそこ長いです。
それも主人公の成長過程として、気長に読んでくれれば幸いです。
是非、読み進めて下さい。
具体的には36話くらいから話が加速します。
それまで我慢して付き合ってくれれば幸いです。
よろしくお願いします。
キーンコーンカーンコーン
昼休みの終わりを告げるチャイムの音が教室に響く。
高校2年生へと進級し、1ヶ月程経ったこの頃。
花弁が散り、青々とした桜が目立ち始める。
僕はそのチャイムの音を合図に、のそのそと読みかけのラノベに栞を挟み、机に仕舞う。
そして代わりに次の授業の教科書を引っ張り出した。
次の授業は英語、担当の川崎先生がやって来る。
川崎先生は新任の女教師で、抜けているところが割と目立つ。体格は小柄で、緩やかに巻かれたブラウンのボブヘアーが目印だ。
ミスをして焦った時に、ワタワタとしている姿が可愛いと生徒の間では話題で殆どの生徒から好かれている。
「皆さん、授業を始めます。佐藤さん、挨拶お願いしますね。」
「はーい先生。起立、礼。」
佐藤彩。
このクラスの委員長で、艶やかな長い黒髪が似合う美人。タレ目がちな目尻にクリクリっとまあるい瞳。
どこか親しみを与えやすい顔立ちをしている。
明るく活発で、クラスの中心、いわゆるスクールカーストの最上位に位置する人間だ。
だが、他の生徒を見下すことも無く、みんなから信頼されている。
「では、教科書120ページを開いてください。……ってあれ!?私の教科書は?」
「おいおいまたかよ〜」
「さすが川崎先生」
授業開始そうそうにワタワタと焦りだした先生に声をかけたのは、順に近藤正樹に、谷口恵果。
近藤は身長180台という長身のイガグリ頭の野球部だ。ガタイが良いのにもかかわらずニカッと笑った顔がどこか少年を感じさせるせいか、年上の女性から人気らしい。
谷口は明るい茶髪を後頭部でまとめた少しチャラめの女の子だ。
明らかに染めているように見えるが、一応染めてないらしい。小学校から水泳教室に通っていて、プールの塩素が原因で薄くなったんだとか言う話だ。
「うう〜すいません、先生また忘れてしまいました。気をつけるようにしてたのになあ。」
川崎先生が、小柄な体を更に小さくして反省している。
「そんなことより先生、早く取りに行かないと授業終わっちゃいますよ。」
爽やかな笑顔を浮かべながら言葉を発したのは剣崎誠。
佐藤さんと並びスクールカーストの頂点だ。佐藤さんと同じくクラス委員でもある。
イケメンで頭も良く、人当たりもいい。
他校の女子からも告白されたとかなんとか。
しかも、サッカー部のキャプテンを務めていて、佐藤さんと幼馴染らしい。
何度か談笑しながら一緒に帰るのを見かけたことがある。
イケメンで、性格も良くて、運動も出来て、美少女の幼馴染も居て……絵に書いた様なラブコメ主人公だ。
「はっ!そうですね、早く取りに行かないとですね!先生が取りに行ってる間、皆さんは自習してて下さいっ!」
そう言い残して川崎先生が駆けていく。
ああ、そんなに急いだら……
バタンッと先生がこける音が廊下から聞こえる。
やっぱり。
というのも、日頃から先生がよくコケているのを見ているからだ。
運動神経が悪いとかそういう訳ではなく、理由は単純。履いているスリッパのサイズがあっていないのだ。なんでサイズが違うスリッパを履いているのかと言うと、ネットショッピングで買い間違えたんだとか。さっさと買い換えればいいものの、教師生活を始める際に、気合を入れて高いのを買ってしまったから、勿体ないらしい。もうすこしボロくなるまで履く予定だとか。
そんな話を、いつぞやの授業中に耳にしたことがある。
それと同時にこのクラスと、隣のクラスから笑い声が聞こえた。
僕はその間に続きを、と思い机からラノベを出して読み始める。
この本は、主人公が異世界に転移し無双するという内容だ。
人気で、アニメ化も近々予定されているらしい。
ネットの小説投稿サイトで人気になって、本になったみたいだ。
僕はこの異世界モノと呼ばれるジャンルが好きで、よく読んでいる。
やっぱり異世界モノはいい。
現実と乖離した物語を読むことで、現実の自分を忘れられる。
え、そんなことよりお前は誰だって?
僕の名前は三枝和也。
ぼっち、陰キャ、コミュ障という属性を持ち、スクールカースト最下位、『空気』の称号を欲しいままにするモブですがなにか?
……と、誰に紹介するでもなく、不貞腐れてみたところで今の現状が変わるわけでもない。
僕は依然としてぼっちのままだ。
だが、僕はこの生活が嫌いなわけでもない。
ただそこにいるだけ、正に『空気』。
誰にも気にされないまま自由に生きて、誰にも知られずに死ぬのだろう。
それが僕だ。
独身貴族の最終形態とでも言うのだろうか。
友達も恋人もいない、完璧な独り身。
超独身貴族だ。
勘違いしないでよね。別に嫌いじゃないだけで、好きじゃないんだから!ってやつだ。
…勘違いする奴なんていないのだけれど。
「……はあ。」
自分の痛さに思わず溜息が出た。
でもなあ、少しぐらい刺激があってもいいんだけどなぁ、チラッチラッ。
…などとしてみたところでいきなり転機が訪れる訳でもなくて。
…異世界召喚でもされないかな。
「まあ、現実にそんなことあるわけない、け……ど?」
そろそろ先生が帰ってくる頃だと思い、ちいさく呟きながら本を閉じる。
呟いた言葉とは裏腹に、教室の様は一変していた。
教室の床一面に魔方陣みたいなのが広がっていたのだ。
その魔方陣は赤色に光りながらゆっくりと回転している。濃ゆい赤だ。
まるで血液をグツグツ煮込み、濃縮したかのような色だ。
「何これ…」
「何だ何だ?」
などと、クラスメイトがざわめく。
僕は頭の中が真っ白になっていて、クラスメイトの言葉はほとんど記憶に残らない。
なんだ?
今から、何が起こるんだ?
あからさまな転機に、気分が高揚していくのを感じた。
「皆さんどうしましたっ!?」
生徒の慌てた声を聞き、急いで戻ってきたのだろう。
川崎先生がパタパタと足音を鳴らしながら駆け足で教室に足を踏み入れる。
その瞬間。
今まで以上に魔法陣が強く発光し、教室が深紅の光に包まれた。
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