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キカイな物語  作者: クンスト
3章 卒業試験トーナメント後半
49/106

5-10 優先目標は騎兵級

騎兵キャヴァリィ級は右にランスがあって威圧的ですが、その分左側が手薄です。敵集団の進行方向に対して右回りで攻め込みます」

『あんな古典的戦術を前提としたSA、見た事がない』

「いや、ですからあれが魔族でして……」

 中級魔族が八体。

 加えて、一小隊三機編成だとして、四小隊のパトロクロスが丘陵地帯を模した演習場を走っている。仮設観戦席は、強襲に特化した戦力を割り振るに値する要所とは思えないのだが、敵が襲ってくるのであれば迎撃するまでだ。

 観戦席にいる瑞穂と月野に危害が向かないように、敵混成部隊を側面より攻撃する。

「パトロクロスも面倒ですが、まずは機動力のある騎兵級を狙います。一撃で倒せればベストですが、四脚のどれか一本で良いので破壊してください。騎兵級はそれで止まります」

『後輩、せめて私の後ろに回れ! そのSAはもう銃撃に耐えられない』

「ワイズの方が速いので、先行しますッ」

 たった二機で接近してくる俺達の正気を疑いつつも、一小隊のパトロクロスが本隊から離れて迎撃に現れた。

 運動性能重視の石鎧だけあって俊敏な動きで近づいている。とはいえ、高速走行中のため、銃は上下に揺れていて照準が甘い。

「AIは火器管制に従事。残り少ない液体コンピューターは分散処理させるな。機体操作は俺に一任しろ。射撃開始!」

 左右に腕で抱えるように構えているアサルトライフルで、先頭のパトロクロスを狙い撃つ。残弾の余裕がないので三点バーストを左右合計四回繰り返し、二発は命中させた。

 まだ離れていたので撃墜にはいたらなかったが、パトロクロスの装着者に恐怖を覚えさせる事には成功する。距離を詰めるのを躊躇ためらってくれたので、賢兎と親衛隊の朱色石鎧、赤備あかぞなは敵本隊にメスのように鋭く斬り込んだ。



 騎兵級の機動力は高い。一度の接触で全て無力化しなければ、次の攻撃タイミングは存在しない。観客席に到達させないためにも、失敗は許されない。

 まず、最も手前にいた騎兵級へと肉迫する。横長の胴体はとても狙い易いがタフだ。横切る一瞬で倒すのは困難なので、胴体ではなく後ろ脚を目標に定める。

 時間差で曲げ上げられた後ろ脚の片方、最ももろいと思われる関節部を跳び蹴りでくだく。

 通り魔的犯行を素早く終える。と、後ろを振り返る時間さえしんで、地面への着地と同時に再度走り始めた。背後で長い重質量が転げていく音が響く。

「残り七ッ!」

 次は二体の騎兵級が並んでいる。脚の動きが同期していて、丁度、腹の下を潜り抜けれそうに思えた。

 上体も反らしたスライディングで騎兵級の下腹部へと突入していく。砂煙が舞う中、左右の手は限界まで広げており、ナイフの二刀流で次々と墨汁色の腱を斬り裂く。

 騎兵級の転倒に巻き込まれず、無事にスライディングを終えて次へと向かう。

 まだ半分もノルマをこなしていない。

「残り五ッ!」

『予科生! 無茶をするなっ!』

 ややスピードダウンしている俺を追い抜いて、朱色の石鎧が前におどり出た。

 明野が駆る赤備は、腰にマウントしている太刀の柄を掴む。まるでショルダーチャージのような格好で騎兵級に接近すると、目にも留らない、コマ送りでも一瞬で動いたようにしか見えない速度で太刀を抜く。

 鮮やかな居合い斬りで、魔族の脚を断絶させた。

『中身は柔らかい。嫌な感触だ!』

「お見事です」

 これで残りの騎兵級は四体。

 だが、倒れていく仲間を察知した騎兵級は加速を開始してしまう。ここで無理をしなければもう追い付かない。


「Runnerなら走れッ! ワイズ・ラビット!」


 一歩ずつ、まるで掘削機のように大地を割りながら賢兎は走った。電磁筋肉は限界を超えて酷使された結果、異常加熱により赤くただれ、それでもショートを起さず伸縮を繰り返す。

 脚の状態に同調して、頬に浮き上がる特権発動の文様も高熱を発していた。

 ダメージ半分の特権は被弾に対してだけ効果のある能力ではない。稼働部位の磨耗、熱疲労に対してだって効果を発揮する。石鎧にスペックの限界を強要する事だってできるのだ。

 四脚の騎兵級に勝る加速で、最後尾の一体に追い付く。

 ドロドロ溶け出しそうな脚で最後の一歩を強く踏み込み、高く跳躍する。着地点は騎兵級の背中だ。

 足底の鉤爪を突き立てて足場を確保し、アサルトライフル二門で騎兵級の後頭部をフルオートで射撃した。市民級よりもよほど硬いが、至近距離からマガジンが空になるまで撃ち込んでやれば流石に効果はある。

 後頭部が穴だらけになった騎兵級はぐったりと力を失う。転倒を開始したので、不安定で傾斜した背中から再度跳躍して、次の騎兵級の背中に乗り込む。

 マガジンはまだ持っているが、アサルトライフルを二挺構えたままでは装填できない。躊躇ためらわず邪魔な片方を捨てて、マガジンを交換、黒い後頭部への射撃を続ける。

「残り二ッ!」

 フルオートの連続でライフルの銃身が焼け付くが、構わない。アサルトライフルに対しても俺の特権は効果があるからだ。

 騎兵級に銃口をほぼ密接された状態で弾を撃ち込み、マガジン一つで足りなければ装填し直し、また一体撃破する。

 ……だが、とうとう予備のマガジンが無くなってしまった。

 更に状況は悪くなる。残りの一体の体に、文様が浮かび上がりオレンジ色に発光し始めてしまった。

「残りはお前だけだッ、覚悟しろォお!」

 最後の跳躍をしながら、ふと、思い出す。

 古典の中で鮫の背中を跳んでいた兎がいたはず。今の俺のような曲芸振りであるが、古典兎は最後に毛皮を剥ぎ取られてしまうのだ。縁起が悪い事を思い出してしまった。

 RCオプションのCはClassic《古典》のC。


“――ッ! ルナティッカーッ、生物兵器ドモッ! 何億ノ命ヲ奪ッタッ 仲間ヲ返セ! 家族ヲ返セ!”


 うまく跳べたとはお世辞にも言えない。着地時に足底の鉤爪が割れて刺さらなかったので、騎兵級にまたがって落馬をこらえる。

「お前等こそ、俺の家族を故郷ドームごと潰しただろ。どこかの誰かとの見間違えは、いい加減にしろ!」

“長イ耳は敵ノ証ダッ! 人間デハナイ証!!”

「SAの外装で判断するな。中身は人間なんだ!」

“人間違ウ。オ前達人間違ウ! 形ガ違ウ!”

「これだから魔族はッ、意味が分からない」

“オ前ハ、ルナティッカー臭ガシテ、臭イ! オ前ハ、ルナティッカー! ダカラ死ネッ”

 会話しながらもハンドガンで銃撃している。が、激昂状態になった騎兵級に対して小銃は通用しない。

 頼りの左の貫手ぬきては失敗し、最も長い中指が第一関節まで潰れてしまう。英児の真似は難しい。


“落チロッ!”


 上下左右に胴体を揺らして、騎兵級は俺を振り落とそうと暴れた。

 人形な上半身に捕まっているが、石鎧でロデオは無理がある。手段はもう一つしか残されていない。

「自爆はするものじゃないってのに!」

 ハードポイントにぶら下げていた手投げ式のグレネードを掴み取ると、ピンを抜く。数秒後に爆発する球体を、時間を見計らって騎兵級の足元へと投げ付けた。

 爆発から逃れようとした訳ではなかったが、幸運にも、揺れに逆らえずに賢兎は落馬していく。

 地面に落ちた衝撃は装甲では防げない。内臓が歪み、傷口が広がって苦悶する中、俺は爆裂する騎兵級を目撃できた。

「はぁ、ハァ。まったく、これで全部……じゃないよな」

 騎兵級に限って、という前提付きであるが初期目標を達成した。

 次は随伴していたパトロクロスを倒す必要があるが……、余裕がなかったとはいえ放置し過ぎていた。


『おいッ、予科生。早く立てッ!』


 明野の警告もむなしく、パトロクロスから発射されたと思しき銃弾の雨が装甲を穿うがつ。近場に落ちてきたグレネードの爆風に押されて、賢兎はコロコロと転がっていく。内部の俺は吐きそうだ。

 弱っている俺のトドメに現れたのは、脚を一本失ってもまだ走れる三体の騎兵級だ。

 ランスチャージは不可能となり、突撃戦法は無理なようである。が、長い円錐形状の右腕で地面に転がっている石鎧を刺すぐらい造作もない。


“ルナティッカー、罪ヲ! 罰ヲ! 死ヲ!”


 オレンジ色に光る騎兵級の右腕の先端は、装甲を貫通して内部の俺に到達していた。


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