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キカイな物語  作者: クンスト
5章 火星に集う者。集う仲間。
81/106

7-18 に現れるは宿敵

 最後のマガジン交換を終える。

 十回交換を繰り返し、アサルトライフルを撃ちつくしたというのにネネイレのヴォルペンティンガーは未だに健在だった。

 暴走状態にある斥力場発生装置は順調に過熱している。が、それだけだ。まだ壊れてはいない。限界は近いと思われるが、なかなかしぶとい。

 どうしたものかと考えていると、トレーラーの方角でまばゆい光の柱が建ち上がり、雲を貫いた。未知の現象に、思わず耳をピンと伸ばしてしまう。

 異常な光景を目撃した途端、向こうの戦場の状況が酷く気になり始めた。まだ、ネネイレ機を無力化できた訳ではないが、壊せない敵は放置してルカ達と合流するべきではないかと思い始める。

 何より、トレーラーには黄色い髪の眼鏡、月野海がいる。アルヴに狙われている月野の身が心配だった。


「弾もきたし、一度戻『警告、敵性A再起動』れないのかッ。忙しい」


 ネネイレ機は機体をだらりとゆるめた後、バイザーを赤く発光させる。AIごと一度停止させて、暴走状態だったシステムを再起動させた証だ。

 即時、ハッキングをやり直すが、ネネイレはデータリンクシステムをオフにしていた。データリンクだけでなく、通信機諸々も停止させている。電子的攻撃に気付かれてしまったか。

 僚機との交信を断って孤立するデメリットを考慮しても、戦闘を続けるのであれば最善の対処方法だろう。

 停止した通信機の代わりに、外部スピーカーでネネイレは怒りを伝えてくる。

『偽耳の分際で、私に恥をかかせたな!』

 ネネイレ機は地上五十センチに浮かび上がり、突撃姿勢を取った。全身を守る斥力場は再展開が完了している。

 銃撃精度を高めようと近づいていたのがあだになった。慌てて真横に跳んでネネイレ機の突撃方向から回避する。が、少しだけ間に合わない。

 ネネイレ機に追随する斥力場に跳ねられた。横回転しながら砂漠に倒れて、顔をうずめる。まだ加速し始めだったので、軽くハンマーで叩かれたぐらいの衝撃で済んだ。

 頭部を左右に振りながら立ち上がると、旋回を終えたネネイレ機が正面からせまり来る。

 駄目もとで跳び蹴りを行う。威力を相殺できないかと考えての事であったが、簡単に押し負けた。再び砂漠に体を埋める。

『二号機は広域殲滅を行った。だというのに、序列一位の私がたった一機に手間取るなど許されるかッ』

 8の字の軌道でネネイレ機は飛行している。交点にいる俺を跳ね飛ばしは、去っていくを繰り返す。

 三度目の衝突で肩のダンパーが限界値を超え、破損した装甲板が脱落した。タイミングを合わせた回転蹴りで抵抗していたが、ネネイレ機側の被害はない。

『火星人類は、黙って月の種族にかしずけば良いのだッ』

 衝突のたびに何かを失っていく状況に対して、俺ができる事は愚直に立ち上がって反撃を続ける事だ。

 亜音速の機動力を持つ敵が相手となると、賢兎のRunnerオプションでも逃走は不可能だろう。

 であれば、最後まで戦い続ける事しか選択肢は残されていない訳である。

 だが、そんな消極的な選択で反撃を繰り返している訳ではない。勝利のために足技を放っている。

『ローテクノロジーは、頑丈さだけが取り柄かッ』

 チキンレースは既に始まっている。

 ネネイレ機の斥力場発生装置は連続使用により異常加熱が続いている。打撃を加えるたびに、羽の水晶体が輝きを確実に増している。限界は近い。

 マガジンが尽きた俺から離れてクールタイムをはさめば良いものを、恥辱を晴らそうとネネイレは突撃を止めない。格闘技が届く範囲に近づきさえしてくれる。

 斥力場を失った瞬間、敗北が確定するというのに、次の一撃で破壊できそうな賢兎ワイズ・ラビットから後退する気を起せずにいるのだろう。斥力場の熱暴走を狙っている俺と、まったく同じ心境か。

 現状は、一方的に跳ね飛ばされているように見えるだけの好機で間違いないのだ。

『ええぃッ、いい加減に壊れろッ!!』

 足底の鉤爪が柔らかい感触に防がれて、相打ちにもなっていない反撃はまた失敗した。

 五度目の衝撃に跳ね飛ばされて砂漠に身を打ち付けるが、俺は壊れない。通常の石鎧であればパーツとなり砂地に散乱してしまっていただろうが、俺をバラバラになる半歩の距離で踏みとどまっていた。

 チキンレースはまだまだ続行可能だ。

 ……己と現実を誤魔化す権限を、俺は持っている。

「『ソリテスのわら』よ。ヴォルペンティンガーの衝撃量を半減し続けろ!」

『オレジン色の斑文はんもん……? どうしてッ、魔族反応ッ??』

 俺は装着者としては凡庸ぼんようで、自己嫌悪におちいった回数は数え切れない。ネネイレ機を華麗に回避して、横腹を見せた敵に一撃を加えるような高等技術は使えないから、玉砕しながら反撃するしかない。

 月野に修理してもらった体をきしませて、得られる成果は皆無。

 絶望で体が動けなくなりそうなものだが、俺の人生においては珍しくない。もう慣れた。

 いや、傷付く事には慣れないが、傷付いたぐらいで足を止めないでいれるぐらいには、己の非力に飽きていた。

 飽きたのだから、もういい加減、勝利するべきだ。

『答えろ!! 魔族の斑文を浮き上がらせるお前は、魔族なのか! 人間なのか!』

「次が駄目でも、その次で! その次が駄目でも、その次の次の一撃で!」

『答えろと言っているッ!』

 俺は俺だ、という陳腐ちんぷな答えしか持ち合わせていないのでネネイレの拡声には答えない。

 ネネイレ機は赤いバイザーを光らせて停滞していたが、三対のカメラレンズを光らせるだけの俺にれて再び加速を開始する。

 真正面から迫る素直な突撃だった。

 斥力場と衝突する瞬間へと、コンマゼロ秒も狂いもなく回転脚をインパクトする。幾度と跳ね飛ばされて余計な力が抜けていたからか、会心の一撃を繰り出したようだ。その証拠に、グニャリと足が空間を押し込む感触を得られる。泡が弾けるように限界を迎え、斥力場は消失していく。

 軸足を入れ替えて、回転脚を連撃に繋げる。

 アルヴ製石鎧は斥力場に頼っている分、物理装甲が薄い。羽型の斥力場発生装置がオーバーヒートしている間にもう一撃追加して、ネネイレとは決着が付く。


つのを生やせ! 羽を広げろ! ヴォルペンティガーッ!!』


 予想外の事が目前で起きていた。

 ネネイレ機のひたいを貫いて、銀色のつのえて空に広がる。

 熱を生じる水晶体が埋められている骨のような羽からも、関節部分から銀色の枝を生じている。羽の全体体積は倍増し、精密な銀細工のような羽に変化していた。

 回転中の俺よりも、ネネイレの行動の方が断然早い。回転はほぼ終わりかけだったというのに、脚を伸ばせば届く距離が実に遠い。

 熱暴走で緊急停止していた斥力場発生装置を、更に暴走させて限界性能を引き出す。ネネイレはヴォルペンティンガーの真の性能を披露しながら、片手を広げて俺へと向けてきた。

『偽耳は潰れろ』

 ネネイレ機の細いマニュピレーターを閉じていくと、賢兎を押し込むように周囲に斥力場が生じた。手が拳に近づく程に圧力が増していく。魔的なオレンジ色に守れた装甲さえ歪ませる強大な力が、円柱状に構築されていく。

 まるでアルミ缶の中に囚われて潰されているような気分だ。吊り天井を両手で支えようともがく冒険者の気分とも言える。回転脚の途中だった不安定な体勢で拘束されてしまい、脱出は難しい。

 ゆっくりと時間をかけて握り潰され、死の恐怖を震えさせられる……事はない。ネネイレは俺の破壊を急く。

 銀色に広がる羽を円に形作ると、半分ぐらいまで閉じられていた指を賢兎に近づけていく。そのまま胸の装甲板を小突くと、見えない力を流し込まれてしまう。

 魔的な力で保護される装甲板の内側へと、アルヴのみが扱える空間エネルギーが侵食していく。

『心臓を潰して殺してやる!』

 ぽっかりと機体中央に大穴が開く。液体コンピューターの体液がき散る。図太い槍で突かれたように傷口が胸部だけでなく背部にも開いていた。

 装着者を直接狙った攻撃により、俺はカメラレンズの発光をゆっくりと消失した。

 電磁筋肉の電圧を低下させて前のめりに倒れていく。

 倒れた先では、魔族のような奇妙な石鎧を倒せて満足気な顔をしているヴォルペンティンガーが――。


「俺に、中の人などいない」


 ――斥力場をやわらげる程にほうけていたので、俺は貫手ぬきてに構えた左手を腹部に突き入れた。

 致命傷を与えたはずだが、逃げられないように羽をもぎ取る。



 胸に穴が開いたが、どうにかネネイレのヴォルペンティンガーを無力化できた。

 勝因は、ネネイレが電子攻撃を恐れてデータリンクを切っていた事だ。

 トレーラー付近での戦闘は無事に勝利したと、俺はデータリンクを通じて分かっていた。もし、ネネイレがデータリンクを切っていなければ、目の前の俺一人に構い続けはしなかったはずである。

 現れたヴォルペンティンガー三機を撃退できた事で、惑星の石鎧でもアルヴに対抗できると証明できただろう。地上に足を下ろしての直接対決、という限定条件付きであるが、弱腰の奈国上層部を説得できる事例は得られた。後は、鷹矢の仕事だ。

 戦士としてのアルヴの脆弱ぜいじゃくさに、心底ほっとする。

 魔的な力を使っても勝てない相手は、一人存在するだけでも十分だろう。城森英児しろもりえいじ並の強者が、太陽系に二人も存在してなるものか。


「――『警告、無音走行にて不明機接近』――ん?」


 ピクリと、頭の長耳が砂漠の向こう側から静かに走る石鎧を検知する。

 赤い砂塵さじんの向こう側から見えてきたのは、白い石鎧だ。無音走行の意味を台無しにするカラーリングであるが、流線型な装甲形状に白は似合っていた。

 環境センサーの方向をしぼり、感度を上層させる。

 走る石鎧を二機確認。外見は似ているが、速い方の機体は鋭角が極まっている。

 見覚えるのある石鎧だった。

 体感的にはまだ一週間前に戦ったばかりの石鎧で間違いなかった。

 アキレウス。母星の英雄の名を冠する、超運動性を持つ石鎧が、三十メートルという戦闘範囲で停止する。


『二年間眠っていて腕が錆び付いたか、九郎? アルヴぐらい無傷で倒せよ』

『…………九郎』


 連戦の予感に疲労が高まる。

 何よりも……城森夫婦が揃っての登場に、俺の神経はいきなりズタボロに切り裂かれてしまっていた。

 城森英児と瑞穂みずほ、二人を相手にして勝てる訳がない。


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