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シュレーディンガーの馬

作者: ひろち

大学で馬面の男が、隣に座り、やたらと話しかけてくる。

この男は、一応、知り合いにはなっているが、大学のグループの誰と特に親しいのでもなく、どちらかと言うと疎まれているのに、メンタルが強いのか全く気にせずについて来てしまう。

高校時代にもクラスに一人はいるタイプだろう。

ノートには『シュレーディンガーの猫!』と書いてある。

「シュレーディンガーの猫って、この前、講義で、あの訳の分からない教授が授業と関係ないのに熱く話してたやつか?」私は仕方なく聞いてみた。

箱の中で、猫は生きている、死んでいるの二通りの状態で重なり合って存在しているが、観察する事によってどちらかの状態に収束するのだそうだ。

「面白いと思わないか?」

「猫が死ぬのがか?」

男は一瞬、笑いそうな顔をしたが、誤魔化す様に言った。

「いや、観察すると一方に収束するのがだよ。」

「でも、思考実験らしいからね。現実には使えないんじゃないの?」

男は呆れた様に言った。

「科学が現実に使えない筈がないじゃない。語学のクラスで付き合ってるのがいるだろ?可愛い女の子なのになんであんなのがいいのかね。」

シュレーディンガーの猫は何処かへ逃げてしまったのか?。話し方が身勝手で、やはりとても好きにはなれない。

「あの二人は出来上がってて、とても入り込めないと思うけどね。」

「そう、だから箱なんだよ。箱の中で、お互いに好きか嫌いか、気持ちが重なり合って存在してる筈なんだよ。だから、観察すれば、嫌いな方に収束させて分かれさせられるかもしれないんだよ。」

「だったら、尚更、そっとしておくのが礼儀なんじゃないの?」

「あんな男と付き合って、絶対に幸せになれると言える?」

「それは分からないけどね。」

「確証があれば、俺も邪魔になる事はしたくないんだけどね。」

一体、どうして首を突っ込みたいのか、さっぱりわからない。頭が少しおかしいのだろう。

「でも、観察しても、五分五分なんじゃないの?」

男はニヤリと笑って言う。

「くっ付きそうになったら離れて、別れそうになったら観察を続ければいいんだよ。」

嫌な気分がしたので止めようとしたのだが、最初から無駄の様だった。

「俺も嫌だけど、女の子のためだからな。」

私は内心、耳を塞いだ。箱に入っても覗かれたのではかなわない。この男は、やはり気持ちが悪い。


一年後、男は入院した。

大学の例のカップルに何かと理由を付けてはつきまとい、二人がよくデートしていた乗馬クラブで事故にあい、馬に顔を蹴られ、顔面を数カ所、骨折したらしい。

あんなのに一年もつきまとわれていたのだ。私は、馬に蹴られた男より、カップルの方が気の毒でならなかった。さぞ気持ち悪く、折角の付き合いも心から楽しめたのかどうか。

『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ。』

恋愛は何も最近の現象では勿論ない。

最新の科学より、古くからの格言等の方が為になる。

男から、強い調子で、見舞いに来ない様にメールが来ていた。私にだけでなく、知り合い全員に送ったらしい。

見舞いにぐらい行ってやるのにと、皆、首を傾げた。

死ぬ方に収束させられると思ったのだろう。

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