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キカイな物語  作者: クンスト
3章 卒業試験トーナメント後半
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5-5 決勝 -二人っきりの戦場- 

『予科生、注視せよ。奈国第二王子である』

 教官によるレギュレーションチェックが終了した。直後、石鎧の頭部の内壁に張り巡らされた曲面スクリーン上に、礼服姿の男性がポップアップする。

 どこかで見た事のある顔なので有名人のはずだが、俺は目の前の白い石鎧に集中していて気付かない。

『奈国の若きつわもの達よ。明日を担うソナタ等の技、存分にふるって欲しい』

 決勝戦の戦闘フィールドはせまい。一キロ四方の土の地面は水平で、逃げ場は一切存在しない。ゆえに、両チームはフィールド中央から動かない。最初から全力での戦闘を行うしかないだろう。

『石鎧越しにもソナタ等の緊張感が分かる。……長話で熱気を冷ますのも無粋だ。互いに礼、始めるがよい』

 礼服姿の男性が消えて、代わりに三分のカウントダウン表示が曲面スクリーンに浮かび上がった。

 頭の中では何度も予行した、待ちに待った時間が始まろうとしている。

 結局、瑞穂に勝てるイメージは掴めなかった。善戦はできるし、タイムアップするまで戦い続ける事はできるのに、勝利は一度もなかった。

 悲惨な未来ばかり予測していると逃げ出したくなってしまう。顔を伏せ、目を下方にそらしてしまう。

 そんな俺を、少女の声が俺を戦場に踏み止ませる。


『――紙屋君っ。勝って。勝って欲しい。それがぼくの本音だから』


 満席の観客席に座る月野の声だった。

 人ごみの環境音の中からつぶやき声のみをフィルタリングするのは、換装された賢兎ワイズ・ラビットの環境センサーにだってできないはずだ。が、確かに、俺の耳に声援は届いた。

 前向きになった俺は曲面スクリーンを直視する。

 そして、カウントダウンが残り三、二、一……、ゼロ。

 卒業試験、最後の戦いが開始された。



 最も早く動いたのは、俺でもなければ瑞穂でもない。

 意外というか考慮外というか。瑞穂の右隣にいたアキレウスが俺達の間に割り込んだ。誰が着ているのかは、興味がなかったので不明だ。

『この疫病神がッ』

 邪魔者が何か通信機越しにわめいている。

『曽我さんは僕と結婚するんだ! それなのに、お前がいる所為で曽我さんが妙な行動ばかりしてしまって! そもそも一回戦から……、そのずっと前から目障りだった。お前なんて消えろッ』

 ブースターを全開にして突っ込んでくる何某なにがし

 瑞穂との戦い以外に余力はないとはいえ、無視する訳にはいかないのでアサルトライフルを構える。

 ……と、曲面スクリーンの端から躍り出てくる賢兎が一機。英児機だ。

『よう、目立っていないオリンポスのお坊ちゃん。部外者は黙っておこうぜっ!』

 英児機の右拳がアキレウスの頬に打ち抜いた。ストレートパンチがクリーンヒットした事で、アキレウスのカメラレンズがひび割れる。

 更に、英児機はアキレウスを蹴り付けて俺の視界外へと押し退けてくれる。英児が、能動的に俺の役に立ってくれた事がかつてあっただろうか。

『僕の邪魔をするなッ!』

『誰も親の七光りで生きているお坊ちゃんに注目していないぜ。そもそも、名前すら忘れられている。自覚しろよ』

『クソォッ』

『俺とルカでタイマンの舞台は整えてやる。さあ、九郎。お前の本気を見せてくれよ』

 英児機の最後の通信直後、ルカ機と思しき変形石鎧がフィールド中央から去っていく。別働していたアキレウスに近接戦闘を仕掛けにいったのだ。

 こんなに仲間思いなチームメイト達だったのか。こう関心するのは戦闘が終わってからにしよう。

 もう、俺と瑞穂の間に障害物はない。

『――お前ごときに私が倒せるか。父親殺しの欠陥機でどうにかなると?』

 俺はまっすぐに瑞穂のアキレウスを見る。


『瑞穂……黙って戦え。それとも、瑞穂は口だけの女か?』


 賢兎の六つの瞳を発光させる。更に構えたままだったアサルトライフルの銃口を上下に振って瑞穂を挑発する。

 湯沸しポットよりも早く沸騰してくれた瑞穂が、アキレウスのカメラレンズを赤く光らせた。

 銃で照準されているのに、直接俺を蹴りたくて仕方が無いのだろう。地面を蹴り、石鎧の頭の位置まで達しながら瑞穂は迫ってくる。

 銃撃するのは容易いが、スラスター制御で避けられるのは予測済み。

 だから、俺も賢兎を前方にジャンプさせた。鏡に写したかのように瑞穂とまったく同じ軌道で跳んだので、フィールドの中間地点の空中で俺達は邂逅かいこうする。

 同門らしく、相手を蹴り付ける動作も完全一致だ。

 賢兎の重厚な脚とアキレウスの白く頑丈な脚が衝突し合う。金属が耳障りな悲鳴を上げる。

『九郎おおっ!』

 初手を制したのは、俺だ。

 技だけならば瑞穂に軍配が上がっていたが、石鎧の重量では賢兎が上回った。衝突エネルギー的な勝利である。

 体勢を崩して地面に落下した瑞穂を、脇下のハードポイントから取り出したハンドガンで追撃する。が、器用にも、背筋のみで立ち上がったアキレウスは銃弾を避けてしまう。

 立ち上がりながらもナイフを投擲してくる事を、瑞穂は忘れない。

 慌てる必要はない。角度を付ければ、腕の装甲板でナイフの刃ははじける。ハンドガンによる銃撃を続行した。

「AIに火器管制を委譲。トリガー操作のみ俺が行う」

 俊敏に体を左右に振って、アキレウスは至近距離から放たれる銃弾を避けていく。

 AIが計算を行っている射撃であるが、向こうもAIに銃口の角度を計算させて避けているのだろう。瑞穂本人の勘である可能性も否定できないが。

「敵の攻撃に対しては防御動作のみ許可する。回避は不要だ。俺が気付いていない攻撃に対してはオートリアクションを行え」

 音声で賢兎のAIに最適な行動を指示していく。名前に賢が冠されているだけあって、賢兎のAIはファジーな命令であっても的確に行動してくれる。射撃に関しては俺よりも数段上手なので、完全にお任せだ。

 AIにしては無口なのも、わずらわしくなくて実に良い。

 ハンドガンの弾切れと同時に、腰にぶら下げていたアサルトライフルを片手で取り上げる。フルオートで射撃を開始しながら、ハンドガンはハードポイントに格納、再装填を開始させる。

 弾を避ける事に専念していたアキレウスだが、初手の衝撃から完全に復帰したようだ。

 少し強く地面を踏み込んだと思うと、姿が消えた。

 本当に姿を消したり、ワープした訳ではない。電磁筋肉とスラスターを同時使用した高速移動だろう。恐ろしく速い動きであったため、俺が認識できていないだけだ。

 賢兎のAIが警告してくれる。

 瑞穂は……背後にいる。

『私に隙を見せるなァッ』

 背面の補助カメラが短剣を突き出してくるアキレウスを捉えた。

 AIが賢兎を動かして、短剣を脇から素通りさせてやり過ごす。だがこれは囮だった。アキレウスのマニュピレーターは二個あるので、二本目の短剣が背中の中心を刺突してくる。

 石鎧は基本的に前面装甲に比べて背後の装甲は薄い。ブースターのように被弾に弱い装置も配置されているので、最悪の場合、致命傷もありえた。

 俺は、頬にオレンジ色の斑文はんもんを浮かび上がらせる。

「『ソリテスのわら』発動ッ!」

 背中からの衝撃が肺にまで到達した。呼吸が苦しくなるが、俺も賢兎もまだ無事だ。

 アキレウスの短剣は、刃が半分しか埋まっていない。

「ブースターを吹かせぇェェ!」

 瑞穂から逃れるためではなく、短剣を押し込まれないように固形燃料を点火した。

 石鎧を浮き上がらせる程の噴射がアキレウスを押し退けていく。数歩強制的に前進してたたら踏みながらも、背後に振り返る。

 これで初手から続く攻防は終わり。一呼吸付いてから仕切り直しだ。

 賢兎の被害は短剣の一刺し。重要機関は傷付いていないのでまだまだ戦える。

 一方のアキレウスは、ほとんど無傷と言って良い。

 ……これまで汚れた事のない、胸部の白く美しい塗装がブースターの熱で焦がされているが、大したダメージではないだろう。

『これぐらいで、調子に乗るなァァアア!』

 近接戦闘にこだわる瑞穂が、再突撃を開始する。早くも第二ラウンド開始だ。


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