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女文官さまの裏の顔

作者: 陽向楽
掲載日:2015/11/25

かちゃりと眼鏡を押し上げながら微笑む女がひとり。


「この予算は認められません。前年度の予算を2割増しにしたものがこの程度の内容で出るとお思いですか?」


銀縁の飾り気のない丸眼鏡を正しい位置に戻した指先は、机の上に置かれた紙束の1番上、すなわち予算の概要を示したものをトントンと叩いた。


光を反射して瞳は見えないものの、上がった口角と口調が少なからず馬鹿にした雰囲気を醸し出している。

眼鏡の下から見える血色がよい赤い頬に散りばめられているそばかすと、バッサリと肩につかない長さで切りそろえられたおかっぱ頭。まるで幼子をそのまま大きくしたようなその女は本当に齢15に届くのだろうかと疑問のつく外見でありながら、己の2倍以上の年齢の男の出した書類を真っ向から否定した。


「なっ!?貴様、わしを愚弄するのか!」


一気に頭まで真っ赤になった大男は反射的に机を叩き女を睨みつける。物分からぬ幼子に否定されるのも腹立たしいが、このような女風情に馬鹿にされるのはさらに我慢ならぬとありありと分かる態度だ。

雷のような大きな怒鳴り声と机を叩いた音が響いたが、目の前の女に気にした様子はない。


「何故あなたを愚弄しなければならないのです?こちらとて来年度の予算を確定しなければいけない時期が迫っているのですから、イタズラに時間を使えないのですよ。愚弄するなんて時間の無駄、非生産なのもいいところです。むしろこのようなものを持ってこられて我々が愚弄されているのかと思うほどです」


心底意味の分からない話を聞いたという反応であり、また言外に男にかける時間すら惜しいと匂わせる女の表情は変わらない。



「女だてらに文官補佐になったからと大口を叩くでないわ!今までこのわしの予算にケチをつけた者などおらん!黙って文官のもとへこの書類を持って行き承認印を捺させよ!」


昨年まで男の予算を見もせずに承認した文官はこの場にはいなかった。所詮文官補佐に成り上がった女には男がどのような立場にあり、本来このような女とやり取りする事すらないという事実も分からぬのだ!と募る苛立ちを怒声にのせ、女を威圧するも思うような動きはない。


「あなたがどのような方であろうが、我々文官を脅したり癒着したりなどして本来のものから外れた予算をつけることは許されません。そして勘違いしていらっしゃるようなのでお教えしましょう」


怒声にも嫌みで高圧的な物言いにも怯まぬ女はさらに口角を上げ、笑った。


「文官の長を任されております、凛玲(リンレイ)と申します。昨年まで表に出ることが許されず内々の者しか知らなかったため、来年度の予算請求に来る殿方からはよく誤解されておりますが、わたくしは文官補佐ではありません。加えて、仮に文官補佐であったとしても、あなたがしたような大声で威圧するという行為はして良い行為ではありません。これは今上帝による厳命ですので、わたくしがその行為を知った時点で一切の理由を問わず領地や財産や所有する全ての物、その行為を行った者に連なる一族全てが視察監査の対象となり、視察監査結果次第では一族取り壊しと全財産没収となります」


「なっ、そんなバカな…」



今上帝の厳命証と階級を示す睡蓮の金バッチを見せる女を前に男は顔色をなくしていった。

今上帝の厳命証を偽装することはいかなる理由があっても死罪であり、文官の長を示す睡蓮の金バッチは複製が存在しないことから目の前の女が言う事は真実だと分かる。つまり男のとった行動によって最悪は一族取り壊しと全財産没収の未来になってしまったのだ。そして脳裏には隠し場所に溜まっている不正の証拠が過ぎり、最悪がほぼ確実であることを理解した。


「少し感情的になっただけだ…。視察監査など物々しい…」


「あなたの態度と発言の方が物々しいと思いましたが?わたくし以外の文官にも同じような態度と発言があったと昨年までの記録がありますのでどちらにしろ視察監査は免れません」



口から零れる言葉は聞き取れるギリギリの小さな声であったが女はその言葉を切り捨てた。




大きな体を小さくして出て行く男に溜め息を吐きながら、女は傍らのリストに線を引いた。


「殿方は女や年若い補佐など弱い立場だと思う者には随分と威張り散らしているようですねぇ」


線を引かれたのは先程の男の一族名。そのリストに書かれている一族名は過去に文官に対して何らかの圧をかけたり明らかにおかしな予算がつけられた一族達だ。そして気付かれはしなかったが睡蓮の金バッチの隣に置かれた白銀の桜を模した簪がある。


「まあ、わたくしなどどなたも知らないのでしょうね」


眼鏡を置き笑う女の正体が今上帝の末の娘であることは内々の者しか知らない。生まれてから桜の姫と今上帝が愛しむ娘は、衣の中に隠した後ろの美しい黒の長髪を出しお気に入りの桜の扇子で自らを煽りながらこれからの事を考え、また小さく笑っていた。





なんちゃってざまぁ?

イメージは中華。年代は近代くらい?

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― 新着の感想 ―
[一言] つまり本来なら文官の補佐相手でも決定に対して怒鳴りこんではならないところを… ・補佐ではなく文官 ・しかも文官の長 ・…を皇帝からの王命(帝命?)で就任 ・貴族でも平民でもなく、皇女そのひと…
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