第10話 俺は女神になることを決意した。
今まで平和な日本で生活してきても今が危機的状況だっていうのは分かる。俺とライラ、リズを取り囲むように騎士達が周りを取り囲み、全員俺たちに抜けて剣を構えていた。この絶望的な局面をどう切り抜けるべきか、いや、切り抜けることが出来るのか?俺の額に汗が流れる。とりあえず時間を稼ぐほかない。
「クラウスさん、リズは関係ないと思うのでここから解放させてあげてください」
「いいだろう」
するとリズは俺の方を見て、一礼してから騎士たちの方へ恐る恐る歩いて行った。騎士たちは何とも言えぬ表情でリズを連れて行った。どことなく騎士たちの表情は緊張感に引きつられているようにも感じた。確かに、上司の命令だからって少女に剣を向けるということは気持ちのいいものではないのだろう。その辺の価値観は変わらいなってことなのか。俺は騎士たちをぐるっと一周するように見た。みなきちんと罪悪感でも感じているのか悲しそうな表情をしている。
「言い残すことはないか?」
クラウスが最後の宣告を言い渡した。
ああ、俺の人生もここで終わりなのか。最後に美少女と一緒にいれただけでもよしとするか。俺は目を瞑った。その時、俺の手をずっと握っていたライラの手から力が抜け、ライラが崩れるように倒れた。とうとうライラは切られてしまったのか。いい子だったのに本当に悲しい。少ししか一緒にいれなかったけど、本当にいい子だった。キリスト教ではないけど「アーメン」って言ってみた。それから俺は目を開けた。
「?」
目を開けた先には、クラウスが変な表情をして俺をライラを見つめていたという光景があった。クラウス含め騎士たちははまだ一歩どころか剣を振り下ろしてすらいなかったのだ。ライラを見ると切られたような跡すら感じられなかった。とりあえず俺は急いでライラの上半身を起こし、呼んだ。
「ライラ、大丈夫?ライラ」
そしてハッとした感じでライラが目を覚ます。そしてライラは言う。
「お、お姉様。私、あまりにも恐怖で気絶してしまっていたようです。魔王失格ですね」
ライラの目には涙が溢れてきた。そして、騎士たちも互いに目を見合わせている。これは騎士たちも動揺しているということでいいのか。俺はここで脳みそをフル回転させた。
俺はライラが言う「光と陰の力のバランスの為に天から遣わされた女神」というヤツで、この女神はライラの陰の勢力と俺たちの周りにいる騎士たちの光の勢力ともに信仰対象ではある。ということは俺の発言力は中々大きいのかもしれない。現状、騎士たちは陰の復興が平和の終わりって認識している。だが、確かライラは魔王でありながら戦争を望まなかったと言っていた。俺は確信した。ここに活路があるではなか!
俺はこの絶望的な緊張感の中、女神になることを決意した。
「ライラ、あなたは魔王失格ではありません」
「お姉様…、でも、」
「あなたは魔王として、人と魔族との戦争をなくすために色々頑張ってきましたよね。そんなあなたに誰も魔王失格だなんて言うことの出来る者はいません」
今の俺の発現を聞いた騎士たちがざわつく。騎士たちの構えていた剣の位置が少し下がったのを俺は見逃さなかった。これはいける。俺は確信した。そして俺は騎士の全員に聞こえるような声かつ優しさに溢れた感じで言った。
「人の子らよ、聞きなさい。現在、世界の光と陰の均衡は次第に失われつつあるのです。世界の均衡が失われると、この世は崩壊し、ありとあらゆる生命が失われるでしょう。私はこの世の生命を守るためにここに召喚されました。ここからはあなた方の知らない歴史について語りましょう」
俺は自信満々で立ち上がる。もちろん立ち上がる際には優しくライラの頭を撫でて女神アピールを怠ったりはしない。俺は大学院生活で鍛えたプレゼン力と機転ってヤツを見せる時がきた。中二病的なテイストと嘘八百を織り交ぜていく巧妙テクが必要とされるが、俺にとってはそんなの朝飯前だぜ…、っと自己暗示もかけておくことも怠らない。
「大昔、タンパク質と呼ばれる分子の集合体があつまって小さな小さな命が誕生したのです。何の話をしているかというとこれはあなた方、人や、その他の生命、果ては魔族と呼ばれる存在皆の祖先の話です」
クラウスが話を突っ切って言う。
「そんな変な話がありますか!女神様、人は神の身体を模して造られ、その体に魂が宿ったものだと聖典に書かれています。どういうことなのですか!」
なるほど宗教がこの世界には存在しているのか。俺は知識欲を抑え、切り返しを模索した。だが、これは模索するまでもない。なぜなら俺は女神なのだから。
タンパク質や分子のことをこの騎士たちが知っていろうが知っていなかろうが俺にはへでもない。なぜなら俺は女神なのだから。
俺は微笑した。すると騎士の一人が剣を落とした。
俺は歓喜に震え、心の奥底でガッツポーズをした。
「なぜ人が神に模して作られたという様なことが広まってしまったのかも、そのうち明らかになります。そしてそれを人の子が自ら手で見つけ出さなければいけないことなのです」
「我々は試されているのですか!」
「そうです」
俺は一呼吸ついて話を再開した。騎士たちは俺の言動に注意を向ける。
「先ほども言ったように、生命とは全てある1つの小さな小さなモノから生じました。始めは小さな者たちであはあったが、いつしか生命はそれぞれの場所に広がり、果てはこの星を覆うようになりました。生命が生まれる前、この星一人ぼっちでとても悲しいものでした。景色も今の様に素晴らしいものではなく、荒れたとても悲しいものでした。しかし、生命がこの星を覆うやいな、この星は一緒に生きる同志を見つけたとばかりに生命を歓迎し、共に生きることを誓いました。やはり誰しも一人ぼっちは辛いですものね。今となっては生命とはこの星にとってかけがえのない存在ということです。この素晴らしき愛を見た私たち神もこれを祝福し、生命に魂という贈り物をしました。この魂の輝きがこの星を暖かく照らしてくれますようにと」
騎士たちは俺の壮大な話に無理やりついていこうとしてるのか皆難しい顔をしている。しかし、俺は男には容赦はしない。
「人もそうであるようにこの星にも心があり、優しくしてほしい時だって、時には叱ってほしいときだって存在します。それが光と陰の魂です。優しいというのはとても美しく素晴らしいことです。しかし、そればかりでは人は生きてはいけません。時には激しくときには叱ってくれることがないととても悲しいでしょう?ライラちゃん達はこの星にとって魔族とはそのような力を持つ存在なのです」
「しかし、女神様、魔族の存在がこの星にとってとても重要なのは分かりました。ですが、20年前まで我々は互いに戦をし、我々の同胞は幾多の血を流してきました。もうこれ以上こんな思いをしたくないのです。もし、魔族を復活するとしたら神、いや、この世界は我々の血を欲しているということなのでしょうか!」
「それは違います!」
騎士たちがざわつく。
「あなた達には見えていないのですか?この魔王である少女が争いを望んでいないということを。この少女は自分の民だけでなく人のことにまで考え、皆の幸せを願っていることを」
ライラが足元で泣いていた。私はライラに手を差し出し、優しく立たせた。
「人の子らよ、選択をしたまえ、
いま私たちを切り殺し、この世界を滅ぼすか、この少女ライラの夢である人も魔族も共に共存する世界を作り、この世界を守るか」
私はクラウスに詰め寄った。クラウスの顔は青ざめていた。
「女神様、私の一存では決めきれません。お時間をいただけないでしょうか」
俺はこの絶望的な局面を勝利した。
頑張って続けていきたいです。