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キカイな物語  作者: クンスト
5章 火星に集う者。集う仲間。
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7-17 攻防の果て

 明野機の頭部上半分が蒸発する。長耳は根元の部分から失い、プラズマが通り抜けた箇所が跡形もなく消え去ってしまった。

 石兎ペトロス・ラビットを着ている明野は……ギリギリ生きている。一回り大きい石鎧の頭部が削られただけで、中身までは欠損していない。

『ちょっと髪がげたっ!? 女の髪を何だと思って――』

『後退を! かたきは取りますわ!』

 損傷により後退していく明野機とスイッチングし、サソリ形状のルカ機がヴォルペンティンガー二号機と相対する。

 近接戦闘を行う二号機は、限定的にしか斥力場を展開していない。

 純粋な近接戦が行えるのは幸運だ。こう、ルカ機は尾を伸ばして二号機の長脚にからめ取ろうとするが、そううまくいかない。寸前のところで逃げられた。

『ちぇ、二号機の攻撃は効くのか。良いな、エトロエ』

『三号機。戦闘に集中しろ。敵部隊の制圧は終わっていない』

 戦況は二機のヴォルペンティンガーに傾いている。

 トレーラーの護衛部隊は二十機近く展開している。数の上ではヴォルペンティンガーに大きく勝っているのだが、その数の有利を活かせていない。

 二号機の背後にいる三号機が発射しているシード弾への対処で石兎部隊は精一杯だ。既に千発の銀色のシード弾が、戦場を飛び交っているので対応で忙しい。二号機と戦うルカを援護できる状態ではなかった。

『言われなくてもやっているけど! だったら、エトロエがこいつを倒してよ』

 けれども、広域制圧可能なシード弾を有する三号機に襲われて石兎部隊が壊滅していない理由は、三号機も悠々と支援をしている訳ではないからである。

『バリアで攻撃が通じない。このウサギさん嫌い』

『シード弾が全然通じない。この硬い奴は嫌いだ』

 クロエのグレイヴストーンが、三号機と真正面から対峙してシード弾の追加発注を食い止めていた。電磁装甲の外装を着るグレイヴストーンは俊敏しゅんびんとは言い難いが、図太い三号機よりはマシに動ける。シード弾の投擲体勢になれる暇を与えない。

 斥力場発生装置と電磁装甲の対決は矛盾ならぬ、盾と盾の対決である。決着は付きそうにない。

 つまり、この戦場を決定付けるのは、ルカ機と二号機の戦いという局所的なものであった。

『わたくしが長脚をちょん切れば、良いなんて! 何て分かりやすいんでしょう!』

 振り下ろされるプラズマの刃を、地面につくばるルカ機は多脚でジャンプし回避する。

 大型クローの内側から銃口を露出し、ルカ機は二号機の足元を狙う。今度は二号機が高い運動性を発揮し、地面から跳んで銃弾を回避した。

 ルカ機は追いすがり、近接戦闘を継続する。石鎧すら溶かす光の刃を持つ敵と戦っているというのに、操縦に一切の迷いない。

『ご大層な武器ですが、そんな超科学の結晶は本来無用。剣で突かれれば人は死ぬものですわ』

 尾の先端の針を飛ばす。プラズマで斬り払われる。

 指向性通信でウィルス感染を狙う。通信量変化に気付かれて通信をカットされる。

 突き出されたスパイクを装甲で受け流す。追撃の両腕のプラズマを潜り抜けて両腕のクローで逆襲する。

 一進一退の攻防はまるで演舞のようであるが、すべてがアドリブで行われている。初見の攻撃ばかりだというのに、二機に動揺は見受けられない。酷く冷静に攻撃に対処し続けている。が、近接戦を続けている二人が本当に冷静であるかは怪しい。

 意地でも一撃を加えてみせる。ルカとエトロエは敵同士であるからこそ思考が一致してしまっている。これを熱中と言わず、何という。

 集中力が途切れた方が負ける戦いであったが、脳内のアドレナリン分泌により、苦しくなればなる程に操縦のキレが増す。まだまだ限界には程遠い。

 だから……装着者ではなく、機体の方が先に限界を迎える。


『バッテリー警告!? こんな時に!』

『斥力場発生装置、異常加熱か……』


 ルカの目前にある局面スクリーンに、電力残量が一割を示す警告文がポップアップする。心なしか、多脚の動きとクローの開閉がにぶい。

 石兎にManeuver《機動》オプションを無理やり装備させているルカ機は、通常の石鎧よりも消費電力が大きいのだ。昨日の戦闘で、電磁筋肉が劣化して電力消費が増えていた事もわざわいした。

 ルカが、機体に負荷を掛けない戦い方に興味がなかったのが最大要因なのだろうが。

『火星人類。敬意を評そう。二号機と私をここまで追い込んだ事を』

 不調におちいるルカ機へと二号機は腕を伸ばす。が、レーザー・ソードは出力不足でプラズマの刀身が伸び悩む。

 所詮しょせん、ヴォルペンティンガーは広域制圧を目的とした攻撃機なのだ。本格的な接近戦闘を考慮して設計されていない二号機は、斥力場発生装置を酷使し過ぎた。安全装置が働いて、両腕のプラズマが消失していく。

 端子形状の腕も高温にさらされ続けて劣化が進み、交換が必要ともAIは判断していた。こういう物質的劣化をアルヴは嫌っているが、二号機については攻撃性を優先し、技術的な解決は先送りにされている。


おごりを捨て、ヴォルペンティンガーの真の姿を見せてやろう。――リミッター解除。妖精のつのを生やせ。ヴォルペンティンガー』


 しかし、トレーラー制圧の障害となっているルカ機を倒せる好機を、みすみす逃すエトロエではない。備わっている機能を出ししみする男でもない。

 二号機のひたいから、銀色に光る突起が生えていく。

 先端部は空を目指して広がり、節分かれていく。兎を模倣した石鎧でありながら、角の形は鹿しかそのものだ。

『斥力場発生装置を全開させる』

 オーバードライブさせた斥力場発生装置。その正体が妖精の角だ。

 プラズマ生成が停止していた二号機の腕から、再び光があふれ出る。斥力場発生装置を機体外へと解放させて冷却を加速させる事で、レーザー・ソードを再稼働させたのである。

 妖精の角にも制約がある。リミッターを解除して装置を駆動させるため、故障率が跳ね上がるのだ。この戦闘が終わった後は装置ごと入れ替える必要があるだろう。

 ただ、この一戦については、少なくともこの一刀だけであればまったく問題ない。

『お前は……終わりだ』

 地べたのルカ機を見下ろす二号機は、無慈悲にプラズマを突き出す。サソリの甲殻を思わせる装甲板の中央へと、深々と入刀されていく。

 氷像に熱した鉄心を刺し込んだかのようだ。装甲が融点を超えてぶくぶくと沸騰している。蒸気があふれ出る。

 明野の時とは異なり、プラズマが貫いたのは石兎の中央。当たり所で言えば、装着者は即死だ。


『電力が足りないのなら、外すだけの事ッ。Mオプションパージ!!』


 ……ただし、二号機が貫いたのは石兎本体ではなかった。

『だ、脱皮!?』

 Mオプションの増加装甲を強制解放したルカ機は、二号機の股座またぐらへと跳び込んでいた。二号機がレーザー・ソードで突き刺したのは、ただの抜け殻だ。

 やじり付きの鋼鉄ワイヤーを逆関節の長脚へと巻き付けて、二号機の動きを阻害する。巨大クローで関節部を挟み込み、そのまま内蔵銃でゼロ距離射撃を開始した。

 無茶な密着攻撃により、二号機の両脚とクローが爆散する。

『く、おのれッ』

『エトロエっ!? 何やっているのさッ!』

 ほとんど素体の石兎になったルカ機は、硬質ナイフを片手に二号機のとどめを刺そうとする。だが、周囲五メートルに膨張した斥力場に邪魔された。斥力場に押されてルカ機は跳ね飛ぶ。

 二号機自体も、緊急展開した斥力場をうまく制御できていない。ルカ機とは反対方向に飛んでいき、脚を失っている所為で着地にも失敗した。衝撃で、銀色の角がポキリと折れてしまう。

『世話掛けさせないでよ!』

『くっ……斥力場が干渉する。展開はするな』

 地面との衝突で悶絶している二号機を、急行した三号機が拾い上げる。

『わたくしよりも、敵を狙え! 斥力場は消えている!!』

 敵と同じように、シード弾の群を強引に突破してきたルカの部下達も最前線に現れる。

 上司思いな部下達に対して、ルカは己の救出よりも敵への攻撃を優先させる。

 二号機を拾い上げるために、三号機は斥力場を解除していた。今なら銃弾が通用する。

 複数門からの銃撃により、三号機の太い体に次々と穴が開いていく。斥力場に自信を持っているアルヴの石鎧は、物理装甲が貧弱だ。

『調子付けちゃって。こうなったら、ぼくも妖精の角を使って!』

『いや、これで良い。この位置関係だ。三号機は私を固定しろ』

 片方の角が折れた二号機は、三号機に己をかかげさせる。すべてを預けた二号機は、両腕を天へと伸ばす。


全力全開オーバードライブブラスティング・ソード――』


 中破した二号機に残された全機能をして、凹端子メスコネクタが黒くげている左右の腕を伸ばしたのだ。

 ヴォルペンティンガー二号機の最強武装、刃渡り一キロのレーザー・ソードで見える景色すべてを叩き斬る。石兎部隊がルカの元に集まった事で、トレーラーを巻き込まずに敵を一掃できる条件はそろった。

 天を貫き、雲を割る程に巨大なプラズマの柱に、石兎部隊は顔を引きつらせる。恐怖の瞬間を回避しようと銃撃を続けているが、間に合わないだろう。

 極太のプラズマに照らされて自身さえ熱に侵される中、二号機の準備はすべて完了する。

 後は、ただ腕を振り下ろす。


『――両断』


 ルカ機と周囲の石兎を巻き込むように、上段の構えから振られたプラズマの巨大刀。物体刀ではないため、振り下ろしに重苦しい重量感はない。だから、早い。逃れられない。

 攻撃機という本来の土俵で戦えば、ヴォルペンティンガーが惑星の石鎧を圧倒するのは当然であった。

 誰もが、石兎部隊の消滅を理解する。ルカさえも死を直観しただろう。

『こういう時こそ、クロエの出番ねっ!』

めなさいッ。電磁装甲で防げる種類の攻撃ではないですわ』

 ヴォルペンティンガーと石兎部隊の間へと、あい色の重装石鎧が跳び込んで両手を広げた。三号機の相手をしていたクロエのグレイヴストーンが、石兎部隊の盾になろうとしているのだ。

 シード弾に対して無敵を誇ったグレイヴストーンであるが、電磁装甲が有効なのは実体兵器に対してのみである。超高熱レーザーであるブラスティング・ソードに対しては無力極まりない。クロエの挺身ていしんは、無意味だ。

 よって、巨大な一刀はグレイヴストーンごと、石兎部隊と惑星の地表を両断した。



 惑星の大気が熱せされた事により膨張、爆風を発生させる。

 刃の届く範囲はちりで満たされる。動くものは存在しないように思われる。プラズマの生成を停止すれば正確に測定できるが、途中で停止できるものではないし、測定する意味もないだろう。

『三号機、障害は排除した。車両の占拠は任せる』

 最低限の役目はこなした、とエトロエはやや疲労した声で三号機に通信した。

 雑用ばかり命じられる三号機のイルルットは不満を返答するだろう。エトロエにとっては簡単な想像だ。


『グレイヴストーンは複合装甲で安心安全。でも、無限表面積フラクタル装甲がちょっと溶けだしているから、留めはお願いっ!』

『ライフルはお借りしますわ!』


 イルルットの返事より先に、二号機の上半身にある円柱状の操縦者格納ユニットへとグレネード弾が着弾する。

 爆発に巻き込まれたエトロエは、結局、グレネードが己の体内で爆発した事も、己の判断が早計であった事も理解できないまま即死した。


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