第21話 ラスタ
ゴーレムの街"ラスタ"は、先の大戦で魔族が負けて以来、人間族から見つからないように息を潜めるようめたそうだ。戦後、人間族に占領された魔族の街の者は大人子供関係なく惨殺された。ラスタはそうならないためにその存在を魔王様の大魔法によって封じ込められたそうだ。これを知るのは魔王様とラスタに住む私たちゴーレムのみ。それ故、私はこの街の外には出たことがないし、出る気もない。外の世界は、魔族の何もかもを滅ぼした傲慢な人間族がいる。ゴーレムの恩人である魔王様は人間族によって幽閉されたと聞く。私はそんな悲しい世界には、何も期待していないし、行く気も起きなかった。
あの日が来るまでは、
その日は、いつもと同じ様な始まりであった。
戦後生まれの女神型ゴーレムである私は、師匠の言いつけ通り、女神としての技能を磨いていた。自身が模した対象を演じることは、私たちゴーレムにとってとても重大なことだ。いわゆるゴーレムの美徳の一つであり、無性生殖かつ自然発生するゴーレムにとって他者と自身とを分け隔てる"個性"を表現するものだ。これを演じるために私たちゴーレムは、師弟関係を形成し、自身の個性獲得に努める。
今日も女神になるように努力していた。と言っても、正直なところ女神という生き物がどのようなものかは誰も分からないし、資料も少ない。分かることは、人間族の少女の姿を模し、世界のバランスを保つ存在であるということのみだ。果たしてこの生物はどのように他者と会話し、振舞うのか、そしてどう呼ばれていたのかもすべて皆知らない。なので私の努力というのはつまり、街の古代図書館で女神についての文献を探すことである。
この古代図書館は元々、魔王様の別荘地であり、魔王様自ら外の世界の書物を収集管理していたらしい。魔王様不在後は、街の図書館として機能しているが、今でもその当時の別荘といての名残はあり、所々魔王様ご家族の絵画が壁のあちこちに残っている。特に、最後の魔王であるライラ様のお部屋はとても以後ごちが良い。幼き身で魔王の座に就いたライラ様は、魔族を率いる者として人間族に捕らえられるまで魔族の王として立派にお勤めされていたとのことだが、この部屋だけは、ライラ様の少女として一面が感じられる趣深い部屋である。今日も私はこの部屋で文献を読み漁る。
「グルマーニャ、進捗はいかほどか」
師のガイリアの声が聞こえた。
「師よ、進捗は未だ一遍たりとも得られてはいない」
私の言葉を吹き飛ばすように、師は言った。
「仕方がない。グルマーニャへ課せられた課題はとても難儀なものだ。早々見つけられるものではない。幸い、我々ゴーレムは永遠に等しい長寿が約束されている。いつか見つかるであろう。その日は今日ではなかったということだけだ」
ケンタウロスのゴーレムである師の身体同様大きな懐の深さに私はいつも救われている。
「慰めの言葉、感謝する」
私は師を敬う気持ちをもってお辞儀をした。礼節を重んじることも私たちゴーレムの美徳である。
「それにして、グルマーニャよ、ライラ様のお部屋はお戻りの日まで状態維持のため使用禁止のはずだが」
「その通りです。師よ」
「ならば何故ここにいるのだ?」
「物は使われてこそ存在意義を持つ。なればこそ、お戻りの日まで私が部屋を使用することで部屋としての存在のまま保ち続けるというのはどうですか、師よ」
「部屋としての存在意義を保ち続けるということか。しかし、言葉にはその範囲が決められている。ゴーレムは空を飛ぶことが出来ないが、空を飛ぶことが出来ないからゴーレムということではない。部屋に関しては、なにも使われていない一室も使われている部屋と同様に部屋であり、存在意義の是非は関係がない。しかし、存在意義という発想は面白かった」
「お褒めの言葉、感謝します」
カーン
遠くから鐘の音が聞こえた。
「鐘の音? グルマーニャ、街の外壁の鐘の音がしないか」
「しました」
「また、何者かがラスタに近づいているのだろう」
ラスタの街を取り囲む外壁の東西南北にはそれぞれ監視塔があり、鐘の音をもって不振なモノの侵入を皆に知らせる。一つ目の鐘の音は、不審者の接近、二つ目の鐘の音は、ラスタを取り巻く大魔法への干渉、三つ目の鐘の音は、不審者のラスタへの侵入だ。しかし、戦後から鐘の音は一つ目しか未だに慣らされてはいない。
しかし、今日はいつもと違う。
カーン
二つ目の鐘の音がした。
「グルマーニャ、聞いたか、今の音」
師の声は不安を含んでいた。それは私とて例外ではなく、心臓というものがあるのならきっといつのも倍の速度で波を打っていただろう。
「師よ」
私は師を見た。
カーン
「三つ目の音です」
「グルマーニャ、この図書館は街の中心部だからまだ安全だ。時がくれば皆と共に臨機応変に行動しろ。私は状況を確かめるため、街議会に行く。何か分かったらすぐに戻る。それまで待っていろ。何事も決して、選択を間違えぬよう見極めることが大事だ」
師はそういうと、図書館の広間に飾ってある大戦時の槍を持って出ていかれてしまった。師は、この街では一議員としての役割を司っている。街の一大事はならば行くしかなかろう。私は、未だ修行中の身なのでこのような非常時でも特に役割を持ってはいない。しかし、私も多少なりとも状況を知るのは必要だろう。私は図書館で誰かいないか探した。しかし、昼間から図書館にいるゴーレムはいない。それは夜間に外に出ないことと一緒で、眠ることがないゴーレムにとって昼は演技の練習で、図書館は夜間調べものに使うことが一般的だ。やはり誰もいなかった。
仕方なく、私はライラ様の一室に戻り、おとなしく文献漁りへと戻った。
~
トーキョーの景色が一遍、そこは中世ヨーロッパ的世界で、そして馬車での移動の果てに、石造の世界へと迷い込んだ。
これがここ一か月くらいの自分の状況である。挙句の果てには、男だというのに少女の姿になり、気づけば女神と呼ばれている。こんなテンデモ状況なのに、
「お姉様、ラスタは美しいでしょう」
ライラははじけるような笑顔で言う。天使か!可愛い。あ、魔王だった。
魔王ライラは、女神だからか俺、いや、私のことをお姉様という。何がともあれ慕われるというものはとても心地よい。ライラの可愛さの前ではもうどうでもいいことだ。
頭から話がずれた。そろそろ現在の状況について話そう。
魔族復興の為、ライラと私は魔族の隠れ里ラスタへとたどり着いた。ラスタは、町全体が巨大な岩山に擬態しており、ライラとなぜか私だけがこの岩山を触ることが出来た。この岩山を触ることによって、気づけばライラと私はゴーレムの街ラスタと思わしき場所に立っていた。前情報でゴーレムの街って聞いており、四角いブロックの生き物だらけの所かと思っていたが、実際は様々な生物を模した精密な石膏が暮らす街だった。石膏と言っても、生き物と同じ色をしており、ライラに言われるまで彼らが石膏だとは思わなかった。
私たちがここについてからしばらくした後、リーダーと思しき巨人の石膏が私たちの前に現れ、ライラの前に跪いた。やはり、ライラは魔王なんだなと私は再確認した。
そして、今はライラの別荘へと向かっている最中である。
様々な動物を模した石膏たちに囲まれ、歩いているこの状況、少し怖く、私の背筋が丸くなる。しかし、王族らしく綺麗に歩くライラの姿を見てしまうと、お姉さんとしての何かが痛む。
石造りの巨大な街道を抜け、吹き抜けた中央広場の先にはこれまた気品あふれる屋敷があった。
「ライラ様、現在は図書館としても使用させていただいております。しかし、ライラ様のお部屋は昔と変わらぬ姿を維持しています。準備が整うまでしばし、お部屋でお待ち下さい」
「まあ、とても嬉しい。本当にありがとう」
「いえ、滅相もありません」
ライラは私の方へ振り向いた。
「お姉様、こちらです」
ライラは私の手を握り、楽し気に道案内をした。本棚と繊細な展示物や絵画、何かしらの様式を感じさせるような廊下、どれもこれも見ごたえのあるものばかりだ。
そして、部屋へとたどり着いた。
「ここが私のお部屋です」
ライラが扉を開けるとそこには、
私がいた。
タイトルが決まりません涙
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