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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今日から学校と仕事、始まります。①莞

鉄橋、絶叫、自爆、支払

作者: 孤独

その体は地を踏みこんでも、ブラブラ、ユラユラ、

缶ビールを片手に道路という、広くて長い鉄橋の上の中央で複数のターゲットを待つ男が一人。


「外国ってのは随分と荒れてんだなぁ」


交通整理が成され、不自然に車は上下線に走ってはいない。確かに規制を敷いたようだ。

鉄橋で待つ中年の男。獅子の刺青を手の甲に刻んだ、山寺光一は少し酔いしれた状態で待つ。眼を凝らさずとも、誘導してくるだろう車の音と振動が、閑散とした鉄橋の上ならばすぐに伝わる。

広い川、強い横風の中。



ブイイイイィィ


「お、来た来た」


複数の暴走車はやってきた。

時速100キロは超えている車があるというのに、光一は缶ビールを川に放り投げて、待ち構えようとしていた。


「なんだ、あいつ?」

「誰だ!?」

「!あれは……」


車の数は5台。

米国に潜んでいた過激派テロリスト達であり、存在を嗅ぎつけられた警察やFBIに追われている状況。民間人の被害はすでに起きている。

彼等も光一の存在に気付くも、備えられた銃火器や禁止薬物の投与の準備をしていた。完全に光一をこのまま蹴散らすとしていたが、



ゾワリィッ


武器も、状況も、圧倒的にテロリストが優位であっても。勝敗や生死を決めるものでないと。本能が警鐘する野生の殺意を感じ取る。感じてからの行動、ちょっと先の未来をイメージしていく各々。

タダ者ではないと察知してからではすでに遅く、光一の拳。掌は



ズポォッ



液体でも掴んだみたいに容易く、橋のアスファルトの中を突っ込んでいた。

とても軽く


「よ」


それほどの、手軽な気合と共に。光一とテロリスト達が乗る車の鉄橋の中央が、陥没し、崩壊していく。軽さを覆す豪快な崩落音と崩壊する鉄橋。



「うおおおぉぉっ!?」

「止まれーーー!」



深く空いた穴に、100キロ越えの車達が止まれるわけもない。ましてや、スピードを上げて飛び越える距離でもない。全ての車は川の中へ、悲痛の叫びを挙げて一直線に落ちていく。

光一は自ら崩した穴に落ちたが、すぐに昇ってきた。そこまでまぬけではない。そして、テロリスト側にも珍しく


「良い反応じゃねぇか」


光一、賞賛して相手と対峙。こーいう喧嘩よりの戦闘が、光一の肌に合う。


「俺への狙撃も、ブレーキも、飛ぶことも、不可能と一瞬で判断」

「…………」

「車から瞬時に脱出。同志を瞬時に切り捨てる辺り、グループのまとめ役だな」


言葉は通じなかったが、分かったことはある。強いってことだ。

テロリストは光一を知っていた。


「鵜飼組の山寺光一か。今は、アメリカで活動していたか」


銃を置き、穴を挟んだ間合いで睨み合い。背後への警戒は怠っていいくらい、前方にいる強敵に注視しなければならない。

ここから川に飛び込んで逃げ切れるか?いや、川に行けば光一と戦わなくて済むが、包囲の突破は困難。奴を倒して強行突破。幸い、



ト―――ンッ   スチャッ



車でも跳べない、大きな穴。それをこの主犯のテロリストは、自らの肉体を持ってして、高く跳んで飛び越えた。彼もまた、光一と同じ”超人”



「正解だな。俺に背を向けりゃ、あの世行きだ。川に落とす前提だから、落ちれば終了。選べるのは俺とのタイマンしかねぇよ。ま、俺の勝ちだが」

「ふん……」


その差はすでにハッキリとした中で、いかに生き残るかを考えて。勝つこと。殺すことに直結させる。

テロリストがテロリストである由縁は、非情でどんな手段も問わないところであろう。光一の戦闘は、喧嘩の延長上。絶対の強さを持ってして、ねじ伏せるスタンス。そう捉えられる。

間合いは喧嘩に良い、5m前後。


「あー、そうそう。あれだ」


光一はテロリストの戦意を流そうと、唐突に明後日の方向に視線と指を指した。よそ見を誘ったが


「なにがある?」

「……言葉通じないと意味ねぇな、よそ見」


ため息ついて、お茶目なことを反省。髪をかき、光一から仕掛ける気配を見せない。

意識を目の前にいる光一に向け、警戒を強め……。ぼやけていく光一に……。


「!!」


最初に襲撃されていたから感じた、殺される存在があり、飛び退いた。目の前にいる光一の方へと逃げるようだった。瞬間移動というものではなく、緩急をつけた移動テクニックと強烈過ぎる殺意をコントロールした二重のテクニック。

有効な心理的な駆け引きをやってきた後で、有効とか云々以上の身体的な駆け引きをしてきた。


一瞬で相手の死角に移動し、襲撃してきた。


「はっはっ、よく反応しやがった!タダもんじゃねぇよ!」


調子をあげられる、久々の敵。光一にとっては食い殺せる敵。逆にテロリストにとっては、食われる敵。

唐突に現れた光一の攻撃を避けたが、次々に自分の周囲からやってくる確かな実体からの殺意。残像というより、分身と言っていい。たった一人で包囲が成されていた。


「くっ」


橋を一撃で陥没させた拳、これに触れるだけでも危険。とはいえ、絶対的な身体能力の差をより実感する。当初の読みが甘い。甘すぎる。そして、光一があまりにも強すぎるからこそ、彼にとっては正しい感情からの答えが出てくる。

戦闘はまだほんの、10秒程度。

全力で戦い、気力を最大限に押し上げていれば、疲労も早い。動いている質も量も違っていても、明確な差が



ベギイイィッ



「!!」



分身の、拳一つ受けるだけで、肘がイカれる。


「へっ」


あとほんの一瞬。光一に緩みというより、ここから残り数秒しかない戦いに楽しさと悲しさを合わせた表情。決意を固めた、まぁ、そうしてできているテロリストの感情の差。

決死の覚悟に相応しいと、賞賛されるべきもの。



ビリィッ


「!!」


服を破き、身体に巻き付けたダイナマイト。それを見れば、感情のどうのこうのなんて消し飛んでしまう。脅し、ハッタリ、そんな希望的な思考が走ることもある。知ったからこその駆け引きになる。

しかし、それは光一にはなかった。


「は」


ハッタリじゃないんだが。


肉体がそう動いてしまったのなら、しょうがない。死んでしまう、その前にスイッチは押していた。道連れにと、狙ってやっていたことは空振り。

首を跳ね飛ばされ、その数秒後。眩い光と熱量、爆炎が周囲を覆いつくした。



ドガアアアアァァァッ  ジャバババババ



鉄橋は完全に、爆発によって崩壊した。




◇      ◇



「ぷはぁっ」

「……あら、生きていたのね。光一」

「自爆しやがった。これだからテロリストってのは気に入らねぇ」

「周囲の被害を考えてのことよ」


爆発の直撃を浴びた光一は、川へと落ちた。仲間の船に回収されていたところだった。服は焼け焦げているが、光一自身はその直撃を浴びても、特別に動けないわけではなかった。

仲間のジェルニー・ギーニは、その時。光一の今までに傷ついた体の数々を見て来た。火傷の痕はいくつか、生傷いくつか、刀傷いくつか。

鍛え抜かれた肉体だけでなく、修羅場を何度も潜った男の一つだと。



「野蛮人。服でも着なさい」

「おう……って、そんだけか!?体中痛いんぞ!いちお!」

「慣れているでしょう。”超人”というバカ共は」

「戦い終わったら癒してぇーの」



タオルで身体を拭き、服を着替える光一。

爆発で受けた傷はすでに塞がりかけており、常人を超越した回復力も備えている。まだ人という形でいるから、辛うじて人なのだろう。


色々な兵器が進んで、強力になっていく中。人はそうそうに変わらない。変わらないといけないだろうに。


「ところで」

「あー、お茶でも淹れてくれるのか?」

「あの壊れた橋はあなたの自費でお願いします」

「ふざけんな!テロリストの生命保険とかでなんとかなんねぇーの!?」

「なりません。あなたが戦闘を楽しんでいたせいで壊れました。迅速な駆除をですね」

「テロリスト相手にそー言っちゃうのかよ……?」



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