精神は
背を向けていた扉が音を立てて開く。どうやらいつの間にか岩の檻は消えていたようで音のすぐ後にグラウが飛び出してきた。
「リオンさん!? その血は!?大丈夫ですか!?」
グラウは青ざめて俺に駆け寄ってくる。
「・・・・大丈夫、自分の血ではないから。」
磨耗した精神の中でどうにかそれだけ返すとグラウは走って家の中に戻っていってしまった。
しばらくしてグラウが呼ぶ声が聞こえてきた。 声に従ってふらふらと家に入ると机の上にお湯の入った桶と薄い布が用意されていた。
「とりあえず体を拭いてください。今日は休みましょう、落ち着いたら何があったか聞かせてください」
彼はそういうと家から出て行ってしまう。
自分の体を見下ろしてみると確かに血まみれでこのまま人に見つかりでもしたら速通報ものだろう。 服を脱いで服の上からでも付着した血液をふき取る。早くも見慣れたこの身体だが女の体に血が付着している光景というのはやはり肯定しがたいな、女性は常にきれいであるべきなのだから。 くだらない そんな言葉が脳裏をよぎるがそれからは必死に目を逸らす。 いまは無理にでもこんなことを考えてでも気を紛らわさないと本当に気が触れてしまいそうだ、それでも体にこびりついた赤黒いものを目にするたびに精神がかき乱され頭をかきむしりたくなる。
体も拭き終わっていないのだがしばらく全裸で突っ立っているとまた、脳内にシエルの声が響いたような気がした。
『ご主人様、そのような格好でいては風邪を引いてしまいます』 と。あの頃もシエルにはよく事後にそう言われたものだ。まだ時間もほとんど経っていないのにもう昔のような感覚だ。
俺は重い動きながらも体を清めることを再開する。
一通体を拭き終えたころちょうど見計らっていたようなタイミングで扉がノックされる。
「そろそろ拭き終わりましたか?着替えを持ってきました。」
扉越しにグラウが声をかけてくる。俺の着替えがないこと、気づいてたのか?まあ手ぶらだったしな。
「ありがとう、持ってきてくれる?」
「え?は、はい。」
グラウは戸惑う声と対照的に迷いなく扉を開ける。 そしてグラウの目に映るのは当然俺の裸体だ。ぶっちゃけグラウだとあんまり気にならない。どうせヘタレだし、ペットにオ○ニー見られても別に恥ずかしくないだろ?それといっしょだよ。
「リオンさん、大丈夫ですか?」
服を渡しながらグラウは俺に問う。大丈夫なわけがない、愛するもののあんな姿を見てしまってしかもそれを自分で細切れにしたのだから。
それでも「大丈夫か」という問いには肯定を返す。そうしなければ心が呑まれてしまいそうなのだ、うそでも虚勢でも心を強く持たないといけない。
「・・・でも、今日は少し休ませてもらっていいかな。 一緒に狩りに行けなくてごめんね」
「大丈夫ですよ、またいつでも行きましょう。 僕は付いていたほうがいいですか?」
「・・・おねがい。」
今は誰でもいいから温もりが欲しかった。
ほぼ無意識に心のより場を求めていた。
俺はもう何も見たくないんだ。
アンデッド
人目につかない場所で死体が放置されると発生する魔物、放置された死体に死精が取り付くことが直接の発生原因。 生前強い力を持っていた死体には多くの死精が引き寄せられるため強いアンデッドが生まれやすい。 アンデッドが生前の記憶や意志を引き継ぐことは『絶対に無い』
死精
死をつかさどる精霊といわれている。
実際は悪霊や怨霊の類の魔物の一種であり死精には明確な思考力や意思はない。
思念
死者の持っていた強い感情に死精が干渉すると稀に死者の感情が死精を塗りつぶし、死者の思念が霊体として意識を取り戻すことがある。 要するに幽霊。




