第22 グルマーニャ
かなり間が開いてしまいました。
すみません。
頑張ってコンスタントに書いていきたいです。
女神とは何なのか。やはりよく分からない。女神を記した文献では、世界創生時から存在し、世界のバランスを保つ役割を担う存在と記されている。しかし、女神について記述している文献は少なく、名前も分からない。しかしなぜかどの種族の神話や文献にも存在し、決まって同じようなことが書かれている。世界のバランスが乱れる直前に姿を見せるというが、有史以来未だ登場したことはない。果たして本当に女神など存在するのか。存在するとして、どんな姿をしているのか、どんな性格で、どんな言動をするのか、私に教えてほしい。これは女神型ゴーレムである私にとって非常深刻な悩みだ。
ゴーレムは、模した生き物を真似ることが定めだと言われている。模した生き物を演じることのできないゴーレムなんてとても哀れな存在だ。それが今の私である。ゴーレムはこの世に生を受けた直後にお告げで自分が何の生き物を模しているのかを知る。私はこの世に生を受けた段階で”女神”という悲しき言葉を発していたと言う。そのおかげで、私はこのまま演じることのできない哀れな女神型ゴーレムとなったわけだ。もしかして間違ったお告げを受け取ったのかもしれないし、私が言い間違えたのかもしれない。皆が聞き違いをしたのかもしれない。もしくはそれらの要因が絡み合い悲劇を生んだわけなのかもしれない。しかし、今の私にそれを確かめるすべなどない。仕方なく、私は今も図書館で女神についての文献を漁る。
悲しきかな現在は外壁の鐘の音が鳴る緊急事態だ。しかし、私はこの図書館に隠れることしかできない。それも私が、女神の姿が、人間の少女という極めて弱く、筋力もない姿だからに他ならない。私はこの不甲斐ない姿を時に呪ってしまう。しかし、そんなことをしても何にもならない。だから、極力このようなことはしない。ゴーレムは理性的で合理主義な生き物だ。そんな非生産的なことをしていてはゴーレムの失格だ。私は今できること、すなわち、図書館隠れて、文献を漁ることだけだ。そんなわけで私は図書館の一室である旧魔王ライラ様のお部屋に籠り、本を読んでいた。
そして、急にこの部屋の扉が開けられた。そこには、私がいた。
正確には、私に似た何かがいた。小さく、細く、狩りも満足に出来そうもない身体に、洞窟で暮らしていたのかと感じるほどに白い肌。険しい外界でどうやって生きてきたのだというほどに儚い生き物。まさに私とでも言うべきものが、そこにはいた。それは、ただひたすらに立ち尽くし、だらしなく口を開け、こちらをただ茫然と見つめていた。
なんだこれは。私はこれほどまでに間抜けな醜態を皆に晒してきたのか。私は胸の奥から沸々と怒りが浮かび上がるのを感じた。
「あなたは誰だ?」
私は強く言い放った。するとそれは、ビクッと身体を震わした。その姿を見て私の怒りはさらに増した。
すると、それの後ろから同じ程の背丈の者がしなやかに前に出てきた。私はその人物を知っていた。
「魔王…様…」
この図書館の主にして、我々魔族の王ライラ様。そのお姿は、この図書館のいたる所にある絵画と変わらず、妖艶な美しさを兼ね備えていた。封印された時間を除けばおよそ20年余りという魔族から考えたら赤子同然の年齢にして我々魔族のことを慈しむ高貴なるお方だ。
あまりにも衝撃的な出来事に私はとても驚き、一瞬、言葉を失った。しかし、私もゴーレムだ。素早く魔王様の前で跪いた。
「魔王ライラ様。私は女神型ゴーレムのグルマーニャでございます。先ほどの無礼お許しください」
「無礼を許しましょう。…今なんと言いましたか?」
初めてのご対面が謝罪とは誠に恥ずかしい限りである。しかし、ライラ様はそれをお許しになられた。私は安堵と共に、ライラ様の質問について率直に答えた。
「女神型ゴーレムのグルマーニャでございます」
ライラ様は驚いた表情をされた後、後ろを振り返り、私と似た“それ”を見た。そして、“それ”も驚きの表情をしていた。この瞬間、私はもどかしさと悲しさを同時に感じた。
“それ”は私の前にゆっくりと歩いてくる。その歩き方はやはり戦士の歩き方とは全く異なる無駄のある歩き方だ。“それ”は口を開いた。
「初めまして、グルマーニャさん。私は女神です」
正直に言うと、私はどうしようもなく私の運命というヤツを憎んだ。女神はやはり力をまったく感じさせることのない無力で、それでいて警戒心すらなく、だらしない生き物であった。そして私はそんなヤツを模したゴーレムだ。ふと、私のほほを涙が流れた。
「どうしましたか」
女神はすかさず言った。こんなことで素早く対応するな。しかし、ライラ様の御前ではそんなぞんざいな言葉を使うことは出来ない。加えて、女神も私の為に善意発した言葉だ。そこまで私は非常識ではない。しかし、一つだけ抑えられなかった言葉が私の口から洩れてしまった。
「やっと…、会えた…」
そして私は本当に女神型だったのだと安堵した。その安心感は、私の身体中に溢れ、気づけば涙となって流れていた。私はすかさず手で目を覆った。すると、暖かい有機物が私の身体を覆っていた。手を開けてみると、女神が私を優しく抱擁していた。
「事情はよく分かりませんが、泣きたいときは泣いたほうが良いのです」
女神はそう言っていたが、ライラ様の御前で突然泣いてしまう自分がとても恥ずかしく、私はゆっくりと女神の腕を下し、離れた。するとそれを見計らったようにライラ様の御前に師であるケンタウロス型ゴーレムが跪き皆に聞こえるように言った。
「ライラ様、グルマーニャは我々ゴーレム族初の女神型ゴーレムなのです。ご存知の通りゴーレム族には模した生き物に敬意を払い、その習性や特徴を模倣することを伝統としています。しかしながら、グルマーニャの場合、伝説の一説でしか語られない女神様を模してしまったということから、唯一伝統を貫くことが出来ない悲劇のゴーレムであったのです。そんな中、今宵、その女神様に出会えた喜びが、ライラ様の御前というでありながら、勝ってしまい、こうして泣いてしまったのであります。どうか、この無礼をお許しくださいませんでしょうか。この命に代えて、お願いしたく存じます」
師よ、私はなんと情けないことか。この様な素晴らしき師にこの様なことを言わせてしまうとは、私は自分が恥ずかしく、この数分を激しく後悔した。
ライラ様は、ゆっくりと口を開いた。
「ゴーレム達よ、私は自分の部屋をお姉様である女神様に見せるためにここに来たのであり、誰かを罰しようとここに来たのではありませんよ。でも、気が変わりました。あなたには罰を一つ与えます」
私は雷に打たれた様な気がした。
「罰は、私たちがここに滞在中はずっとそばにいることです!」
ライラ様は少女特有の愛らしい悪い顔をして私に言った。そのあまりの可愛さに私は見惚れてしまった。そして、その隣には同じくうっとりとした顔をした私、いや、女神が突っ立っていた。それを見て私はなんだか恥ずかしくなってしまった。しかし、これはライラ様の下で直々に働けるということに他ならない。私は初めてこの女神の姿で良かったとほんの少し感じてしまった。




