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キカイな物語  作者: クンスト
5章 火星に集う者。集う仲間。
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7-12 グレイヴストーン

 停車しているトレーラーの間近に、未知なる種族アルヴが降り立った。ルカが残していた直援部隊と、応援に出て行った明野あけのが戦闘を開始している。

 動ける石鎧はすべて出撃するべき状況である。俺も早く外に出て戦闘に加わらなければならない。

「月野、プログラム更新は終わったんだ――うわッ」

 長いトレーラーの車体を大きく揺らす衝撃が走る。

「大丈夫か、月野!」

『ひぃっ、壁から赤い腕がぁ!』

 月野がいる病室が、一番被害が大きかったようだ。耳を動かして熱分布や外のカメラ映像をハッキングして確認したところ、明野の赤備がトレーラーに突っ込んでいた。片腕は壁を突っ切って内部に貫通してしまっている。

 壁から腕が伸び出るホラーに月野は精神的におびえていたが、そのまま病室にいると空気漏れで身体的に危険だ。気密スーツを置いてある格納庫に月野を呼ぶ。

猶予ゆうよはないな。俺も出撃するぞ」

「ま、待ってください。プログラム更新の適用のために、一度再起動しないと」

 格納庫の扉を開き、青い顔をした月野が現れる。インカムを方耳に掛け、手には小さな端末を持って操作を続けている。

「再起動後の適用合わせて、たぶん一分です!」

 戦闘中の一分は金塊よりも貴重であるが、必要な一分では仕方がない。

 明野に期待しながら、俺は自発的にAIの再起動を開始し――。




 学生服を着ていても、幼馴染は凛々しかった。

 今の俺からすればただの幼児体形でしかないが、小学生までは女子の方が早く成長する。当時、背の高いは曽我瑞穂そがみずほあこれていたのを思い出した。

「お前は、将来の夢を持っているのか?」

「瑞穂は、おじさんと同じ軍人になるのだろ」

「質問しているのは私だ」

 瑞穂よ。小学生の俺に対して夢を質問しても答えられないぞ。今でさえ良く分かっていないのだから。

「父さんは近々大きな戦争があるから、軍人になるなといわれた。最終的にはお前のお、お、お嫁さ――何を言わせるつもりだ!」

「瑞穂はいつも意味もなく怒るよな」

 IFもしの話だ。

 小学生の頃の、幼少の頃と比べて落ち着いた関係を築けていた俺と瑞穂がずっと毎日を過ごしていたなら、俺達の結果は違ったものになっていたのだろうか。

 瑞穂を諦めなくて済んだのだろうか。


「私は中期的な将来、宇宙飛行士になると決めている」


 …………。

 ………………。

 ……………………システムコンバート完了。TUP3017001の更新プログラムが適用されました。




 電気ショックで心停止状態から復活するかのような目覚めだった。

 起きた直後から、一気にCPUを使いまくって己がすべき任務を思い出し、行動に移す。

 ロックを解除して台座から立ち上がり、ロッカーの中に余っていたナイフとハンドガンを拝借はいしゃくする。不十分だが、他に武器は残されていなかった。

「明野さんががんばっているけど、アルヴに重武装型のSAがいます。注意してくださいね」

「月野も気密スーツを着て、トレーラーの指令所に行ってくれ。あそこが一番安全だ」

 未知なる敵との戦いは魔族で慣れているが、長年魔族と殲滅戦争を続けられる戦闘種族だ。魔族と同等か、それ以上の厄介やっかいな能力を持っているに違いない。

 気合を入れて、俺はトレーラーから出撃する。



 外で俺を出迎えた光景は、自律飛行する無数の銀の杭だ。

 はちという希少種を見た事はないが、蜂の巣を叩いた状態とは目前の光景を言うのだろう。

 戦闘を継続しているのは明野の赤備と、赤備の向こう側に見える図太い石鎧だである。アルヴ製の機動兵器を石鎧と呼称できるのかは分からないので、正確には何であるとは言い難いが。

 アルヴの石鎧は、青い基本フレームに、ゴテゴテと増加装備を追加したような奴だ。人形ひとがたが肥大化した肩やスカートアーマーに埋もれてしまっている。重量級の石鎧で思い出すのはアメリアのテスタメントであるが、アルヴ製の石鎧は装甲強化型とは印象が異なった。

 赤いバイザーの顔付きに見覚えはない。が、頭に生える長い二本の耳は、賢兎の環境センサーと似通っている。顔の知らない親戚を目撃した、そんな気持ちが浮かぶ。

「明野先輩、カバーに入ります」

 赤備は数機の敵機を倒した様子であったが、右腕と背中に被弾が見受けられる。銀色で不規則に伸びる妙な刃で刺さり、痛々しい。

 どういった攻撃手段を用いられたのか分からないが、恐らく、周囲を飛び交う杭が明野を襲っている。

『紙屋ッ、来るな! 杭に襲われるぞ』

 近づこうとする俺を、明野は一喝いっかつして制する。

 俺の所為で気が散ったのか、急激に角度を変えた銀色の杭に赤備は対処が遅れた。片腕を盾にして、胴体への直撃をどうにか防ぐぐらいしかできていない。

 銀の杭が赤い装甲に埋まった瞬間、体積が急激に膨れ上がる。多面水晶の形が崩れて、液状に変化。液体は急激に固化して刃物となって赤備の腕を刺す奇形の花が咲く。

『見ての通りだ。杭の貫通力はないが、触れた途端に形状が変化する!』

 飛行を続けている二十本の杭に襲われれば全身串刺しとなるだろう。

 だからといって助けない訳にもいかないので、ハンドガンで迎撃しながら明野の元へと急行する。

 長さ十五〇ミリの杭は小さく、動きはランダムで命中させ辛い。

 ただし、更新プログラムを適用した賢兎ワイズ・ラビットのAI射撃であれば必中だ。魔的な手段など必要ない。

 核心を持って放った弾丸が銀の杭の中央に穴を開ける。直後、穴から銀の溶液が漏れ出て刃となり、地面に落ちていった。

 杭は銃弾で迎撃可能なようだ。


『可笑しいなぁ。魔族だって一発一体串刺しにできるシード弾が機能していない。何かした、火星人?』


 ふと、オープンチャンネルで語り掛けてきたのは、図太いアルヴ製石鎧である。青銀の頭部を傾けて、首を四十五度傾けている。

『リヴォルリング・レーザーを撃っても――』

 アルヴ製石鎧は、右腕に装着しているドラム缶形状の器具を俺達に向けながら何か試している。環境センサーが可視外の光線に照らされていると警告するが、危険度は低いと注釈があった。

『――溶けないし! 何だよ、お前達!』

「知るかっ! 遠い月からやって来て、地球のゴタゴタを惑星に持ち込むな。アルヴ!」

『アルヴ? 僕達の事か??』

 赤備と背中合わせになって銀杭の群れを一本一本落としていく。アルヴの装着者が首をかしげている間すべて撃ち落して、それから反撃に向かう事にしよう。

『僕は戦闘が嫌いなんだ。でも、相手を一方的に蹂躙じゅうりんするのが大好きなんだ!』

 アルヴの装着者は、どこかの某ルカと似通った趣味を語り始める。杭は残り十本。

『火星に来たのも、弱い相手に遊べるからだと思っていたからなのに、攻撃が通じないなんて反則じゃないか!』

 ハンドガンのマガジンを交換して、銃撃を続ける。赤備は先の折れた長刀で近づく杭を叩き斬る。残り五本。

『火星人なのに蛸足たこあしじゃないし。お前達はいったい何なんだ!』

 攻撃の意志が薄く、ただ飛んでいるだけの杭は簡単に落ちていく。最後の一本を撃ち落したので、これでゼロ本。

 さあ、反撃開始だ。


『もう良いよ。面白くないから、今すぐ終わらせてやる!』


 アルヴ製石鎧は、タイミングを見計らっていたかのように戦闘行動を開始した。反撃の出鼻をくじかれる形となり、俺は踏み出せていない。

 巨大な肩はすべて武装コンテナであったのか、箱が開かれるように上層部が開かれていく。

 内側に搭載されているのは弾頭の数々だ。まず上空へと放射状に連続発射される弾頭は、一定角度を保って戦場全体に散らばる。重力に従って降下が開始すると、カバーを破って銀に怪しく光る杭が姿を現した。

『二五六発のシード弾なら、十分だよね!!』

 撃ち落した数の更に十倍の物量。本気を出したアルヴは、攻撃にも容赦ようしゃがなくなる。意味もなく飛んでいたはずの銀杭は、規律ある集団戦術を展開する。

 直線的に飛ぶ杭はおとりであり、編隊を組む五本の杭が上方から急速下降、俺の脚部に衝突した。

 装甲板に刺さっているが、幸い貫通はしていない。

 だが、刃と貸した銀の杭が絡み合い、地面に根を張ってしまっている。脚が命の賢兎の機動力を最初に奪われた。

「これは……マズッ」

 前方で、数百の杭が密集していく。一発ずつなら装甲が耐えてくれるが、同時に百単位の杭が着弾すれば話は異なる。

 今回は中に月野を乗せていないから安心……なんていさぎよい事は思わない。二年間眠っていて浦島太郎になったのに、次また大きく壊れてしまえば、生き残っても絶望しか残っていない。

 動けない脚部を無茶苦茶に動かし、背面の固形燃料も点火する。が、金属の根にからまった機体は脱出できなかった。

 『ソリテスのわら』は当然発動させるが、致命傷を自覚してからの足掻あがきでしかない。

 間抜けな俺が最初の目標に選ばれており、赤備は放置されている。

 赤備が無茶をして結界を成す杭の群れを突破しても、俺を救い出せるはずがない。装甲が辿り着く前に破壊されてしまう。

 策はなかった。

 物量に押し潰されるだけの、なんとも味気ない最後が、俺へと集団突撃を開始してしまった。実戦では良くある悲劇の一つに過ぎないが、それが何のなぐめになってくれるだろうか。

「…………月野。すまないな」

 俺は最後に、一番傍にいて欲しい人物の名前を口にした。

 目は、閉じなかった。あきらめたくなかったから、目だけは閉じなかった。


 だから……大出力、超加速ブースターが横切っていく光景を目撃できてしまう。


 宇宙進出時代の宇宙ロケットに似た長い噴射装置をパージして、新手の石鎧が地面へと着地する。砂埃を上げ、重低音と二本の足の軌跡を残しながら、正確に俺をかばう地点で停止する。

 背後を向けている乱入者の顔は確認できないが、頭部に見えるのは少し短めの耳、石兎ペトロス・ラビットらしき耳であった。


『はぁーい! ウサギさん!』


 だが、石兎にしてはあまりにも重装甲が過ぎるそいつを、俺は石兎きょうだいであると認識できない。

 四肢の分厚さは五割増しとなり、重くなった自重を支えるために骨格から改良が成されている。また、肩に増設されたカーテンレールに沿う外部追加装甲に全身が覆われている。

 とてもじゃないが、外見だけでそいつを石兎であると判断はできない。型式も巧妙に隠匿いんとくされているので不明確だ。

『クロエの出前、一丁あがりでーすっ』

 ただ、まったくの想像なのだが、輸出型の石兎をベースにした改造機のような気がする。

『石兎……じゃなかった。グレイヴストーンを着たクロエも、立派な兎になったよ』

 銀の杭の集団突撃から俺を守るため、異国の兎がブースターを背負って現れた。状況を言葉にするとその通りのだが、色々と解せない。

 そもそも、装甲強化をどれだけほどしても、銀の杭は防ぎきれるものではな――。


『さあ、いくよ。外装型電磁装甲試験機グレイヴストーン。今日は兎さんに恩返ししないとね!』


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