悪魔との戦い
まず最初に目に入ってきたのは苦悶の表情に歪むシエルの顔だ、その地面に倒れこんだ身体を見て一瞬で違和感を感じ取り、それとほぼ同時に違和感の正体に気づく。 シエルの右足が腿の辺りからなくなっていた。本来あるべき右足は少し離れた土の上にまるで投げ捨てられたゴミのように無造作に放られており、シエルの体同様地面に赤い染みを作っていた。
「シエル!」
とっさにシエルに駆け寄る。 ここで真っ先に悪魔に攻撃しに行かなかったのはシエルの身を案じてか、それとも俺が長い間戦いから離れていたからか。
シエルの元にたどり着くとまず最初に俺がとった行動は彼女を抱き上げることだった。普通に考えて止血か、最低でも回復魔法をかけるのが最初にするべきことなのだろう。 そして俺のこの行動は悪魔から見て俺とシエルの位置が重なることになる。
俺がシエルを抱き上げた次の瞬間、背中から強く押されるような衝撃、筋肉が減ったせいか俺はその衝撃に耐え切れず吹き飛ばされてしまう。シエルを抱えたまま。
「シエル!大丈夫か!?」
吹き飛ばされながらもどうにかシエルをかばうことに成功する。
「ご、ご主人様、まずは、あいつ、を」
シエルが指差す先にはあの悪魔、さっき見たばかりの構図だ。 さっきも俺は魔族を簡単に殺した、さっきと同じ構図なのだ、同じように殺せるはずだ。
「分かった、自分で止血できるか?」
「大丈夫、です。 お気をつけて」
「さて、茶番は終わったか?私が気が長い魔族でよかったな?普通だったらもう殺されていたぞ」
悪魔は笑いながら言う。
「うるさい、お前はさっさと死ねよ。 我、勇者の名においてすべてを断ち切る剣を欲す。聖剣よ、顕現せよ! 死ね!」
聖剣を呼び出して悪魔に切りかかる。型も何もない怒りに任せた雑な振りだ。
「そんなもの振り回して、万が一にでも当たったら危ないだろう? いや、今の勇者ではたとえ聖剣が当たっても碌なダメージは入らないか。」
悪魔は俺の剣をかわしつつニヤニヤしながらしゃべり続ける。
「死ねっつってんだよ! 火炎剣 炎龍斬!」
聖剣が熱を帯びて赤熱する・・・それだけだ。悪魔には当たらないし剣が炎を帯びない。
「なん・・・だ?これ・・・」
思わず攻撃の手を止めてしまう。
「何故聖剣が使えないか疑問だろう?教えてやろう。 これこそが秘薬の最大の効果!筋力の低下だけではなく勇者としての力そのものの低下が出来るのだ!! その理屈というのもだな―――」
悪魔の声が高ぶっている。耳障りな声だ。早くあの口を潰して閉ざしてやりたい。
「今まで歴代で勇者は何人もいた。しかし女の身でありながら勇者として選ばれたのは今までの歴史上でもただ一人、最弱の勇者として知られるアルト・クリスティーナのみ! そして勇者リオンよ、お前もこれから最弱の勇者と肩を並べるのだ!」
ああ、鬱陶しい。さっさとその汚い口を閉じろよ。 俺の中の憎悪が高まっていくのがよく分かる。
「うるせえって言ってんだよ。俺はさっき死ねっつたよな?さっさと死ねよ、クソ野郎が!」
聖剣技が使えないんだったら自力で攻撃するだけだ。 今までの先頭で動いたとおりに動く。 だめだ、筋力が根本的に足りない、悪魔も余裕で対処してくる。 なら力強さよりも速さを重視する。 よし、一太刀入れられた、後はこれを繰り返す。
次第に悪魔の表情からも余裕の色がうせてくる。
悪魔が何か騒いでいる。集中を切らすな、ここで勢いがとまったら俺が危うい。
悪魔に剣を突き立てようとしたその瞬間だった、俺の動きは完璧だった。 だがきれいに反撃を食らった。 鳩尾にきれいに悪魔の蹴りが突き刺さったのだ。
「カフッ・・・げほっげほっ!」
肺から一気に空気が抜ける。内臓が圧迫され中身が出てこようとする。
「全く、戦いの中で成長というやつか?これだから勇者は、たとえ女になっても神に愛されている。本当に許せない、嫉ましい、羨ましい、ああなんとも不公平だ。 だから私は努力したというのに、それでも簡単に追い抜かれるというのか! もういい、そろそろ終わろうか」
悪魔は一人で叫び狂っていた。一通り怨嗟の言葉を吐き出すとうずくまる俺に手を向ける。
「勇者よ、お前はもう死んでいろ。」
悪魔の手から一匹の黒い、まるで影のような狼が現れる。
それと同時に悪魔はふわりと中に浮き夜空に消えていった。
聖剣
勇者のみが使えるとされる伝説の剣。
剣術の心得のない者でも疾風剣や火炎剣等多くの剣術の使用を可能にする。
聖剣の力は持つものの勇者の素質が高ければ高いほど発揮される、なお素質は基本的に男性の方が強くなりやすい。
つよい。
悪魔がポンポン質問に答えてくれたのはシエルの足を切ることを予定済みだったからです。 悪魔ってなんか贄をささげれば質問とか何でも答えてくれそうなイメージあるじゃん?今回悪魔はシエルの足を贄として切り落としたわけですね。 でも作中で悪魔が足をパクッていくのを描写し忘れたので後付でどうにかしたいと思います。(反省の色なし)