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キカイな物語  作者: クンスト
6章 すべてはともかく遺跡に収束する
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8-3 覚悟を問おう

 AIが再起動すると同時に、環境センサーを最大感度で稼働させる。電磁筋肉もマキシマムレベルで電圧をかけた。

 成層圏から降下してきたアルヴの強襲部隊に襲われている最中、俺は機能停止した。プラズマの巨剣から逃れようと無理な体勢からブースト加速して、地上に降りていたヴォルペンティンガーへと突っ込み、意識はそこで途絶えてしまったのだ。

 戦闘中に失神してしまったのは不味い。が、まだ撃墜されていないのなら僥倖ぎょうこうだろう。

 戦場は酷く混乱していた。アルヴは俺達だけでなく外縁軍の部隊にも攻撃したので、誰もが浮き足立ちながら生き延びるために空へと反撃していた。

 きっと、まだ戦闘は続いているはずだと思い上半身を一気に起したのだが……周囲の様子が敗戦後のように静かだったので、気持ちを落ち着かせる。


「九郎君、目が覚めたかね」


 闘兎ファイティング・ラビットがすぐ傍に立っていた。識別コードより、曽我隊長の闘兎と判別する。隊長以外の闘兎も周囲にたむろしているようだ。

 全員年上だが、供に魔族と戦った事のある戦友達である。俺の再起動に気付き、耳や頭部を向けてくれた。皆、温かいカメラレンズをしている。

「……隊長に、皆も。戦闘はどうなったのですか?」

「奈国外縁軍と一時的に協力し、突破口を開いて戦場から脱出を果たした。苦々しくも、こうして我々が無事なのは馬の骨のお陰だから、頭が痛い」

 トレーラーの荷台と思しき場所には、数多くの損傷石鎧がいる。石鎧の数に対してハンガーの数がまったく足りていないので、固定されずに通路に放置されている機体も多い。

 ギリギリの状況でアルヴの包囲網から脱出できたのだろう。歴戦の闘兎達でさえ腕を失い、脚を失い、頭しか残っていない者まで存在する。闘兎以外にも、ルカ部隊とクロエ部隊の石兎ペトロス・ラビットや、親衛隊の赤備あかぞなもスクラップみたいな姿で横たわっていた。

「可能な限り救ったつもりでもいる。九郎君の友人の遥君とクロエ君も無事だ。……私の娘も撤退に成功した」

「明野先輩は?」

 軍学校の先輩の名前を聞くと、隊長は名簿を参照しているのか返事が少々遅れる。

「……ふむ、親衛隊のか。現在緊急手術中で、鷹矢王子が見守っておられる」

 戦場には親衛隊を引き連れた鷹矢王子も援軍として現れていた。

 撤退時、鷹矢の乗るトレーラーがアルヴ石鎧に襲われたそうだが、明野が損傷した石兎で敵に肉迫、相打ちになった。

 明野友里の状況を隊長は教えてくれた。明野以外にも、闘兎部隊の仲間の消耗についても教えてくれる。

 俺の知っている人も多く傷付いた。きっと、知らない人も多く傷付いたに違いない。

「アルヴにも相当の被害を与えたつもりでいるが……それ以上に我等は損耗した。当分の間、組織的な戦闘行動は難しいだろう」

「隊長。俺は月野がさらわれる光景を見ました。今はどうなっていますか」

「月野製作所の娘さんがさらわれたのは事実だ。アルヴからの声明はないが、アルヴの輸送機に運ばれて大気圏外に消えた。救出作戦は検討されているが……残念ながら、この惑星には大気圏外へと至る手段が無い」

 そして、きっと月野は現在進行形で傷付いているのだろう。



 敗残兵たる俺達は迷走していた。

 負傷兵を満載したトレーラーで奈国の辺境を逃げ続けている。一つもドームが建造されていない不毛の砂漠を走る車両群は、目的地を決定しないまま身を寄せ合って走行する。

 アルヴと魔族を天秤に掛ける計画も迷走状態に入ったと言える。アルヴ戦闘部隊との直接対決により、惑星人類でもアルヴと戦えると証明できた反面、やはりアルヴの科学力には敵わないと実戦で証明してしまった。ドーム世界にはドームという重要拠点が存在するため、空から爆撃可能なアルヴは脅威以外の何者でもない。

 今後、反アルヴ勢力の拡充は難しいだろう。

「……いえ、それは違いますわ、紙屋様。今回の戦闘を経て、外縁軍の中に協力を申し出る部隊が出ています」

「外縁軍が? 一番非協力だったのに」

「撤退戦で城森様がヴォルペンティンガーを二十機ほど単独撃破されてしまい。他人の戦果で自信を得たのでしょう。条件次第ではアルヴにも勝てるという楽観ですわ」

 英児は俺と楽しく戦闘していたのに、横槍を入れられて苛立いらだったのだろうな。単純に、アルヴと戦ってみたかっただけという可能性も高いが。

 斥力場の防御壁は絶対的であるが、射撃時には一時的に解除されるはずだ。遮蔽物のない空中を降りてくるアルヴ石鎧は、AI射撃よりも精度の高い射撃が可能な英児にとって良いまとだっただろう。

「今更、外縁軍に協力してもらっても意味がない。……ルカ。月野は宇宙にいるとみて間違いないのか?」

 ブリーフェィングルームで俺とルカは顔を突き合わし、悩み続けている。

 ルカは疲れた顔をしているが、友人の月野を救おうと働き続けている。髪のつやも失って、頬も削げているが、目付きの鋭さは失われていない。

 装着者は一度の戦闘でキロ単位で体重が減る程に疲労する――中の人がいない俺でさえ整備が必須である。本来は休息を取るべきだが、ルカは仮眠しか取らない。友人の一大事に眠る女ではない。

 ルカはアルヴの派遣艦隊を監視し続けている天文施設と連絡を取り、月野救出の手がかりを掴もうとしていた。

「正確には、宇宙ではなく熱圏ですわ。わたくし達との戦闘の後、アルヴは惑星に降下しておりません。まず間違いなく、月野はアルヴの艦隊に囚われています」

「場所が分かっているのに、救出できないのか。アルヴの輸送機を奪うって手は試せないのか」

「頻繁に飛んでいた輸送機も、今は一機も出ていませんわ」

 俺もルカも、心が急いているのに作戦を思い付かない。

 いや、仮に妙案を思い付いたとしても消耗した俺達に実現できるかは怪しい。

 現在、まとも動かせる石鎧は一機も存在しないのだ。俺さえも、瑞穂みずほに斬り落とされた腕を修復できていない。胸を貫通している大穴もそのままである。

 俺が損傷しているように、ルカもクロエも石鎧を壊している。

 派遣艦隊という巨大な戦力を前にしては、俺達など地上を這う虫に等しいだろう。

「それでも、俺は月野を助けたい」

 無い物強請りになってしまうのなら、せめて宇宙に行く手段があれば良い。

 俺単独であろうとも、大気圏外へと行けるのなら行ってやる。俺にはその覚悟がある。


「――ならば、余が手段を用意しよう。紙屋なる石鎧、なんじの覚悟は本物か?」


 重苦しい空気で満ちていたブリーフェィングルームのスライド扉が開放される。部屋の向こう側は暗く、いつの間にか深夜になっていたらしい。

 ブリーフィングルームへと入室してきたのは、鷹矢王子だ。

 鷹矢の頬は、決意により筋張っていた。


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