思念の想い
私の体がまるで縋り付く様にご主人様の身体に纏わりつく。その姿は冥府で光を求めて蠢く亡者のようで吐き気を催す光景だった。しかしご主人様は何の抵抗もなく、あまつさえ私の体に抱擁を返してくださった。 この亡者と私の姿を重ねているのだろう、その行動から私の目からは思わず涙がこぼれてしまう。こんな、身体を失ってしまっても涙が枯れることはないようだ。
どれだけ二人は、私とご主人様は抱き合っていたのだろうか。 突然ご主人様が体を突き飛ばした、何事かと見ればご主人様の背中には血が滲んでいてどくどくと服に広がっていた。その時のご主人様の表情は驚きと恐怖、そして優しさが入り混じった複雑なもので、私の心にあの体を殺すべき対象と自覚させるに十分なものだった。 ご主人様にあんな非礼を働いた挙句あんな表情をさせたあの体は何があっても消し去るべきだ。
「ああ、ごめん!」
ご主人様は私の体に謝りつつも手を差し伸べる。
そのご主人様の口から出た言葉はどこかあの体に希望を持っているようで、でもそれ以上に悲しそうな、泣き出しそうな声だった。
『違うんです!それは、それはもう私じゃあないんです!』
必死になって叫んでもご主人様にこの声が届くことはなく、ご主人様の口からは私の体がご主人様に働いた非礼の言い訳を必死に唱えている。 その体は明確にご主人様に敵意を持っているというのに。出来ることならどんなことをしてでもご主人様にこの気持ちを詫びたい。
なおも体に手を差し出すご主人様にたいして体はまたしても拳を振り上げる、ご主人様はこれを難なくかわすがこのままではご主人様は体に対して何もできはしないだろう。
せめて私の声が届けば・・・!
強く、強く祈った。何度も何度も、本当は信じてなんかいない神に、忌み嫌っていた悪魔に、もう誰でも良いから、ご主人様をこれ以上苦しめたくはなかった。
『お願いします、それを早く殺してください』
届きもしないのに口に出した言葉、まるでそれが届いたようにご主人様は体を切り裂いた。何度も剣を振り私であったその体から私の面影を消し去るように。
「これで、あなたの魂は開放されますか?」
一心不乱に剣を振るご主人様を見る私の後ろで声を発したのは青い髪の変わった服を身に纏う女だった。見れば頭には角があり上級の魔族であることが分かる。
「・・・あなたに言っているのですよ」
女は私の方を向きもう一度言う。
「あなたには、私が見えているの?」
口をついて出た言葉はそんな疑問、どう考えても私の存在を感知しているようだった。
「はい、見えておりますよ、私は霊体をこの目で見ることが出来るのですよ。 ところで、これであなたの魂は開放されますか?」
女は当然のことを言うようにそう告げた。 私は今霊体だったのかと今更ながらも自覚する。
「魂・・・?かいほう・・・?一体何を言って・・・?」
「私は今のあなたのように物事に囚われて動けなくなっている魂を開放しているのです。 つまり簡単に言うと霊体の未練を晴らして成仏させてあげているということですね」
いや、簡単に言われてもよくわからない。何を言っているんだろう
「えっと・・・まぁいいや。 あなたは私のことが見えて、それで私に協力してくれる人。ということ?」
「まあざっくり言えばそうですね。」
「そうすることによってあなたは何を得るの?お金?力?」
普通生き物は得があること以外で動くことはない。完全に慈善でやっている奴こそ一番怪しい。
「そうですね、これが私の使命というかなんというか・・・。 ある人への恩返しでこういうことをしているんです」
胡散臭くはあるが今私が頼れるのはこの女だけということもあり私はこの女に協力を申し込んだ。
「はい!ではあの女の子にあなたの声を一言届けるのと、あの女の子に協力する。ということでよろしいですね? ではそのように。」
「ええ、ありがとう。これからご主人様をよろしく」
といっても私が成仏することはしばらく無い。この女が安全だと分からないと心配で成仏もできないし最後までご主人様を見守っていたいのだから。
とまあこんな感じでシエルの声がリオンに届いたのはアオバちゃんのおかげだったのです。
ちなみアオバちゃんには転生者という裏設定があります。全く登場させる気がない設定ですしそもそもその設定を採用するかも分かりません。
そもそもそのってなんとなく好き。




