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キカイな物語  作者: クンスト
5章 火星に集う者。集う仲間。
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7-1 システムセットアップ

 奈国北東で色々と激震が走っている最中も、奈国首都はおだやかであった。

 皆が暢気のんきな訳ではない。前線の状況がまだ伝わっていないため、大規模作戦が良い結果に終わるのを祈るぐらいしか出来ないからだ。

 そして、そもそも戦場の事など一切気にしていない人間もいる。王立病院の特殊病棟に見舞いに来ている、月野製作所の女社長が代表例だ。納期を早められた恨みを、想い人との楽しい逢瀬おうせの間に思い出したくない。

 また、彼女とは違う理由で前線の心配を忘れている男もいる。

 王立病院に緊急で訪れた、奈国王子、鷹矢たかやだ。


「彼から、賢兎ワイズ・ラビットから通信波が出ているというのは、まことか?」


 特殊病棟の最上階にある会議室に辿り着いた鷹矢は、まずそう尋ねた。

「微少でありますが、同じ内容のものが繰り返し発信されております」

「内容は分かるか?」

「単語の羅列になりますので順に。魔族、伯爵、来る、和平、の四つです」

「……なるほど、余を呼び付ける程の重大案件であるな。まだ外には漏れていないであろうな」

「病室はシールドルームにしておりますので、その点については安心していただければ」

 会議室には主治医だけではなく、親衛隊の大隊長や政治家の姿も見受けられる。誰もが焦燥感に駆られているが、隣人同士で悪い予測を言葉にし合うぐらいしか行えていない。

 室内の話し声に思考を邪魔されたくない鷹矢は、傍に控えている明野友里あけのゆりに目配せを行う。

静粛せいしゅくにせよっ!」

 明野の透き通った大声により、室内は表面上落ち着く。

 ホワイトボード上には件の通信電文、魔族、伯爵、来る、和平、が書き殴られている。鷹矢は右の人差し指を立てらせて眉間を小突き、四単語を順番に眺め続けた。

「余には、魔族の伯爵が和平に来る、と読めるが。明野、ソナタはどう思う?」

「魔族と和平しろ、さもなくば滅ぼす。こういうメッセージである可能性があります」

「まるで彼が魔族側の人間であるかのような台詞であるな。大隊長。宇宙の観測結果は?」

「申し訳ございません。天文台付近は砂嵐に見舞われておりまして……」

 情報不足をなげいても仕方がない。鷹矢は通信内容が本当に正しい事を確かめた後、会議室に集合している各分野のエキスパート達に指示を投げる。

「大規模作戦中であるから、親衛隊にも待機命令は出ておるな。余の名前で、全ドームの警戒レベルを最大まで引き上げさせよ。議会に挙げる前に、まず、和平交渉が行われるとして魔族が何を望むか、考えられるだけの予測を行え。妄想でも何でも良い、どうせ魔族は空想みたいな存在だ。金融界は安定に努めよ、これ以上の影響は奈国の存続に関わる」

 鷹矢の指示で人々が動き始める寸前、若い親衛隊隊員が慌てて会議室に駆け込んで来る。

 ばつの悪い顔を作る余裕さえない若者の様子を見て、鷹矢は口頭で述べよと命じた。

「はッ! 友好条約であります!」

「友好?? 和平ではないのか?」

「作戦遂行中の北東部にっ、空から現れてっ、友好条約がっ!」

「もう現れたのかっ!」

 親衛隊の若者は全力疾走してきたのだろう。息切れしながらの報告であるためイマイチ内容が把握し辛い。鷹矢の大きな驚き声がトドメとなり、若者は呼吸が完全に乱れて咳き込んだ。

 見かねた明野が水を用意するよう別の親衛隊隊員に命じた。若者にコップが手渡される。

「これ。落ち着いて話してみよ。そんなに緊張していては将来の相方への告白で、言葉を噛む失敗を経験してしまうぞ」

「も、申し訳ござッ――」

「ご報告をッ!!」

「――ごフォッ!?」

 若者が水を飲んでいるわずかな間に、別の親衛隊隊員が音を立てて入口を開いた。可哀想な若者は水を気管に入れ、大きくむせた。


「恐れながら、緊急であるため口頭でお伝えを! この病棟に内縁軍特殊部隊が向かっております!! 別ドームからも内縁軍の増援が急行中です!」


 事態が目まぐるしく変化している。己の知らない所で、大事が起こっている。鷹矢はこう直感した。

「誰の許しを得て、内縁軍は王族の施設に踏み込むのか」

「緊急招集された議会が非常事態宣言を発令致しました。事を急ぐため、王族への連絡は行われておりません!」

 しかし、鷹矢には一つ解せない事がある。王立病院の特殊病棟の中に誰が入院しているのか。この国家機密は、鷹矢の息がかかる親衛隊の一部しか知らない情報である。患者の友人等という例外はいるが、口の固い者達であるのを鷹矢自身が確認していた。石鎧に同化した予科生を知る者は限られる。

 仮に、どこからか情報が漏れていたとしても、このタイミングで内縁軍が動く理由が分からない。前線で部隊が大敗北したという悲劇が起きたのなら、戦力を差し向ける先はドームの外であるはずだ。


「内縁軍の目的は、月野製作所代表、月野海つきのうみの捕縛です!」


 鷹矢はハッと息を吐きながら、振り返る。

 大きなスクリーンに映し出されている監視モニターの映像内では、二十歳直前の少女が暢気そうに石鎧を磨いていた。




 メインシステム、セットアップ中。完了まで残り五十パーセント。完了まで残り――。

「スクラップ同然からやっと直った。オリジナルのワイズは、もう紙屋君しかいないんだよ。今日もワックス掛けましょうねー」

 火器管制掌握……完了。

 装着者生存機能掌握……完了。

 システム最新バージョン取得…………エラー、ネットワークに接続できません。最新バージョンの取得が行えませんでした。システム管理者にご連絡ください。

石兎ペトロス・ラビットの名前の由来、ぼく言ったっけ。石頭の内縁軍の幕僚がいたから、適当に言ったら採用されちゃったんだー」

 主兵装参照中……完了。現在、この石鎧はすべての武装が解除されています。

 オプション参照中……完了。現在、この石鎧はRunner《歩行》オプションが装着されております。

 バッテリーおよぼ細菌バイオリアクター確認中……完了。充電率は百二十パーセントです。最大稼働での継続戦闘時間はおよそ二十七時間、最小稼働での継続戦闘時間は七日間となります。

「最近、テレビの特集が面白くないから見てない。そもそも、見る暇なんてないけど……この話は止めておくね」

 メインシステム、セットアップ中。完了まで残り六十パーセント。完了まで残り――。

 この石鎧は機動完了後、即時戦闘可能な状態です。



 ……実に完璧な仕上がりだ。賢兎を直せるのは月野ぐらいだろうし、起きたら真っ先に感謝しないとな。


そろそろ主人公が動き始めます。たぶん。

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