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キカイな物語  作者: クンスト
3章 卒業試験トーナメント後半
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5-1 準決勝 -思考はラビリンス- 

 一度瀬戸際に立たされた卒業試験トーナメントは、関係者が集まる会議を経て、どうにか延命される事が決定した。

 試験中の予科生が所属不明機に襲われ、石鎧の装着者としての将来を奪われた今回の事件。悲惨な事件であるが、それだけが事件の全容ではない。

 まだおおやけにはなっていないが、ほぼ同時刻に内縁軍の警備部隊も襲撃を受けており、そちらでは死者も出ている。内縁軍が予科生救出に出向くのが遅れた理由であり、話を複雑化している元凶でもあった。

 事件を強く受け止めれば卒業試験の中止も十分にありえる。

 一方で、王族を招く程の伝統行事である事に固執すれば、中止は避けたい事態でもあった。


 内縁軍の行動は適切であったか。非難されるべき点はなかったか。

 会議の前半は主題とはまったく関係ない所から開始し、内縁軍の関係者は不測の事態であった事を強調して言い逃れをはかろうとした。

 しかし、トーナメント開始前にも予科生が所属不明機に襲われていた、という情報が暴露された途端に、内縁軍の形勢は悪くなる。警備義務を軽んじたと非難され、内縁軍は発言権を失っていく。

 反比例的に発言権を強めたのは、外縁軍だ。

 会議の参加者として最も相応しくない外縁軍であるが、予科生を救出した部隊の指揮官が会議に出席している。

 指揮官の名前は犬吠埼いぬぼうざき。西部方面軍指令という肩書きを持ち、年の割には出世している。

 どうして西部方面の司令官が奈国中央に来ていたのか。この重箱の隅を突く内縁軍の質問に、犬吠埼は中央司令部に出頭中であったから、と明言を避けていた。

 犬吠埼が予科生を救えたのは、誰の目から見ても偶然である。

 奈国首都へと向かう途中の進路上に、軍学校のドームが存在したのが最初の偶然で、予科生達が卒業試験を行っている演習場の傍を通過していたのが次の偶然だ。

 非常事態の無線を受信した犬吠埼の決断は素早かった。人命救助のため、護衛として引き連れていた中隊全体で予科生達の元へと急行し、所属不明機を撃退したのである。

 予科生の中には外国からの招待チームも存在した。招待チームに被害があれば、事態はより深刻化していただろう。

 犬吠埼の決断は早計であったが、結果的には評価されるべきものであった。


「申し訳ないが、内縁軍の警備能力は疑わしい。越権であると理解しているが、あえて言おう。卒業試験中のドーム警備に我等、西部方面軍も加えるべきだ」


 差し出がましい犬吠埼の発言は非難されたが、無事に卒業試験を終わらせたい軍学校の関係者からは賛同を得る。

 また、卒業試験後半には、警備を万全にしなければならない理由があったため、犬吠埼の提案は非難されながらも受け入れられていく。


「王族の来訪に合わせた敵対国家の襲撃である可能性が高い。外敵から国を守る防人たる外縁軍としては、責務を果たしたい」


 その外縁軍が所属不明機を見過ごした所為で事件が発生した。この内縁軍の最後の反撃は、内縁軍自身が口にするべきではなかった。恨みがましい意見として、他の者達から冷笑を買うだけで深くは追及されずに終わる。


「発言許可願えるか。親衛隊所属、先進的石鎧運用中隊、中隊長、明野友里あけのゆりだ。王族の直轄守護部隊としても、外縁軍のご協力を願いたい」


 そして、オブザーバー的な立場で参加していた王族直下部隊、親衛隊に所属する者の一声が決めてとなった。外縁軍は正式に卒業試験の警備部隊に加わる事になる。

 こうして、卒業試験トーナメントは、継続が正式に決定した。


「親衛隊に属する前は、私もここの学校で学ばせてもらった。王族の守護を完璧にしていただきたいのは当然であるが、後輩達のためでもある事を忘れてもらいたくはない」




 酷く場違いで、酷く今更な気がするが、俺と曽我瑞穂そがみずほの関係について回想してみる。

 奈国西部に属するドームの、二級市民の長男として生を受けた俺は、生後一時間ぐらいは安穏と暮せていた。が、その日のほぼ同じ時刻にある女が生誕し、ベビーベッドで隣り合う仲になった瞬間から運命に振り回される人生が開始した。

 言うまでもなく、その女が曽我瑞穂である。

『おいッ、なにボケッとしてやがる。九郎!』

 瑞穂は寝相が悪い。アダルトな意味ではなく、赤ん坊の頃から足蹴にされる側であった俺が言うのだから間違いない。

 命は平等というが、瑞穂と俺の間にまで適用されるかははなはだしく疑問だ。カマキリのオスがメスに喰われるように、俺は瑞穂にあこがれながらも頭が上がらない人格を得てしまったのだ。

 俺の精神異常を気付かなかった両親は、幼馴染が出来て良かったわね、と瑞穂からチョークスリーパーを掛けられている俺を見て笑っていたと思う。

 時は人間をいやすと言う。けれど、ベビーベッドどころか、家すら隣同士であったため、赤ん坊から幼児になっても上下関係は変わらない。

 むしろ、幼児期は女の方が成長が早いため、肉体的に劣勢な俺を瑞穂が鍛えようと遊んだ。これにより、俺の性格は補正不可能となってしまった。

『戦闘中だぞ! せめて動け!』

 瑞穂の母は早くに他界している。よって、瑞穂を育てたのは瑞穂の父親である。

 彼自身も外縁軍に所属する腕利きの石鎧装着者であるが、曽我家は代々軍人の家系なのだという。だから、瑞穂も将来軍人になれるようにと英才教育が行われていた。瑞穂自身が父から武術を習う事に喜びを感じていたため、教育方針としては問題なかったと思う。

 ……お隣の幼馴染まで巻き込むのはどうかと思うが。

『被弾してんぞっ! ええぃ、こうなれば、俺達だけで準決勝勝つぞ。ルカ!』

『その前に腑抜ふぬけを一発殴らせろ!』

 曽我家には一つ家訓がある。

“己を打ち負かした人間を生涯の夫、妻とすべし”

 この何とも単純で分かり易い、優れた遺伝子を残そうという生物的競争論に従った家訓だ。

 どうも、この家訓。年齢制限はないらしい。瑞穂は幼少の頃から誰にも負けないように日々努力し続けた。父親のような軍人になりたい瑞穂としては、結婚なんて遠回りを強制されたくなかったのだろう。

 だから、正式な試合において、瑞穂はこれまでの人生で一度も負けた事がない。瑞穂父との練習で負ける事は多々あったが、同世代から一、二歳以内の人間と戦って負けた例は今もない。

 一度、そんな馬鹿な家訓に従わなくても、と庶民派な幼馴染らしくさとした事があるのだが、直後、涙目となった瑞穂にすごまれてしまった苦い経験がある。

 瑞穂自身、家訓に対してゆずれない何かがあるのだろう。


「お前がッ! どうしてそんな事を言う! お前のためを思って、がんばっているのに!」


『――試合終了。勝利チーム、月野製作所!』


 瑞穂という女の精神構造はまったく分からない。

 七年前に曽我父の転勤で奈国中央に引越ししてしまい、関係は途絶えていたし。

 五年前には大戦勃発で世界が震え、俺も家族と故郷を失ってしまったし。

 瑞穂という一人の女の事だけを考えて生きていられた訳ではない。死線を潜り抜ける必要のあった俺に、そんな余裕はなかった。

 ……いや、正確に言おう。

 俺はあきらめたのだと思う。家訓に固執している瑞穂を納得させる者になるためには、瑞穂を圧倒する必要がある。

 だが、瑞穂が無敗の女であるのなら、俺は無勝の男だ。年齢をどれだけ重ねても、この関係性が反転する事はない。

 石鎧戦闘に対しても、この定説は当てはまる。揺るがない。望んでもくずせない。

 俺には魔的な手段があるからもしかしたら、と三年前に一度勘違いしていた時期もあるが、今では恥ずかしくて仕方がない。所詮はただの凡人でしかない俺に不純物が混じったからって、希少な原石に生まれ変わったりはしないのだ。

 石を磨いても、石は石。石。石石石。ああ、石。

 石鎧を着ているだけの……俺は……石??



 頬で破裂音がした。

 少しだけ肌の方面がじんじんしている。痛みを感じ取っていられる程に心に余裕がないため、あまり痛くはない。

 ただ、誰にはたかれたのだろうと不思議がって、俺は久しぶりに外界へと意識を向ける。


「あんな試合をするなんて、見損ないました。紙屋君」


 黄色い髪の、似合っていない黒縁眼鏡の少女が、レンズの裏側で涙をめていた。

「ぼくのワイズを着る資格は、紙屋君にはありません!」

 いつからだろう。月野海が手の届く距離で俺をにらんでいる。

 他の女と比べるのは誠意がないが、幼少の頃に家訓云々で諭した時の瑞穂の顔に、酷く似ている。

 ……致命的に、失敗したのか。俺。


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