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キカイな物語  作者: クンスト
6章 すべてはともかく遺跡に収束する
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8-7 犠牲の伴う破壊活動

“――イントルーダーアラート。イントルーダーアラート。艦内に魔族が侵入しました。保安部とOA装着者は所定の手順に従い、魔族を排除してください”


 月野がとらわれていると思しきアルヴ宇宙船へと侵入できた。

 救出作戦の第一関門は突破できたという訳であるが、これからが本番だ。事前調査がまったく行えていない船内のどこを捜せば月野を発見できるのか、まずは当たりを付けなければならない。

 端末をハッキングして、船内地図を奪取しなければならない。こう付近を見渡してみるが、都合良く端末がき出しのまま放置されてはいない。

 ここは船員が日常的に使う通路に思える。球体の船体に沿うように曲がっている通路はチューブ状で、見える範囲には埋め込み式の照明ぐらいしかなさそうだ。

「重力がないのは当然だが、歩き辛いな」

 船内では警報が木霊こだましている。既に、俺の侵入はアルヴに気付かれているので素早く捜索を終えたいが、妙案はない。

 今更思案しても仕方がないので、チューブの壁を蹴りながら前に進む。重力がかなり少ないので歩行は無理だ。通路自体も、蹴って移動するための硬い部位と、衝突しても大丈夫なウレタンが敷き詰められた部位が交互に組まれていた。

 幸い、通路は石鎧でもつっかえない大きさだったので、無重力に不慣れでも順調に進めている。

 しばらく進むと、通路を塞ぐ隔壁が見えてきた。空気漏れを防ぐためか、侵入者の移動防止用かは分からないが、大いに邪魔だ。

 破壊してしまおうと、首を九十度後ろに曲げて、首があった位置へと手を突っ込んで体内をまさぐる。装着者スペースを空のままにしておくのは勿体もったい無いと、本作戦では単独では爆発しない安全なプラスチック爆薬を携帯していた。強い違和感を覚えながらも、レンガ状の火薬と信管を取り出す。

 石鎧のマニュピレーターで器用に粘土をねて、信管を突っ込む。

 銅線を伸ばしながら壁沿いまで離れて、通電。即時起爆。

 ……少し爆薬の量が多すぎた。密閉空間であるという事を考慮し、使用量を加減するべきだった。

 一度全体が赤く染まった通路が、次の瞬間には黒い煙で充満してしまっていた。石鎧と同化していなければ爆発衝撃で即死してしまっていた可能性が高い。

「ゲフォ、げふぉ。フィルターが煙たいな」

 すす汚れた体で成果を確認すると、隔壁は無事に千切れていた。新たな道が、壁の向こう側に続いている。

 前進するしかない俺は迷わず隔壁の向こう側へと飛び込むが、同じタイミングで通路向こうより赤いバイザー顔の石鎧が姿を現した。

 アルヴ側の量産機、アンテロープと会敵してしまったらしい。

『いたぞッ! L4区画側道で侵入者発――』

「悪いが、構っていられない。一撃で仕留める」

 漂う煙の流れの変化から、アンテロープが斥力場を展開したと察知する。

 だが、俺は気にせず右腕を伸ばす。アンテロープは間合いの三メートル先にいるため拳は届かないが、ストレートパンチを撃ち込むがごとく振るった腕からは、固形燃料で噴射する腕輪バンクルが発射される。

 バンクルは斥力場の表面に衝突して、固形燃料が尽きる前に爆発する。

 左手に構えていたハンドガンでバンクルの中央部だった場所を射撃すると、弾は斥力場を突破してアンテロープの眉間を貫いた。

 一度弱点が分かれば、斥力場など恐れるに足らない。……ブースト・バンクルはもう五輪しか残っていないが。

 斥力場は崩壊し、アンテロープはだらりと弛緩して通路に浮遊する。着弾位置的に装着者は死んでいないはずなので、機体を掴みとって月野の居場所を問い詰める。

「月野はどこだッ! 言え!」

『誰が……言……か』

 壊れた機械の雑音混じりに、反抗的な答えが返ってくる。

 兵士としては当たり前の反応だ。少しイラ付いたので円柱構造の搭乗ユニットをもぎ取って、中のアルヴを引きずり出す。

 このまま拷問してもよいのだが、時間が惜しい。おびえた顔のアルヴを捨てて、アンテロープのAIを掌握する。機械の方が素直なのだから、知的生物は度し難い。

 月野に関する情報はなかった。その代わり、船内地図と一般船員の立ち入りが禁止されている区画が判明する。

 とりあえず、近場にある巨大な施設から探ってみよう。



「げっ! ヴォルペンティンガー!?」

 施設の扉を爆破して押し入ったのだが、どうもここには月野はいないようだ。

 俺の親戚みたいな長耳の集団が壁や天井、床とお構いなくたむろしている。銀色の機体色は、アルヴの高性能機たるヴォルペンティンガーで間違いない。

 お邪魔しました、と扉を閉めたいが爆破してしまって閉められない。閉めて済む問題でもないだろうが。

 ただ、親戚達の様子がおかしいと気付く。

 寝落ちしているように首を前方に落としており、バイザーも点灯していない。電源がオフになっているようだ。

 既にアンテロープが現れたというのに、どうしてヴォルペンティンガーの装着が終わっていないのか不思議に思うが……多くの機体が貧相な体付きをしている。おそらく、先の戦闘の後にオーバーホールしたため、オプション装備が外されているのだろう。

 施設の照明が赤く染まる。俺が入ってきた扉とは対称の位置にある扉から、複数のアルヴが姿を現す。

 厄介な増援が出撃する寸前に、俺は間に合ったようだ。

「させるか。ブースト・バンクルッ!!」

 壊れ掛けの体でヴォルペンティンガーと戦いたくはない。月野を発見した後、安全に逃げるためにも、強敵は動き出す前に破壊する。

 右腕を突き出し、バンクルを発射して直前上に並ぶ三機の胴体を円形に穿うがった。バンクルは最後に爆発し、ヴォルペンティンガーのハンガーで火災が発生する。

 逃げ惑うアルヴの装着者は放置して、更にもう一輪のバンクルを発射。更に複数の機体を粉砕した。

 ハンドガンでも近場のヴォルペンティンガーの中枢を破壊していく。残弾は危険域だが、ここは浪費する時だ。斥力場に守られていないアルヴの石鎧は、簡単に穴が開いていく。

 破壊活動にいそしむ俺は、火炎によってオレンジ色に照らされていた。火炎地獄を作り上げる俺は、魔族と相違ない。

 そんな魔族を討伐するため、勇敢なアルヴ装着者が数名、爆発を恐れずにヴォルペンティンガーに乗り込もうと行動する。母船が襲われているのだから、必死になるのは至極当然だろう。

 だが、その行動は勇敢ではなく無謀だ。


「ッ!? そっちは、よせッ!!」


 異常加熱で爆散した機体の破片が雨となり、生身のアルヴ達に降りかかる。

 制止の声が届いたかどうかも怪しい一瞬で、彼等彼女等は赤いもやを残して消えてしまった。無重力でただっているゼラチン質は……長い耳の欠片だ。

「クソ、クソッ!」

 胸糞悪い光景を作り出したというのに、俺は左腕を突き出して次なるバンクルを発射してしまう。

 月野という一つの生命を救うために、俺はいったい何人のアルヴを殺した。敵の命だから、罪の重さは軽減されるのだろうか。賢兎ワイズ・ラビットのAIは答えを出せず、ただ、作戦行動の障害を排除し続ける。

 いや、石鎧と同化していようといまいと関係ない。

 きっと、俺は生身であっても破壊行動を続ける人間だ。敵を同情していられる程に余裕がある人生は送っていない。今更、攻撃を止められるものか。

 ハンドガンが弾切れになれば、ナイフでヴォルペンティンガーの頭部をかち割った。感情を砕く代わりに、バイザーを砕いた。



 ようやく、人形ひとがたに見えるすべてを破壊し終えて、俺は停止する。

「…………月野を、探さないと」

 この区画に月野はいなかった。次は、一区画飛んで奥になる施設へ向かおうと、足を向ける。


『――殺人種族がッ! 皆、皆殺しちゃってっ!?』


 背中を見せた瞬間だった。環境センサーが、火炎の向こう側で立ち上がる物体を捕捉する。

『エトロエも死んじゃってさ。さっきも皆死んじゃって! あははははっ! 序列二位が聞いて呆れるし、なんて人の命は弱いんだ! まるでゲームみたいじゃないか!』

 炎の中から飛翔体が二つ、飛び出して来る。

 一本は避けたが、もう一本が肩に突き刺さる。

 着弾点で銀色の刃が発芽して、元からボロボロだった肩に根を張り斬り刻む。せめて脱落してくれれば良かったのだが、からまった刃が関節を繋ぎとめたため、片腕は動かせないデッドウェイトと化した。

『固有主? 過去の移民? 混血? 火星人? 魔族? ……もう何でもいいよッ。火星の生き物は僕達に酷い事をする殺人種族だ。殺される前に、僕が殺してやるッ』

 火災の中で生き残ったヴォルペンティンガーが、俺へと復讐しようとしているらしかった。無重力で浮かぶアルヴの肉片に思った以上に動揺し、俺はそいつを見逃してしまっていたのだろう。

 展開した斥力場に押されて、炎が割れていく。

 巨大な肩パーツのみを装着した素体のヴォルペンティンガーが、俺へと肉迫してくる。

『ねぇ、そうだろ。ネネイレ。火星の奴等を皆殺しにしよう! 大丈夫、序列三位の僕がいれば簡単さ!!』


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