終話 雪よ、どうかいつまでも。
こんばんは、バレンタインデーがそろそろ終わるんだな、と思いつつある遊月です!
今年も家族からの(自分で作った)チョコ以外特に貰っておりませんが……?( ˘ω˘ )
皆様のバレンタインデーは、楽しいものになりましたか?
いよいよ最終回となった本作、本編スタートです!!
「ん……、ん?」
目を覚ましたとき、その視界の暗さにまずは戸惑った。自分が意識を失ったことで、自宅内の明かりをつける魔法を保てなくなったのだろうか? いや、それならきっと彼――――十数年前に拾って以来自分の家に居着いている青年がどうにかしてくれているはずだ。
もしかして、あの子の身に何かあった……!?
魔女には、決めていることがあった。
まずは、人に尽くすこと。
これは彼女に魔女としての術を教えてくれた先代の魔女から教わった信条であり、人知を超えた能力を持つ者としての責務であると、彼女自身も強く肝に銘じていることである。
そして、青年を幸せにすること。
これはきっと、彼女自身の為でもある。
十数年前のある日。
救った相手である彼の父に欲望のまま蹂躙され、その妻である青年の母がその場を目撃したことで役人に知らせようとした。散々醜い言葉で罵った。痛みに泣く魔女に、あらん限りの物を投げつけながら。
その横で、無表情にその様を見つめる我が子には目も呉れず、両親はただひたすら魔女を虐げた。
檻の中で生気のない瞳をしている少年など、まるで部屋の置物でしかないとでも言うように。
まだ少女だった魔女には、到底その扱いの理不尽さに耐えることなどできなかった。
だから、師の教えに反して禁忌を冒した。自身の憎しみによって人を殺めるという罪を犯した。
その結果、ひとりの子どもから家族を奪ってしまった。
彼に対して、罪滅ぼしの気持ちもあったし、彼の世界が狭いものであろうことにも憐れみを覚えた。そして、彼女自身が、自身の負った傷を癒せるものを欲してもいたのかも知れない。
彼から奪ってしまった数々のものを埋めたい。
彼から与えられた形容し難い感情を返したい。
彼に、幸せというものを与えてあげたい。
いつしか、そう思いながら彼を見ていた。
そんな想いを込めた日々は彼の人格形成に多少影響したのだろうか、成長して自分を見下ろすくらいにまで育った彼は、いつの間にかとても過保護で極端に彼女を愛する性格になっていた。いっそ盲目的と言っていいくらい。
だから、まだ彼には色々教えないと。
もっと世の中は広いのだと。
自分だけではなく、もっと色々なものがあって、その中にはもっとあなたにとって尊いものがあるに違いないのだと。教えなくてはいけない。
いつまでも、自分のところに縛っていてはいけないのだから。
だから、何かあったのなら早く助けないと……!!
慌てて起き上がろうとした魔女は、その両腕が強く押さえつけられていることに気が付いた。
「へぇ、姉上でもそんな焦ったりするんだね。初めて見た」
そんな声が頭上から聞こえて、目の前には見慣れた顔があった。
色々な人間を見ているからわかる、彼の顔はとても美しい。毎日姉のように接していることを忘れてしまいそうなほどに。思わずこみ上げる何かを打ち明けてしまいそうになるのと同時に、ある情景が蘇り。
「あんた、あの男に似てきたんじゃない?」
思わずそう返したときの青年の顔に、魔女は不覚にも胸を痛めた。
青年は、少し喉の奥から絞るように息を吐き、「あ、姉上がいつかこういう目に遭わないとも知れないと言いたかっただけさ」と言いながらその腕を魔女から離した。
「自覚してないだろうが、姉上は美しい。あなたの神秘よりもそちらの評判の方が立っているくらいだ。それなのに一切そういったものに頓着しないで……。もしもこんな風に組み伏せられても、生身ではどうにもできないだろう? そんなときに俺がいれば、いつものように姉上を守ることができる。だから……」
どうか、他のところへ行かせようとしないで。
その言葉を聞いたら、きっと抑えられなくなる。
それだけはわかったから、魔女は「わかったわかった」と彼の言葉を遮る。何故だか予想できた言葉の続きを打ち消す為に。
目を逸らしたその先では、いつの間にか白い雪が降り始めている。
他の全てから自分たちだけを隔絶するようなその雪に、ふと願いを托しそうになって。
「頼りにしてるから、余計な心配はしないで」
代わりに別の言葉を返した。
これは、魔女に囚われた少年と、罪に縛られた魔女の物語――――
前書きに引き続いて、遊月です!
元々今年のバレンタイン短編は社会人のささやかな幸せみたいなお話になる予定でしたが、素敵なタグに触発されてこういうお話に変更となりました!(趣味前回…) たまにはこういうファンタジー風味?のお話も書きますよ!
ということで、お楽しみいただけましたら幸いでございました。
また次作でお会いしましょう!
ではではっ!!




