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女神になった俺は、魔王と一緒に平和な世界を実現する⁉︎  作者: 猫野ピート
魔族を復興させたいので、知恵を絞った。
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第14話 クラーラさん (飲み水の確保編)

私には大事な任務がある。それは私の目の前にいる少女2名の監視である。たかが監視と侮るなかれ!これは先週ブラム侯爵直々に頼まれた大切な任務である。これもすべて私が騎士学校を優秀な成績で卒業したエリートだからか、私は自分が誇らしい。そんなわけで私は今のこの現場にいる。

現場とは、ブラム城の一階の応接間、今は魔族に使わせているというルノワルテ調の荘厳な部屋である。騎士とて一握りのモノしか通されないというこの素晴らしき応接間に、少女が2人とメイドが1人、そして私である。とにかくこの素晴らしく格式高そうな場所であるにもかかわらず、少女たちは水遊びをしていた。

一人の少女が言う。


「やっと水が透明になった!」


その顔は満足そのものであった。人形の様な整った顔に金色の髪色、天使と言っても信じてしまうくらいの美貌に無垢な笑顔。さすがの私もこの少女には負けたと言わざるをえない。そしてそれに呼応するように白髪の少女が言う。


「おめでとうございます。お姉様!」


白髪の少女も同じく美形で、こちらは歳よりも大人っぽく見える。どちらかというと金髪の少女よりも上品な立ち振る舞いで家柄の良さを感じる。悔しいが、こちらにも負けたと言わざるをえない。


なぜブラム公は私にこの少女達の護衛ではなく監視を命じたのか。それは、金髪の少女が女神で、白髪の少女が魔王だからだ。魔王が女神を慕っているのはなぜか。それは魔族という闇の勢力に女神を引きずり込もうとしているからか?いや、違う。今ここにいる少女たちは姉妹といってもいい程の雰囲気である。魔族の王だから演技という線もあるが、詮索は任務ではない。私の任務はあくまで彼女たちの監視である。私はそれを全うするのみ。


ところで彼女たちは何をしているのかというと、騎士学校を優秀な成績で卒業したエリートたる私にも分からない。水遊びなど一介の騎士にはどうでもいいことだ。しかも、ドレスで水遊びはするとは中々奇天烈な少女達だ。やはり人間とは異なった理で動く者たちというわけか。我らが敬愛する神々の一端たる神であろうが子供は子供ということなのか。この一週間少女達の行動は自由そのものである。本を読んだり、水遊びをしたり、地図に線を描いたりだ。

そんなことを思っていると、金髪の少女である女神が申し訳なさそうな顔をしてやってきた。


「どうかされたか!」


私の声にビクっと震えた後、少女はフラフラしながら口を開く。少女の足取りは鍛えていないのが手に取るように分かる。その細く白い足では戦場を生き残れないぞ!


「あ、あのう、この瓶と炭と小石ってどのくらい調達できますか?」

「瓶と炭と小石?そんなのいくらでも調達できるだろう。して、そんなのがどうして必要なんだ?」

「それは飲み水や生活用水を作るためです」

「あなた方ならリムーブの魔法でどんな水だろうが浄化して飲むことが出来るだろう」

「それではダメなんです」


少女は強く言った。その挙動から私は彼女が全身に力を入れたということが分かった。何かよほど大切な理由があると見た。私は問うてみたくなった。


「ほう、して、その理由は?」


すると少女は一呼吸してから言った。


「当たり前ですが飲み水というのは貴重なものです。その水をきれいな状態で飲むことが出来る人間、即ち浄化の魔法が使える人間はごくごくわずかです。よってほとんどの人間にとってきれいな水を獲得するというのは難しいものです。このブラムの街の様に様々な場所に井戸がある土地に住む者には関係ないものかもしれませんが、井戸がない場所に住むモノは飲み水を川に頼るしかないのです。しかしながら、川の水には様々なモノが入っています。寄生虫や細菌は腹痛の原因にもなります。そのため魔法を使わなくていい水の浄化の方法が必用となります!」


少女は少し早口気味に喋っていた。今までこの少女がこんなに言葉を発しているのを見たことがなかった。だが、驚くべきはそこではない。まず、私たちが普段考えもしない水なぞについてここまで熱を持って話す人などいたことがあるだろうか。内容も驚くべきことに、この少女が目的としているモノが魔法の使えないただの一般人であるということだ。私は開いた口がふさがらなかった。

少女は一呼吸おいてまた話し始める。


「もちろん煮沸すれば、川の水も飲めるでしょう。しかし、害となるものの原因が生物由来ではなく別のモノ、例えば鉱物などだったら煮沸では飲むことはできないでしょう。北部のアーブラム北側にあるラムザ川の上流には鉄鉱山があります。そしてここからは推測ですが、このアーブラムの北部特にラムザ川周囲には都市がありませんね。ブラム城の図書館では、このアーブラムが人間の管轄下になって以来の20年間の歴史しか知ることが出来ませんでしたが、ラムザ川近くで度々原因不明の死人が出ていることが記載されていました。なのであまり人間が来なかったなど。

ライラの話によれば、数少ない魔族の隠れ村であるラスタはまだ残っているそれは北部のラムザ川に近くにあるとか。そしてそこは住む魔族はゴーレムの一族が住んでおり、他の魔族も飲むことが出来ない黄色の水のラムズ川の水を飲むことが出来るという。

そこで私は、このラムズ川には無機物が含有しているのではないか、そのせいでゴーレムしか飲み水を確保できないのではないかと考えました。そこでラムズ川の水を魔法を使わずに飲み水にできないかと私は考え、実行しました。そしてその結果がこれです!」


怒涛の話を終え、少女は私の方に二つのコップを差し出した。一方は黄色でもう一方は透明。


「まさか、こんなこと」

「そのまさかですよ。どうです凄いですよね。我ながらこんな簡単に解決してしまうとは拍子抜けです」


私は少女を見た。その少女の瞳も水と同じくとても透き通り、無垢な子供であることを隠そうともしない自然体な笑顔でしていた。


「君はいったいどうしてそんなことを」

「それは生きとし生けるモノが不自由なく生活できるためです」


急に女神の少女はぎこちない笑顔を向けた。それから魔王の少女の元へと向かっていった。その後ろ姿はまさに天使の様であった。揺れ動く金髪を眺めながら私は考えた。


立身出世を是としてきた自分にとって他の人間のことなど思ったことすらなかった。どうしてそんなことを考えることが必要なのか。彼らは単に何も考えず生きているだけでないか。身分すらなくただ生きているだけのものにそんな価値などあるのだろうか。先ほどの少女の水についての考察には知性を感じた。そこには騎士学校で習った騎士道とは別の筋道のある理のような者である気がした。私は急に問うてみたくなった。なにゆえ唯の一般人に目を向けるのか。


私は先ほどの少女の元に向かった。少女達は水を運ばせようとメイドに話しかけていた。私はそのメイドを押しのけた。


「メイド、どいてくれ」

「すみません」


すると少女達は私を警戒するように向き合った。好都合、私は金髪の少女問うた。


「なに故だ?」

「何がですか!」


白髪の少女が鋭く言った。こちらの少女も金髪の少女と同じく細く白い足をしており、今にも折れそうだった。加えて、小刻みに震えているところを見るとよほど私が恐怖を与えているのか。こんなので魔王とは情けない。


「君ではない。そちらの君だ。なぜ飲み水を作ろうだなんて考えた?それも魔法も使えない者なんかの為に」


すると、金髪の少女が口を開く前に、白髪の少女が言った。


「あなたはなんて愚かなのですか!」

「愚かとはなんだ!私は騎士学校を首席で

「あなたは本当に愚かです。その騎士は何のためにあるのか、そして国は何でできているかを忘れてしまったのですか。それはすべてその土地で生活する者の為にあるのです。これは魔族だろうが人間族だろうが同じこと、上に立つものはすべてそのことを考えなくてはならないのです」


そして白髪の少女は腰を屈めて下に手を伸ばした。その先には先ほど私が突き飛ばしたメイドにだった。私は言葉を失った。そして無性に自分が恥ずかしくなった。先ほどまで水遊びだと思っていたことが、実は民を思ってのこと。そして悪だと考えていた魔族の王に私の矮小な心に対しての批判をされた。魔族を抜きにしても、15歳の成人になるかならないかの少女達にだ。私はとてつもない惨めさを感じた。そして、自分の思いが先行し過ぎてメイドを気づつけてしまったこと。今までメイドの身を案じたことがなかった。そのメイドは痛そうに立ち上がっていた。本来なら騎士たる私が魔族たるこの少女から守るべきはずの民であるはずのこのメイドを私が、けがをさせてしまった。驚くことに私がえも知れぬ罪悪感を感じていたのだ。

この気持ちをどうすれば良いのか。


すると私に対して手が延ばされた。それは金髪の少女、いや、女神のモノだった。女神は言う。


「本当に愚かなのは自分の行いを正そうとしないことです」


メイドは白髪の少女である魔王に支えられ立ち上がった。それから女神は私に少し頷いた。私はメイドに向かって言った。


「すまなかった」

「騎士様、メイドの私なんかに恐れ多いです」

「いや、此度は私が悪かった。きちんと謝罪させてくれ。本当にすまなかった」


そのとき私は感じた。今までいつ謝っただろうか。騎士学校ではそんなことはしなかった。常に他人の上に立つべく周りを威嚇して生きてきた記憶しかない。幼少の頃か、記憶は定かではないが、不思議とひどく懐かしい気持ちになった。不思議と母上を思い出した。母上は、優し過ぎた。それ故早死にし、それと同時に父上が私を強く生きさせるために騎士学校に入れた。父上は猪のような人間だが、母上の様に早死にはしなかった。私は父上の様に強く長く生きるべく常に全力で生きてきた。しかし、私の心の中では常に優しかった母上の想いでがあるのは否定できなかった。だが、常に父の様に強く生きていかなければと私の気持ちがあった。それに何か気づいたような気がした。


すると私の頭を優しく撫でてくれる手があった。女神号泣しながら手を伸ばし私の頭を撫でていた。


「お姉様、本当にいつも泣いてばかりですね」

「だって、クラーラさん泣いてるんですよ。いつもキリっとした表情で睨んでてメイドさんにも冷たいクラーラさんがですよ。そんなクラーラさんがメイドさんにきっちり頭を下げてしっかり謝ってくれたんでしょ。何か分からないですけど、クラーラさんの中で何か成長したんですよ。エモーショナルですよ」

「お姉様は相変わらずというべきか本当に変わってますね」


女神の言葉がすごく恥ずかしいせいか涙が止まらない。それを受け止めるように女神は私を力強く抱きしめてくれた。私は女神の耳元で言った。


「今までの私は間違っていた」


すると女神が言った。


「そんなことありません。過去があって今がある。これから何をするかが重要です」

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