第24話 計画の進捗状況は問題なし…
正直なところ、物事がここまで上手くいくとは思っていなかった。
ある意味異世界万歳と言っても過言ではないくらいに物事がポンポンと進んでいる。街の運用から(おそらく)この世界で初の電気を使ったライトや車の研究開発まで進み、飲めない川だったラムザ川の水を飲めるまで濾過する事にも成功した。もちろん、私が主になって開発を行ったが、私がいなくても研究開発を行えるようにと教育した魔族と人間族達の努力も忘れてはいけない。教育は、専門的な知識のみならず、研究開発を行う上で必要な、トライアンドエラーや研究計画書の作り方などの考え方も教えた。とにかく、私が成果を出せば、その度魔族、人間族共に崇められ、柄にもなく女神としての自信が心の中に湧き上がってくる日々が続いた。そんなわけで、私の自信と共に女神としての行動も板についてきた気がする。私のこの気持ちを増長させるのが、魔族の王であるライラの存在なのかもしれない。
「やっぱり自慢のお姉様です!」
「そうかな」
私の事務室で、ライラと2人っきりの幸せの時間。ライラの言葉に少し謙遜の色を見せたが、内心はとても嬉しく、"女神らしくしなきゃいけない"という気持ちがなければ、今にも舞い上がってしまっていたかもしれない。
「女神様、嬉しい時は無理に澄まし顔しなくても良いと思います。嬉しさを堪えた女神様の表情は些か滑稽です」
グルマーニャが新しい事務書類を持って来ながら部屋に入ってきた。相変わらずどこまでも真っ直ぐな言い様だが、きっとこれは彼女なりの優しい対応なのだろう。が、私はなんとも言えぬ恥ずかしさに苛まれた。
「私は無理やり澄まし顔にしようとしてるお姉様も最高に愛おしいと思うわ。ねぇ、グルマーニャ、想像して、純粋でハツラツとした御心の少女が常日頃からこんなにも女神たらんとして下さそうとしている様を」
ライラの発言にグルマーニャは、ハッと息を飲み、私をジッと見つめた。私はライラの発言とグルマーニャの熱い視線に恥ずかしくて死にそうになった。こんな精神攻撃をしてくるとは…、流石は魔王です。精神攻撃で、私の顔が文字通りの真っ赤になった頃、グルマーニャは口を開いた。
「おかしな事かもしれませんが、少女というよりは少年みたいな気もします」
瞬間、心臓が止まった気がした。
私、いや、俺はこの一言に恐ろしい恐怖を感じた。それは氷の様な冷たさが全身を走った様な感覚だった。
「何を言ってるのグルマーニャ。こんなに美しい少年なんているわけないでしょ。ねぇ、お姉様」
ライラは陽気に私に言葉をかけるが、私は頭が働かず、どう答えたら良いのか分からず、苦笑いを浮かべて返した。
「ほら、グルマーニャ、お姉様が対応に困ってますよ」
「これは失礼」
グルマーニャは、反省の色の見えない謝罪をした。
しばらくして、ライラは魔族のみの会議とやらで私の部屋を出ていき、グルマーニャと私だけが残された。私はグルマーニャに聞いた。
「もし、私が男だったらどうする?」
「その質問は、もし私がゴーレムじゃなかったらと同じくらい無意味な質問だと思います」
ピシャリと言うグルマーニャの男らしさに私は何も言えなくなってしまった。正直なところ、もう少し気の利いた事を言ってくれてもいいのではと思い、私はグルマーニャを見た。すると、グルマーニャもこちらを見ていたのか、目が合った。その目は私と同じ目だった。私は上から下までグルマーニャをガッツリと見た。
「もうほとんど完璧に私と瓜二つ…」
彫刻の様だったグルマーニャは、それはまるで、人間のような質感でいて、私と瓜二つの姿をしていた。流石は女神型ゴーレムとでもいうべきなのだろうか。いや、でも、ゴーレムって数週間もしないうちにこんなに瓜二つになるものなのか?
「私は女神様を四六時中、寝るときだってずっと観察していたのですから当たり前です」
えっ、寝るとき?まさか、いつも決まった様に起こされてるのってずっと側で私を見てたからなのか!私は背筋が凍った。思えば、ゴーレムは睡眠を必要としないらしい。ということは…いや、考えないでおこう。
すると、グルマーニャが顔を近づけた。
「何を想像しているのですか。ずっと側で観察するのは、ゴーレムの基本です。私が怠ける訳ありません!女神様が、寝言を言ってるときだって、お風呂場で変な歌を歌っているところだって、私は知っていますから。もちろん、性格的なことだけではありません。どこにどう毛が生え始めているとか
「も、もういいからそんなに喋らないでください」
私は慌ててグルマーニャの発言を止めた。ゴーレムって本当に怖い。するとグルマーニャはゆっくり言った。
「先程の女神様が仰られた"私が男だったら"という質問に意味なんてありません。なぜなら、男であるはずなんてないのです。それは心から身体の隅々まで観察した私が言うのですから間違いありません」
でも、その答え私としては何とも言えぬ悲しさに満ち溢れていた。百歩譲って、身体は女だとして、心まで男じゃないと否定されるのって元男として情けない限りだ。私は微妙な表情をグルマーニャに向けた。すると、グルマーニャはため息を一つ吐いてから言った。
「訂正します。心だけは、少年の様に純粋で、ライラ様の様な年頃の美しい女性の身体にサカってしまうというのは薄々感じています」
すると、私は「えっ、」っと声を漏らしてしまった。心なしか安堵というか、不思議な自信が湧き上がってきた気がする。それを見たグルマーニャは段々と怖い顔になった。顔は私と同じはずなのに、信じられない程に恐ろしく、目はほんのり赤みを帯びていた。それから私の襟首をゴーレム特有の石の硬い腕と力で持ち、顔を近づけた。
「女神様、私は今は女神様にお仕えしておりますが、その前に魔族であり、魔王ライラ様に忠義を尽くす者です。ライラ様に良からぬ事が起きぬ様、悪しき芽は一つ残らず摘み取るのも使命の一つです。女神様、私はライラ様の為、今、この場で、貴方を"本当の女"にしてもいいのですよ!」
瞬間、恐怖で全身の力が抜けた。
不思議と下半身が暖かい液体で濡れており、グルマーニャは無言で私を離し、この部屋から急いで出ていった。私はストンと膝下から崩れ落ち、水溜りの上にチャポっと座ってしまった。
思えば、私は純粋にライラを救いたいって一心で今この場まで来たが、それはグルマーニャの様なこの世界の者にとっては極めて怪しいヤツって写るのも不思議ではない。しかも、ソイツは魔族と人間族の間を取り持つなんて、非現実的な変な事を言いつつ、ライラに心奪われる甘い生き物だ。そう考えると、グルマーニャがあんな態度になってしまうのも無理はないかもしれない。私は頭の中だけでも、現状を把握しようと努めた。
しばらくすると、身体がようやく恐怖から抜けきった様で、震えながらも動かせる事に気づいた。私は、自分の失態を誰にも気づかれないように掃除した。それはとても羞恥なプレイであった。心の底から、異世界を後悔する程に恥ずかしかった。
ライラは魔族での会議のあと、ご贔屓のスミナレ商会にラスタの鉄鉱石輸出先を取り決めていたのと、私の研究成果の一部公開をしたそうだ。これで益々今後のラスタ発展の布石が増えたという感じだ。ライラはきっちり地盤を固めているわけで、私もラスタ都市内やアーブラムで更なる成果を上げるため、がむしゃらに行動するとこを決めた。
そして、数日が過ぎて、ラスタの都市計画は進んでいった。そんなある日である。
「お姉様、お時間のある時で構いませんので、久しぶりに二人でお食事でもいかがですか?」
「ごめんなさい。ライラ、今日も今から鉄鉱山の方へ行くの」
ライラのお願いに、私は俯向きながらそう答えた。すると、ライラは、元気な声で答える。しかし、その元気な声は事実と真反対の気持ちである事は知っている。何故なら、最近のライラ様は元気がないという話がラスタの魔族中で噂されているとのことだ。悪いことしてるな、私は更に凹んだ。
「いえいえ、お姉様が謝る必要なんてありませんわ。お姉様はいつもみんなの為に働いているんだもの。私がお姉様の足を引っ張る様な真似をしてはいけないですよね」
「女神様、お時間です。それでは、ライラ様、私も行ってまいります」
グルマーニャの声がする。私はライラに向けてゆっくりと手を振った。
私とグルマーニャは試作機兼ラスタ・鉄鉱山間移動車に乗り込んだ。少し前に数台の試作車は完成し、ライラ・鉄鉱山間のみ運用可能なトロッコ的なのが開通したのだ。そのおかげでラスタの都市計画は大幅に前進し、魔族、人間族共に活気に満ち始めていた。その一方で、私はグルマーニャとの一件以来、気分がどんどん落ちているのは言うまでもない。出来ることなら、グルマーニャとは一緒にいたくない。
車には、私とグルマーニャ、それに数人のゴブリン系の魔族がいた。私は一応女神なので、少しだけ椅子がフワフワしている。しかし、心は言わずもがな。
「女神様」
ビクッと私は全身で反応した。車内は大抵のゴーレムが数人で乗車出来る事を前提に作られているため広いが、椅子は2つしかなく、私が一つだけ使っている。他の皆は、車内にもたれかかっている状態だ。私は出来るだけグルマーニャを見ようとしたが、何故か身体が言う事を聞かず、結果的に俯き加減で口を開いた。
「どうしたのグルマーニャ」
「女神様、貴方は本当に素直な人ですね」
私はまたビクッと全身を鳴らした。私は身体をズラして少しだけグルマーニャから距離を置く。
「女神様、私はもう、あの時みたいな事はしません」
私はそれを聞いて少しだけ安堵した。それからゆっくり顔を上げてグルマーニャの顔を見た。グルマーニャは話を続けた。
「心というものに理解がないゴーレムの私にも流石に女神様とライラ様が落ち込んでいる事くらい分かります。そこから考えるに、女神様が無理やり仕事を詰め込んで、ライラ様と距離を置こうとしていることも分かります。きっかけは私との事なのでしょうね」
グルマーニャは私を見ずに車の進路だけを見つめた。
「現状、ライラ様が選んだ正室が女神様、貴女であるとするならば、これはとても深刻な事です。いくらライラ様がサキュバスの血を引いているからと言って、相手が女性では何の意味もありません。ライラ様もそれを分かって女神様をお姉様と読んでいるのでしょうが、サキュバスは一度目をつけた獲物は離さないのが世の常です。本当の事を言うと、私はそんな貴女をライラ様に近づけたくはありません。ですが、私はライラ様がこれ以上苦しんでいる姿を見ることは耐えられません。ですが、何度でも言うようですが、魔族の王族は今やライラ様だけなのです」
すると、グルマーニャと車に乗ってた魔族全員が私の方へ向いて頭を垂れた。
「今回の件、何がどうであれ、私グルマーニャがライラ様のお気持ちを傷つけたも同然。女神様の御前にて、償いをさせていただきたく思います」
すると、一人のゴブリンがどこからともなく大きなハンマーを取り出した。
「待って!!!」
私は叫んだ。
「今、グルマーニャさんの行動理由を知りました。グルマーニャさんは、魔族の将来を考えて行動したと言う事で間違いないんですよね?」
すると、ゴブリンが低いワイルドな声で言った。
「グルマーニャの理念は同じ魔族として、誇らしい限りだ。しかし、その結果、魔王様の御心を傷つけてしまった罪は非常に重たい」
私は言い返す言葉がなかった。すると、グルマーニャはスッと目を閉じて、言った。
「女神様のお心遣いに感謝します」
ゴンっと一つの大きな音
その音と共にグルマーニャの上半身はハンマーで簡単に砕かれた。私は何も言えず、何も出来ず、ただグルマーニャが粉々に砕かれるのを見ることしか出来なかった。衝撃のあまり私は、鉄鉱山へ到着するまで目を開ける事が出来なかった。あの音と共に心が止まったかのようだった。すると、声がした。
「女神様」
それは低いワイルドな声ではなく、聞いたことのある声をしていた。私は急いで振り向いた。
するとそこには、ロリな私がいた。
「え、」
私は思わず変な声を出してしまった。するとワイルドな声でゴブリンが解説してくれた。
「女神様、恐れながら説明しますと、ゴーレムってのは厄介で元々岩や土が集まって出来た集合体だからか、火山に落としても死なない。その代わり、こんな風に砕けば、数十年この不便な姿のまま。だからゴーレムの場合はこの様に砕いて小さくするというのが処罰の方法だ」
私はグルマーニャを見た。すると、美幼女は顔を真っ赤にして私に手を伸ばした。
「女神様、仕事です。早く終わらせてライラ様の元に参りましょう」
すみません。
グルマーニャさんを幼女にしてしまいました。




